4-4. その他の危険な誤飲と誤嚥:磁石、水でふくらむ玩具、刺さるもの
(2015年以来加筆。2021/11/7に大幅加筆、11/24に「磁石」加筆)

誤飲:子どもの口に入るサイズの磁石は危険

 誤飲して危ないものというと、「ボタン電池」がよく挙げられます。体内に少しでもとどまってしまうとそこで電流が流れ始め、炎症が起き、穴が開いたりするからです。

 ボタン電池ほどは知られていないものの、非常に危険なのが磁石。保育室内では、子どもが飲み込むサイズの磁石は使わないでください。「外側を覆っているプラスチック等が大きければいい」ではありません。使われている磁石自体が子どもの飲み込むサイズであった場合、はずれた磁石を飲み込むと、子どもの命を危険にさらしかねないからです。ご存知の通り、掲示用の磁石は、落としたりすることで簡単に磁石がとれます。

 たとえば、ブラジルの医学雑誌に掲載された18か月児の症例では、日本でもよく見られるプラスチックの枠がついた磁石2つが、腸内の壁越しに付き、腸の瘻孔を起こしました(磁石が写っているレントゲン写真と、手術によって発見された腸の瘻孔の写真はこちらの英語論文に掲載されている写真をご覧ください。手術写真のようなものは見たくないという方もいらっしゃると思いますので、ご注意を。レントゲン写真のすぐ下に手術写真があります)。

 また、The New England Journal of Mediine誌に掲載された症例では、9歳児が23個の磁石を(下左写真)、その4日後に発達遅滞のある13歳児が15個の磁石を(下右写真)を飲み込み、同じイタリアの病院に入院、どちらも穿孔などで手術となりました(L.Avolio & G. Martucciello. NEJM, 2009; 360:2770)。この磁石は、棒状の磁石玩具とみられます(日本でも見たことがあります)。



 一方、欧州、米国、カナダ、オーストラリアでは、2012年夏から「成人用の希土類(強力)磁石玩具」(下写真)のリコールと注意喚起が進んでいます。日本ではいまだに、「マグネット・ボール」等の名前で類似の商品が販売されています(「知育玩具」と書かれているものすらあります!)。2023年6月19日から、このような「マグネットセット」の玩具は日本でも「原則的に製造・販売禁止」となりました



 この玩具は、子どもだけでなくおとなにとっても非常に危険です。下のレントゲン写真は、米国の消費者製品安全委員会(CPSC)の注意喚起サイトからコピーしたものです。子どもの体内で小さい磁石がつながっているのがご覧いただけます。輪状に見える症例では、37個の磁石が胃腸の中でつながっています。





 どちらの写真でも、磁石がただつながって見えるだけですが、上の、磁石が輪状に見える写真の3歳児(米国、オレゴン州)の場合、磁石が腸の壁越しにくっついてしまっており、胃に1か所、腸に3か所の穴があき、緊急の開腹手術が必要となりました。

 米国では、2009年6月から2011年10月の間に22件の事故報告(18か月~15歳)があり、うち11件は要手術例でした。「なぜ10代?」と不思議に思われる方もいらっしゃるかもしれません。この玩具は磁力が強いため、耳や唇などにピアスのかわりにつける子どもや若者もおり、それを間違って飲み込んでしまった事例のようです(次の段落、国民生活センターの報告書を見ると、指をはさんで磁石がついている写真があります)。

 日本ではようやく2017年に東京都が「磁石の安全な使用に関する調査」の結果を、そして2018年には国民生活センターが「強力な磁石のマグネットボールで誤飲事故が発生-幼児の消化管に穴があき、開腹手術により摘出」という記事を出しました。国民生活センターのページの一番下にある「報告書本文」(PDF)をクリックすると、事例の写真(レントゲン写真、手術中の写真等)も掲載されています。 (次の文は2023年2月5日加筆)マグネットボールを子どもが飲み込んだ事例は2017年以降で11件あり、消化管に穴が開いたものもあるそうです(消費者庁。2023年1月末の報道)

 一方、未就学施設できわめて小さな磁石を見ることも増えました。たとえば、下の写真のような、プラスチックの棒に小さな磁石を埋め込んだ(または接着した)マグネット・バーです。ホワイトボードなどに紙を掲示する時などに使われています。このタイプのものは、当然、磁石を埋めてある部分のプラスチックが薄く、下の写真のように簡単に割れます。ご覧の通り、プラスチックの表面に出ている磁石部分は非常に小さいのですが、中にある磁石は厚くなっています(そうしないと、磁石が簡単にとれてしまうからでしょう)。はずれた部分をよく見ましたが、接着してあるようでもなく、ものによっては、ただ、溝にはめてあるだけかもしれません。そうなると、割れなくても落ちる可能性があります。事務室でもどこでも、掲示などをとめる時は昔ながらの「棒全体がマグネット」をお勧めします。



(下の写真。どちらも別種のマグネット・バーから取れたものです)


 磁石でつなぐタイプの木製のトントンおままごとで、磁石がはずれたこともあります(どのように取れたのか、状況は不明)。これは3つに分かれるものの真ん中なので、写真のように木の裏と表に穴があいていて磁石がはめこんである形。表裏の磁石は中ではつながっていませんが、磁力がかなり強いので、はまっていればなかなか取れないようです。「はずれることはないのかなあ」とずっと思っていましたが、今回、取れることもあるとわかりました。片面に1つだけはめてある磁石なら、はめてあるだけですから、容易にはずれるでしょう。
(玩具を落とした時に磁石がとれたもの:右。もともとは左のようにはまっていた)


 2018年には米国で4歳児が、日本の保育園等でも見る「マグフォーマー」の中の磁石を13個飲み込み、大腸、小腸等の一部を切除する手術を受けたというニュース(英語。割れた写真は下)。プラスティックをわざわざ壊して13個も飲み込んだという事実に「見ていない親が悪い」というコメントが殺到しているようですが、1つや2つ壊れて中の磁石がはずれるということは十分あるのだということがわかりました。また、この玩具の廉価版の、もっと弱いつくりのものが割れ、プラスティックを子どもが口にした事例は日本の保育園でも起きています。



 誤飲ではありませんが、2017年の「ニュース」(11月11日)で、11歳児がボタン状の磁石を両方の鼻の穴に入れ、手術で取る事態になったケースを紹介しました(ギリシャ、キプロス)。放置すると、磁石が鼻中隔を圧迫し壊死する危険があるので、全身麻酔をし、家庭用の強力な磁石を鼻の外側に当てて磁石を引きはがすという手術に。成功したものの、鼻中隔は穴があき、軟骨を覆う粘膜がはがれて、添え木を10日間あてがうことになったそうです。粘膜が完全に元どおりに戻るまでに半年かかったとのこと。鼻のレントゲン写真はこちら(元の論文の冒頭、The New England Medical Journal, Oct, 26, 2017)。



 このようなことは乳幼児もしますし、11歳も「実験!」と思ってわざわざするでしょう。「私たちがみている子どもはそんなことしない!」と思わないことです。「この子たちもするかも…」です。鼻に入れられる磁石は、誤飲できるサイズの磁石の中でも小さいものでしょうから、誤飲の危険があるサイズ(もともとでも壊れてでも)の磁石を使わずにいれば、このような事例も防げるということになります。

 小さい磁石は、子どもにとってはとても不思議な宝物です。また、子どもの目から見ると、マグネット・ボールのような小さな磁石は、ケーキの飾りについている銀色にコーティングされた砂糖(アラザン)のようにも見えるでしょう。「おとなが使うためのものなのだから、子どもの手の届くところに置くほうが悪い」「リコールするようなことではない」…、そうかもしれません。でも、深刻な事例が起きていると知っていたら使わない人もいるでしょう。小さい子どもがいる友人(保護者)にこのような玩具をプレゼントするのを思いとどまる方もいらっしゃるかもしれません。友だちが喜ぶだろうと思ってあげたプレゼントで、その人のお子さんが傷害を負ってしまったら…? 「買う、買わない」「あげる、あげない」「使う、使わない」は個人の選択ですが、このような危害が起きていることを知っているかどうかは、私たちおとなが選択をする上で重要です。

 そして、日本の場合、このような情報が流れていないこと自体が大きな問題なのです。欧州共同体(EU)のリコール/輸入水際規制報告のサイトを見ていると、日本ではごく普通に売られている商品がたくさん、輸入禁止やリコールになっていることがわかります。食べ物の形をした浴用剤、芳香剤、磁石のついた飾り等々…、そして、日本の家庭の冷蔵庫にごくあたりまえに付いている「食べ物の形をしたマグネット」などは完全に輸入禁止です。すべて、「子どもが口にする可能性があるから」です(この内容については、こちらのページに置いてある『赤ちゃんとママ』連載第3回にも書きました)。


誤飲または誤嚥:水でふくらむ玩具

水でふくらむ玩具も上記のマグネット玩具同様、「吸水前の状態から50%を超えて膨潤しない」もの以外は、2023年6月19日から製造・販売禁止となりました。つまり、あまりふくらまないものは今後も販売されるということになりますが…。

 水に入れるとふくらむビーズ状の玩具、素材は吸水ポリマーです。元の固いビーズは、2ミリ程度の小さなものから数センチまで、いろいろな形があります。水に入れると、何倍にもふくらみます。ペットボトルなどの中に水と入れておくときれいなので、縁日などでも(ふくらんだものが)「ビーズすくい」のような形で売られているようです。

 未就学児施設でも、水の中にこれが入ったペットボトル(遊具として使われています)を見ます。園の場合は、遊具の消毒を毎日するでしょうし、その時にフタ(ビニールテープなどでとめられている)が取れそうになっていないか(4-3の最後の項参照)、ペットボトルが割れていないかなどをチェックしていると考えます。

 ここで起こりうる深刻な事態は、元の固いビーズを子どもが飲み込んだ場合です。当然、食道以降、消化器官の中で水分を吸ってふくらみ、閉塞などを起こす可能性があります。欧米ではこういった「水に入れるとふくらむ玩具(water expandable toy)」は、次々とリコールになっています。下の写真の製品は、米国等でリコールになった玩具ですが、8か月のお子さんが元のボール(アメぐらいの大きさ)を飲み込み、それが小腸でふくらんだため、手術をして取り出したという例です。ポリマーですから、レントゲン写真を撮っても発見できません。




 上写真説明:元はアメの大きさ。水で400倍にふくらみ、腸閉塞を起こした(米国でリコールになった玩具)。日本では同じタイプのものがまだ売られています。

 とても小さなサイズであっても、子どもが元のビーズをいくつも一度に飲み込んだら…? 使うのであれば、くれぐれも元のビーズを子どもの手が届くところに置かないよう徹底してください(製品の注意書きにもそのように明記されています)。また、「安いから」と保護者や子どものおみやげにすることも避けた方がいいでしょう。良かれと思って渡したもので、自宅で深刻事故が起こりかねないわけですから。

(この段落は2019年に加筆したもの)水でふくらむ玩具の新しいタイプ。カプセル入りスポンジ玩具について注意喚起が出ています(国民生活センター)。カプセルは長辺22~24mm×短辺7~8mm程度、ふくらんだ時のスポンジは形状にもよりますが、縦32~33mm×横42mm×厚さ6~8mm程度。この事例は「入浴中、保護者の知らない間に当該玩具が4歳女児の腟に入り、不調が続いたものの医療機関で原因の特定に約4か月、当該玩具の摘出までに更に約1か月と時間を要した」。注意喚起をこのままカラー印刷して貼りだしてください。「子どものポケットやカバンに入っていないかどうか確認しましょう」とも書き加えて。園に落ちていたら? 飲み込むなどして大変なことにもなりかねません。






誤飲または誤嚥して刺さるもの

 4-1に紹介した魚の骨だけでなく、刺さるものは誤嚥であれ誤飲であれ危険です。ホチキスの針、クギ等…。こちらの論文(日本語)に載っているのは、長さ6センチのつまようじをおとなが飲み込んでしまい、それが小腸あたりにとどまってまわりに腫瘤をつくってしまった事例です(写真あり)。また、こちらのレビュー論文(英語)には、消化管のどこかに刺さっている安全ピンと、小腸に刺さっていた鶏の骨の写真が掲載されています。

 つまようじが刺さった事例の論文の最初に書いてある通り、「誤飲した異物は多くの場合、問題なく自然と排泄され、わずか1%未満の症例に消化管穿孔が起こるにすぎない」のです。つまり、ボタン電池や磁石、刺さるようなものでない限り、そして、途中でふくらんで詰まってしまうようなものでない限り、誤飲(誤嚥じゃありませんよ!)したものはほぼ間違いなく体内に排泄されるのです。まずはその点を理解した上で、「誤飲したら危険なもの」を子どもがいる環境からなくすこと。誤嚥予防に比べればずっと容易です。