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●このセンターが目指すこと
●このセンターの活動報告等
※掛札の経歴等については、個人のサイトをご覧ください。


このセンターが目指すこと


「保育者の皆さんの仕事と心を守るために」

 2008年5月末の帰国後、比較的早い時期に、「子どものケガ予防」を通じて保育園の皆さんのお手伝いをする機会に恵まれました。それから5年、保育現場の皆さんと取り組んできたなかで、私の心の中で強まった思いは、「保育現場という大事な場所で働く方たちの仕事と心を守るためにも、安全の取り組みを進めなければ」というものでした。

 はたから見ていても、保育の仕事は楽なものではありません。未就学児という、おとなよりもずっともろく、理解力も判断力もまだまだ発達の途についたばかりの存在と共に過ごすことは、それだけで大変な仕事です。そのうえ今は、本来、保育者が専門とする仕事ではない「保護者支援」や「地域支援」という仕事も加わっています。仕事の大変さに比べれば、報酬は決して満足できるものではないと言わざるをえません。そして、保育に携わる人の不足はきわめて深刻であり、大多数の園が人手不足のなかでぎりぎりのシフトを組み、なんとか業務を果たしているのが現実です。

 一方、日本の場合は社会全体が「子どもの安全」を軽視してきた歴史があり、保育現場における安全は、安全の専門家でもない保育者の方たちに任されています。その結果、当然のことですが、子どもたちの命を奪いかねないさまざまな危険やリスクがどの保育園にもあります。「自分たちには悪いことは起こらない」という、人間があまねく持っている認知バイアス(ものの見方の歪み。思い込み)から、こうした危険の存在は無視されてしまいます。あるいは、意識にのぼっていたとしても「これまで、何もなかったのだから大丈夫」という気持ちが働き、見過ごされます。しかし、命を奪いかねない危険が存在する以上、「いつ、どこで、どの子に深刻な事態が起きても、おかしくはない」のです。

 目の前で子どもが死んでしまったら…、大きなケガをしてしまったら…。保育者の仕事だけでなく、心も破綻をきたします。「とても大事な仕事をしている保育者の人たちの目の前で、そのようなことが起きてほしくない」、私はそのように願いながら、これまで取り組ませていただき、今回、このセンターを作りました。

 もちろん、予防できるはずのできごとで子どもの命が失われることは、あってはなりません。2012年には、報告されているだけで18人のお子さんが全国の保育施設で亡くなっています。死亡の陰には、重症や重傷、後遺障害等がもっとたくさんあります。そして、この数が「減った」「増えた」「多い」「少ない」は、私たちが気にすべき論点ではありません。人間の命は、「数」ではないからです。たった一人の子どもの命が失われることがどれだけの大きな意味を持つのか、それを最も良く知っているのは、お子さんを持つ親御さんと保育者の皆さんなのです。


ケガ(傷害)予防、深刻事故予防のためには情報が不可欠

 このウェブサイトは、2012年9月9日に始まりました。当初は、子どもの安全やケガ(傷害)予防、事故予防、健康の情報を保育現場の皆さんに提供することが目的でした。

 現場で毎日起こるヒヤリハットや軽いケガ、事故から、「起こり得る最悪の事態」を予測し、予防につなげていくためには、どんな状況下でどのように深刻なケガや事故が起きているかを知り、そこから学ぶことが不可欠です。ところが、日本の場合、子どものケガや事故はなかなかニュースになりません。もちろん、インターネットが普及した現在、地方新聞等に載っているニュースから細かく拾い上げていけば、いろいろな情報を得ることができます。欧米でも、深刻なケガや事故は起きていますから、そうした情報も役に立ちます。

 しかし、保育現場では、保育時間中、携帯を見ることもできなければ、インターネットを開くこともできません。たいていの保育者の方には、主要紙1紙と朝晩のテレビのニュースぐらいしか、情報を手に入れる場所がないのです。言うまでもなく、英語でニュースになるできごとの大部分は日本では紹介されません。

 「それなら、私が集めて発信すればいい」、そう思って始めたのがこのウェブサイトでした。そして、2013年4月の「保育の安全研究・教育センター」設立と同時に、統合したウェブサイトになりました。トップページには今まで同様、ニュースを掲載しています。なぜなら、情報が一番重要だからです。まずは、このウェブサイトを皆さんの情報源として活用していただければ、これほどうれしいことはありません。


「選ばれる保育施設」「選ばれる保育者」となるために

 都市では待機児童の問題が、そして都市の外では深刻な過疎化と少子化の問題が起きています。人口構成の偏りはあるにしても、2020年には全都道府県で人口の減少が始まります(厚生労働省国立社会保障・人口問題研究所)。今、都市部とその近郊を中心に次々と作られている保育施設や学童施設も、遠くない将来に余り始めることは明らかです。

 その時、「選ばれる保育施設」となり、「選ばれる保育者」となるためには? 保育の質はもちろん重要ですが、安全はすべての基本となります。しかし、保育の質にしても安全にしても、大部分は保育者の行動によるものですから、一朝一夕で向上を図れるものではありません。そのことがわかっている保育施設は、すでに動き始めています。環境面の安全を可能な限り保証しようとするだけでなく、保育者の安全行動をしっかりと定着させようと、取り組みを始めている保育施設(公立、社福、企業)は、少数ではありますが、存在します。「とにかく預かっていればいい」という時代が突然終わった時にあたふたしても遅い、ということを理解しているからです。

 保育者一人ひとりについても、同じことが言えます。自らの感情、言動、行動を意識的にコントロールしながら、お題目ではなく真の意味で「一人ひとりの子どもの育ちを促せる」保育士に育つこと。深刻な危険を予測し、予防策、予防行動をとれること。そして、他の職員とも保護者ともしっかりしたコミュニケーションができること。そうした保育者でなければ、そして、そうした保育者がいる保育施設でなければ、これから始まる淘汰の時代を生き抜くことはできないのです。

 安全とコミュニケーションの側面で、こうした動きのお手伝いをしたい、このセンターはそのために設立されました。


家庭への情報発信と、園の取り組みのアピール


 保護者の皆さん(お子さんをお持ちの保育者の方も含む)は、不況の中、長時間労働を強いられています。子どもと過ごしたいと思っていても、なかなか難しいのが現状です。そのなかで、保育施設、保育者の仕事は、「子育ての専門家」としての重要性を増しています。

 保育施設が、そして保育者が、保護者に健康、安全やケガ予防、事故予防の情報を手渡していくことも、家庭での子どもの事故を予防するためには非常に大切です。それは、保育という専門性に立脚した保護者支援となるだけではなく、保育現場の安全の取り組みを伝え、「ああ、私の子どもが行っている保育園は、ちゃんとしてくれているんだな」という気持ち(顧客満足)を育てることにもつながります。

 上から目線で「安全のため、健康のため、家庭ではこうしてください」と伝えたのでは、伝わるはずの情報も伝わりません。保育園での子どもの様子、集団生活ならではの楽しさと危なさを伝えた上で、「私たちの施設ではこのような対策をとって、深刻なケガが起きないようにしています」と取り組みをきちんとアピールし、「ご自宅でも同じような~の危なさがあると思います。そんな時は、こうしてみてはいかがでしょうか」と、横並びの視線で伝えていく、これがリスク・コミュニケーションの基礎に基づいた情報提供の方法であり、自施設の取り組みもしっかり伝えていく大切な方法となります。

 世界保健機関(WHO)等が提唱している方法に基づいたリスク・コミュニケーションの方法をお伝えしていくことも、当センターのひとつの役割です。


「現場で働く科学者」としての視点で

 社会心理学は、心理学の中でも「人の価値観、認知バイアス、行動等を調べ、必要であるならばそれを変えていく(=「介入する」)分野です。そして、その介入に効果があったかどうかも調べ、より効果的な介入方法に変えていくことも、仕事の中に含まれます。社会心理学の中の健康心理学は、その中でも特に健康や安全の部分に焦点をあてた分野で、1970年代以降、米国で研究と実践が進み、特に米国では禁煙行動の広がりや健康行動の広がりで、目に見える効果(近年の禁煙関連がんの減少)をあげてきました。

 日本ではいろいろな見方があるとは思いますが、私自身は米国的な立場で、「現場の人たちと、現場の問題をみつけ、現場の問題を解決するために、現場で働くこと」が健康心理学者の仕事だと信じています。コロラド州立大学大学院での私の先生(Lorann Stallones, PhD, MPH)は、心理学者ではなく、傷害の疫学・公衆衛生の専門家ですが、先生から教わったことも、まさにそのような態度です。まずは、現場の問題を見つけ、解決しようとすること。しっかりした研究スキルを持ってさえいれば、そこから研究成果は生まれるのです。

 ちなみに、心理学は「自然科学」です。日本ではいまだに「文系」と思われているようですが、米国においては、社会心理学はもちろん、認知心理学もカウンセリング心理学も科学です。科学であるということは、データを集め、データから何らかの結果を見出すことができる、ということです。私自身の紹介ページにも書いてありますが、科学としてのスキルを私自身は多く持っています。これまで「感性と経験」中心だった保育の現場に科学の視点を入れる、そして、課題や改善を科学的に(=データで)示していく、それも私の仕事だと思っています。(2013年、掛札逸美)



このセンターの活動報告等

 NPO法人保育の安全研究・教育センターは、2013年4月1日に設立されました。現在、給与を受け取っている専従者は一人もいません。このウェブサイトの運営、情報提供等はすべて、代表(掛札)と理事のボランティア活動として行われています。

 下に2013年度(第1期)~2015年度(第3期)の決算書を掲載してあります。第1期の収入は試験的に実施した研修の参加費です。短期貸付は代表からのものです。2014年度、25年度は、ウェブサイトによる情報提供以外の活動をしておりませんので、相応の管理費となっています。

2015年度(第3期)の決算書
2014年度(第2期)の決算書
2013年度(第1期)の決算書