地震災害時の対応(2025/2/26。2024年1月のFacebook記事を編集、5)は別の投稿から足したもの。情報は「役立つリンク」の「災害」に移動)
0)災害関連対策の基本的な考え方やリスク・コミュニケーションは、安全の8。
1)災害用伝言サービスを使えるようにしておく
大地震の際にはインターネットはもちろん、電話も使えなくなるリスクがあります。職員の家族、園児の保護者と避難先等の情報を共有するために、災害用伝言サービスの練習を体験利用日に実施しておいてください。
・伝言ダイヤル、および伝言板(スマホ、パソコン):総務省の総説
・伝言ダイヤル(東日本)
・伝言ダイヤル(西日本)
・web171
2)自分(たち)の命を守る
「とにかく出勤しなきゃ」? いいえ、今、あなたがいる場所で、今一緒にいる人の命を守るのがなによりも先です。津波想定地域は当然ですが、それ以外の地域であっても、家屋倒壊や火事、道路の崩落等で車による移動はおろか、徒歩でも移動できない可能性があります。途中で身動きがとれなくなったら? それくらいの大地震の時に、誰が「なぜ、園へ来なかった?」とあなたを責めるでしょう? 「今、ここにいる自分(たち)を守る行動」が、結果的に生存率を上げるのです。
もうひとつ、保育中に大地震が起きた場合、職員を誰から先に、どのようにして家へ帰す必要があるか、あるいは職員の家族をどの避難所でどのように合流させるか、きわめて困難な話ですが、相談して決めておいてください。
・災害時の無料LAN、00000JAPAN(NTT-BP)
・スマホで緊急通報する方法
アンドロイド、iPhone、ピクセル

3)園の部屋、ロッカーの固定
東日本大震災後にうかがった、仙台地区の日本保育サービスの園(複数)の先生たちから、実にたくさんことを教えていただきました。特に、保育室のロッカーがどれだけ「歩いた」かを。では、どうするか。
・ロッカー等の重くて高さのある家具は、とにかく壁に金具で固定する:プラスチックの転倒予防バンドは無意味。下に敷く滑り止めシートはあくまでも「滑り止め」であって、「倒れる」の予防にはならない。
・「子どもの成長に合わせて模様がえをするから、ロッカーを壁に固定できない」:最初からロッカーと壁に金具を付けておけば、模様がえは問題ナシ。壁とロッカー、ロッカー同士の固定は金具と金具をネジや締め付け金具でとめて。
・「部屋の真ん中に仕切りとしてロッカーを置きたいのだが…」:下の図の通り。ロッカーひとつを留めずに置いたら、大地震で確実に動きます、倒れます。地震ではなくても、子どもがぶら下がって手前に(子どもの側に)倒しそうになったケースもあります(もっと低い家具を自分の体の上に倒した事例もあります)。
ひとつの方法は、ロッカー同士をつなぐことです。T字やL字につなげば、倒れるリスクはかなり下がります。1本線でロッカー2台をつなぐと重量は増えますが、一緒に倒れるリスクはあまり下がらないので、壁にも絶対固定する必要があります。地震ではなくても、子どもたちが協力して一斉にぶら下がることもあります(「なんでそんなことを?」と言う人は、保育士さんの中にはいないと思いますが)。
・ロッカー2台ではなく、横に倒したカラーボックス1台とロッカー1台をT字やL字に固定する方法もあります。ただし、廉価カラーボックスは枠の部分であっても金具等を付けただけで割れることがあります(そもそも、枠部分が細い)。

4)保育中、午睡時の注意点
倒れてくるものがある、落ちてくるものがある場所に子どもを寝かさない! これに尽きます。起きている時なら「みんな、来て!」で済むかもしれませんが(いや、ロッカーが倒れてきたら、これでは済まない)、午睡中はそうはいかないので。
「でも、部屋が狭いから」:その場合、ホール等で午睡をすることも考えてください(0~1歳と、まだこれができない2歳児は除く)。そうするとオマケも付きます。眠い子ども、眠くなった子どもはホールに行って眠り、眠くない子どもや起きた子どもは部屋にいられるからです。
「ホールがない! 部屋が狭い!」:はい…、ええ、もう、よくわかってます。ホールどころか廊下もない、完全にひとつの空間な場所を事務用ロッカー等(おとなの身長より高いもの。収納もないからしかたない)で区切って「保育室のようなもの」を作り、0~5歳数十人を保育している園も知っています。「安全、どうしたらいいでしょう?」と聞かれて、私には何も言えませんでした。「これを作った法人トップ+認可した自治体、出てこい!」です。先生たちは必死。でも、どうしろと? 無理です。法人トップにも自治体にも「無理です」「できません」「これでは、大地震の時に子どもの命を守れません。なんとかしてください」と言い続けるしかありません。災害で何が起きても、それは先生たちの責任ではない。
【以降は、具体的な対応の話ではありません】
5)地震は「予知」できない
2024年5月17日、東京大学地震研究所所長が「今の科学で地震予知はできない」と言っています(画像)。世界でおこる地震の10%、M6以上の地震では20%が起きている日本列島に住んでいる私たちは、「今さら?」と思う話ですけど。下の9)に書いた通り、断層も新しくできることがあり、逆に妙に安定することもあるわけですから、偶然以上の確率で予測できるはずがない。
そもそも「予知」というのは、「予知能力」のように第六感的なものです。「予測」ではないし、「予想」ですらない。事故予防でも時々、「子どもの危険予知能力を育てる」と言う方がいますが、「予知」は人知の外です。そして、未就学児施設は死を理解していない以上、危険を予測することもできない。おとなはある程度、危険を予測することができます。大地震を「予知」することはできなくても、起きた時に起こることは「予測」できるから、その時のための対応を準備できるのです。

6)「絶対に」は不可能なのが、地震時の対応
業務継続計画のことを書こうとしていたのですが、まず、昨日(=2024年1月2日)起きた事故の話から学べることを。羽田空港で起きたJAL機の事故で乗客乗員全員が脱出できたことは、日頃の訓練の結果+幸運(→項8)です。世界じゅうが賞賛しています。…ですが。
「園でも災害時、あのような結果(=全員が無事に生還)を目指さねば!」と思ってはいけません。絶対にダメです。業務継続計画がらみ(下の項)で自治体に「園にもできるよね!」と言われたら、「話がそもそも違うので、一緒にしないでください」と言いましょう。以下の通り。
旅客機の場合、海に落ちた時以外の第一選択は「とにかく外へ出る」です。それが「ゆっくり出てもいい」なのか、「秒単位で速く、全員が出る」の違い程度。もちろん、「どのドアを開けられるか」とか「機体内部の損傷程度」とかの条件はありますが、これも訓練の内容にあるわけで。いずれにしても条件が限られた中、行動は明確に決まっている。求められるのは速度と、取り残さないこと(乗員の仕事を矮小化しているわけではありません。違いを言おうとしているのです)。
では、たとえば、未就学児施設で調理中に調理室から火が出たら? 上とほぼ同じ話でしょうから、全員が安全にすぐ避難することは可能で、そのための避難訓練です。訓練というのは、命に関わる状況の中で「うだうだ考えずに」すぐ体が動くよう、そのためにするものです。昨日の「全員脱出」はその成果。
では、地震(+津波)や火山噴火の場合は? まったく違いますよね。その時にならないと、条件がわからないのです。時間(もう暗い?)、気温(寒い? 暑い?)、園の建物は安全? 周辺で火災は? …避難経路を決めて訓練しておいても、その道路が崩れているかもしれない。建物がそこに倒れているかもしれない。道路が地割れしていても、おとなだけなら徒歩で避難できるかもしれない。でも、子どもが何十人もいたら?
もちろん、こうしたことを考えに入れて毎回、避難訓練をしているでしょう。私が言いたいのは、未就学児施設で災害に遭う場合、燃えている旅客機から逃げるよりもずっと不確定要素が多く、「訓練そのもののシナリオ」通りになることはないという点です。「きっとできる」と思うことは大事ですが、「絶対にしなければならない」と考えること、あるいは(自治体から)「できるはずだ」と言われることは危険なのです。
なぜか。「100%成功でなければ成功ではない」と思い込むほど、リスク制御やリスク低減において危険なことはないからです。リスクはあくまでも「下げる」と考えるもので、「ゼロにする」ものではない。ところが、日本文化は「リスク・ゼロ」が大好き。だから、昨日の「全員脱出」も当然のように言われている(そして、世界は大賞賛!)。考えてみてください。昨日の事故で乗客が1人亡くなっていたら、どう報道されていたでしょう?(乗員が1人亡くなっていたなら「美談」かも←美談は美談でダメです)
(参考)
「想定訓練は劇ではない」(安全の1-1)
「わかる、覚えている、ではなく、ポイント行動ができること」(安全の2-7)
7)業務継続計画=「この状況では開所できない」
さて、今日(=2024年1月3日)書こうと思っていたのはこちら。
以前、動画でお話ししましたが、業務継続計画はやはり、「この状況では開所できない」という視点で書くべきです。「この状況でも頑張って開所する」ではなく、「この状況では開所できません(できたら、するけど)」です。「開所しません」ではなく「開所できません」。
保育園の場合、保護者はたいてい園の近くに住んでいるでしょう。でも、職員は、園から離れた所に住んでいる人が少なくない。道路が割れている、崩れている、建物が倒壊している、火事が起きている、津波が来た(まだ来るかもしれない)、余震が続いている(本震はこれからかもしれない)、水/ガス/電気がない。どれも災害のただ中にいる人には、どこで何がどうなっているか、わかりません。その中を徒歩で出勤するのですか? 自分の家族を家に置いて? 園にいて被災したら、子ども全員を保護者に引き渡すまで、職員全員が園にいなければならない? 職員の子どもはどこに?
基本線は「水、ガス、電気がない/供給不安定と想定する状況では、開所できない」です(地震だけでなく、大雨、大雪も)。衛生が保てず、食事を出せず、連絡も困難になるからです。モバイルWi-Fiやソーラー充電器はあったほうがいいですが、あくまでも緊急手段を確保しているだけで、これを使って保育をしろと言われても無理。
水、ガス、電気があっても、道路が寸断されていたら、職員は出勤できず、食材等も届きません。いや、道はあっても、食材を届けてくるはずの店が倒壊しているかもしれません。連絡がつかない職員は、すでに死んでいるのかもしれない。そして、こういった状況というのは、その地域にいる人にすらわからないのです。だから、「大丈夫だろう」ではなく、「きっとダメだろう」と想定して「開所できません(できたら、するけど)」としておく。自治体は、「とにかく開所しろ」と言うのでしょうけれども、「無理は無理」です。
もうひとつ、能登半島地震の大きな教訓は、「車の通れる道が少ない地域」のリスクの高さです(=「開所できない」と言っておくべき必要性の高さ)。たとえば、私が住んでいる場所は東京都北部の住宅地ですから、道が縦横無尽に走っています。こっちの通りがダメなら、こっちを通れるかもしれない。だけど…、あなたが住んでいる地域、働いている地域の地図を見てください。いかがですか? そのうえ、あなたの地域が大津波想定地域だったら? 「できるはず」ではなく、「できないはず」で想定する必要があります。
海に近く、想定時間内に避難が困難な園の場合、津波避難シェルター(ニシエフ製)という選択肢もあります。子どもの命を絶対に守れる保証はありませんが、命を守る選択肢にはなります。
8)「生存者バイアス」に陥るのは危険
能登半島地震の話をツイッター(X)で読んでいてつくづく感じたのは、「生存者バイアス」です。簡単に言えば「死人に口なしバイアス」。死んでしまった人たち、死なないまでも、今、その場で生きることに必死な人たちは、情報発信などできませんから、「大変だけど、なんとかなっている」という情報が相対的に増えることになります。それを読んでいる私たちは、「この程度でなんとかなるんだ」という認識を持ってしまう。これは、事故も同じ。
人間全員が強く持っているバイアス(認知の歪み)の中に、「うまくいったらそれは自分の力。うまくいかなかったら、それは運が悪かったか他人のせい」というものがあります。日本文化は「自分個人の力」ではなく、「自分たちの力」と考えますが、でも、基本は一緒。そして、日本文化はこれ、強烈。
でも、避難がうまくいったのも、事故が最悪の結果にならなかったのも、いろいろなことがうまくいった(以上、すべて過去形)のも、必ずそこには「幸運」(確率の力)があります。事故や災害が最悪の結果になる時、そこに「運悪く」があるのと同じく。
特に災害の場合は「その時」「その場所」にいること自体が運(確率的事象)なのだから、「絶対大丈夫」はないと考える必要があるのです。どうぞ、「自分(たち)は自分(たち)の力で災害を生き延びた。自分(たち)の判断が良かったからだ。みんなもこう判断すべき!」(過去形)と大きな声で言わないでください。「こうすれば必ず生き延びられる」(現在形)と言うことも。その尊大さが、今度はあなたの命を奪うかもしれない。なにより、その声は、死んでしまった人たちがまるで「生きる努力に失敗した」と言っているかのように聞こえるから。死んでしまった人たちの悔しさを踏みにじらないでください。
9)オマケ:断層が動くということは…
日本の「専門家」が言っているのを見たことはありませんが、活断層は新しくできることもあります。そもそも、今わかっている「活断層」だけが動くわけではなく、死火山や休火山にあたる「動いてない断層
inactive fault」や「休んでいる断層 dormant fault」もある。そうすると、こっちの活断層が動いた影響で、あっちやこっちの動いてない/休んでいる断層が動くこともある。
さらに、新しい断層ができることも本当にあります。これは今、フラッキングがたくさん行われている北米大陸で観察されているできごと。フラッキングは地層深くに水を入れて、その力で天然ガスや石油を押し出す(等の)技術ですが、地層深くに大量の水を力まかせに入れたらどうなるか…。考えるまでもありません。実際、過去数年、テキサス州やオクラホマ州の一部ではM3程度の地震が多発しているのです(今まで地震がなかった地域なので問題になってはいますが、人口も少なく、貧困層の多い地域であるために、社会問題としてはほとんど取り上げられていません)。
(オクラホマ州の地震をプロットした図、記事は英語。黄緑色が2015~2017年)
上の記事を書いた後、日本の「忖度バリバリ後出しじゃんけん(地震予知)専門家」とは無関係な所で調べた結果をお伝えします。
断層には、活断層(active fault)の他に、火山で言う死火山である inactive fault(動かない断層)、休火山にあたる dormant fault(お休み中の断層)があります。
リンクを貼ったペンシルバニア大学地震学研究所の、授業用ノートによると、「Inactive fault(動かない断層)の判断は難しいが、その断層で数百万年、地震が起きていないという証拠があるなら、まず
inactive faultsだと言っていいだろう。だが、地震の頻度が数千年に一度なら、詳細に検討する必要がある」。え。ということは、日本列島周辺で本当の、「絶対動かない
inactive fault」なんてないと思っておくのが当然では?
そしてやっぱり、Reactivated fault(今まで動いてなかったけど、動いた断層)というのがあるようです。どこかの断層で起きたひずみを吸収するために、inactive
faultが再度動いた状態です。日本列島では、これが頻繁に起きていると考えたほうがいいのでしょう。ということは、よく言う「未知の(活)断層」という言い方自体がおかしい! 日本列島周辺はプレートが4枚ぶつかっている場所なのですから、「動かない断層がある」という想定自体が間違っているのでは?
(断層の種類。英語)
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