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C-5. ×「すみません」、○「教えてくれてありがとう!」(2016年4月4日)


この内容は話し言葉だけでなく、メールや手紙などの書き言葉にもすべてあてはまります。メールでも「すみません」は多発します。


言っていただけているうちが華

 職場であれ、友人であれ、家族であれ、コミュニケーションの柱のひとつは、「言ってもらえているうちが華」です。裏を返すと、「誰からも、なにも言われなくなったら、私はおしまい」。

 「トピックス」のあちこちに書いてありますが、人間はミスをする生き物です。「見ているつもり」で見えず、「注意しているつもり」で上の空になる生き物。経験を積めば、ミスは減るかもしれませんが、逆に経験を積んで油断すれば、ミスは増えるでしょう。誰でもミスをすることがある、誰でもぼんやりすることがある、誰でも上の空になることがある、誰でもかん違いしていること、気づかないことがある。知らないことも山ほどある…。誰にでも間違いなくあるからこそ、「○○さん、~だよ」とまわりから言ってもらえるかどうかが鍵です。


言ってもらえなくなる理由

 この文化では、年齢が上がるだけ、立場が上がるだけで、まわりはだんだんアドバイスや間違いの指摘をしてくれなくなります。反対に、お世辞やおべっかは増えます。年齢が上、立場が上の人は、それだけで成長や変化のきっかけを失いやすいのです。

 一方、若くて立場が下でも、言われなくなる場合は多々あります。指摘やアドバイスに対して、「でも」「だけど」「違います。そうじゃありません」と言い返してみたり、見るからに「怒られちゃった!」という顔をしてみたりすれば、何回か後には「誰が言ってやるか」という気持ちに相手をさせます。これでは、育つことなどできません(※)。

 保育園で保護者コミュニケーションをする時も同じです。尊大な態度、聞いていない態度をしていたら言われなくなります。「保護者からなにも言われないなら、楽でいい」…でしょうか? 違います。「言わない=なにも思っていない」ではないからです。言いたくても言えないことがたまれば、人間の心はこじれてしまい、爆発した時にはもうほどくことができません。

 小さなことでも同僚、先輩、後輩、保護者から言ってもらえる、指摘してもらえる、アドバイスしてもらえる。それがあなたの成長と人間関係にとっては、もっとも良いこと。でも、それは「仲が良い」とは違います。この文化は仲が良くなれば良くなるほど、「嫌われたくないから言わない」になりがちだから。仲がいいから言えない。結局、お互いの成長を阻害してしまう。実は、言いたいことが言えなくて内心すごく腹を立てているのに、表向きは仲がいいままでいる。奇妙な文化です。

※「でも」「だけど」などについては、「言動を意識して、変えていくトレーニングの第一歩」(C-6)。


「言ってもらえない」が命を奪う

 そして、保育園で子どもの命を守ることを考えた時には、この「言ってもらえない=言えない」が致命的になります。「先生、それ、危ないよ!」「これ、やっぱり片づけておこうよ」「あれ、心配なんですけど…」という園内のコミュニケーション、そして、「先生、この活動は心配です」という保護者からの意見、そのひと言がなかったら子どもの命は守れません。保育施設は、プロとして他人の子どもを預かる場所。そこで「嫌われたくないから言わない」や「怖いから言えない」、「あの人になんて教えてやるもんか」があっては絶対にいけないのです。

 特に、園長や副園長、主任、リーダーが「言ってもらえない存在」だったら? 「命を守ろう!」といくら言っても、それはすべて内容のないお題目になってしまいます。上に立つ人間が、いかにして「言ってもらい続けられるか」です。


「言ってもらえる私」で居続けるには

 言ってもらい続けるコツは、とても簡単です。アドバイスや指摘をされたら、感謝している口調と表情で、「言ってくれて(気づいてくれて)ありがとう」「また、なにかあったら言ってね!」、目上の人や保護者には、「おっしゃってくださってありがとうございます」「なにかありましたら、いつでもおっしゃってください」と言えばいいのです。これで相手は、「言ってよかった! また言ってあげよう」と思います。これは話し言葉だけでなく、手紙でもメールでも同じです。

 もちろん、相手の指摘が間違っていることもあるでしょうし、アドバイスが筋違いなこともあるでしょう。なにより、指摘されたりアドバイスされたりしたら、誰でも一瞬、不快な気持ちにはなるものです。

 でも、まずは「ありがとう(ございます)」。なぜかというと、「言ってくれた」ということは、その人にとってあなたがまだ「言うに値する人間だ」と証明してくれたことになるからです。「言ってもらえる存在なんだ」、その部分についてだけは感謝できるはずです。感謝をした後に、必要なら間違いを(そっと)修正すればいいのです。

 人からなにかを指摘されると、「○○さんだってミスするじゃない。自分のことを棚に上げないで!」と言いたくなるかもしれません。でも、そのひと言は禁句。それを言ったら、次は言ってもらえなくなります。あなたが○○さんに似たような指摘をする機会も、どのみちすぐに来ます。誰でも間違い、誰でも失敗するのですから、要するに「お互いさま」。もちろんその時、「この間、私のことを注意したくせに、○○さんだってダメだったじゃない」などと鬼の首でもとったように言ってはいけません。これまた、あなたが言われなくなる原因になるからです。その気持ちは「お互いさま」の棚にしまって、穏やかに指摘しましょう。

 こうやって、一人ひとりが「言われやすい」集団になれば、お互いに「言いやすく」なります。「声を出せる職場」とは「言える職場」ではなく、まず「言ってもらえる職場」なのです。もちろん、気づいたことを明確に口に出すことは容易ではありませんし、つい相手を責めるような言い方にもなりがちですから、言い方は重要です(※)。でも、まずは皆が「言ってくれてありがとう」「気づいてくれてありがとう」と言えるかどうか、です。

※ものの言い方については、「『ものの言い方』と『真の笑顔』」(C-4)。


「すみません」ではなく、「ありがとう」

 ここでひとつ、大きな課題があります。誰かから指摘されたり、アドバイスを受けたりすると…、つい「すみません」と言ってしまうのです、「ありがとう」ではなくて。そうではありませんか?

 「すみません」については、「言動を意識して、変えていくトレーニングの第一歩」(C-6)にも少し書きました。基本的に謝罪の言葉です。謝罪と言ってもいまや、かなり軽い意味になってしまっており、「仕事では使うべきではない」という認識が一般的です(ましてや、「すみません」のくだけた言い方、「すいません」を使うのはもってのほかです)。私は、謝罪の意味で決して「すみません」を使いません(というか、「すみません」自体、気持ちの悪い中途半端な言葉なので、ほぼ使いません)。

 「言ってもらえる私」で居続けるためには、「すみません」はやめるべきです。なぜか。

1)「すみません」と言われ続けると言いたくなくなる

 「○○先生、これ、字が間違ってるよ」「あ、すみません」、「○○先生、Aちゃんの連絡帳、棚の上に置いたままだよ」「あ、すみません」、「○○先生、お菓子、とっといたから休憩の時に食べてね」「あ、すみません」…。すべて「すみません」で返していると、相手はだんだん言いたくなくなってきます。言ってはいけないことを言っているかのような気持ち、悪いことをしているような気持ちになるからです。

 「字が間違ってるよ」と言われた時、その人に謝罪する必要はありません。「あ、ありがとう! ほんとだ。よかった~、気がついてくれて!」でいいのです。「連絡帳、置いたままだよ」は確かに失敗かもしれませんが、その人に謝罪する必要は…、たぶんないでしょう。「ありがとうございます! すぐカバンに入れます。次は全員分チェックしますね」と言ったほうが良いでしょう。「お菓子とっといたから」、これはもう「ありがとうございます」以外にはありません。

 「すみません」と口にしたら、ふと考えてみてください。「今、私、この人に謝罪する必要があったかな」…。たいていはないはずです。ならば、「ありがとう(ございます)」にすべきです。

2)「すみません」と言われると、「あなたが悪い」と感じる

 「すみません」と言われると、言われた側には「そう、あなたが悪いんだ」という感情が生まれます。字を一文字間違えるなんてことは誰でもすることであなたが悪いわけではないのですが、「すみません」と謝ることで、相手の心には「あなたの失敗だ」というイメージが生まれてしまうのです。「ありがとう(ございます)」と言えば、これは起きません。


「ありがとう」は、相手の心に肯定感を生む

 「ありがとう」は、否定的な認知を生まないばかりか、相手の見方(認知)を肯定的に変えることもできます。たとえば、保護者にかけるこんな電話。「○○さん、Aちゃんの熱が上がっているんですけれども、早くお迎えに来ていただけますか? はい、ありがとうございます。4時半ですね。お願いします」、そして、4時半…。父親が迎えに来ました。(試しに、誰かの前で次の2つの文を声に出して、感情をしっかりこめて読んでみてください。)

「あ、○○さん、すみません、お忙しいのにこんなに早く迎えに来ていただいて。本当にごめんなさい。」

「あ、○○さん、ありがとうございます、お忙しいのにこんなに早く迎えに来ていただいて。本当にありがとうございます。」

 2つの文で違っているのは、「すみません」「ごめんなさい」と「ありがとうございます」だけです。でも、声に出して読むと、こめる感情と声のトーンがまったく違いますね。そして、聞いている側の感じ方もまったく違います。

 前者だと、言われた側は「ほんとだよ。忙しいのに、こんな早くに迎えに来るはめになって」という気持ちになり、後者だと「(早く帰ってきて)よかった」という気持ちになるのです(「迎えに来てください」と言う時の電話でも、「ありがとうございます」と言っているところに注意。電話の向こうで「忙しいのに…」「え、またですか」と言われると、どうしても「すみません」「申し訳ありません」と言いたくなりますが、そもそも保育園が謝るべきことでしょうか? あなたが「つい」口に出す言葉で相手の認知が作られ、「保育園に迷惑をかけられている」という感情を保護者に与えているとしたら?)。


「すみません」が「私、怒られた!」という感情を生む

 指摘やアドバイスは、あくまでも指摘やアドバイスです。理不尽に怒っているわけではなく、理由と意味があって伝えていること。ところが最近は、「なにか言われた=怒られた」と解釈する方もいるようです。場合によっては、「なにか言われた=怒られた=パワハラ」と一足飛びに考えてしまう人さえいるようです(※)。「言われているうちが華」なのですから、こういった解釈(認知の枠組み)をしていると自分が損をします。

 特に保育という仕事は、頭でわかってできる仕事ではありません。頭でおおよそわかっていても、目の前にいる子どもは一人ひとり違う。毎日違う。「どうしたらいいんだろう」と戸惑うことも少なくないでしょう。そんな時、「こうするんだよ」「こうしてみたら」「それじゃダメ」と言ってもらわなかったら、なにも身につかないのです。経験者ならすべてわかっているというわけではありませんが、保育経験(子育て経験ではありません)が浅かったら、まわりの保育者の行動から学び、教えてもらう以外に自分が育つ術(すべ)はありません。

 指摘やアドバイスをもらった時に「すみません」と言うと、「私は怒られるようなことをした」「私は怒られた」という解釈(認知)が自分の心の中に生まれます。「ありがとうございます」と言えば、「教えてもらってよかった」という解釈が生まれます。子どもに危害が及ぶようなことをしていない限り、先輩や同僚に謝る必要はないのですから、「すみません」と「ありがとう」のどちらが自分の心と成長のために良いかと言ったら…? 「ありがとう」です。

※ちなみに、厚生労働省のパワハラの定義はこちら


「謝らなくていいんじゃないかな」とあたたかい言い方で

 (4月5日加筆)…と、以上のことが頭でわかっても、つい言ってしまうのが「すみません」でしょう。そして、他人が言っている「すみません」(や他の口癖)は、気になって気づくのです。

 でも、「○○先生、また『すみません』って言った!」なんて、他人のことをあげつらっていてはいけません、絶対に。他人の口癖は気になっても、自分の口癖には気づかないものだからです。人が言っている「すみません」が気になったら、「自分も言っているはず」と自分に意識を向けるきっかけにしてください。

 そして、特に「上」の人たちへ。会話の中、「ありがとう」と言ったほうがよい時に相手が「すみません」と言ったら、あたたかい言い方で、「先生、今のは謝らなくていいんじゃないかな」と言ってください。そう言うと相手は、「あ、すみません」とまた言うかもしれません(言うでしょう、きっと)。そうしたら、「ほらあ!」とあたたかく笑いましょう、一緒に(バカにしてあざ笑ってはいけません!)。そして、「やっぱり言っちゃうよね。私も気をつけなきゃ(ニコニコ)」と。こういったあたたかいやりとりが、人間関係をつくる上では大切なのです。


「ありがとう」と「真の笑顔」が、自分の幸せ度も上げる

 これはおまけです。

 感謝の気持ちを明確に意識化し、表現すると、自分の心とからだのためにも良いということは、すでにさまざまな研究から明らかです(このページの「『感謝』の意識・表現が、幸せ度や健康に影響」。掛札の個人サイトに飛びます) 。

 そして、人に対して無表情で感謝をする人はいないでしょう。真の笑顔をすると、脳内にエンドルフィンが分泌され、自分の気持ち(ムード)は上がります(C-6. 「ものの言い方」と「真の笑顔」)。

 ということは? 自分自身のために(も)、できる限り多くの場面で真の笑顔をつくり、「ありがとう」と言うことです(「つくり笑顔」ではありません。「真の笑顔をつくる」です)。まずは自分の「すみません」を意識して、「今のは本当に謝罪が必要だったのか?」と考えてみてください。たいていの場合は、「ありがとう」だということに気づくはずです。そうしたら、「すみません」を少しずつ「ありがとう」に変えていきましょう。


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