メイン画像

3-4. 赤ちゃんの泣き声について


 乳児の泣き声を聞くと、誰でもなにやらいたたまれなくなる…。なぜなのだろうかと調べてみました(この項は、だんだん増えると思います)。



赤ちゃんの泣き声とおとなの脳(2016年5月6日)

 電車や飛行機で、乳児の泣き声を気にせずにやりすごすのが難しいのはなぜでしょうか。2012年、英国Oxford大学のKatie Young(当時、精神科の大学院生)らが米国で学会発表した実験結果によると、人間の脳は乳児の泣き声に特別な反応を示すようです。

 この実験では、自分の子どもがおらず、子どもをケアする立場にもない28人の成人に乳児の泣き声、おとなの泣き声、動物が苦しんでいる声等を聞かせ、脳磁図(magnetoencephalography, MEG)を計測しました。すると、乳児の泣き声の時だけ、脳の特定の部位で非常に早い反応がみられ、100ミリ秒の間に強い反応が発生したのです(他の音に対する反応はこれほど早くなく、差は統計学的に有意=偶然の違い以上に違う)。

 反応した部位は、感情のプロセス等に関わる中側頭回と、脳の報酬系と感情プロセスに関わる眼窩前頭皮質。感情に関わる脳の部位で反応が起こるということは、おとなが(理性的に)考える以前に反応してしまうほど重要なものとして、乳児の泣き声が人間の脳の中に位置づけられている可能性を示唆している、と研究グループは言います。そして、育児経験などがまったくないにもかかわらず、28人が同じように反応したということは、これが人間の基本的反応のようです。

 この研究では、乳児の泣き声に対する脳の反応によって人間の行動が無意識のうちに影響を受けている可能性についても調べました。なぜなら、反応がみられた場所は最も原始的な部分で、生き物が危機に際してする「闘うか逃げるか反応」のほか、人間が生き残るためにする反応を司っているためです。

 そこで実験では、乳児やおとなの泣き声を聞かせた後、被験者にモグラたたきをさせ、反応速度と正確さを調べたそうです(※)。すると、乳児の泣き声を聞いた後は明らかに反応が速く、正確だったのです。これは泣き声が「それを聞いたおとなにケア行動を促す働き」をしている可能性を示唆しています。

 一方、乳児の泣き声を聞くことで人体が無意識に「警戒状態」になってしまうということは、電車や飛行機などで保護者以外のおとな(※※)が乳児の泣き声を聞いた時の問題も説明するかもしれないと記事は書いています。つまり、聞かないようにしよう、気にしないようにしようと思っても、乳児の泣き声を聞いたとたん、人間のからだは警戒状態になってしまうからです。

 2012年、英国Guardian紙の記事は、"Why crying babies are so hard to ignore"

 学会発表は、2012年のAnnual meeting of the Society for Neuroscience(米国ニューオーリンズ)。

※紹介されているモグラたたき実験の論文は、こちら(英語)。
 モグラたたきはこの実験の中で、「努力を必要とする、全身の協調的な運動行動」として定義されています。一方、この論文に引用されている他の文献(英語、1986年)によると、被験者(1歳未満の子どもを持つ母親)に「集中を要する単純な作業」をさせている時に乳児の泣き声、または機械の騒音を聞かせると、泣き声を聞かされた時のほうが明らかに集中できなかったという結果でした。泣き声を聞くと単純作業に集中できなくなり、ケア行動にとりかかる、というプロセスなのかもしれません。

※※ 父親、母親の場合、乳児の泣き声を聞くとホルモンの働きによって、ケアの行動に向かうことが、マウスや人間による最近の実験からわかっています(この話も書き足していきます)。