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C-4. 「ものの言い方」と「真の笑顔」(2015年7月7日)


1)伝わるのは感情。内容ではない
2)声のトーンを明るくするには「真の笑顔」
3)おとなの真の笑顔と、子どもたち
4)「真の笑顔」と「偽の笑顔」の違い
5)「真の笑顔」をきちんとつくる意義:自分の心の健康のため、そして、より良いコミュニケーションのため


1)伝わるのは感情。内容ではない

 つい先ほど、または今日一日、あなたが子どもにかけた声、同僚にかけた声、保護者にかけた声、または家族にかけた声などなど、を思い出してみてください。

 ・怒った声で話しかけた?
 ・いらだった声で話しかけた?
 ・口をとんがらかして話しかけた?
 ・いやみを含みながら話しかけた?
 ・冷たい声で話しかけた?
 ・明るい、張りつめた声で話しかけた?
 ・明るい、暖かな声で話しかけた?

 ていねいな言葉で話すことはとても大切ですが、表面上、どんなにていねいな言葉で話しても、ネガティブな感情がこもっていたら、声のトーン(明るさ、暗さ)だけでその感情は伝わってしまいます。たいてい、人の話の内容は耳半分でしか聞いていないもの。一方、人の感情は声のトーンや表情から容易に伝わっていきます。重要なのは、まず「ものの言い方」、内容を「どのような声と言い方で口から出すのか」です。

 子どもに話しかける時の声のトーンや表情、ボディ・ランゲージが重要なのは、言うまでもありません。幼ければ幼いほど、こういった非言語コミュニケーション(言葉の内容以外)の重要性は増します。たとえば、2013年に出た論文(英語)によると、睡眠中の乳児(生後6~12か月)であっても、父母が交わしている怒りの声のトーンに脳の特定の部位が反応するそうです。そして、父母の間にある対立や衝突のレベルと、乳児の脳が怒りのトーンに反応するレベルは相関する(対立が強いカップルの子どもは怒りのトーンに対する反応レベルも高い)と、この論文は報告しています。「言葉がわからないから、何をどんな言い方で言ってもかまわない」「乳児なら、そばで怒鳴りあっていてもかまわない」ではないのです。

 保育施設においては、「明るく、穏やかな声のトーン」が基本になります。それは子どもとの信頼関係をつくり、共に働く職員との信頼関係をつくり、保護者との信頼関係をつくる基礎です。もちろん、そんなことを意識していられない時もあります(午前中の調理室内はその良い例…? とにかく大変ですから)。あるいは、体調が悪くて、または単に個人的に機嫌が悪くて、声や表情がこわくなってしまうこともあるでしょう。職員の間であれば、「ごめん! 今日は機嫌悪いけど気にしないで!」とひと言いっておけば済むことです(ふだんの信頼関係がありさえすれば)。とはいえ、体調や機嫌によって子どもに対する声のトーンが変わるというのは、「保育のプロ」としていかがなものか、と思いますが…。

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2)声のトーンを明るくするには「真の笑顔」

 声のトーンを穏やかにしようとするなら、(早口の人は)話す速度を意識的に落とす(=ゆっくりにする)ことです。声が大きい人は、声の大きさも少し下げます。その人のもともとの声の出し方に応じて変え方はいくつもありますが、声のトーンを明るくしようとするなら、とにかく「真の笑顔」になるよう表情筋を動かすことです。「笑顔を心がける」でもなければ、「つくり笑顔をする」でもありません。本当に筋肉をしっかり動かして、表情を「真の笑顔」にするのです。

 「真の笑顔」は、筋肉の動きとしてはっきり定義されています。顔の左右にある頬骨筋(きょうこつきん)を「よいしょっ」と上げることで、口角(こうかく)が上がって口が開き、目のまわりにある眼輪筋が動いて目尻に皺が寄ります。写真で見ると、下・右のようになります(原著はこちら。審美歯科の論文ですが…。英語)。真ん中も笑顔に見えますが、こちらは「目が笑っておらず、口角だけが上がっている偽の笑顔」です(広告写真などでよく見る笑顔です)。


 では、頬骨筋を「よいしょっ」と上げて、真の笑顔になってみてください。「え、どうするの? わからない」、そういう時は隣の保育士さんと顔を見合わせて、いち、に、さん、「よいしょっ」。はい、お互いの顔を見て大笑いになりましたね。大笑いになった時の顔が真の笑顔です。人間は笑う生き物ですから、真の笑顔ができない人はいません。ただし、真の笑顔で挨拶をしている時、話をしている時に、声までがヘラヘラと笑っていてはいけないのです。頬骨筋をしっかり上げて、真の笑顔になった状態で、声ははっきり(笑わずに)出します。これが「明るいトーンの声」を出す基本です。これまで意識的にしていなかったら、そう簡単にはできません。トレーニング!です。

 声のトーン(明るいトーン、暗いトーン)を、喉の発声で変えることはできません。試してみてください。無理です。声のトーンは、頬骨筋(笑顔)で変えるしかないのです。このあたりのワークは、エイデル研究所から今夏の終わり頃に出版される本に書きましたが、試しに、しっかり頬骨筋を上げた状態(真の笑顔)と、下げた状態(能面)で、電話に出る真似をしてみてください。明らかに声のトーンは明るくなったり、暗くなったりします。挨拶であれ電話であれ、呼びかけの声であれ、頬骨筋を上げるか上げないかで、声の明るさは変わるのです。

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3)おとなの真の笑顔と、子どもたち

 笑顔そのものの大切さ、特に、保育施設における笑顔の大切さは、どんな説明よりも、このビデオを見ていただくのが一番わかりやすいでしょう。マサチューセッツ大学の心理学者Edward Tronick教授らが1970年代以降、行っている有名な「能面(still face)実験」のビデオです(教授の説明の部分は15秒程度ですから、英語がわからなくても我慢して見ていてください)。分割された画像の右側が母親の表情、左側が子どもの表情です。ビデオの開始から1分過ぎに突然、母親がstill faceになります。子どもの表情、行動をよくよく観察して、still faceの前後でどこがどのように異なるか、比べてください。

 言葉がわからない乳児にとっては、言葉がわからないからこそ!笑顔が、他人の感情を読み取る重要な鍵(=自分自身の生存の鍵)となります。たとえ自分の母親であっても、その顔が笑顔でない時には子どもの反応がまったく変わります。生後3か月には、おとなの表情(特に、笑顔か笑顔でないか)から感情を読み取っていること、おとなの笑顔が子どもに及ぼす影響は大きいことが、Tronick教授らの一連の実験からはわかります。(研究の概説はこちらTronick教授のウェブサイトはこちら。どちらも英語)

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4)「真の笑顔」と「偽の笑顔」の違い

 「真の笑顔」を最初に明らかにしたのは、Duchenne de Boulogne(ブローニュのデュシェンヌ)と呼ばれた19世紀フランスの神経学者です(本名は長いので詳しくはこちらを。日本語のWikipediaはありません)。「誰、その人?」と思った方も、「デュシェンヌ型筋ジストロフィー」という病名は聞いたことがあるかもしれません。デュシェンヌ博士は、電極を使った表情その他の実験を多数行い(実験の様子などは、上のWikipediaに画像で載っています)、さまざまな業績を残しましたが、そのひとつが「真の笑顔」を筋肉の動きとして定義したことです。そのため、真の笑顔は「デュシェンヌ・スマイル(Duchenne smile)」とも呼ばれます。

 その後、表情と感情の関係、表情および表情の解釈の文化差は、Paul Ekmanという心理学者とその後継者たちが1960年代以降、ずっと調べてきました。そのなかで、「真の笑顔」と「偽の笑顔」の違いも明らかにされてきたのです。人間は、真の笑顔をしている人に対して信頼を感じ、協力しようとする、という結果を示した実験も複数あります。

 ちなみによく、「割り箸を横にくわえると、笑顔の訓練になる」と言いますが、これはちょっと中途半端。なぜかというと、この方法だと眼輪筋があまり動かないので、「口だけが笑っている笑顔」になりがちだから、です。真の笑顔をつくるために道具は要りません。ふだん自分が「わはは」と笑っている時の顔の筋肉を意識してみてください。そして、その時の頬骨の上がり方を再現する訓練をしましょう。笑顔は筋肉によるもの。筋トレ同様、トレーニングなのです。

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5)「真の笑顔」をきちんとつくる意義:自分の心の健康のため、そして、より良いコミュニケーションのため

 Ekman教授と、その後の長年の研究から、デュシェンヌ・スマイルは「楽しい」というポジティブな感情に結びついていることがわかっています。本当に楽しい時、うれしい時、人は真の笑顔になります。でも、実はそれだけではありません。意識をして真の笑顔をすること自体に意味があるのです。

「楽しくもないのに、本当の笑顔になんかなれるわけない」と思われるかもしれません。いえ、ここ20~30年間に行われてきた心理学や脳科学の実験から見ると、話は逆です。真の笑顔、デュシェンヌ・スマイルをきちんとすることで、気分はアップします。なぜなら、真の笑顔をすると、脳内にエンドルフィン(幸せホルモンのひとつ)が分泌されるから。そして、「いやな顔」をしないことで、「いやな気分にならない」こともできる。チャールズ・ダーウィンは、「感情が表情を生むのではなく、表情が感情を生むのではないか」と19世紀に予測したそうですが、ダーウィンは正しかったのです。

 真の笑顔で気分がアップすることを示した実験は、書ききれないほどたくさんあります! たとえば、有名なところでは…(リンクはすべて英語)

1)鉛筆を横にくわえているグループ(口角が上がり、頬骨も上がる状態)と、鉛筆を縦にくわえているグループ(口をとがらせた状態)、鉛筆を単に手に持ったグループ等に漫画を見せると、鉛筆を横にくわえているグループは、統計学的に有意に(「偶然以上の確率で」)他のグループよりも、漫画をおもしろいと答えた(1988年。概説はこちら、あるいはこちら)。

2)1と同じ実験。同じ笑顔でも、「偽の笑顔」と「真の笑顔」で比べると、真の笑顔の被験者のほうが偽の笑顔の被験者よりも統計学的に有意に、見せられた漫画をおもしろいと答えた(2002年)。

3)1、2と類似の実験条件(箸をくわえた状態=デュシェンヌ・スマイル、普通の笑顔、通常の顔)でストレスを感じる作業をした場合、作業後の心拍は、デュシェンヌ・スマイル群、普通の笑顔群、通常の顔群で低かった。つまり、笑顔の状態のほうがストレスが低かったということ。(2012年

4)皺取りのためのボトックス注射により、「眉間に皺を寄せること」ができなくなった人たちと、ボトックス注射をしていない人たちにそれぞれ、「怒った顔」「悲しい顔」の写真を見せ、「真似をしてみて」と指示。脳スキャンをとると、ボトックス注射群では脳の感情の動きが小さかった。つまり、「怒った顔」「悲しい顔」ができないために、その感情が脳にあまり生じなかった(ボトックス関連の一連の実験についてはこちら)。

 挙げていたらきりがありません。ともかく、「真の笑顔をきちんとつくること」は、何よりも自分の気持ちを上げるために効果があるのです。朝、笑顔で「行ってきます」と言うことで1ステップ、職場で同僚に笑顔で「おはよう」と言うことで数ステップ、保護者や子どもたちに笑顔で「おはよう」「おはようございます」と言うことで、また数ステップ、自分で自分の気持ちを上げていくことができる。そして、その気持ちが笑顔に現れ…。それが子どもにとっても、周囲の誰に対しても良い影響を与えることは言うまでもありません。笑顔は「感染する」のです。

 そして、真の笑顔で声を出せば、その時の声のトーンは必ず明るくなります。挨拶でも電話でも、子どもや同僚への声がけでも。園長から始めて園全体が、真の笑顔で、明るいトーンで声を出していったら…? 前項の「ありがとうございます」「お願いします」も笑顔で言ったら? ……想像してみてください。そして、ぜひ取り組んでください。「笑顔を心がけて!」ではありません、「ほら、もっと頬骨筋を上げて!」「あ、いいね~、頬骨筋がしっかり上がってる~」。笑顔も明るいトーンの声出しも、気持ちの問題ではなく、行動そのものなのです。そして、明確に行動をしていけば、エンドルフィンも分泌され、お互いに話しやすくもなり、信頼関係も生まれ…。なにより、子どもたちに対する影響は大きいでしょう。乳児でも幼児でも。

 まずは行動を変える、「頬骨筋をしっかり上げる!」です。……でも、「ヘラヘラする」はダメですよ、くれぐれも。

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