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C-3. 保護者/園内コミュニケーションの基礎(2016年3月28日、4月24日)


新年度だからこそ。そして、毎日

 ここでお伝えするのは、コミュニケーションの基礎、基盤ですが、「初歩」ではありません。何十年生きていても、何十年プロとして仕事をしていても、職場以外の場所でも、常にしなければいけない基礎です。4月1日は特に大切、年度の始まりにもとても大切ですが、年度の半ばになったら忘れていい、というものではありません。あなたが何歳であろうと、保育士何年目のプロであろうと、今できていないのであれば、ごく当たり前にできるようになるまでトレーニングすべき行動です。

(2016年4月24日加筆)下に、「第一印象は『思考の近道』」と「第一印象の弊害を意識的に消す」を加筆しました。これは、4月の新しい出会いの中であなたの心の中に生まれた、さまざまな人(職員、保護者)の第一印象を5月の連休中に意識的に消していただくためのものです。ただ、4月、5月だけでなく、新しく人に出会った後にはいつも意識していると役に立ちます。


肯定的な第一印象をつくる

 「第一印象」は、心理学の1分野にもなっているくらい重要です。また、「印象マネジメント」という分野があるほど、研究されています。「自分をどう見てほしいか」、一番大切なのは最初の瞬間です。そのためには、練習も必要です。最初からじょうずにできる人、練習しないでうまくできる人はいない、と思ってください。

 保育園の職員、園長などすべての人が4月1日までに練習(準備)すべきポイントは…。そして毎朝、その日の第一印象をしっかりつくるためには…、

(1) はっきりとした口調で自己紹介をし、話す

 もごもごと、何を言っているのかわからないような自己紹介をすると、相手に不信感の種を植えつけます。「自信がない人」「はっきりしない人」という第一印象を与えてしまいます。

 声が小さくてもかまいません。はっきりと自分の名前を言い、自己紹介をしてください。「話すのが不得意」…? 最初からじょうずな人は少数派。練習です。何度も何度も園内で練習しましょう。他の先生方も、めんどうがらず練習につきあってください。一人の職員に対する印象が、園に対する印象を左右するのですから。

(2) 笑顔で!

 この話は、「『ものの言い方』と『真の笑顔』」(C-4)をお読みください。頬骨筋(きょうこつきん)をしっかり上げて、目が笑う笑顔を練習しましょう。明るいトーンで話をしようと思ったら、頬骨筋を上げるしかありません。頬骨筋を上げれば脳内にエンドルフィンもでます。第一印象も良くなり、あなた自身のムードも上がります。

(3) 清潔ですっきりした服装を

 これは当然です。子どもを預かるプロが汚らしくて、だらしない服装をしていたのでは…。

(4) まっすぐ立つ

 保育園の業務の中では、じっと立っていることなどほんの数分のことなのですから、挨拶をする時ぐらいは、まっすぐ背筋を伸ばしましょう。

(5) 保護者の話を聞く

 人は、自分の話を聞いてくれる人に好感を持ちます。新しく入園してきた保護者が話しやすいよう、話し続けやすいよう会話をつなげてください。子どもについて、他愛もない質問をするのが一番簡単でしょう。保護者の仕事や家庭などの話は、あちらが話してこない限り避けます。

 人の話をついさえぎってしまいがちな人、つい自分の話に夢中になってしまう人は、これも会話の練習(聞く練習)を意識的にするべきです。

★参考資料:以上、米国心理学会のウェブページ(英語)


コミュニケーションを良くするための行動

 上の5項目は、日常の園内コミュニケーション、保護者コミュニケーションでも不可欠です。よく、「どうしたら保護者と、良いコミュニケーションができますか」「保護者から信頼されるようになりますか」とお尋ねをいただきますが、基本は日常の細かい所作です。なにかの時にじょうずな受け答えができるかどうか、気の利いた物言いができるかどうか、ではありません。

(もちろん、保護者の側もこうしたコミュニケーションを保育園の職員に対してするべき、ではありますが…。)

 では、4月1日以降、コミュニケーションを良くするための行動をいくつか書いておきます。これは、ホスピタリティのプロ・中村次雄先生(※)とお話ししていて、「まさにその通り!」と思ったことでもあります。良い人間関係をつくろうとしたら、こうした行動をすることがまず第一歩なのでしょう。

(1) 「あなたがいることはわかっていますよ」のシグナル

 これは、いわゆる「承認(ストローク、stroke)行動」のもっとも基本となるものです。

 たとえば、朝の受け入れ時。一人のお子さんのケアをしながら、その保護者と話していると、視野の片隅に他の保護者が見えました。ちょっと急いでいる様子です。「うわ、急がなきゃ」とあわててしまい、話している内容も耳に入らない…。

 こういう時は、待っている保護者のほうを一瞬向き、できれば目を見て、そしてぱっと明るい笑顔で、「○○さん、おはようございます。ちょっとお待ちいただけますか」と言いましょう。後は慌てずに、今の受け入れを終わらせます。

 これは、「あなたがそこにいて、待っていることはわかっていますよ」というシグナルです。人は、無視されることに一番、腹を立てます。待たされることではなく、無視されること、または無視されているのではないかと感じるような状況に置かれること、です。混んでいるレストランで、誰も注文をとりにこない。手を挙げても、目を合わせようとしても無理。この時、きわめて不快な気持ちになるのです。「はい、少々お待ちください」と言われる、または言葉はなくても、こちらの顔を見てうなずいたのが見える、それだけで落ち着くのです。

 これは、保育園だけでなく、いつでもどこでも使うべき行動です。たとえば、窓口で手間取り、時間がかかっている時。自分の順番なのだから、後ろの人のことなど気にする必要はないのかもしれませんが、そこで後ろに並んでいる人に、「ごめんなさい」とやわらかく微笑むだけで、相手の気持ちは軽くなります。

 特に、仕事で同僚や保護者と良い関係をつくりたいと思ったら、最初の5項目の次にすべき行動はこれです。園長、主任、先輩の立場からすれば、自分が誰かと話している時に新卒の職員が話したい様子でウロウロしている…、そんな時には、「あ、○○先生、ちょっと待ってて」と言いましょう。

 ただし、承認行動以前に、他の人の姿が目に入らないというタイプの人がいます。つまり、目の前のことで手も頭もいっぱいになってしまうと、周囲がまったく見えない人です。これは、承認行動だけでなく、保育にも影響します。目の前の子どもしか見えないのでは、保育はできませんから。

 まず、「自分は周囲のことが見えているだろうか」と考えて行動してみてください。一番簡単なのは、なにかの作業をしていたり、誰かと話していたり、特定の子どものグループを見ていたりする時に、意識的にほんの少し眼球を左右に動かしてみる方法。ただ、動かすだけではダメです! その時、視野に入ったものに一瞬でかまいません、意識を向けてみる。その練習をしましょう。

 特に送迎時間帯は皆が動き回っていますから、頭を動かしてあちこち見ていても不審には思われません。仕事をしながらあちこちを見て、「なにか話したげにしている保護者」「なにか手持ち無沙汰げにしている保護者」にやさしく明るく、ひと声かけてください。それだけで、「あ、○○先生は気づいてくれた」「声をかけてくれた」という感情を相手の心の中に生むことができます。もちろん、今している作業が終わったら、その保護者の所へ行かなければいけないのは、言うまでもありません。

(2) 保護者を個人として接する

 簡単に言えば、「○○さん」と相手の名字で保護者を呼ぶことです。保育園ではつい、「××ちゃんのお母さん/お父さん/おじいちゃん/おばあちゃん」と呼びがちです。でも、「私は、○○という個人なんだけどな」と感じている保護者は少なくありません。実際、この呼び名が原因で、コミュニケーションがこじれることもあります。(この点については掛札の個人サイトの「「○○ちゃんのおじいちゃん」「○○ちゃんのお母さん」と呼ばれたくない」をお読みください。)

 勤め先などに電話をする時は相手の名字を呼ぶのですから、日ごろから名字で呼んでおくほうが得策です。

 また、会話の中に相手の名前を入れる、というのも効果的な承認行動です。「そうですね。~ですよね」と言うよりは、「そうですね。おっしゃる通り、~ですよね」と言うほうが相手は肯定的な感情を持ちます。さらに、「そうですね。○○さんがおっしゃる通り、~ですよね」と言えば、いっそう効果的です。

 挨拶も同じです。ただ「おはようございます」「お帰りなさい」と言うよりは、「○○さん、おはようございます」「○○さん、お帰りなさい」と言ったほうが、相手は肯定的な感情になります。名前を呼ぶということは、「あなたに向かって、私はこのメッセージを出しているんですよ」という強いシグナルになるからです。

 そして、会話の中でも挨拶でも当然、相手を名字で呼ぶことになりますから、日常から「××ちゃんのお母さん/お父さん/おじいちゃん/おばあちゃん」ではなく、「○○さん」と呼んでおくべき、ということになります。


第一印象は「思考の近道」(4月24日加筆)

 人間の思考回路には、いろいろな「近道」がつくられています。日本語には訳されていませんが、英語ではこの近道全体を「heuristics」と呼び、さまざまな研究が進められてきました。

 たとえば、私がwifiのルーター(接続器)を皆さんに見せて、「これはなんだと思いますか?」とお尋ねします。厚さ1センチ、4センチ×5センチぐらいの四角い箱です。そうすると…「携帯?」「スマホ?」「カメラ?」と、いろいろな答えが出てきます。でも、「厚さ1センチで、4センチ×5センチの箱だから…」とおっしゃる方はいません。答えはどれも、「その人が知っている一番近そうなもの」なのです。いずれも電気機器です。たとえば、「お菓子!」とおっしゃった方もいません。

 これが、「思考の近道(heuristics)」の役割です。「1×4×5センチで、角が丸くて…」なんて考えていたら、いつまで経っても答えにはたどりつくことができないでしょうから、知っている手近なモノから始める。「掛札が持っていて、今、テーブルの上に置いておきそうなモノ」から考えを始める。そして、だんだん答えを絞っていくわけです。場合によっては、最初に「それは○○だろう」と思ったものがあまりにもそのモノとは違い過ぎていて、でも、最初の思い込みが強すぎて、なかなか正解にたどりつけないこともあるでしょう。

 他人に対して抱く第一印象も、一種の「思考の近道」と考えてください。相手が人間だということは、見れば当然わかります。次に必ず、初めて会った人に対して第一印象を持ちます。この時、まったくの「白紙」から始めることは、つい近道をしてしまう人間の脳にはできないのです。

 では、どこから始めるか。人種、性別、言語、からだつき、服装…、こういったものから人間が「思考の近道」をすることは、よくご存じの通りです。「こういう外見の人は、~な人に違いない」「女性だから」「男性だから」…、偏見や差別と呼ばれるものにもつながります。さらに、「これまで会った人」という情報が「近道」に使われます。「昔、いじめられた人にそっくり! いやな人に違いない」「あの先生に似ているなあ。きっといい人だ」…、人間はこうやって「第一印象」で最初の評価を下してしまうのです。


第一印象の弊害を意識的に消す

 第一印象は、人間関係に影響を与えます。ある人に対して「この人は、いい人に違いない」と思えば、ものの言い方もやさしく、明るくなるでしょうし、「絶対! いやな人」と思えば、よそよそしくなるでしょう。その態度(コミュニケーション行動)自体が人間関係を作っていってしまうことになります。だから、新しく誰かに出会ってしばらくしたら、自分がその人に対して持っている第一印象をよくよく見直して、できれば一度、意識的に消してみることが大事なのです。

 「いい人に違いない!」と思ったなら、人間関係は良くなるから問題ないのでは? いえ、実は違います。あなたが第一印象で「いい人のはず」と思った人が、あなたの期待(=相手に対する、なんの根拠もない勝手な思い込み)にぴったり添うことは、まずないでしょう。そうすると、ある時点で「なんだ、この人。いい人だと思ったけど、たいしたことないじゃない」と、あなたの中の一気に評価が下がりかねません。その人のことを第一印象で勝手に持ち上げて、その後、勝手に落としたのは、あなたです。でも、あなたはそのことに気づいていませんから、「なんだ、この人」という見方だけが残ります。

 逆に、「きっといやな人!」と思った相手に対しては、あなたの態度もよくないでしょうから、人間関係はうまくいきません。そうすると、「やっぱり、いやな人だった」となります。あるいはもしかすると、「あれ、この人、すごくいい人なんだ!」と感じる瞬間があったり、「え、趣味が同じ?」という気づきがあったりすることで、一気に関係がよくなる可能性もあるかもしれません。この場合は、最初が「いやな人に違いない」というマイナス点から始まっているだけに、後の関係はかえってよくなるかも…、実際にはあまりないケースでしょうけれど。

 いずれにしても、あなたが他人に対して持つ第一印象は、人間の思考回路としてはどうしてもしてしまうものですが、人間関係にはあまり良い影響を与えません。だから、出会ってしばらく後に、「私が○○さんに対して持っている印象はどんなものだろう」「どうして、そういう印象を持ったのかな?」「その印象を持ったことで、私は○○さんにどういうふうに接しているだろう」と見直し、考えてみることが大事なのです。そうすると必ず、あなたが人に対して持っている固定観念や過去の人間関係が、どこかに影響していると気づくはずです。そしてあなたは、第一印象に沿ったコミュニケーション行動をしているはずです。

 第一印象の原因はなんであれ、一度、第一印象は意識的に消しましょう。「○○さんはいやな人に違いないと私は思っているけど、まだたったの数週間。ここで決めつけてしまったらダメだ。私の言い方がつい冷たくなるから、○○さんも委縮してしまっているみたいだし」「○○さんは仕事ができるはずだと私は思っているけど、あんまり期待をしていろいろ言ってしまったら負担に感じるかもしれないな」「○○さんはいい人だと思ってるから、私、かなりなれなれしく話している気がする」…、プラスかマイナスのどちらかに偏っている自分自身のコミュニケーション行動も見直します。

 この見直しをしてみると、その人に対する接し方、見方が多少なりとも変わるはずです。もちろん、「これまでなれなれしくしすぎたから」と、急に冷たい声で話し始めたり、言葉をかけなかったりしたのでは、相手は混乱しますから要注意(逆も同じ)。


 第一印象を持つこと自体がいけないわけではありませんし、第一印象を持たないようにすることもできません。でも、それによって人間関係に悪影響が出なければよいのです。こうやって自分自身が持ちやすい第一印象のクセに気づいていくと、「やっぱり私、こういう人が苦手なんだよなあ」「こういう人を、『いい人』ってつい思っちゃうんだよなあ」と客観的に自分を見ることができるようになります。そして、自分の心の中に湧いた第一印象はおいておいて、誰に対しても同じような(「常に同じ」とはなかなかいきませんが)最初の出会い行動ができるようになっていきます。それは保護者に対しても、同僚に対しても、別のあらゆる人間関係でも、きっと役に立つはずです。




※中村次雄先生:

 ホテルオークラに38年間勤務。客室、レストラン、宴会など、すべての部門を経験なさったホスピタリティのエキスパート。退職後は、「経験をもとにホテルの学校の生徒さんを教える以上に、いろいろな場面で、異業種の方たちも話ができるようになりたい」「実践だけでなく、理論的な部分もしっかり学びたい」と、東洋大学大学院 国際地域学研究科 国際観光学専攻で学ばれ、国際観光学修士を取得されています。

 現在は、「日本ホスピタリティサポート」代表。西武学園医学技術専門学校非常勤講師のほか、NPO法人 日中韓観光協力機構理事、NPO法人 日本ホスピタリティ推進協会会員なども務めておいでになります。保育園等の園内研修等でも指導を担当しており、最近では、伊勢志摩サミットに向けたホスピタリティの研修講師もなさっています。

 常に背筋を伸ばした姿で、ひとつひとつ言葉を選びながら、ゆっくり、けれども熱心にお話をなさる、とても素敵な方です。

 NPOの旧ウェブサイトに掲載していた記事「組織リーダーのあり方」も、近日中に復活させます。


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