3-1. 睡眠の安全
(2016/4/14以降に書いた項と2018年以降に書いた項を全面改編。2021/11/22)


 あおむけ寝ですやすやと眠っているように見えても、乳幼児の呼吸が止まっている、意識がない、ということはありえます。「死亡に至るような異常は、私たちの園でいつ、どの子に起こってもおかしくはない」と考え、異常の早期発見と救急救命対応ができるようにしておくことが、「命が失われるリスクの高い小さな命を、他人から預かっている専門家集団」としては重要です。万が一の時、「あの時、私がうつぶせ寝にさせていなければ…」「あの時、私が早く気づいていれば…」と後悔する原因を作らないためにも。


睡眠中の安全確保の柱

1)窒息死の予防
 睡眠中の異常がすべて窒息ではありません。ですが、少なくとも0歳と1歳児クラスでは、まず窒息死を予防する行動が必須。窒息死は予防できる死亡であり、予防の取り組みをしなかった場合は過失を問われる可能性もあります。

寝かしつけからあおむけにし、うつぶせ寝をさせない。つまり、おなかを下にした体位で寝かせない。うつぶせ寝によって、肺がうまく機能できず、窒息する事例も報告されています。「体はうつぶせだけど、顔が下を向いていないから大丈夫」「苦しければ、自分で動くだろう」ではありません。子どもはまだ、脳の中のさまざまな機能がうまく働いておらず、それぞれの機能の連携もできていないので。

窒息の危険を、一人ひとりの子ども、その周辺から確実にとりのぞく。たとえば…、
 -やわらかい布団、タオル、枕、ぬいぐるみ等
 -すべてのヒモ、コード、ヒモ状のもの、
 -口の中のもの(吐しゃ物、食べ物、小物)
 -顔にかかっている布、物等

窒息の危険を発見した場合には、すぐにクラスの中で情報を共有する(正規、非正規、有資格、無資格を問わず)。「誰が悪かったか」(責任追及)ではなく、「このようなことが起きていたので、次は起きないように~をしよう」(予防のための気づき)という言い方で。

2)突然死リスクの低減、異常の早期発見と早期対応
 窒息死の要因をとりのぞいても、突然の異常は起こります。乳児の突然死はいまだ大部分が原因不明であり、いつ、どこで、誰に起こるかはわかりません。よって、異常に早く気づいてすぐに救急要請をする、蘇生措置を行うことが保育施設の果たすべき社会的責任となります(日本には死因検討システムがまだありませんから、「SIDS」「突然死」「不詳の死」等さまざまに書かれます。この中にはおそらく窒息死も含まれていると考えられます。そして、「SIDS」「突然死」「不詳の死」は基本的に同じで、「原因が特定されなかった(できなかった)突然の死亡」という意味です)。

突然死のリスクを下げるため、うつぶせ寝(おなかを下にした体位)をさせない。寝かしつけからあおむけにする。うつぶせ寝のリスクについてはこちら。書いてある通り、「うつぶせ寝のほうが深く、よく眠る」のは事実ですが、「深く、よく眠る」こと自体が死亡リスクを上げる要因。「うつぶせ寝にして寝かしつけて、眠ったらあおむけにするから」…、でも、「せっかく寝たんだから!」とそのままにしていますよね。しばらくして様子を見たらすでに呼吸が…。多々起きているケースです。

異常に早く気づくため、睡眠(午睡)チェックを行う。

異常に気づいたらすぐに救急要請し、心肺蘇生(+あればAED)を開始する(すべて同時進行)。異常に気づいた時の対応は、内閣府の「安全ガイドライン(事故発生時の対応)」を。ガイドラインに書かれている内容の詳細は、『保育現場の「深刻事故」対応ハンドブック』を参照してください。動画と保育の安全シートも



睡眠チェック=異常の早期発見+「その子のいつも」チェック

 睡眠チェックは、うつぶせ寝をしている子どもの様子をみたり、うつぶせ寝をあおむけに返したりすることではありません。睡眠チェックは、あおむけで眠っていても異常な状態に陥っている場合がある、それを見つけるためにすることです。

チェックは一人ひとりの子どもに触れ、「○○ちゃん、~~だね」と言葉を発しながら行います(声出し指差し確認の一種。「保育の安全シート」も参照)。目視だけでは、異常が早期にわからない可能性が高いからです。軽く触れて、「その子のいつも」の体温の感じかどうか、汗の感じかどうかをチェックしましょう。睡眠チェックは、一人ひとりの「いつも」を学ぶ時間であり、「いつもと違う?」に気づく機会です。「息をしているかどうかチェック」ではありませんし、まして「生きているかどうかチェック」ではありません。睡眠チェックを「SIDS(シズ)チェック」と言う方もいますが、SIDSは死因の名前です(それも「死因が特定できなかった時につける名前)。また、「呼吸チェック」だと「呼吸をしているかどうかだけを確認すること」になってしまいますので、ここでは「睡眠チェック」と書いています。

「睡眠チェックをしていると、連絡帳が書けない」「製作が進まない」と言われます。園児が亡くなっても報道さえされなかった時代の慣習を引きずるのはやめてください。今は、保育者と園が社会的責任を問われるのです。睡眠チェックとうつぶせ寝のひっくり返しをする保育者を(0歳と1歳については)毎日必ず一人、おいてください。自分たちの安全の取り組みを保護者に伝えて製作や行事を減らし(ひな型「睡眠中の安全確保をするために」)、自治体や国にも保育者の配置増を要求しましょう。

チェックは、「この子は異常な状態にあるかもしれない」「この子の呼吸は止まっているかもしれない」と思いながら行います。「大丈夫」と思っていたら(思い込んでいたら)それだけで上の空になり、気づけない可能性があります。

0歳児は全員が一斉に眠るわけではありませんから、眠っている間に定期的にチェックして、その時間と子どもの状態を書けばよいでしょう。

幼児クラスの場合も、異常な音、声、事態にすぐ気づけるよう、先生が必ず一人はクラスの中にいて、子どもの方にからだを向けていることが大切です。

睡眠チェックの間隔と方法

東京都では、0歳児は5分ごと、1歳児は10分ごとに睡眠チェックを行うことが推奨されています。これはいわゆる「救命曲線」をもとにしたもので、異常に早く気づいて早く心肺蘇生を始めれば、蘇生できる確率が上がるから、です。そして、0歳児のほうが1歳児よりも突然死の確率が高いため、0歳のほうが短くなっていす。まず、5分ごと、10分ごとといった目安を決めてください。自治体が決めているなら、それに従いましょう。自治体が決めているよりも短い間隔であれば問題はありませんが、自治体が決めているものよりも長いチェック間隔だと、事故が起きた時、「なぜ、決められた通りにチェックをしていなかった?」と言われかねません。要注意。

真剣に睡眠チェックをし、うつぶせになった子どもを一人ずつあおむけにしていたら、5分、10分はすぐに経ってしまうはずです。「時間以内に全員をチェックしなければ!」ではありませんから、パパパッと済まさないでください。チェックの記入シートも時間を最初から書いておくのではなく、「その日、実際にチェックをした時間」を書くべきです。自治体によっては、一人一人のチェック表に最初から時間(5分ごと、10分ごと)が印刷されているものもあるようです。これは、自治体に言って変えるべき。その間隔で時間以内にすることなど、一人ひとりをさわりながらきちんとチェックしていたら困難です。結果、空チェックや嘘の記入を増やすだけです。

間隔は、キッチンタイマー等で必ず測ります。別の作業の合間に睡眠チェックをしていると、次のチェックを忘れてしまうリスクが上がるからです。時間を測り、アラームを鳴らしてください。「自分で時計を見ながら」では、5分のはずが15分、20分になってしまいます(人間の時間感覚は非常にずさん)。

「キッチンタイマーを鳴らすと起きてしまう」と心配する人もいますが、慣れれば子どもは起きません。そして、寝ない子どもは、タイマーを鳴らそうと鳴らすまいと寝ません。寝ない子どもを無理に寝かそうとしないでください。

チェック漏れがないよう、チェックする流れは決め、毎日同じとします。布団は整然と並べて敷きましょう。アタマジラミや体調不良で子どもの寝る位置は変わったとしても、布団が整然と並び、同じ流れ(向き)でチェックすれば、漏れは少なくなります。もちろん、体調が悪い子どもは先生の近くに寝かせ、横向きでもなんでもその子にとって楽な状態で、睡眠チェックの間隔以上にこまめに確認を。

敷き布団の間をすたすたと歩いているとつまずく危険があり、子どもの上に倒れる危険性もあります。「私は大丈夫」と思わず、四つん這い、または膝立ちで移動したほうがよいでしょう。このほうが子どもの口元もよく見え、耳や手を用いた呼吸確認も容易になります。

一人ひとりのチェック表を使っている場合、朝、または午睡前に必ず、「今日は休みの子」の欄にはっきり横線を入れておいてください。誤ってその欄にチェックを入れてしまわないためです。



部屋を暗くしない

 遮光カーテンを閉め、室内を真っ暗にしている園がまだあります。これでは、睡眠チェック時の「見る」ができませんし、先生たちの足元も危険です。その暗さのもとで連絡帳を書いていたら、先生たちの目も悪くなります! 子どもの表情が遠目からも見えるぐらいの明るさにしてください(カーテンをするなら、薄いカーテン1枚程度)。部屋が北向きだったりすると、カーテンをしていなくても薄暗く、顔が見えにくい場合もあります。「顔がしっかり見えるように」と、電気ランタンを持って睡眠チェックをしている園もあります。

 そして、午睡は「昼寝」であって、夜の睡眠の代わりではないという原則をお忘れなく。環境を夜のようにしてしまったら、子どもたちの脳はかん違いをしてしまいます。午睡はあくまでも体を休めるためのもの。脳と体の成長にとって必要なのは、夜、ぐっすり眠ることです。



うつぶせは、気づいたらあおむけに返す

 睡眠チェックを担当する人はチェックに専念し、合間にうつぶせ寝に気づいたらすぐあおむけに返します。次のチェック時まで待つ必要はありません。うつぶせになりつつある状態の時にあおむけにするほうが、先生も子どもも楽。「横向きだから、まだいいだろう」と思っていると、腕がだんだんからだの下になり、気づいたら、ほぼうつぶせ状態の横向き(手が体の下に入った状態)。この姿勢になると、あおむけに返すのが難しくなります。

 保護者の中には、「うちの子はうつぶせ寝のほうがよく寝るから、うつぶせ寝にしてください」という人もいます。その場合、厚生労働省のリーフレットを渡して「園ではあおむけにしています」と説明します。でも、ここで保護者を強く説得する必要はありません。その会話自体はあいまいにしたまま受けとめ、園ではあおむけに返せばよいのですから。「保護者がうつぶせでいいと言ったから、うつぶせにしていました」は、子どもが亡くなった時に通用しません。

 そして、たとえ保護者が家庭でうつぶせ寝にさせていたとしても、保育者が園であおむけにしていれば、2~3か月ぐらいするとあおむけで寝るようになります。これは長年にわたり、あおむけ寝を徹底しているいくつもの園で保育者がおっしゃることです(私も実際に見ています)。「この子はうつぶせ寝じゃないと寝ないから」とうつぶせ寝にさせておくから、いつまでたってもあおむけ寝にならないのです。園であおむけ寝の習慣をつけていけば、家庭における死亡予防につながるかもしれません。

 もちろん、春に入園して秋になっても、まだあおむけで寝ないという子どももいます。聞けば、こういったお子さんは「さわるだけで泣き出す」「ふとんにしがみついている」など、別のなにかがあるようです。そんな時には、睡眠中の様子をビデオに撮って、自治体の療育担当者等に見せてください。それでなにかにつながるとは思いませんが、少なくとも「私たちはこの子をうつぶせのままにはしておかなかった」という証拠にはなります。医師から「この子はうつぶせ寝に」という指示がある場合には、それに従ってください(内閣府の安全ガイドライン、「予防」の1ページ)。



子どもが泣く場合

 預け始めの子どもが泣くのは当然ですし、寝ないのも当然です。それを無理に寝かそうとして布団をかけたり、別の部屋に寝かせたり、押し入れに入れたり(※)すれば、当然、死亡の確率は上がります。「泣くのが当然」「寝なくてあたりまえ」という前提で、保育者側がお互いに声をかけあい(励ましとねぎらい)、落ち着いて対処してください。

 年度半ば以降の預け始めの場合、他の子どもが寝ている時に預け始めの子どもが泣き、他の子どもが起きてしまう心配もあります。泣くのを止めよう、寝かせようとして、上と同じようなことをしてしまう場合もありえますが、これも当然、死亡の確率が上がります。

 施設や敷地が大きければ、事務室でみる、別の部屋で遊ばせるといったこともできるでしょう。けれども、たとえばビル内の小さな施設では、事務室が保育室横の小さなスペースであったり、外に出られなかったりもします。これは保育の質という観点からも改善するべき点ですが、現状ではいかんともしがたい点です。「泣きやんでほしい」「寝てほしい」という感情がどうしても優先することを保育者がお互い理解したうえで、子どもの命と保育者の心と仕事を危機にさらす行動だけはとにかく避けるようにしていただきたいと思います。

 一方、泣くのは当然なのだから、泣かせておいてよい? それは違います。「○○ちゃん、泣いちゃったね。先生、他の子をみていて。○○ちゃんをおんぶしてちょっと事務室で用事をしてくるから」「はい、わかりました。おんぶすれば泣きやむものね、○○ちゃん」、こういった言葉を保育者同士でかけながら、おとなのストレスを下げながら、泣いている子どもが泣きやむようにしていく、ということです。

 おとなでも、あまり泣いていると血圧が上がって、頭が痛くなってきます。子どもも同じです。特に乳児は、まだまだ中枢の働きがしっかりしていないのですから…。子どもが泣き続けること、またはひんぱんに泣き続けていることで、血圧上昇、頭蓋内圧上昇、心拍・呼吸・体温の急激な変化、免疫力・消化力の低下、成長ホルモン分泌低下、無呼吸、心臓に対するプレッシャーとそれによる頻脈等が起こると言われています(Crying it outという方法に反対する科学者の意見を集めたサイトから。Crying it out とは「泣いている子は、泣かせておけば静かになって寝る」というものです。オーストラリアのサイトで、英国のMargot Sunderland医師が書いている情報です。)

※2011年4月7日に埼玉県川口市で起きた1歳児の死亡事例。2014年のニュースで「川口」と検索すると、事例と裁判のニュースが出てきます。



新入園児の預け始めはゼロ歳児と同じ

 睡眠中、0歳児クラスの子どもはあおむけ寝にし、うつぶせ寝はさせない。これはかなり徹底してきたと思います。問題は1歳、2歳クラスの新入園児。在園児と新入園児が混在するため、すでに1~2年過ごしている子どもたちと同じ感覚で新入園児をみてしまいがち。そして、「1歳クラスなのだから、自分で寝返りが打ててあたりまえ」とも。ですが…。

 2017年に出た研究結果(※)によると、2008~2012年に保育園で睡眠中に死亡した1・2歳児(これはクラスではなく年齢)の76.5%はうつぶせ、残りは不明で、明らかなあおむけはいませんでした(0歳児ではあおむけが11.8%、うつぶせが53.0%。横向きが2.9%)。1・2歳児であっても、「自分で上を向くだろう」ではないのです。また、0歳児の保育園における死亡発生率は全国の発生率の35~55%であるのに対し、1・2歳児の発生率は全国の発生率の1.25~2.45倍。1・2歳児は保育園の睡眠中で亡くなる確率が高いことがわかります。

 睡眠中の突然死が起こる背景には、なんらかの原因(脆弱性)があると考えられています(3-2)。それは横においても、1歳児、2歳児の預け始めはストレスが非常に大きいと誰にでもわかるはずです。もちろん、0歳児も保護者から離れればストレスを感じますし、脳の構造もまだ未発達で異常な状態になりやすい。さらに、1歳児、2歳児はアタッチメントも成立しているはず。ある日突然、知らない人たちの中に「おいていかれた」としたら? この急性ストレスはからだに直接、悪影響を及ぼします。

 精神的にも強いストレスにさらされ、からだの中でいろいろなバランスが崩れている時に、異常が発生しやすいうつぶせ寝にして寝かされたら? ですから、1)預け始めの子どもは寝ないのが当然と考え、むりに寝かさない(※※)、2)新入園児の預け始めは、1歳クラスでも2歳クラスでも(以上児クラスも)在園児と分けて保育者に近い側に寝かせ、0歳児クラスと同じ頻度で睡眠チェックをする。

 繰り返しますが、睡眠チェックは「生きているか死んでいるかチェック」や「呼吸チェック」ではありません。一人ひとりの子どもの「いつも」を、さわって聞いて見て学ぶ「健康チェック」です。0歳児や新入園児は「いつも」がわからない子どもたちですから、ていねいに一人ひとりの様子を学ぶ時間として役立ててください。

※「安全で安心な保育環境の構築に向けて」小保内他、日本小児科学会雑誌、第121巻第7号。
※※床面積基準には、子どもの人数に加えてホール等も必須として入れるべきです。ワンフロアの保育施設等では、「他の子どもが起きてしまう」という不安のために「子どもをむりにでも寝かそう」という行動が起こりやすいからです。



緊急時の訓練を。異動はもっと早く発表を!

 「0.緊急事態時の訓練用動画」「保育の安全シート」の2を使い、訓練をしてください。わざわざ計画をして、1時間も2時間もかけて訓練する必要はありません。保育室内、廊下、トイレの中など…、人形を置いて「〇〇ちゃんが息をしてない!」「〇〇ちゃんが動かない!」…、1回あたりほんの数分で終わります。訓練用動画のページに書いてありますが、こまめに何度でも訓練を。「ここなら、声を出せば部屋に聞こえるはず」…、実際にやってみないとわかりません。

 この訓練は3月のうちに、来年度のクラス担任ですることが不可欠です。「異動が月末にならないとわからない」…。4月1日に園長もクラスも「はじめまして」では、子どもの命は守れません。預け始めの時期がもっともリスクが高いのですから。公立でも民間でも保育者の異動を早く発表してください(遅くとも3月10日頃まで)。そして、次年度の園長、職員が集まって、せめてクラス単位で打ち合わせや訓練をしましょう。自治体、法人、企業はそのような時間を持てるよう保障し、保育者が積極的に取り組めるよう声をかけてください。子どもの命を守り、職員の心と仕事を守るためです。



睡眠チェック表の簡素化を

 2016年、大阪市淀川区で起きた睡眠中の死亡では、「本児に関する事故当日の午睡チェックの記載は、その都度チェックしたものではなく、119 番通報後、保育士の指示で、保育従事者が事後的にまとめて記載したものである」(検証報告書の15ページ)となっています。このような「後付け」(おそらくは嘘)のチェック表記載は、一人ひとりを記載、からだの向きまでいちいち記載するチェック表の場合、日常的に発生していると考えられます。人間は特に安全や健康に関して「めんどくさいこと」はしません。「悪いことが起きるはずはない」という楽観バイアスがもともとあるからです。

 自治体がチェック表を作っていない所は、自分たちで簡素化した表をお使いください。こまごましたチェック表を作ってしまった自治体は、簡素化してください(たとえば、このような形)。自治体にこの問題を提起して、簡素化を要求してください。「記録のための記録ではなく、実効性のあるもの」にしなければ、子どもの命は守れません。

 そして、睡眠チェック表をごちゃごちゃ書く手間を考えるぐらいなら、ぜひ、最低でも0歳と1歳の部屋にビデオカメラを設置してください。この点については、コミュニケーションのA-3の項目7や、内閣府のガイドラインのために掛札が書いた下書きに書いてあります。



睡眠モニターについて

 睡眠モニターは以前から欧米で家庭用に売られてきましたが、2014年、British Medical Journal(イギリス医学ジャーナル。非常に権威がある)の論説が「スマート睡眠モニター(センサー)は推奨せず」と書きました。全米小児科学会の作業委員会も2011年、同様の勧告を出しています。「医療機器としての承認を受けておらず、『SIDSを予防できる』とする宣伝には根拠がない」というのが理由です(以上、2016年に書いた内容)。2021年の段階でも、それぞれの製品には、「医療機器ではなく、SIDSを予防できるわけではない」と明記されています。

 日本も同様で、保護者向けに市販されている製品、園向けに販売されている製品いずれも「SIDS予防のためのものではない」と表示されています。ただし、日本の場合は注意が必要。「一般医療機器 クラス1」や「高度管理医療機器 クラス3」等とも表記されているからです。あたかも医療機器として「認められている」かのように見えますが…。

 「クラス1」は「不具合が生じた場合でも、人体へのリスクが極めて低いと考えられるもの」で、この中には家庭用絆創膏、注射針、メス、ピンセット等が含まれています。つまり、睡眠センサーに不具合があっても、それによって子どもに重大な傷害や疾患が起こるリスクはまずないというレベルなのです。なぜ? 服に付けたり、布団の下に敷いたりするだけですから。「不具合が起きて、子どもに異常が起きているのに作動せず、その子が亡くなってしまったら大変なのに!」…。ですから、「睡眠モニターはSIDS予防のための機器ではない」のです。

 「高度管理医療機器 クラス3」として承認されているモニターもありますが、このクラスは「人体へのリスクが高い」。ここに含まれるものは、コンタクトレンズ、人工骨等です。「クラス4」になって初めて「(不具合が)生命の危機に直結する」となり、ペースメーカー、人工呼吸器等が対象となりますけれども、もちろんここに睡眠モニターは入っていません。

 「医療機器」とは言っても、「それで命を守れる」というものではありません。突然死を予防するための機器ではないのですから、どれほどの正確さで異常を検出できるかというデータを出す義務もメーカーにはないことになります。偽陰性(子どもが動かない、生きていないのにアラームが鳴らない)を報告する義務はないのです。逆に、偽陽性(生きているのにアラームが鳴る)という事例は、購入者からの苦情という形で英語のネット・ショップにもたくさん掲載されていますが。 「使っていたのに亡くなってしまった」とメーカーを訴えることはそもそもできないという点をよくよくご理解ください。「あくまでも人間によるチェックが基本」です。

 睡眠モニターを「使わない」と決めた場合の保護者向け手紙のひな型は、こちら



参考資料リンク

▶保護者に渡す注意喚起の手紙
 掛札が委員長を拝命していた千葉県の死亡事故検証委員会で2018年3月9日、検証報告書(提言)を出しましたが、それに合わせ、「保育中のお子さまの健康を守るために」(保護者向け)と、「保育中の子どもたちの健康と命を守るために」(保育施設向け)を作りました。

▶健康情報等を収集・記録するための様式
 千葉県の検証委員会では、子どもの健康情報等を収集・記録するための様式も作りました。一時預かりのお子さんで、くわしい健康情報がわからない、聞けないという場合に使える「簡易版」も。健康状態の連絡に使う用紙はこちら

▶発生後の対応
 子どもの反応(意識、呼吸)がなく、搬送した後は、子どもが回復しない限り、「現場(現状)の保存」をしてください。千葉県の死亡事故検証委員会の「検証報告書」の提言3(2018年3月。33ページ)をお読みください。
(発生後の対応のため、内閣府のガイドライン「事故発生時の対応」と合わせて、書籍『保育現場の「深刻事故」対応ハンドブック』を園でご活用ください。

▶厚生労働省が出しているSIDS予防のためのページ
 厚生労働省のSIDS予防の啓発ページはこちら。一番下に、保護者啓発用のリーフレットやポスターもあります。このページの「よくある質問」に、「赤ちゃんが睡眠中に寝返りをして、うつぶせ寝の姿勢になった場合は、赤ちゃんを再びあおむけ寝の姿勢に戻す必要がありますか?」とあり、回答がされていますが、この回答はあくまでも家庭の話です(保護者は夜間、赤ちゃんの体位を変えることができませんので)。

▶内閣府の安全ガイドライン
 『教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン』の【事故防止のための取組み】施設・事業者向け、こちらの1ページに「医学的な理由で医師からうつぶせ寝をすすめられている場合以外は、 乳児の顔が見える仰向けに寝かせることが重要」と書かれています。