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2-1. 誤嚥と誤飲の新しい基準:玩具を中心に(2015年8月9日)


「トイレットペーパーの筒」は古い基準

 「トイレットペーパーの筒に入る大きさの物は、子どもの口に入ってしまうから誤嚥・誤飲の危険がある」、保育現場の皆さんがよくご存知の情報です。母子手帳にも付いています。でも、実はこれ、古い情報なのです(古いだけであって、間違っているわけではありません)。今は新しい事実が加わり、直径39ミリ(トイレットペーパーの筒)という一つの危なさの基準ではなく、直径45ミリと32ミリという、2種類の危なさの基準に分けられています。

 「へえ、45ミリと32ミリ…」、ちょっと待って! この数字をうのみにしないでください。なぜかというと、この数字もこれまでの39ミリも、あくまでも36か月の子どもの口をもとにして、「36か月以下の子どもには適さない玩具」を規定するために決められています(玩具の注意書きに書かれているマークです)。でも、保育園、幼稚園には、36か月よりも大きな子どもたちがいます。もちろん、36か月以降になれば、なんでも口に入れるということは少なくなるでしょう。でも、物を口に入れることが好きな子どももいますし、ふざけて口に入れることもあります。ですから、この数字を杓子定規にうのみにしていると危険です。45ミリよりももっと大きい物でも、詰まって窒息する危険があるからです。

 では、なぜ、45ミリと32ミリという2つの危なさに分けられたのでしょうか。簡単に言えば、「飲み込めないような大きさの物でも、喉の上のほうに詰まって窒息する可能性があるから」。そのため一方の数字が、今までの39ミリよりも大きい数字(45ミリ)になったのです。細かい点はこちらをご覧ください。元の文書から、該当部分の図と文を抜き出して翻訳してあります。元の文書に興味のある方は、こちらをご覧ください(英語)。欧米では玩具等の安全がどれだけ厳しく、具体的な数字で決められているかをおわかりいただけると思います。ただし、この文書はすでにちょっと古いものです。最新の文書は非常に高価なので…(該当部分に変更はありません)。


玩具等による窒息事例

 日本でも「飲みこめなくてもはさまってしまう」事例が起きています。典型的なのが、日本小児科学会「傷害速報」の47番めの事例(イチゴのトントンおままごと)です(PDFはこちら)。この事例の場合、玩具の直径は30ミリ強ですが、このお子さんは2歳0か月ですから、これまでの考えでは「飲み込めない=安全」と判断されかねません。けれども、この写真のように上咽頭部(飲み込みはじめの一番上の所。喉ではありません)にはさまった状態で息ができなくなり、亡くなっているのです。飲み込めそうにない大きさでも詰まる、そして大切なのは、球形ではない、このような形のものであっても窒息を起こしうるということです。

 「傷害速報」を見ると、他にも玩具による窒息事例があります。いずれも、もっと典型的な球形の物です。たとえば、3歳9か月のお子さんが直径35ミリのスーパーボールを2個、口に入れて遊んでいるのに気付いたお母さんが「危ないから出しなさい」と叱ったところ、驚いて1つを飲み込んでしまい死亡した事例(詳しくは同ページ下部のPDFをご覧ください)。 こちらは、1歳9か月児が直径25ミリの木製の球体の玩具を誤嚥した事例。さらに、1歳8か月児が直径20ミリのプラスチックの球で窒息死した事例。また、こちらもスーパーボールによる誤嚥窒息事例です。


保育士さんの「これは心配」を基準にして

 「私の園にも危なそうな玩具があるけど、どうすれば…?」と、ご心配になる方がいらっしゃると思います。

1)スーパーボールや小さな卵型おもちゃのように、明らかに直径45センチよりも小さく、明らかに球形または球形に類する形の物は、乳児の環境からは撤去するべき。

2)玩具、特におままごとやトントンおままごとの類には、上のイチゴの玩具のような形状の物が多数あります。「どれが安全?」と悩むくらいなら、「これは心配!」と思うものは撤去してください。「うーん、口に入れているのを見たこともあるし、危ないような気がするけど…」、こういう物が安全なのか危険なのか、子どもの口に入れて実験することはできません。万が一の事態が起きてからでは遅いのですから、保育士の皆さんの「安心」と「心配」を尺度にしてください。「危なそうだけど、きっと大丈夫!」ではなく、「危なそうだから、やめておこう」が基本。

3)目の前にいる、今のこの子どもたちの「口に入って」「はまりやすくて(形状、大きさ)」「とれにくい(形状、大きさ、素材)」物と考えれば、日常の子どもたちの様子から判断できるはずです。もちろん、「口に入る」とは、(乳児の場合は特に)「むりやりにでも口に入る大きさ」ということです。「こんな大きいもの、よく入ったね!」はもちろん、「絵本、こんなにかじっちゃったの? うわ、口の中がいっぱいだ!」や「ティッシュ、どんどん口に入れてる~」もあります。おとなの基準で言う「口に入る」ではありません。そして、「目の前にいる、今のこの子どもたち」という点も大事です。「5歳だから、そんなことはしない」と思っていると…。子どもの行動に一般論は通用しないのですから。

 「売っているんだから、安全なはずでしょう?」とおっしゃる方もいます。残念ながら、この45ミリの基準は最近の欧米の基準です(作ったのはEU。最も厳密に施行しているのもEU)。日本にはそもそも、同種の安全基準がありません。「売っている物なのだから安全」は通用しないのです。そして、日本文化の場合、深刻事故が起きても「保護者/保育者が見ていなかったのが悪い」「手の届く所に置いておいたのが悪い」、最悪の場合、「そんなものを口に入れる子どもが悪い」というトカゲのしっぽ切りで終わりがちです。「その場にいた保育士が悪い」と言われる可能性が高く、玩具や遊具のメーカーが責任を取りそうにはない以上、現場で子どもをみている(=万が一の時に責任を問われる)保育者の「安心」「心配」を判断の基準にするべきです。
 (注:ヨーロッパから輸入された玩具でも、昔のものは今の基準に適合していません。)



では、32ミリのほうは?

 では、32ミリのほうは? こちらは通常の誤飲・誤嚥の危険です。上にも挙げたこの文書の3ページにあるように、形、素材などは無関係です。球状や切り口が円の物は特に危険ですが、まったく違う形の物でも口に入って飲み込めたら危険になります。ひっかかることなく体内を通過すれば排泄されますが、下のイヤホンパーツや画鋲のように食道にひっかかってしまったり、あるいはイクラ(球形です)のような小さな食べ物が気管に詰まったりすると、重症に至る可能性があります(イクラでは、低酸素脳症による重症の脳障害の事例があります)。

「傷害速報」を見ると、たとえば、イヤホンのパーツ(11か月)や画鋲(7か月)キーホルダーの留め金(1歳1か月)といった誤飲があります。また、窒息では、水風船(ヨーヨー)による窒息(1歳11か月)、ボールペンのキャップ(3歳1か月)、巨峰(2歳6か月の事例、および1歳6か月の事例。後者は死亡)、ベビーフードの中の砕いた大豆(10か月)。さらに、誤嚥・誤飲のこちらの項(2-3)でお伝えしたタバコ型砂糖菓子の事例も同様です。


「いつも出るから大丈夫」と思っていると…

 玩具や食べ物が詰まるできごとは、保育現場でも家庭でも日常的に起こります(たとえば、兵庫県保育協会さんの事例集をご覧ください)。それだけに「いつも出るから大丈夫」と安心してしまいがち。でも、油断していると、見ていない間に詰まる、あるいは見ていて詰まったのに気づき、腹部突き上げ法や背部叩打法をしたけれどもどうしても出ない、ということが起こりえます。

 玩具等であれば、危険な(心配な)物は最初から取り除いておきましょう(特に合同保育の時間、年上の子どもの部屋に年少の子どもが移動する場合)。食べている時は、目を離さない体制を確保しておくことです。食べ物はなんでも詰まるとすら言えますが、少なくとも見ていて「こういうものが詰まりやすい」「これが詰まった」ということがわかっていれば、その子どもの次の食事介助に活かすことができるからです。

 そして、誤嚥・誤飲に関連して玩具の見直しをしたら、必ず保護者に伝えましょう。「こういう危なさがあるようなので、再度、玩具を見直しました。ぜひ、ご家庭でもチェックしてみてください」と、この記事や『赤ちゃんとママ』(「安全のトピックス」の「5. 参考資料」)の記事と一緒にお伝えていただけると、家庭で子どもの命を守ることにつながるかもしれません。また、食べ物についても、「詰まりかけたけど、出たんだからいいや」と考えず、特に乳児の場合は、子どもの嚥下の特徴、食べ方の特徴を伝える一環として、保護者にも情報を伝えていってください。突然、「今日、~ちゃん、お芋が詰まったんですよ」と言ったらびっくりされてしまうかもしれませんが、ふだんから食べている時の様子や好きなもの、食べ方などを伝えていれば保護者も情報を受けとめ、「じゃあ、家でも気をつけてみますね」と活かしてくれるかもしれませんから。こういった会話が、園と保育園の間の信頼関係を作っていきます。



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