8-1. 気象災害、地震:特に休園判断について
(2018/9/7と2019/11/9。2021/5/21に整理して大幅改訂。6/27加筆)
この内容は、「絶対開所!」という自治体を変えるためにもお使いください。



極端な気象事象は増えていく

 日本で極端な熱波が初めて観測されたのは2018年ですが、今後、「極端な気象事象(extreme weather)」は増えこそすれ、減ることはありません。なぜなら、地球上の気候および気象をそれなりに安定させてきた海洋環境、森林環境、極地の氷、大気がどんどん減少/不安定になっているからです。

 NASA(アメリカ航空宇宙局)が作ったわかりやすい動画をご覧ください。画像の右上端に位置するのが日本です。中央に年(1880年~2020年)が出ます。白が起点年(1880年)と同じ平均気温、青が「起点より2度以内低かった年」、赤が「起点より2度以内高かった年」です。動画をスタートさせます。日本のあたりだけでなく、地球上すべてでどんどん赤が増えていきます。いわゆる「気候変動 climate change」です(※)。

 この現象は、ただ地球が暑くなっているだけではありません、気象(雨、雪、気温等)も極端になってきているのです。梅雨のはずが豪雨、巨大で速度の遅い台風、従来とは異なる台風進路、そして、熱波(heat wave。暑い日が数日続き、おさまり、波のように起こるため)、夕立ではなくゲリラ豪雨、豪雪、急な融雪による土砂雪崩…。単純に寒いか暑いかではなく、気象が不安定になり、予測が難しくなっているのが現状。このまま気候変動が続けば、よりいっそうそのようになっていくのが「これから」です(※※)。そして、最低気温の上昇に伴い、たとえば蚊媒介の感染症が増加する可能性(環境省)もあります。

※「1880年に比べてたったの2度?」と思う方もおいでと思いますが、産業革命以前の地球上の平均気温に比べると、今の平均気温は「たったの1度」しか高くないのです。けれども、この1度が極地や高地の氷を溶かし、海水の酸性化を進め、植生を変え、日本の気候を温帯から亜熱帯的に変え、気象を不安定にするには十分なのです。2019年3月の国連総会のセッションで、気候変動の専門家は「後戻りできない状況になるのを止めるまでに、あと11年しかない」と警告しています。


「自分の園」の判断基準を事前に決めておく

 気象事象が極端になっていくのであれば、また、地震のような災害のリスクを考えるのであれば、未就学児施設はまず第一に、自分たちの判断基準を明確に決めておくことが必須です。熱波、豪雨、台風、地震、豪雪…、リーダー層の判断が毎回コロコロ変わるのでは職員も保護者も不安になります。冷静な判断をできずに避難等の対応が遅れれば、人命を失う可能性すらあります。ですから、それぞれの事象について、「私たちの園ではこういう時にこうする」という判断基準を事前に決めておく必要があります。

 ここで重要なことは、同じ自治体内、法人内、企業内の園であっても、判断基準は園ごとに決めるという点です。園の立地、建物条件等によってリスクは変わるからです。漫然と避難訓練を続けていても、判断基準が具体的でなければ訓練には意味がありません。


判断基準を決めておく:熱波の場合

 たとえば…、1)至近の観測地点の数値(暑さ指数/WGBT)を判断基準に使うか、自園の子どもが活動する場所で計った数値(暑さ指数または気温)を使うか。その上で、2)何時のどの数値の時に「外遊び(プール、水活動を含む)をやめる」と判断するか、どの数値の時に「何分間、どこで、どのような外遊びをするか」を決める。もちろん、子どもの年齢、その日その時の子どもの状態も勘案すべきです。詳細はこちら(8-2)。判断基準の例も置いてあります。


判断基準を決めておく:大雨とそれに起因する事象の場合

▶事前の決定:そのハザードマップは本当に新しいものか?

 洪水、土砂崩れ、地滑り、鉄砲水、高潮等に関しては、まず、地域のハザードマップを用います(例:国土交通省の「重ねるハザードマップ」と「わがまちハザードマップ」、中央開発株式会社の「地盤情報ナビ」)。自園のエリアには、どのハザードがどの程度の深刻さで存在するのかという情報です。もうひとつ、ハザードマップとあわせるべき情報が、自治体の作る「避難準備/勧告/指示」の基準です。これも場所の条件によって異なりますから、ハザードマップとあわせて判断材料にします。

 ただし! まずは自分の自治体でハザードマップが改訂されているかを確認してください。ハザードマップはもともと、「50~100年に一度の大雨」を想定して作られていたそうです。けれども、2015年に水防法が改正され、「1000年に一度の、想定しうる最大規模の降雨」を想定するよう定められたのだそう。2020年、日経新聞が東京23区と道府県庁所在市、政令市の計74市区を対象にハザードマップの見直しの進捗を調べたところ、「改定済みは44市区で、残り30市区は改定が終わっていなかった。うち9自治体では域内の対象河川全てで作業が完了せず、旧基準のものを使い続けている」(2020年7月27日)
・想定区域の指定は市区町村に任されているため、予算や人手上、改訂が進まない。
・改訂されたとしても、住民向けのマップが更新されるかは別の話。
・マップが更新されたとしても、周知が進むかは別の話。

 つまり、皆さんの手元にあるハザードマップが「令和2年」となっていても、中身が水防法改正に沿って改定されているかどうかは別の話だということです。国が管理する448河川はすべて、新たな浸水想定地域の指定が済んでいるようですが、その情報は手元のハザードマップに反映されているでしょうか? 日経の調べでは(2019年3月)、ハザードマップが最新版だった市区町村は全体の33%にとどまっていたそうです。一方、兵庫県のように県が管理する河川の指定を終え、ウェブサイトで公表している自治体もあります。同県の場合、「50~100年に1度の降雨」を「1000年に1度」の想定にした結果、これまでは「浸水しない」とされていた12水系で浸水が発生し、浸水面積は最大でこれまでの150倍以上に拡大しています。

▶事前の決定:「水が出る」リスク

 もうひとつ重要な点があります。従来のハザードマップに載っているのは、河川の氾濫等による洪水のハザードだけで、集中豪雨、長雨、短時間豪雨によって起こる、いわゆる「水が出る」リスクはハザードマップに載っていないようなのです。「水が出る」のは、主にかつて田んぼや沼地だった所が宅地になった地域で、これは古地図を見たり、その土地に長く住んでいる人に聞いたりすればわかります(あるいは、現在や以前の地名からもわかります)。自治体は地価の下落を恐れて、この種の情報を積極的に出さないと思いますが、保育施設を造るのであれば絶対に必要な情報です。施設を造る契約をする前に、必ず確認してください。すでに自園の建っている地域が「水の出る場所」かどうかを知らないのであれば、今からでも確認するべきです(土嚢を買っておくなどの対応はできます)。

 田んぼがどんどん宅地化されている地域では、特に注意が必要です。田んぼ自体が貯水機能ですので、「水が出る」ことを防いでくれます。それがなくなり、なおかつ、田んぼだったということは水がしみこみにくい土壌ですので、田んぼがあった時よりも「水が出やすく」なります。さらに今後、集中豪雨、長雨、短時間豪雨は増えるでしょうから、「水が出る」ことによる被害は増えると予測されます。これまでは水が出なかった地域でも、田んぼがなくなったことで浸水が起きる可能性もあります。

 内水氾濫という言葉で、東京都防災(ツイッター)がこのように解説(6月27日)。


 もうひとつ、園が立っている場所の地盤を調べる方法(7月4日)。国土地理院の地理院地図を開き、左上にある小さい「地図」というアイコンをクリック。左側にウインドウが開くので、そこから「土地の成り立ち・土地利用」→「土地条件図」→「数値地図25000」。自分の場所を拡大してご覧ください。色等の凡例は、「数値地図25000」の右にある丸囲みのアイコンをクリック。たとえば、これで東京の中心を見ると、山手線の東側が低い人工地形であることがわかります。

▶事前の決定:まとめ

 こうした情報をあわせ、1)自園では、どの段階で保護者にお迎えの連絡を始めるか、2)自園では、どの段階で次の日の休園を決めるか、3)自園ではどの段階で避難を始めるか(「高齢者等避難」※の段階が適切だと私は考えます)等の基準を明確に決めておきます。豪雨等で突然、浸水が起きた場合には、衛生・安全両面の確認が必要ですから、園と自治体が保護者にその旨を伝えて家庭保育を要請し、どうしても預ける必要がある場合には、他の園で数日間預かれるように事前の調整をしておきます。もちろん、一時的に預かった園では床面積基準や配置基準が割れる可能性があります。でも、衛生・安全上の問題があり得、職員も後片付けに手をとられている施設で預かる危険性を考えれば、自治体も柔軟な判断をするべきです。

▶大雨、洪水や土砂崩れの危険…、その場の決定

 気象庁のキキクル(土砂災害、水害マップ)、ナウキャスト(降水量、雷雨等マップ)、指定河川洪水予報。以下は国立情報学研究所の情報まとめサイトで、指定河川洪水予報のリアルタイム更新と過去歴。特別警報、警報、注意報を地図化したもの(気象警報最新マップ)土砂災害警報マップ(2021年6月17日、7月12日加筆)

 まず重要なのは、ニュースで「例年以上の降水量」「1日で1か月分の降雨」「記録的な長雨」という言葉が使われている状況下では、河川氾濫、浸水や土砂崩れ、地滑りがこれまで起きなかった地域でも起こりうるという点です。あくまでも目安のようですが、土壌雨量指数というものもあるようです。気象庁が出しているデータのページが見つからないので、国際気象海洋株式会社のページ

 潮汐・潮見カレンダーは地域によって異なりますが、実際の数字以外に「大潮」という記載が明確にあるもの(たとえばこちら)が予測には使いやすいと思います。実測潮位等は、海上保安庁や気象庁が出している各地域の「潮位観測情報」を随時見てください。河川の増水等は、観測地点(国土交通省)がありますが、園の近くでは値が異なる場合もあるでしょう。

 東京都は水防災総合情報システムを公開しており、2021年6月1日からは主要河川の映像をYouTubeで配信する「水防チャンネル」を開始しました。 河川の様子を見に行くというのはきわめて危険な行動ですから、こうした動画を見られるということはとても大事です。(2021年6月3日加筆)

 一方、災害時の情報発信にも問題があることが、2019年の台風19号の時、明らかになりました。茨城県内の河川では氾濫発生情報(警戒レベル5)が国交省から出なかったのです。この台風では、県内の那珂川、久慈川の計20地点で越水、溢水、堤防の決壊が発生、同事務所は把握していたのですが、那珂川についてはまったく情報を出さず、久慈川では決壊した1地点で情報を出しませんでした。また、国交省所管の常陸河川国道事務所(茨城)では、他の3河川についても警戒レベル4相当の水位情報を出さず、結果的に住民の避難行動に影響した可能性もあるとされています。茨城県外でも、氾濫発生情報が出た2河川(吉田川、千曲川)、氾濫危険情報が出た6河川で住民向けの緊急速報メールが配信できていなかったことが確認されています。

 情報が発信されなかった原因として考えられているのは、情報を出すシステムが河川事務所と気象台の「二重行政」になっており、発表には両者の決裁が必要な点です。また、緊急速報メールの配信は、河川事務所の上級庁となる地方整備局の決裁が必要なるなど、手続きが複雑なのだそうです。特に台風19号の場合、担当事務所内で生じた氾濫発生数が20か所と多く、「相当な混乱が生じた」結果、情報を発信できなかったと考えられているようです(NHK、2019年10月18日)国や自治体が出す情報を待っていると手遅れになる危険性があります。

 問題はまだあります。現在、雨量予測に基づく「大雨特別警報」はありますが、河川の水位予測に特化した「洪水特別警報」はありません。災害がすでに発生している可能性が高い「警戒レベル5」相当の情報は、洪水の発生を直接確認しないと出ない「氾濫発生情報」しかないのです。「洪水の発生を直接確認」ということは、すでに被害が発生しているわけで…。それも、氾濫発生情報は、氾濫の発生を確認した地点ごとに発表しなければならないそうなので、現実には意味のない情報だということになります(指定河川洪水予報は、水位上昇に応じて「氾濫注意情報」「氾濫警戒情報」「氾濫危険情報」「氾濫発生情報」の順)。

 こうした問題から学ぶべきは、「ハザードマップに載っていないのだから大丈夫」「自治体から情報が出ていないのだから大丈夫」と考えることの危険性です。降雨情報や河川情報はネット上で逐次更新されますから、そうした情報をもとに園は早め早めの判断を下す必要があります。「警戒レベル5」の状態で避難するのは、園の場合、かなり困難です。

※2021年5月20日、従来の「避難勧告」は廃止され、「避難指示」に一本化されました(内閣府と消防庁のチラシはこちらこちら)。避難に時間のかかる高齢者等は「避難指示」の前の「高齢者等避難」で避難するよう書かれています。(2021年6月3日掲載)


判断基準を決めておく:地震とそれに起因する事象の場合

 地震はまた特別です。地震自体、いつ、どこで、どの大きさで起こるかがまったくわかりません。そして、地震に伴う津波、地滑り、倒壊等も予測が困難です。また、雨関連の事象では「もう雨雲はないから…」という終息の判断ができますが、地震の場合は、「これで終わり」という判断ができません。最初の大きな地震が「本震」と考えられがちですが、そうとは限らないのです。最初の大きな地震があくまでも前震で、その後により大きな地震が来る可能性もあり、一連の地震を引き金に別の震源から大きな地震が発生する可能性もあります。

 たとえば、インドネシアのロンボク島周辺では、2018年7月29日のM6.4(前震)以降、M6.9(8月5日、本震)、M5.9(8月9日、余震)、M6.3(8月19日、余震)、M6.9(8月19日、別の震源)と大きな地震が続いています。カッコの中に前震、本震、余震と書きましたが(元はこちら参照)、それはあくまで結果論。このような規模の地震が起きている最中に、「後は余震だ」「大きい地震はもう起きない」と考えることはできませんし、安心することは危険です。

 ですから、大きな地震が起きた後は、(それがニュースで「本震」と呼ばれようとなんと呼ばれようと)「まだ大きい揺れがあるかもしれない」という前提で最低数日間を過ごす必要があります(気象庁が言う通りです)。いつ、「後は余震で、どんどん少なくなるはず。だから、明日は開所しよう」と判断するか、これは難しい課題です。

 とはいえ、明確に決めておくべき判断点はあります。
・施設内にとどまるのか、避難所に行くのか。その判断基準。
・津波の影響を受ける地域の避難経路、避難方法。
・保護者等との連絡方法(特に、電話ネット回線がつながらない、電池切れ等の対策)。
・散歩や園外保育で施設外にいる時の対応方法(前提は、経路を明確に決め、工事等の危険要因がない限り絶対に経路を変えないこと。そこから、どこに避難するか、ケガが起きた時にはどうするかなどの対応)。


判断の基本:「2つのリスク」を天秤にかける

 人間には、どんなリスクも実際より軽視し、「たいしたことはないはず」と考える認知バイアス(正常性バイアス、Normacy bias)があります。加えて、園には「『警報が出たからお迎えに来て』『明日は休園(休務)します』と言ったら、保護者がいやな顔をすると思う」「保護者の便宜を考えたら、開所したい」「『休園します』と言ったら、自治体に怒られる」といった、目先の否定的なできごとを避けたいという感情もあるでしょう。

 でも、ここで2つのリスクを天秤にかけてください。

A. 開所して災害が発生し、子どもや職員(場合によっては保護者も)の命を失うリスク

B. 朝からであれ途中からであれ休園したが、雨は予想ほど降らず、大きな地震もなく、保護者から「開けていたらよかったのに」と言われ、自治体から「なぜ休園した」と言われるリスク

 あなたの園はどちらのリスクをとりますか? 当然のことですが、休園すれば建物等に損害は起きても人に損害は起きませんから、「大丈夫だったのに」という感情は起こるでしょう。でも、それは「休園したから大丈夫だっただけ」なのです。ところが、人間はこれを「休園しなくても大丈夫だったのかも」にすりかえてしまいがちですが…。そして、人間は発生確率が低く、そもそも「大丈夫」と思いやすいAのリスクよりも、目先にあるBのリスクを避けようとしがちです。Bのリスクが本当にあるかどうかは、実際、休園してみなければわかりません。でも、保護者の「苦情」や自治体の「叱責」は、園にとって容易に予測される目先の恐怖ですから、これが休園を決める足かせになりかねないわけです。


自治体:最終的には「園の判断」

 熱波対応について言えば、暑さ指数が31度以上(「危険」)でない限り、自治体は具体的な指示を出さないでしょう。暑さ指数が観測地点で31度以上であっても、「園の判断」と言うのではないでしょうか。自治体にしてみれば、「熱中症による深刻な事態が起きたら園の責任だ」と言えるからです。また、これは屋外活動をするかどうかの判断であり、開所・休園という話ではありません。

 一方、気象事象(大雨等)に関してや地震に関しては、自治体は従来、「常に開所」と言ってきました。保育園やこども園の機能を考えれば、それが当然だということなのでしょう。園にしてみれば、自治体が「開所」と言っているのだから、開所すれば自治体が責任をとってくれると考えるのかもしれません。

 けれども、自治体が出す通達等をよく読んでください。そこにはたいてい小さい字で「子どもの安全を考えて臨機応変に」「最終的な判断は園で」といった言葉があります。この言葉ナシで、ただ「開所」と言っている文書があるなら、それは自治体の担当部署に「これは自治体の責任で『開所しなさい』と言っているのですね」とお尋ねになるべきです(そう聞けば、「いえ、最後は園の判断です」と答えるはずです)。そして、ここで「園の判断で」「臨機応変に」となれば、つまり開所するのか、休園(休務)するのかは、最終的には園の判断に任される(=なにかあったら園の責任)ということなのです。

▶2018年:札幌市と京都市の例

 2018年9月6日未明に起きた北海道の大地震では、札幌市がこのように発表しています。
「本日9月6日、市立保育園はライフラインが停止しているため、飲食の提供ができないことが想定されます。できる限り登園を控えていただくよう協力をお願いしておりますが、やむを得ず保育が必要な場合はお預かりいたします。市立保育園以外の認可保育園と認可外保育園における本日のお預かりにつきましては、各園の判断となります。お手数ですが、各園にご確認をお願いいたします。」

 また、9月4日の台風21号の場合、京都市は3日午後の時点で、4日朝6時時点の警報の有無にかかわらず、保育園も休園をしたほうがよいという旨の通知を出しました。

 もちろん、保護者の仕事が災害対応関係であるなどの理由で保育を必要とする子どもはいますから、京都市の場合であれば、職員がまったく出勤しなかったわけではありません。開所した園もありますし、休園と伝えた園でも登園・保育となった子どもがいます(札幌も、ツイッターで見る限り同様です※)。ここで重要なのは、結果として表向き「開所」したのか「休園」したのか、保育をしたのかではなく、災害のリスクが高い時は自治体も「園の判断で休園」と表明すること、です。一方、自治体が「断固、開所」と言うのであれば、自治体の責任を明示すること。自治体が責任を明示しないのであれば、個々の園が自分たちの判断基準を明確に宣言し、自分たちは安全を優先させると表明することです(保育所が災害避難所になっている場合等は、また別の話です)。

 自治体が「休園すべき」「園の判断で休園してよい」と言うべき理由には、保育所に関わる状況の変化もあります。現状では、特に都市部を中心として、保護者の利益を最優先させ、リスクすら無視して開所するという園もあるからです。子どもや職員の安全を危険にさらし、当然、園としての社会的責任のリスクも負いかねない園がある以上、自治体も「開所」とばかり言うのではなく、せめて大きな字で「休園は園の判断」と書くべきです。

(※休園した場合、自治体には「なぜ休園?」という保護者の声が届くはずです。一方、「休園でよかった」という保護者の声は自治体に届きません。その時に役立つのが、ツイッターのような媒体に載っている声です。ツイッターの内容は、すでに社会現象の分析研究にも使われています。)

▶2018年、京都市および周辺の保護者の反応(5月24日に足しました)

 京都市の場合、台風が直撃するであろう日の前日、それも4時ぐらいという、まだ大半の保護者が職場にいる時間に市が「明日は(警報の有無にかかわらず)保育園も休み」と決め、大部分の園がそれをすぐ保護者に伝えたため、その後の京都市の調査でも混乱はほぼ報告されませんでした。わかって登園した保護者はいましたが、それは想定内。施設の被害リスクも高かったため、施設長や近隣に住む保育士は出勤しており、預かることに問題はなかったようです。つまり、保護者が職場にいて、その場で「明日は保育園、休みです!」と宣言できたことが功を奏したのです。

 さらに、前日から台風当日にかけて「京都市 保育園」でツイッターを検索してみたところ、「保育園が休みだから、明日は仕事も休み!」「家族で一緒にいられるから安心」といった内容が複数ありました。もちろん、「(休園だと)仕事に行けなくて困る」という内容はありましたが、全体的には、休園が前日の午後に決まったことに対して肯定的でした(検索にかかった全ツイートを見た結果)。一方、「保育園 台風」「保育園 休園」で検索して、他の地域はどうかを見たところ、「警報が出るなら、朝早く出てくれないと(=休園が決まらないと)どうするかが決まらなくて困る」「朝あずけて、暴風雨になってから迎えに行くのは大変/怖い」といった内容が多数ありました。「京都市がうらやましい」という保護者のツイートさえありました。

▶大川小学校の例から学ぶ

 2019年10月11日、重要な最高裁判決が出ました。東日本大震災時の大川小学校(石巻市)の人的被害について、市と宮城県の責任が確定したのです。「市のハザードマップにおいて大川小学校は津波の浸水想定区域外だったが、検討していれば被害は想定できていたはず」「災害時のマニュアルが不備、不十分」との判断です。

 発生時点では確かに想定外だったのかもしれません。けれども、東日本大震災が起き、その後にさまざまな災害(暑熱災害も)が起き、「想定外だった」で自治体や保育・教育施設が責任を逃れられる範囲はどんどん狭くなっています。災害を大きくしかねない「開所しなさい」というメッセージを園や地域に発信することは、自治体にとっても園にとっても社会的責任の大きなリスクになるという点を考えるべきです。

 「そうか、自治体の責任が問われたのか。じゃあ、自治体に決めてもらわねば」、公立保育園はそうかもしれません(公立の施設長は自分の自治体に確認してください)。でも、私立園は違います。私立園は園の責任になります。「想定外」だった東日本大震災の津波ですら、県の責任が問われているのです。より想定のしやすい降雨関連の被害については、ほぼ間違いなく園の責任を問われるでしょう。

 ですから、(私立園だけでも)自治体には「開所せよ」と言う権限はないという点を認めさせる必要があります。「自治体が『開所せよ』と言って人的被害が起きたら、大川小学校と同じことになります。あなたたち、自治体の責任ですよ」、それだけのことです。今、自園の裏で増水しつつある川を見ているのは、先生たちです。役所で(時代遅れの)ハザードマップを眺めて、受話器越しに「まだ大丈夫」と言っている人たちではありません。そして園、園を支援する法人や企業の側には、確実に子どもと職員の命を守るための想定力(下記)が重要になります。

▶2019年:合理的な判断基準を出した自治体も

 2018年を受けて京都市が出した『災害時における所管施設の対応方針』(2019年11月)では、各施設についてかなり詳細な対応方針を示した上で、「災害時においては、臨機応変に判断・対応することが常に求められるため、最新の情報の収集に努めることとし、災害の規模、態様、発生時刻、被害内容や範囲、見通しの有無等によっては、対応方針とは異なる、臨時的な対応を行うこともあり得る」(17ページ)と書いています。

 また、2018年に深刻な水害を受けた岡山県倉敷市が2019年に出したマニュアルのように、簡単かつ合理的な判断基準(園は子どもの集団ですから、実際には「避難準備」が出そうだという段階で避難の準備をするべき)を示した上で、「あとは施設が決めてください」とする自治体も増えてきているようです。

▶2019年:開所を強要したと言われる自治体も

 一方、浸水被害を受けかねない自治体が、台風19号が近づくなか、「職員を全員出勤させろ。あとで出勤簿を提出しろ」と言ったという話も聞きました(嘘だと思いたいですが)。同様の地域で「開所しろ。(人的)被害が出たら自治体が責任をとる」と言ったという話も聞きました(嘘だと思いたいですが)。

 こうした対応をとって人的被害が出たら、本来、すべて自治体の責任なのです。自治体にこういった理不尽かつ危険な指示をされ、指示に従わざるを得ないと思って行動するのであれば、必ず、次のことを実行してください。その時のコミュニケーション内容をすべて記録する(日時、どのような会話の中で誰が何と言ったのか)。そして、水害で流されない場所にその記録を置いておく(会話をした本人が亡くなってしまうリスクも考え、メモを複数人にメール送信しておくのが一番確実)。自治体の誰かが指示を出したという証拠を残しておかなかったら、「園が勝手に開所した」と言われかねません。

▶自治体の「休園」宣言は合理的?:拠点園で安全に保育を

 さて、2019年の世田谷区のように、自治体が「保育園を休園する」と通知を出すのは一見よいことのように見えますが、警察、消防、自衛隊、水道、電気等の職業に就いている保護者は困ってしまいます。かといって、「うちには1人、該当の保護者がいるから」と、災害の危険がある場所で開所するのも理にかないません。どうするか。各地の園長先生方と話してきた結果、年末年始保育同様、「拠点園」を自治体内で決めておき、申し込み制で預かる方法が一番良いと考えました。

 公立園がある自治体は、公立園が拠点園になります(税金で直接、運営しているのですから当然です)。もちろん、災害被害を受けにくい園を拠点園にします。職員は? その園の職員が遠くから出勤するのは危険です。保育者は拠点園の近くに住む人なら誰でも可。「うちは小さい子がいないから」「歩いて10分だから」といった保育者さんたちが事前に登録しておき、「全体は休園。拠点園で申し込み保育」となったら、自主的に拠点園へ行けばいいのです。これくらいのことで「日給を払え」と言うほど、心の狭い人はいないと思いますが…。これが「柔軟性」です。


園、子ども、職員を守る:事例から

▶災害後の停電や断水。携帯やネットの不通

 台風一過や大雪後の青空のもとでも停電や断水が続くケースは多々あります(地震後も)。ですから、「台風は過ぎたのだから通常通りの保育」はありえません。台風が来る前、あるいは大雨や大雪だという時には、「停電や断水のもとで、通常の保育を行うことはできません」と保護者に(できる限り早めに)伝えます。

 特に、台風の次の日は暑い場合が多いのです。そのなか、子どもや職員に熱中症が起きたら? 園の責任です。できないことははっきり「できません」と言いましょう。できないことを「できる」と思いこんで頑張るのは、この文化の過去の歴史の中では美しかったのかもしれませんが、今は違います。できないことで無理をして、できないことを「できない」と言わずにいて、そして被害が出たら、園の責任なのです。自治体に「通常通り開所しろ」と言われたら? 「『通常の保育は無理です』と保護者には伝えました。おいでになったお子さんたちは全力で預かりますが、命の保障を100%できると断言はできません」と毅然と伝えてください。

 2019年の台風では、停電と断水に加え、携帯/スマホもまったく使えなくなった地域がありました。「家の中が雨漏りや割れたガラス等で大変なので、片付ける間、子どもを預かってほしい」という要請が保育園にあったそうです。園が危険でないならば預かってよいと思いますが、この場合は、「おわかりの通り、こちらからもそちらからも連絡は取れません。何かあっても連絡はできません。それをご了解いただければ、お預りします。△時に必ずお迎えに来てください」とはっきり言いましょう。

 また別の事例では、停電で下水ポンプが動かなくなり、数日間、開所した後に、衛生上、園を開けておくことができなくなったケースもありました。この場合は、自治体から「衛生を確保できないので、やむをえず休園にします」という連絡が保護者に発信されました。子どもの安全、衛生を考えれば、「無理です」と言わざるをえない状況はあるということになります。「とにかく頑張って預ります」では、子どもの安全も健康も守れないのです。

▶未就学児施設が「自主避難所」をおしつけられるケース

 台風や水害想定時、近隣の住民が未就学児施設に「自主的に」避難してくるケースがあります。特に2階建て以上のコンクリートの建物だと、周囲の平屋からは安全に見えるのかもしれません。けれども、被害想定地域内の場合、この「自主避難」には意味がありません。また、地域の高齢者が避難してくる場合、各種の医療機器や薬を持っていらっしゃることもあります。ですから、避難所に指定されていない施設の場合には、自治体に確認してください。そして、よほどのことがない限り、「この施設は避難所に指定されていませんので、ここに避難なさって問題が発生した場合、責任をとることはできません」と地域に伝えておくべきです。

 2019年の台風19号の場合、関東南部で最も風雨がひどかったのは土曜日の午後から深夜にかけてでした。そのため、園児はいない状態で、地域住民の「自主避難所」になった保育園がありました。「自主避難」とはいえ、施設長や残った職員は住民のケアをしなければなりません。同じことが、園児のいる平日の昼間に起きたら? …そう想定するなら、まずは上のように「この施設は避難所ではない」と地域に伝えておく。保護者には早めに「~ですから登園をお控えになるようお勧めします」と伝えて、登園園児数を減らしておく(8-3)。そして、危険になってきたと思ったら、園自体が地域の先陣を切って(「避難準備」またはそれ以前)に、指定された避難所に避難する。鍵がかかった園には、地域住民も入れません。なにより、風雨がひどくなってから子ども連れで避難するのは、きわめて困難なのです。

 「避難準備になったから避難しようとしたが、『避難所の準備ができていないから、まだ来ないで』と言われた」事例もありました。この場合は、いつでも避難できるように準備をしておき、玄関にも「園は避難します」と貼り紙をしておきましょう。

▶職員の命を守る

 2019年10月12日、台風19号で避難所の開設作業をしていた福島県南相馬市の職員が、翌日の仕事のため、帰宅指示を受けて帰宅する途中の深夜0時半以降、川の増水に巻き込まれて亡くなりました(「車が水没し、脱出した」という電話が最後)。この事故で、市が設置した第三者委員会は2020年6月8日、調査報告書を市に答申しました。この時は大雨特別警報が出ており、委員会は「夜間は仮眠室で待機させるなどの選択肢を市は検討すべきだった」「警報の解除前の移動は危険性があり、慎重な判断をすることが望ましい」と指摘しました。これからは、未就学児施設でも当然、職員の命が奪われるリスクを明確に意識し、予防することが不可欠になります。(この件の詳細は『政経東北』2019年8月14日の記事

 余談ですが、この死亡事故に関して市の担当者は、「このような事故が起こらないよう事実関係を検証し、将来の礎としたい」と話したそうです。亡くなった人はもう何も言えません。「将来の礎に」と言えば美しいかもしれませんが、亡くなった人とその家族にはなんの慰めにもならないのです。また繰り返されたら、腹が立つばかりでしょう。だから、類似した事故や災害被害が繰り返されないようにする取り組みが不可欠です。

 この件に関連して、自治体によっては「次の日に開所が可能かどうか、災害時には園の施設を確認せよ」という責務を園長等に課している所があるようです。地震後や台風時です。これは絶対にやめてください。地震後に(夜間でも)園へ確認に行き、次の地震や土砂崩れ等で職員が死んだら自治体や運営母体が責任を問われます。台風でも同様です。この確認は「次の日に朝から開所する」という前提のためにしていることですから、この前提を「次の日は、十分な保育をできない可能性がある」と変え、保護者に4月1日の段階で伝えておけば済む話です。


「想定力」を身につける

 2019年、厚生労働省は「災害時の休園ガイドラインを策定する」と言いましたが、新型コロナウイルス感染症の発生で止まっているようです。なんであれ、目の前で今、災害が起きようとしているのを目の当たりにするのは、一つひとつの園であり、施設長であり、一人ひとりの職員です。国や自治体が自分たちの都合や体面で何を決めてこようとも、最終的に命を守る責任を負うのは園であり、職員であるという点を忘れないでください。「国が決めたから従わなければ」でもなければ、「自治体が決めたのだから、その通りにしていればよい」でもありません。特に災害予測と対応において重要なのは、「柔軟性」と「決断」です。「自治体に言われたから、これで大丈夫なはず」は、現場の柔軟性を放棄しています。「国はこう言っているけど、川は決壊しそう…。どうしよう…」は決断が欠けています。柔軟性と決断は、保育においても重要ですが、特に災害において「命を守ること」を人任せにしないためには不可欠です。

 では、「想定力」です。この言葉は、上に紹介した倉敷市のマニュアルを教えてくださった園長先生と会話をしていて出てきた言葉です。「想定力」と自分で言ったものの、「はて、なんだろう?」。心理学では、その場で使っている言葉の定義を明確にしなければ次に進めません(「作業上の定義」)。考えました。今のところ、以下の通りです。

 まず、工場の生産ラインや鉄道・航空、電気や水道などの社会基盤サービスの場合は、とにかく「リスクをゼロに近づける」ことが重要になります。ですから、「最悪」の想定もそれなりに容易です。ところが、保育の場合は「集団保育や活動の価値」とリスクとの天秤(トレードオフ)をどうしても考えざるをえません。どこまでを「価値に必然的に付随するリスク」と言って容認し、どこからを「価値よりも大きいリスク」として予防するか。この線引きが各園で必要になります。災害だけでなく、ケガにつながるようなできごとや命を奪いかねないできごとでも同様なのですが、ここでは災害を例に。

▶想定力:段階1
 自園における最悪の状況を予測する。これは比較的容易です。川があるなら氾濫、傾斜があるなら土砂崩れ、海があるなら高潮や津波、土地が低いなら浸水などなど。川がないのに氾濫を考える必要はありません。

▶想定力:段階2
 段階1の間、人間の脳に必ず生じる「こんなひどいことは起きないだろう」(正常性バイアス)や「今まで起きていないのだからきっと大丈夫」、「うちの園は大丈夫」(楽観バイアス)と闘う。最悪を考えるというのは、「悪いことを考えて悩む、落ち込む」ではなく、「合理的、科学的に考えて起こりうる最悪の可能性を想定する」です。

▶想定力:段階3
 「起こりうる最悪」を想定したら、その最悪を予防、またはその害を減らすために何をできるかを考えるわけですが、その前にひとつ、大事な段階があります。

 自分(たち、園)は、どこまでのリスクを許容できるか、許容するべきだと考えるか。どこから先のリスクは許容できないと考えるのか。その線引きをすることです。これは個人、あるいはその園の理念にもつながる部分なので、一概には言えません。A-1の「ISOが言うリスク・マネジメント」をお読みください。保育園が抱えるリスクには、ほぼ常に価値もあります。リスクをゼロにしようとしたら、価値もゼロになってしまう可能性があります。

 たとえば、土砂崩れで園が流されるリスクがあるのに、「とにかく園にとどまる」という選択肢はありえません。でも、高台にある園なら、「園にいたほうがいい」という判断はありえます。また、「これくらいの予想総降水量なら、強雨のなか避難するよりも園にとどまったほうがいい」という判断もありえるかもしれませんし、同じ園でも、「この予想総降水量では、氾濫の危険がある。雨が強くなってから〇〇人の子どもを連れて避難することは難しいので、雨が弱いうちにお迎えの一斉メールをして、避難をしよう」という判断が必要なことがあります。

 この線引きがはっきりしていないと、対応がその場その場になってしまい、一貫性を失います。もちろん、「これまでにない災害」の場合にはその場の判断も重要です。でも、これまで、日本じゅうではさまざまな災害や事故が起きているわけですから、これまで起きた災害や事故の範囲内(=想定内)では線引きをできるようにしておくべきでしょう。だからこそ、段階2の「『こんなことが私たちの園に起きるはずがない』を意識的にはねかえす」過程が大事なのです。どこかで起きた災害や事故、それと条件が類似していたら、あなたの園でも起こる可能性があるのですから。同時にこの時、「この災害は休日だったけど、もしも平日だったら?」「これは夜に起きたけど、もしも登園時間だったら?」などなど、条件を変えた想定も重要です。

▶想定力:段階4
 「私(たち、園)の価値とリスクの線引きはここ」と決めたら、リスク対応において「できること」「できないこと」を線引きします。そして、その線引きを4月の段階で、大枠、保護者に伝えます。人間は、冷静な時に聞いた合理的理由はそれなりに納得するからです(詳しくはA-4。リスクに直面した時に伝えると、相手の怒りにもつながります)。そして、「このように保護者に伝えました」と自治体にも伝えておきます。

 もっとも簡単な例は、「この地域には、〇〇のような災害ハザードがあります。災害だけでなく、その後に停電や断水が起こる可能性もあり、十分な保育ができない可能性があります。お子さんや職員の命を危険にさらすかもしれません。早め早めに必ずお伝えしますので、家庭でみられる場合は登園をお控えになるようお勧めします」と伝えておくことです。これは、保護者に地域のハザードを伝えることでもあります。「保育園なのだから、安全だろう」はありえませんから。

 リスクを明確にし、価値とのトレードオフも明らかにし、できること、できないことを切り分け、できることを具体的にするための方法を明らかにする。そして、この過程で内容をすべて保護者と共有していきます。災害は地域で起こるものですから、地域住民である保護者と一緒に考えることが不可欠。ここから、リスク・コミュニケーション(8-3)につながります。