2-4. 口頭コミュニケーションのルール(2015/7/5、2021/8/7 全面更新+加筆)


大原則は「一往復半」

 口頭コミュニケーションの基礎は、「一往復半」です。これは安全のためだけではありません。保育園の仕事に限ったことでもありません。「言ったつもりになっていた」「耳に音は入ってきていたけど聞いてなかった」「言い間違った」「聞き間違った」などを防ぐための、すべての基本です。

 たとえば散歩の時。「A先生! Bちゃんの靴が脱げました。止まってください」…、前方から返事がなかったら、声をかけた後ろの保育士は「どうしよう…」と困ってしまいます。「はい、わかりました。止まります」、これでやっと安心して止まれます……が、その前にひと言、「ありがとうございます! 靴、はかせますね」。これで一往復半です。

 食物アレルギーの誤食予防でも、「あれ? Bちゃん、今日は除去じゃなかったっけ?」という問いかけに対して、「Bちゃんは今日、除去じゃありません(+理由)」「え? 除去でしたっけ? ちょっと確認してきますね」「あ、除去でした! ありがとうございます!」といった返事があり、さらに一往復半の最後の半分にあたる「そうなんですね」「はい、確認してください」「良かった! 除去ですね」があって初めて、コミュニケーションが成り立ちます。

 宣言や問いかけに対して返事をする(一往復)。これだけでは不十分です。「あなたの返事を受けとめましたよ」という最後の半分もとても大切なのです。



宣言か、問いかけか

 散歩中に子どもの靴が脱げてしまったのなら、「脱げました。止まってください」と言うしかありません(行動の宣言)。止まる以外に選択肢はないからです。でも、何も言わずに止まったら危険です。宣言は不可欠です。

 でも、行動の中には、宣言だけで行動してしまってはいけないものも多々あります。その場合は、問いかけにします。たとえば、「ちょっと事務室に行ってきます」。これは宣言ではいけません。あなたは気づいていないけれど、今、出ていってはいけない理由があるかもしれないからです。「ちょっと事務室に行ってきていいですか?」と問いかけるべきです。室内であれ、園庭であれ、公園であれ、自分自身がその場を離れようという時には、基本、問いかけです。

 とはいえ、子どもの理由(靴、トイレ、ケガなど)でその場を離れざるをえない時は、いちいち問いかけで尋ねてはいられない可能性大です。そうなると大きな声で宣言をしたうえで、次のステップ「返事を要求する」が重要になります。



返事をする、返事を要求する

 保育現場には、返事をしない職員(園長、保育者、調理師、看護師、用務などすべて)があふれていると言っても過言ではありません。まず、ひとり言のような宣言や問いかけばかり。聞いているほうも「自分に言われたわけじゃないよね」と無視。これでは、情報がまったく伝達されませんし、よく言われる「連携」どころではありません(「連携」って、そもそもどんな意味で使っているのかわからない、あいまいな言葉です。一番下の項目を参照)。後で「言った」「聞いてない」のケンカにもなります。「声を出し」「返事をする」、この行動がなかったらそもそも連携なんてないと考えて、「声を出す」「返事をする」をルール(=例外なしの行動習慣)にしてください。

 現場でみていると、ひとつの問題は、宣言した人、問いかけた人が返事を要求していない点だとわかります。「ちょっと出てきていいですか?」…、誰も返事をしていないのに、その人は気にもせずに出ていってしまう。その職員にとっても危険きわまりない行動です。後で「なに、突然いなくなっちゃったの?」「出ていくなんて聞いてない」と言われないためにも、とにかく返事は要求しなければいけません。

 漠然と「ちょっと出てきていいですか?」と聞くのではなく、「A先生、B先生、出てきていいですか?」と名前を呼びましょう(急に宣言されても、「自分に言われている」とは気づきにくいものです。「これから話しますよ」と注意を促す意味で、その人(たち)の名前で呼びかけるべきです)。

 返事が戻ってくるまで何度でも声をかけます。「Dちゃんがケガをしたので、事務室に連れていきます」「Fちゃんをトイレに連れていきます」、いずれも情報自体が大事(=子どもが1人、部屋からいなくなる)ですし、保育士が1人いなくなるという事実を伝えておくことも重要です。周囲は必ず返事をする、返事がなければ返事を周囲に要求する、この2つです。

 そして、他の職員の宣言や問いかけを聞いたら、(名指しにされていなくても)返事をしてください。名指しにされた人が返事をするのは当然です。ご自身が返事をされなかったらいやですよね。「私の宣言や問いかけに返事をしてほしい」、そう思うなら、まず自分自身が「返事をする行動習慣(=自分の行動のルール)」を身につけましょう。そして、返事をした以上、返事をした内容に責任を持ちます。

 「私が何をしているかを見たら、(今、部屋から出ていっちゃいけないと)わかるでしょ」「なんで、いちいち聞くのかな。うるさい」とは、絶対に思わないでください。「言わなくてもわかる」「以心伝心」は嘘です。人間にはテレパシーなどありませんから。まして、職場で一緒に働く人は、友だちでも家族でもありません。働く人ひとりひとりの心と仕事を守り、子どもの命を守るためには、明確に言葉に出し、明確な返事をすることが第一歩になります。



返事は「はい」ではなく回答か復唱。拒否もアリ

 「ちょっと事務室に行ってきていいですか?」に対する答えは、「はい」ではいけません。「はい、行ってきていいですよ。私が見ているから」、または「ダメ、今、出ていかないで」のどちらかです。「はい」は回答になりません(「はい」は、問いかけに応答しているだけ)。「はい」か「いいえ」を尋ねられている問いかけには、必ず、「はい、いいですよ」「いいえ、ダメです」のどちらかで答えます。拒否(いいえ)も、当然アリです。

 宣言や情報に対する返事も、「はい」では不十分ですが、こちらは少し意味が違います。人間、「はい」と応答しただけでは右の耳から左の耳に抜け、忘れてしまうのです。特に保育現場や調理室は情報の嵐です。「2歳児クラス、今日、補食1つ追加です」「Bちゃんのお迎え、7時30分に変更です」「Cちゃん、38度あるので、今、お父さんに電話しました」…、これに「はい」「はい」「はい」と応えていたら、右から左へどんどん抜けていきます。

 だから、復唱。「はい、2歳児クラス、補食を1つ追加ですね」「Bちゃん、7時30分ですね」…、復唱は「自分の口で言って、自分の耳で聞くこと」ですから、記憶に残る確率が上がります(必ず残るとは言えませんが、復唱しないよりはマシです)。

 復唱すれば、聞き間違いや言い間違いに気づく確率も上がります。「山下Aちゃん、7時半にお迎えです」「はい、山下Aちゃん…、あれ? Aちゃんはもう帰ったよ」「あ…、ごめんなさい、山下Bちゃんでした」、言った側が言い間違える可能性もあります。あるいは、「山下Aちゃん、7時半にお迎えです」「は~い、山下Bちゃんね」「違うよ~、山下Aちゃん」「あ、ありがとう、Aちゃんですね」、返事をした側が聞き間違える可能性もあります。復唱は、ついうっかり必ずミスをする人間という生き物が一緒に仕事をしていくうえで大切な、「お互いさま」の行動ルールなのです。

 さらに、「Aちゃん、今日は除去食じゃないの?」「これ、Bちゃんのお母さんに渡す手紙じゃない? Cちゃんの所に置いてあるけど」といった、ちょっとした「おかしいな?」「ハテナ?」を口に出すことも、もちろん大事。ただし、誰かが「おかしいな」「これ、本当?」と尋ねてきた時の返事で、絶対に要注意!がひとつあります。根拠もないのに「大丈夫」と答えては、絶対にいけません! 「え、そうかな? 確認してみるね」「確認してみよう」と答えること。そして、確認すること。こういう時に「大丈夫」と言うなら、必ず「大丈夫の根拠」が必要です。いいかげんな「大丈夫」が、実は大丈夫ではなかったら…? 取り返しのつかないことにもなりかねないからです。



最後の半分「返事、受けとめましたよ」

 一往復半の最後の半分は、「あなたの返事、受けとめましたよ」というメッセージです。最後の半分をしないでとっとと部屋から出てしまったら、「ダメです。今は出ていかないで」という返事を受けとめそこねている可能性もあります。相手の返事を最後まで聞く行動習慣を身につけるためにも、最後の半分の返事そのものを行動習慣にする必要があります。

 そして、これはなによりも、「言った」「聞いてない」を防ぐためです。この文化では、「言った」「聞いてない」で負けるのは、常に「下の人」です(真実は、常に「藪の中」)。ですから、あなたに何かを伝えた人があなたよりも「上(年齢、経験年数、立場など)」であるなら、自分の心と仕事を守るために、最後の半分を言いましょう。最後の半分を言う習慣を身につけていて、損をすることは絶対にありませんから。…では、園長は「園内で一番上」なのだから「言ってない」「聞いてない」「復唱なんて面倒。うるさい!」で済ませていられる? そうかもしれません。ですが、そのような園がどうなっていくかは…?



「お願いします」と「ありがとう」

 一往復半の最後の半分は、別の意味でも大切です。「お願いします」「ありがとう(ございます)」を言うべき場所、言える場所はここだから、です。

 もちろん、一往復半の最初の半分の所でも「止まってください! お願いします」と言えますが、最後の半分の「お願いします」「ありがとう(ございます)」は、相手にしっかり託す言葉です。この言葉を、感謝を込めたものの言い方で口にできるどうかによって、託された相手の受けとり方も変わります。「ちょっと出てきます」と言われて、「はい、いいですよ」とあなたが答えている間にその職員がもういなくなっていたら…? 「託された」という感情は減ってしまい、後で「私、聞いてないよ」と言いたくもなるでしょう。一方、あなたの「はい、いいですよ」に対して、「ありがとうございます! すぐ戻ってきますね」と笑顔の返事(最後の半分)が戻ってきたら…?

 この時、「ありがとう(ございます)」と言うかわりに「すみません」と言う人がたくさんいます。「すみません」は自分を卑下する言葉、中途半端に謝罪する言葉であって、相手にしっかり託す言葉としては不適切です。「ありがとう(ございます)」「お願いします」と、明確に感謝をして託してください。

 そして、最後、はっきりと感謝して託すことを考えたら、「ものの言い方」が大事なことはおわかりいただけると思います。一往復半を命令口調や怒りのこもった口調で話していたのでは、「怒られている」「怖い」「腹が立つ」といった感情ばかりが先に立ち、内容には意識が向きません。あなたが伝えたい「内容」が伝わってほしいと思うなら、怒りや命令に聞こえるものの言い方はしないこと。コミュニケーションはキャッチボールです。ボールを力任せに投げつけたら、相手は受け取れません(受け取りません)。…「だって、〇〇先生はいつも聞き間違うから腹が立つ」…、〇〇先生はきっとあなたより「下」なのですよね。ということは、あなたが言い間違った時も「〇〇先生が聞き間違えた」になっているのです。「言い間違い」「聞き間違い」は誰でもします。あなたもします。だから、一往復半と、一往復半をできる人間環境が大切なのです。

 下の2項目はオマケです。



メモや連絡用紙を活用する

 言われたことを復唱したからといって、必ず記憶に残るわけではありません。ですから、メモ用紙を1枚、ポケットにいつも入れておくのもひとつの方法です(ボールペン等はポケットに入れておくと危険ですから、こちらはロッカーの上か、柱にぶら下げておいてください)。そして、メモをできる時には、どんどんメモしましょう。メモした事項が終了したら、横線で消します。もちろん、子どもの名前や保護者の名前はイニシャルなどで書いておきます。

 あるいは、クラスのロッカーの上に、下のような連絡用紙を置いておくのもひとつの方法です。





連携できた=伝えたことが現実になった

 「連携」という言葉、あちこちで使われていますが、わかったようでわからないあいまいな言葉。ただ、「連携をしっかりしましょう」と言って(書いて)おけばいいかのような「おまじない言葉」のひとつですけれども、おまじないを言っていても世の中は何ひとつ変わりません(おまじない言葉は他にも、「片付ける」「整理整頓する」「丁寧に~する」「真摯な気持ちで」「心をこめて」「主体的に」等々、山ほどあります。ある言葉が現実の集団の中でなにを意味するのか、それを明確にする重要性は8-1の「想定力」の項に置いてある「作業上の定義」に書いています)。

 私(掛札)は、「あなたがその人に伝えたことが、あなたが伝えたかった通りの結果になって初めて『連携が成り立った』と言う」と定義しています。「靴が脱げました。止まってください」と言って、先頭の先生が止まったら「連携が成り立った」。これは簡単ですね。それでは、「人数確認をしてください」は? 聞いた先生はその場にいる子どもの数を数えて「9人います」と言うかもしれません。でも、実は移動前の人数は10人だったのかも…。ならば、「人数確認をしてください。部屋を出る時は10人いました」と言わなければいけません。

 もっと複雑で、でもひんぱんに起こる「連携の失敗」もあります。「A先生。折り紙で飾りの花を作ってくれる?」「はい!」「来週火曜日までに20個、お願い」「はい!」…。火曜日になって…「20個、作りました!」「A先生、これ、違うんだけど」「え…」。以心伝心はない!のです。「A先生。折り紙で飾りの花を20個、作ってほしいんだけど」「はい!」「どんな花を作れる?」「あ、これです、私ができるのは」「ああ、そうか。それだとちょっと小さいから、これ、折れる?(ひとつ作る)」「あ、できると思います」「来週火曜日までにお願い」「はい、わかりました」。連携が成り立ったと言えるのは、後者です。

 もちろん、相手によっては「来週火曜日までに20個」がおぼつかない場合もあるでしょう。そういう時は、週末あたりに「先生、折り紙の花、いくつできたかな? 私の説明が悪かったかもしれないし、心配だから見せてくれる?」と尋ねてみる手もあります。「私の説明が悪かったかもしれないから」と言えば、相手もさほどいやがらないでしょう。実物を見せてもらったほうが無難です。実は違うものを作っている人、「作ってます!」と言うだけで実際はひとつも作っていない人がいるかもしれないから、です。

 とはいえ、「連携ミス」と呼ばれるものの大部分は、伝言ミス。言い忘れた、聞き間違えた、言い間違えた、聞いたけど忘れた…。未就学児施設は口頭のコミュニケーションが主ですから、伝言が多く、結果、ミスも起こりやすい。記憶に頼るのは危険です。伝言ミスをなくすにはやはり、「メモを使える時は使う」です。たとえば、事務室の園長や主任の机には小さなホワイトボードを置いておき、先生たちは伝言を四角い付箋に書いて貼っておく。「書いて貼った時間。書いた者の名前。用件。何時までに回答がほしいか」という方法を。こうしておけば、園長や主任も優先順位をつけやすく(=付箋を並び替える)なります。