A-3. 重要事項説明書やしおりに入れて、入園面接またはそれ以降に伝える文書
(初版は2018/1/26。随時改訂)
(2024年2月7日、項目7を更新、10を新規掲載、4の解説を更新。その他、細かい修正)
こちらは、A-2の内容と、入園の段階で伝えるべき点を文章にしたものです。重要事項説明書や園生活のしおりなどに入れ、3月、4月、入園の段階で保護者全員に伝え、紙面で渡しておくべきものです。園見学や面接の時に言葉で伝えただけでは、後で「お伝えしたことです」と言っても「聞いていない」と言われるだけです。一方、何かできごとが置き、相手が感情的になっている時にくどくどと説明しても効果はないばかりか、「屁理屈」「言い訳」と思われて状況を悪化させるだけです。「~の時にお渡しした〇〇に書いてあります。~の時にお話もしました。どうぞもう一度お読みください」とだけ、冷静に言うために渡しておきます。
そして、保護者に伝えたら、自治体にも「子どもたちのため、保護者にこのようにお伝えしました」と報告しておきましょう。「こんなことを園から言われた」と自治体に言う保護者もいるかもしれないからです。情報は常に、「先に、事実を、冷静に、伝えた者の勝ち」であることを忘れないでください。
以下の文章はもちろん、園の判断で加除してくださってかまいません。私(掛札)が実例を通じて学んできた、現時点で最大限の内容ですから、「ここまで書かなくても…」とお思いになる方もいると思います。実際には、「言い過ぎのようにも感じるけど、最悪の事態を予測して書いておいたほうがいい」と判断なさったほうがよいとは考えますが…。事態が起きてしまってから、「先に言っておけばよかった」では遅いので。
伝える内容
お子さまをお預かりする上でもっとも大切な点
『保育所保育指針』は「基本原則」の中で、「(保育所は子どもの)健全な心身の発達を図ることを目的とする児童福祉施設であり、入所する子どもの最善の利益を考慮し、その福祉を積極的に増進することに最もふさわしい生活の場でなければならない。」と定めています。そして、「家庭との緊密な連携の下に、子どもの状況や発達過程を踏まえ、保育所における環境を通して、養護及び教育を一体的に行うことを特性としている。」とも述べています。
「子どもの最善の利益」を大切な基本とし、私ども〇〇園が〇〇様の大事なお子様をお預かりする上では、園と保護者様の間に長期にわたる信頼関係を構築していくことが前提となります。つきましては、集団の中でお子様をお預かりする基本として、以下の点をご理解ください。
1)園は子どもたちがそれぞれにかかわりあいながら、さまざまなことを試し、興味を広げ、育っていく場所です。活動に伴うケガ(顔や歯、目のケガ、骨折等も含む)、かかわりあいに伴うかみつきやひっかき、ケンカなどは起こります。
『教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン』(内閣府、2016年3月)の前文にも、次のように書かれています。「日々の教育・保育においては、乳幼児の主体的な活動を尊重し、支援する必要があり、子どもが成長していく過程で怪我が一切発生しないことは現実的には考えにくいものです。そうした中で、施設・事業所における事故(以下「事故」といいます。)、特に、死亡や重篤な事故とならないよう予防と事故後の適切な対応を行うことが重要です。」
また、保育者の職務は子どもとかかわることで育ちを促すことであり、子ども1人に保育者1人がついているわけではありません。ケガを予防できないことも多々あり、子どものケガが起こる状況すべてを常時、保育者が見ているわけでもありません。解説
2)保育所は子どもが集団で過ごす場所であり、「子どもの最善の利益」とは、「保育所で過ごす子どもたちの最善の利益」でもあります。お子様は日々、集団の中で生活しているという点を認識していただき、集団保育や他の子どもたちに望ましくない影響が起こりうることはお控えください。
例:医療・宗教上の理由がない特別扱い(食事、生活習慣、予防接種忌避等)はできません。園の敷地内、駐車場、行事の会場等では必ずルールに従ってください。他の子どもたちや家族、園職員の写真等を許可なく撮る、撮った写真や個人情報等を許可なく使用するのは禁止です。解説
3)お子様をお預かりする上で重要な情報(例:家庭での発熱・嘔吐等の体調不良や家庭での投薬、ご家庭や登園中に起きたケガ等)は、こちらがお尋ねしなくても、必ず毎朝、事実をお伝えください。保護者の皆さまと園の間の信頼関係の基本となり、お子様をお守りする基本となりますので、事実を隠す、事実と異なることを伝える等はなさらないでください。在園中に発症した疾患、診断された疾患についても同じです。解説
4)お子様の成長・発達に関するできごと、私どもが気づいた点は、小さなことであっても明確にお伝えします。保護者の方にとっては、良いことばかりではなく、聞きたくないとお感じになること、認めたくないとお感じになることもあると思いますが、未就学期の気づき、特にご家庭の環境とは異なる(長時間の)集団生活の中の気づきは、お子様の育ちと将来に深く関わることも多々あります。どんな変化であれ、できる限り早く気づいて必要な対応をすることがお子様の将来の良い結果につながります。
私どもが言葉で説明することが難しい場合、または言葉の説明だけでは状況をご理解いただくことが難しい場合には、必要に応じてお子様の様子をビデオ撮影します。映像は、園が対応を検討する目的と、保護者の方と自治体の発達支援担当者に見せる目的のみに用い、他の目的には一切使用しません。
また、園からお伝えする内容等に保護者の方がご対応いただけない場合(例:虐待やネグレクト、発達に伴う課題等)、自治体の関係部署に連絡・通報することもあります。解説
5)給食の異物混入、アレルギー食材の誤食、処方薬の誤投(与)薬、市販薬の誤使用については、起こらないようできる限り努めてまいりますが、絶対に起こらないとお約束することはできない点をご承知おきください。新鮮な食材を使って限られた時間の間に複数種類の食事(離乳食から除去食まで)を調理していること、集団保育の中であること、医療を主目的とした場ではないこと、約70年前にできた保育士配置基準はこうした個別対応以前のものであることが基本的な理由です。人的ミスをゼロにするというご要望にはお応えできません。解説
6)医療的ケアが必要な場合は、市(区、町、村)の担当課と当園に必ず、ケアが必要な内容すべてを担当医の診断書等と共にお伝えください。医療的ケアには人的・物的な割り振りが必要となりますので、お伝えいただかなかった症状、疾患、ケア等については対応できかねる場合があります。解説
(園内にカメラを設置していない場合、いまや「おやめください」とは言えません。)
更新 7)子どもの服やカバンに保護者の方が録音機等をつけて保育室内の様子を記録することは、おやめください。職員の会話から、他の園児や家庭のプライバシーが漏洩しかねません。当園では、クラス、園庭、玄関等(←設置している場所)でビデオカメラ(または録音機)を常時稼働しておりますので、保育内容等につきまして疑問がありましたら、いつでも園長、第三者委員、または市(区、町、村)の担当課にお伝えください。解説
8)各種感染症については、厚生労働省が定める『感染症ガイドライン』をもとに対応します。集団生活の場ですから、飛沫・空気・接触感染を予防することは困難ですが、感染機会を下げる取り組み(手洗い、流行時や流行が疑われる時の消毒、流行時のマスク着用等)は常にしています。感染機会を下げ、重篤化を防ぐため、体調不良時は早めに受診する、家庭で過ごす等をお願いします。
また、衛生の取り組みは同ガイドラインをもとにし、過度な清潔を目指すことはしません。解説
9)当園では、保育・教育の取り組みを通じて保護者の皆さまの子育ての支援をしてまいります。しかし、保育者は保護者の方が家庭や職場で抱える問題や悩みについて援助・支援する専門家ではなく、そのような支援を私どもが担うことは危険です。家庭や職場の問題や悩みは、自治体の専門相談部署あるいは医療機関等にご相談ください。また、相談等で園に電話をすることはご遠慮ください。園の電話回線は、災害等の緊急時に必要なものです。解説
新規 10)当園及び当園職員に対し、妥当性のない指摘や要求をする、あるいは妥当性にかかわらず不相当な言動や行動(カスタマー・ハラスメント)を保護者がした場合、警察、弁護士等の外部機関に相談し、協力をあおぎながら毅然とした対応を取ります。解説
11)副食費等、定められた諸経費につきましては、滞りなく納めてください。
(結論部分は2種類あります。)
(こちらは保育園および保育園型こども園)
以上の点のいずれかにつきまして、「子ども(たち)の最善の利益」という目標を果たし得ないと考えられる場合、当園としてはご要望その他をお受けしきれないと判断した場合、及び/または、園と保護者の間の信頼関係構築に支障をきたす場合、または支障をきたすと予測される場合には、園としても対応を検討させていただきますこと、まずはご理解ください。
(こちらは、幼保連携/幼稚園型こども園)
以上の点のいずれかにつきまして、「子ども(たち)の最善の利益」という目標を果たし得ないと考えられる場合、当園としてはご要望その他をお受けしきれないと判断した場合、及び/または、園と保護者の間の信頼関係構築に支障をきたす場合、または支障をきたすと予測される場合には、退園の勧告をさせていただく場合もありますこと、まずはご理解ください。解説
各項目の内容の解説
1)と2)の内容の詳細は、A-2の通りです。2)にはもっとも重要なポイントを例示しました。予防接種に関しては、対話上は勧奨にとどめておいたほうが得策ですが、こちらには明確に書いておくべきでしょう。ここに書くこと自体が「勧奨」ですので(下の「全体について」にも補足があります)。
1)で(骨折等も含む)と書いてあるのはよけいだと思う方もいるかもしれませんが、5-1と2-1に書いた通り、ケガ(外傷)は確率的な事象ですから、誰にも非がない状態でも十分、骨折は起こり得ます。書いておかなければ「ケガ=すり傷、切り傷」程度の認識しか生まれません。そうすると、「骨折?
なんでこんなことが起きたんですか!」「ケガは起きますとお伝えした通りです」「骨を折るのが『ケガ』ですか!」となるわけです。
2)で「宗教上」と書いていますが、宗教は「文化」でもあり、個々の事例の判断は容易ではありません。とても難しいので、ここでは「難しい」にとどめます。
3)は言うまでもありませんが、実際、保護者が「隠す」「事実と異なることを言う」は多々あります。でも、それでは他人の子どもを預かることはできません。最悪の場合、「ケガ? 家じゃありません、園でしょう?」「家では元気でした。園のせいです」と、冤罪にすらつながりかねないからです。
現実的な対策としては、B-2の「服薬や事故などについて毎朝、必ず伝えて」を必要に応じて掲示し(渡し)、受け入れの時に必ず、「体調はいかがですか?」「おうちではいかがでしたか?」と尋ねることです。目で見える範囲だけでも最低、確認して、ケガなどがあったら「これはどうなさいましたか?」と聞き、「ああ、じゃあ、様子を見ておきますね」と伝えましょう。気づかないでいて、後で「このケガ、園でしょう?」と言われないためでもあります(この大役を果たし、担任等に伝えるという重要な役割を果たす上でも、朝の受け入れは正規職員が「今日の受け入れ担当」を決めてするべきなのですが、朝晩の担当は非正規でもいいという流れがどんどん強まっています。これは子どもの健康・安全の上でも逆行です)。
最初のうちは保護者が伝え忘れる、ということもあるでしょうから、「〇〇さん、お願いしますね。今度は伝えてください」とやわらかく伝えるべきだと思いますが、度重なる場合にはこの文章を再度示して、「このようにお伝えした通りです。お伝えいただかないと、私どももお子さまをお預かりするのが不安です」とはっきり言うべきです。それは保育者、園を守るためであり、もちろん、子どもの命を守るためでもあります(余談:保護者としては一度、職場に行かなければいけないという事情もありますから、「熱=預からない」ではありません。B-1にも書いた通り、知らなければ対応できない、対応が遅れる、ということです)。
保育者、園がこうした点をはっきり保護者に言えば、自治体や本部(本社)などに「言いがかりをつけられた」というような内容の話が行くかもしれません。ですから、はっきり伝え始めたら先んじて必ず自治体の担当課(本部、本社)に報告、相談をしておきましょう。「隠す」「事実と異なることを言う」が事実であるならば、その事実を具体的に先に伝えておくことで、こちらの理を通すことができます。自治体(本部、本社)が「そんなことは言わずに、多少のケガや体調不良ならなにも言わずに預かっておいて」と言うこともあるでしょう。その時は、屈して預かることにするかもしれません。でも必ず、保護者の発言、子どもの様子、そして、「〇〇さんが『預かって』と電話で言った」「『それくらいのことで角を立てるな』と言った」を記録に残しておいてください。万が一の時のために。
4)もA-2に書いた内容ですが、この時点ではもっと具体的に伝えることができますし、伝えておくべきです。「考えてみたら、ゼロ歳の時にすでに兆候は見えていた。もっと早く保護者に伝えておけばよかった」という話はあまりにたくさん聞きます。子どもの状態に対して保護者が関心を持たないこと自体は、保護者の自由かもしれませんが、「保護者の気持ちを逆撫でしたくないから」という理由で、園が「子どもの最善の利益」を無視してはいけません。
私(掛札)もこんなお話をします。「今、特に米国では1歳未満で自閉症を発見しようとしています。なぜかというと、自閉症は早く支援を始めれば始めるほど、後の発達に良い影響を及ぼすからです。もし万が一、その子が自閉症でなかったとしても支援自体は害になりません。その子が自閉症だったとしたら、支援は意味があります。だから、早いほうがいいのです。」
「1歳未満で」と私が言うと、皆さんはびっくりして顔を見合わせます。でも、「ゼロ歳で『この子はなにか違うよね』って、先生方、おっしゃるじゃないですか」と私が言うと、皆さん、うなずきます。集団の中で子どもを毎日見ている方たちには、はっきり見えているのです。それを保護者に伝え、支援につなげる大切さです。今の時点では支援の専門家は足りないのでしょうけれども、需要が増えれば専門家は増えるでしょう(と希望的に推測します)。
「伝えられる」とお思いになる保育士さんは、ぜひこの話を明るい一般論として保護者会などで話してみてはいかがでしょうか。これを聞いて「自分の子どもについて教えてほしくない」と言う保護者はいないはずです。ただし、実際になにかの課題が出てきた時に、保護者を説得する方法としてこの話をするのは絶対にやめてください。「うちの子が自閉症だと決めつけるのか」という話になりかねません。
ビデオ撮影の件は項目7にありますが、こちら(内閣府のガイドラインのために掛札が書いた下書き)に書いた通り、0歳、1歳のクラスの設置や必須です。なぜなら、睡眠チェックをしていた真の証拠、あおむけに寝かせていた真の証拠、異常に気づいた時に迅速な対応をした真の証拠は、ビデオ映像でしか残せないからです。ビデオで撮っていれば、自治体等が無駄に煩雑にしている睡眠チェック表は本来、必要ないぐらいです(睡眠チェック表自体が後で記入されたものだった死亡事例はすでにあります)。まずこの点で、園が職員を守るために見守りカメラによる撮影は不可欠なのです。
保護者と保育者の両者にとって、映像は役に立ちます。実際にビデオを園内各所につけている園の話ですが、たとえば「このケガはどうして起きた?」という時に、事実を確認する手段になるのです。「誰かにいじめられた?」「自分で転んだ?」「からだのどこをぶつけた?」「どうやって(プールに)沈んだ?」…、映像がなければまったくわからないままとなりかねないことが、映像があるだけで簡単に解決できるのです。ビデオがもともとある園なら、4)の最後は「映像をお見せします」で終わるでしょう。
さらに、これは書こうかどうしようか悩みましたが、事故検証委員会にもかかわった経験からも、やはり書きます。たとえば午睡中やプール活動中に子どもが異常な状態になり、結果、亡くなったとします。プールはさすがにそのままでしょうけれども、午睡中のふとんなどはすべて警察が持っていきます。保護者はたいてい病院へ直行するでしょうから、死亡後に保護者が園に来ることがあるとしても、その時にはなにもない空っぽの部屋です。子どもの最期がどうだったのか、職員はどう対応したのか、その姿を唯一残せるのはビデオ映像しかありません。不慮のできごとで人が亡くなるもっとも悲しい一面は、「さようなら」を言えない可能性が高いことです(自分の側にはまったく落ち度がなく、その場で死んでいても不思議はない交通事故に2度遭った者としては他人ごとではありません)。でも、最期に過ごした姿、まわりのおとなが必死に対応した姿を家族が見ることができたら?
園内各所にビデオをつけている園は増えていますが、まだ多数派ではありません。ビデオがついていない場合には、4)の後半の部分を書き加えておく必要があります。そうしないと、「わざわざビデオを撮るなんて!」と言われかねないからです。
ビデオはネットワークを要しない、本体(1台4000円程度)が単体で動き、SDカードにデータ保存するいわゆる「見守りカメラ」タイプで十分です。
5)に関してですが、本サイトの「ニュース」をご覧いただけばおわかりの通り、近年、異物混入、誤投薬、誤食がマスコミに報道されるようになっています。それも新鮮な食材を使っているがゆえであろう、虫の混入まで、です。ニュースを見ていると、この種の報道は同じ地域で一定時期続く傾向があり、特定の記者、ニュース媒体が目をつけると追いかけ続け、「また起きた」と書きたてているように見えます。
こうした報道を規制することはできませんが、「人間の脳は、ミスをするようにできて」おり、食品工場でも病院でもない集団保育の場である以上、「ミスは起こるもの」と保護者には伝えておく必要があります。開き直りではありません。病院でもミスは起こるのです(「ニュース」参照)。「絶対、起きないようにしろ」と迫られるタイプの事象でもありますから、「絶対起きないようにする、という約束はできません」と答えるための基礎として、これを書いておくべきです。それでも「絶対起こすな」と言われたら、「申し訳ありませんが、そのようにおっしゃられるのであれば、私どもではお子さまをお預りしかねます」(B-3)と言うしかありません。
ただし、異物混入はすべてが同じ、ではありません。たとえば、野菜についている虫、刃、ボルトはすべて異なる種類の「異物」であり、予防すべきもの、できるはずのものがあります。異物混入に関しては、6-1をお読みください。
与薬をしないのであれば、与薬の部分は削除してください。ここで言う市販薬とは虫に刺された時の薬や虫の忌避剤等を指しています。与薬については地域の医師会とも相談して、できる限り「しません」という方向に。「する」のであれば、この項が必須になります。B-2にひな型が各種あります。
6)の医療的ケア児に関しては、この時点で保護者に伝えても遅いので、自治体や保護者から入園の打診があった時に伝えておくべきことでもあります。自治体に「軽めに」申告し、自治体も診断書等の提出を要求することなく、子どもを入園させる事例があります。入園してしまってから「あれも」「これも」と言われても手遅れです。なので、「嘘をつかないで」「隠さないで」ということをはっきり伝えておく必要があります(下の「全体について」に補足があります)。
7)は、いまや必須です。保育室内のさまざまな会話が流出するのは避けたい、ならば、「なにかあったら必ずおっしゃってください。録音等はしないでください」と伝えておかなければなりません。とはいえ、録音したいと保護者が思うということは、そもそも園、保育者に不信感を抱いているのですから、話してはこない可能性が高い。「伝えてなんとかなるという信頼感を持っていないから、録音したんだ」と言われてしまいます。ですから、「私たちは録画をしていますから、見せろと言われれば見せます」と言わなければ、録音等を止めることはできません(園を信頼するかどうかは、個々の保護者の主観的認知ですから、園側が「うちは保護者と信頼関係を築いている。大丈夫」と言い切ることはできません)。
ビデオ撮影については、項目4の解説をお読みください。
8)は簡単で、B-1に書いた通りです。伝えておくことが重要です。
9)は、「子育て支援」を「保護者を直接支援すること」とかん違いしてはいけない、ということです。『保育者のための心の仕組みを知る本』にはっきり書きましたが、保育士も園長も専門の(1日や2日で終わるようなものではない)トレーニングと教育を受けていない限り、おとなの心のケアをしてはいけないのです。危険です。保護者には、「申し訳ありませんが、私はこういったお話をうかがって対応できるだけの知識を持っていませんし、なんとお答えしていいのかもわかりません。〇〇さんがお困りの件に関しては、専門の機関に行っていただくか、自治体にご相談ください」とだけ言ってください。自治体だって「園がみてくれているからいいだろう」になります。自治体にも「私たちにはできません。本来の保育の仕事がおろそかになります」と伝えましょう。
10)は、B-2の「カスタマー・ハラスメント対応」をご覧ください。
11)は、言わずもがなです。
最後の退園勧告についてですが、幼稚園型認定こども園、幼保連携型認定こども園の場合は、1~3号にかかわらず、滞納やさまざまな問題について「退園を勧告します」といった類のことを書いて(伝えて)問題ありません。直接契約なので法律的には問題なく(応諾義務はないと解釈でき)、現在、自治体等が「ダメだ」と言っているのは、あくまでも「待機児童問題」下の同義上の理由だけです。ただし、保育所および保育所型認定こども園には上の内容はあてはまりません。とはいえ、「〇〇さんの御要望には、私どもはお応えできません」「そのようなご要望にお応えすることはできません」と伝える、そのように伝えるよと言っておくことには何の問題もないばかりか、必要ですらあります。
全体について
最後の部分の「園としても対応を」というのは、直接契約であるならば契約を拒否する、預からないと明言する。そうではないならば、自治体に報告し、協議していくといった内容を意味します。ただし、絶対に誤解しないでいただきたいのは、この内容は「園にとって都合の悪い保護者」「園にとって面倒な保護者」を排除するためではなく、あくまでも「子どもの最善の利益」を優先させるためだ、という点です。同時に、こうしたことが十全にできるよう、「保育士の質」を上げていく、ということでもあります。
ですから、一方で、園が同じように「なんでも伝える」ことも重要です。「〇〇ちゃん、これができたんですよ」「これで楽しく遊びました」だけではなく、その子の「できないけど頑張ってトライしていること」「できつつあるけど、まだここがうまくできないところ」「できるようになったけど、こんなふうなひっかかりもあること」「できなくて、ここでいらだっているところ」といった内容(良いこと+ひっかかり=保育士が「子どもを伸ばす」ハシゴかけをする一番大事な専門性の部分)を伝えていれば、保護者にとってはケガもかみつきもひっかきもケンカも当然のことになっていきます。保護者の子育て(=親育て)にも役立つでしょう。
ケガだけではなく、もちろん、ミスも伝えていきます。たとえば、「子どもを置き去りにしそうになりました」「誤食が起きそうになりました」「給食に虫が混入しましたが、子どもがみつけてくれました」…。「申し訳ありません。二度とこんなことがないようにします」という漠然とした、できるはずのない謝罪ではなく、「このような具体的な対策を立てて、できる限り防げるように取り組んでいきます」です。
特に、「~しそうだったが、大丈夫だった」の時にこそ正直に伝え、具体的な対策を伝えることです。これは「恥を自らさらす」ことではありません。「失敗し(そうだっ)たけれども大事に至らず、具体的な解決策を考えられた。取り組んでいく」という前向きな宣言です(つまり、あくまでも伝え方の問題。できごとの内容ではなく)。「二度とこんなことがないように」という漠然とした精神論ではなく、「~のような行動をして、できる限り防げるようにします」という現実的な取り組みです。
こうしたミスの報告は、保護者全員に掲示等でします。ネット上の情報拡散が速い現代では、尾ひれのついた情報が一瞬にして広がります。ネット上で嘘や噂が広がらないようにする最善の方法は、園(法人、企業)の責任者の名前で、すぐに、正確な情報(事実)を流すことです(「むやみに謝罪する」ではなく)。ですから、今日起きたことは今日の夕方、遅くとも次の日の朝までには掲示をする、保護者全体メールをするといった方法をとることが重要です。ケガでも、重傷になったものや遊具がらみのものなどは、他の保護者にも話が流れるでしょうし、対応について心配する保護者がいるでしょうから、同じように掲示等で伝えておくべきでしょう。
信頼構築において重要なのは、お互いに事実を明確に伝え(「万人にとって正確な事実」はまずありえないので「正確ではないかもしれない」点も明確に伝える)、その事実に対する感情も冷静に伝える「正直さ」です。この正直さとは気持ちや「つもり」ではなく、行動としてそのようにする、ということです。
もうひとつ、2)と6)に関連することですが、今、受け入れが増えている医療的ケア児についてです。深刻事故予防の観点からすると、「その児に万が一の事態が起きた時、そこにいあわせた保育者、子ども(幼児)の心のケアをできる体制がない」ことが最大の懸念です。そのお子さんの保護者とその子どもをみている医師は子どもの予後についてある程度の現実的な予測をしているのかもしれませんが、保育者はそうではありません。お子さんが亡くなったりした場合には、医師にとってはそれが予測通りのものであったとしても、保育者は「私(たち)が悪かったのではないか」「なにかできたのではないか」と後悔します。まわりの子どもたちもショックを受ける可能性があります。そのケア体制をいっさい持たずに受け入れを進めることの危険性を考え、自治体にそれを明確に伝えるべきです。
もちろん、看護師や保育士を加配するだけで、他の子ども全体の保育・教育に影響が出ない形の保育・教育ができるのか、という点も自治体に問うべきです。そして、配置にかかわる財政的・人的問題(はっきり言えば、加配の補助金)を考えるのであれば、医療的ケア児はまず公立園が受け入れるべきだと私(掛札)は考えます。
★ 保護者に保育を伝え、一緒に子育てをしていくという点では、「親心を育む会」が進めてきた「一日保育士体験」(マニュアルのPDFは、同会上記サイトの左側)がとても役立ちます。一日保育士体験は母親だけでなく、父親も対象です。
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