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8-3. 災害予測時の保護者コミュニケーション

(2018年11月8日。2019年9月15日後半加筆、全体を一部修正、17日加筆

 8-1で、災害が予測される場合には、子どもと職員の命を守るため、保育園、こども園も休務(休園)すべきと書きました。2018年夏の災害を受け、これまでの「絶対開所」から「最終的には園の判断で」に変わった自治体も増えているようです。ただ、実際、自治体の中にはいまだ「『休園』という言葉を使うな」と強く指示する所もあるそうです。自治体が子どもと職員(場合によっては保護者も)の命の責任をとってくれるわけではない以上、そのように言われる筋合いは本来ないのですが、保護者の職種、地域の産業や業種の特徴によっては、「休務(休園)」と言いにくい部分はあるでしょう。実際、「休園」と伝えるのは、コミュニケーション上も得策ではないのです。

災害が休日もしくは休日明けに起こる場合については後半を参照。2019年9月15日、17日)

災害被害が予測される場合の掲示(言い方)

 ならば、このようにおっしゃってみてはいかがでしょうか?(掲示や一斉メールでも同じです。一斉メールが一番効果的かもしれません。特に、「話す」は「聞いていない」が起きます。)

 例文ですから、それぞれの状況に合わせて変えてください。8-1にも書いた大事な点ですが、すべて前日のできるだけ早い時間に、あるいは、予測が可能であれば前々日に出すこと、です。

〔雨と土砂災害。避難に関する情報が出そうな日の前日〕
「○月○日以来の雨(豪雨)により、洪水/氾濫/土砂崩れなどの危険が高まっています。自治体から避難に関する情報が出ると予測されますので、明日(または明後日、○日)は登園をお控えになることをお勧めいたします。」

〔台風。直撃されそうな日の前日か前々日〕
「現在、台風が○○地方に向かって進んでおり、○日の朝/昼には暴風域に入る可能性があるとの予報です。○日は登園/お迎えが危険になる可能性がありますので、明日(または明後日)は登園をお控えになることをお勧めいたします。」

〔大きな地震が起きた日〕
「本日の地震を受けて余震が続いています。明日も余震が続く可能性、あるいは本日の地震よりも大きい地震が起こる可能性もありますので、明日は登園をお控えになることをお勧めいたします。」

〔積雪が予想される前日(特に、雪に慣れていない地域)〕
「現在、雪が降り続いており、明朝には園の周辺も積雪が予測されます。車のスリップや転倒などの危険も考えられますので、危険と判断した場合には明朝の登園をお控えになることをお勧めいたします。」
「夕方から夜中にかけて雪が降るという予報が出ており、明朝には~(以下同)」
(可能なら、この後に…)「明朝○時の時点で、園周辺の積雪量を一斉メールでお送りいたしますので、判断の参考になさってください。」

なぜ「お勧めします」か

 「登園を控えるようお願いします」「登園を控えるようにしてください」と書く(言う)と、園からの依頼文になります。あたかも園がお願いしているかのように読めて(聞こえて)しまうのです。

 一方、「登園を控えるようお勧めします」と書くと、それは対等な呼びかけです。「私たち園はこう考えてこのように勧めますが、判断をするのは保護者のあなたです」という意味になります。たいていのコミュニケーション、そして多くのリスク・コミュニケーションに共通することですが、人間は押しつけられることそのものを嫌がります。情報を渡して「あなたが自分で決めて」「あなたが選んで」と言い、選択権を相手に渡すことが信頼関係を築く基本なのです。

 「お願いします」や「~しなさい」は相手に選択権を与えず、それ以前に相手から考える機会と考える力を奪っている言い方です。(同じように、自治体の「休務(園)まかりならぬ」も、園の判断する力と、判断するための責任感を奪っている言い方であり、「自治体が開所しろと言うから」「自治体が休園していいと言わないから」という判断/責任放棄を育てる言い方です。)

このような掲示(メール)が機能するには

 8-1に書いた通り、休園したからといって職員が一人も出勤しないわけではありません。園の被害を考えて、責任者や、すでに子どもが独立している職員で園の近くに住んでいる人たちを中心に、誰かしらは出勤します。そして、子どもも誰かしらは、なにかしらの理由で登園するでしょう。「お勧めします」と伝えたのですから、登園は保護者の側の選択であり、保護者の側に責任の一端が明確にある行動です。「考えて、登園すると自分が判断した」という意識を保護者も持つべきです。「お願いします」や「~ください」では、この意識は生まれません。

 もちろん、災害時に出勤・出動の必要があると明らかにわかる職種に就くということは、それ自体が責任あるおとなの選択です。保育園やこども園の園長にも、(避難所になっているなら)幼稚園や学校の施設長にも出勤する責任はあるということになります。災害が予想されるのに、施設長や理事長が自宅にいるというのはまずありえないでしょう。そのような態度では保護者との信頼関係は作れません。

 そして、このようなコミュニケーションが成功裡に終わるためには、8-1の後半に示した通り、地域のハザードについて保護者に情報提供を続け、園と保護者がコミュニケーションをし、保護者も園周辺と地域全体の災害リスクを理解するよう取り組んでいくことが不可欠になります。面倒なことかもしれませんが、そうすることで保護者は家庭でも災害対策をでき、園も被害が予測される時に多くの子どもを預かる必要がなくなります。

 こういった対策をとっても、たいていの場合はたいした被害になりません。園も保護者も「大丈夫だったのに」と感じることでしょう。でも、もう一度、8-1の「判断を難しくするバイアス」読み返してください。人間は天候に関して、「用心したけど大丈夫だった時」の後悔ばかり記憶に残す生き物なのです。そして、用心して予防行動をとった時は被害が起きませんから、やはり「大丈夫だった」という記憶だけが残ります。でも? こうした記憶にばかり引っ張られて「きっと大丈夫だから開所しよう」「きっと大丈夫だから子どもを連れて行こう。仕事に行こう」と考えて被害にあったら? 園も職員も保護者も後悔どころでは済みません。

休日または休日明けに災害(台風)が予測される場合

(2019年9月15日加筆、17日加筆)

 2019年9月8日(日)、関東を直撃した台風15号によって、8-1およびこのページ前半に記載したのとは異なる課題が明らかになりました。日曜日(祝祭日)から月曜日(平日)にかけて災害が発生する場合のリスク・コミュニケーションについて、です。

 休日は、組織内のコミュニケーションが滞ります。それは保護者が働いている組織内であれ、保育園(法人)内であれ、同じです。

 8-1に書いた京都市(2018年夏)の場合、台風が直撃するであろう日の前日、それも4時ぐらいという、まだ大半の保護者が職場にいる時間に市が「明日は保育園も休み」と決め、大部分の園がそれをすぐ保護者に伝えたため、その後の京都市の調査でも混乱はほぼ報告されませんでした。わかって登園した保護者はいましたが、それは想定内。園の被害のリスクも高かったため、施設長や近隣に住む保育士は出勤しており、預かることに問題はなかったようです。つまり、保護者が職場にいて、その場で「明日は保育園、休みです!」と宣言できたことが功を奏したのです。

今回のような場合の問題点

 台風が日曜日(休日)から月曜日(平日)にかけて来る場合は、状況がまったく異なります。今回、全保育園の臨時休園を決め、日曜日の午後、自治体のサイトにその旨を公表した政令指定都市がありました。「首都圏JRが運休するから」というのがその理由です。問題点は以下の通りです。

1)日曜日(休日)にいったいどれほどの園、保護者に情報が伝わるか。この自治体が園の管理者に日曜日、直接、連絡を取ったのかどうかはわかりませんが、園に伝わらなければ、まず保護者には伝わらないでしょう。保護者は園のサイトは見るかもしれませんが、自治体のサイトは見ないと考えるべきです。また、保護者は容易に「情報なんて見ていない」と言えます(実際には見ていても)。

2)首都圏の鉄道は「まだら運休」でした。もちろん、地域によっては自動車登園、自動車通勤の保護者も多数います。つまり、日曜日に突然、自治体から「休園」と言われても、登園も出勤もできる保護者が多数いたのです(ツイッターにも、この自治体に住む困惑した保護者の書き込みがありました)。「JRが運休するから」では理由にならないのです。

 もちろん、「朝8時から運転再開」などという楽観的な予測を出してしまって、実際には昼頃まで電車が動かなかったという、鉄道会社側の問題もあります。すべての鉄道会社が「原則、始発から一日じゅう運休」としていれば、この混乱は生じなかったと思いますが、いずれにしても自動車通勤・登園の保護者とは無関係な話です。


このような条件下の対応

 では、どうするか。

 まず、金曜日(祝日前日または前々日)の送迎(朝夕)の段階で、「月曜日は~が予想されますから、登園をお控えになることも選択としてお考えください」「遅くとも日曜日の朝には一斉メールを出しますので、必ずご覧ください」と掲示しておく(登園していない子どもがいたらメールで連絡)。台風の進路は金曜日にはかなり確定しているはずです。確定していなくても、または直撃ルートではなくても、最低限、「月曜日は~が予想されます。日曜日の朝までには一斉メールを出しますので、必ずご覧ください」を言っておいて損はありません。金曜日の送迎時、です。これによって保護者の中には、職場で「月曜日は保育園、休みかも」と言える人が出てきます。

 そして、日曜日(休日)朝以降のメールでは、このページの上半分やB-4(発熱、体調不良時)の内容同様、情報だけを提示して、とにかく保護者に選ばせる。そして、自治体が休園と言ったのだから明日は誰も出勤しなくていい、ではなく、誰かが登園してくるだろうという予測のもと、施設長はじめ、近隣に住んでいて家庭の負担が少ない職員が数人、出勤する(土砂崩れやひどい浸水害が予測される場合は、まったく別です。この時ばかりは「休園します」どころではなく、「危険ですから、絶対に登園しないでください」です)。これは2018年夏の京都市のように平日であっても同様ですが、日曜日であれば特に重要になります。

 一斉メールの内容は…。

1)メールですから、短く簡潔に。一斉メールに「いつもお世話になっています」的な文章は不要。

2)「気象庁の予報では、台風の進路が~となっており、日曜日夜(月曜日朝、など)に付近を通る可能性があります」と、客観的な予報(情報)を書く。

3)「道路を含め、交通がマヒする可能性があります」「計画運休が発表されています」「冠水が予想されます」など、リスクを書く。「土砂崩れが予想されている」なら、以下は「危険ですから登園しないでください」になります。

4)「園では、停電、断水の危険があるほか、道路・鉄道事情で出勤できない職員も複数いると予測しています」「園としては、危険な状況の中、職員全員に出勤を求めることはできません」「通常の保育はできず、安全を第一に、合同保育を行うことになると考えられます」「安全に保育をできる状況ではない危険性もあります」と、園側のリスクを明確に書く。「出勤・登園はできる」と考えた保護者も、ここで「そうか」と思い直す可能性がある。

5)深刻度の予測に応じて、「月曜日は登園をお控えになるようお勧めします」「都合のつく方は、家庭でお過ごしになることをお勧めします」など、日曜日(祝日)朝の段階で伝える。ここで「お願いします」と書いてしまうと、相手に選択を求めるのではなく、相手に依頼する(押しつける)形に近づいてしまうので、お勧めしません。選ぶように求められれば、人間は選びます。そして、選んだ行動にはそれなりの責任を持ちます。選ばせることをしないから、選べなくなっていくのです、子どももおとなも。

6)「停電、断水、冷暖房の故障、園周辺の冠水や倒木等の情報については、明朝の〇時に一斉メールを出しますので、必ずご確認ください」と書く。そして、休み明け明朝に情報を出します。

7)最後、「ご理解、ご協力をお願いいたします」も不要です。これまた「押しつけ」のニュアンスがあるので。「お勧めします」「ご確認ください」の後は、「よろしくお願いいたします」で終わり。

8)「登園する際はお気をつけて」や「ご家庭でもお気をつけて」といった文章は入れない。そもそも、一斉メールの内容とは無関係なので。気づかいなのだから入れるべきと考えるかもしれませんが、「登園する際はお気をつけて」は登園すると決めた保護者に対するいやみに、そして、「ご家庭でもお気をつけて」は出勤しないと決めた保護者に対するいやみに聞こえる可能性があります。

 以上の作業はすべて一斉メールを通じて行いますから、一斉メールは必須です。そして、開封確認のできるシステムがよいと思います。


その他の点

●休み明け、登園してきた子どもは、「お伝えしているような状況ですが、お預りしますね」と伝えて預かる。「状況が悪化したらすぐにご連絡しますから、いつでも必ず連絡がとれるようにしてください」と伝え、その日の緊急連絡先(職場内の伝言先も)を確認する。ここで「預からないから帰宅してください」と言うこと自体、保護者と子どもにとって危険な場合もありえます。

●保護者の中には、「判断の基準を決めてくれたらいいのに」と言う方もいるようです。今回、臨時休園を決めた政令指定都市も「午前6時の段階で、警戒レベル3になったり、JR全線が運休したりした場合には、臨時休園」と決めているようです。でも、皆さんご存知の通り、当日の朝になって「休園」と保護者に伝えても、ほぼ無理であり、コミュニケーションのこじれを生むだけです。当日朝の状況をその日の判断基準にするのは最悪です。一方、京都市は、昨年度後半、新たに作成した災害対応のガイドラインでもっと前倒しした判断の基準を決めた上で、「それぞれの施設の判断で」としています。最良の方法です。ですから、「自治体の判断基準は~ですが、急に『休園』と言われても私たちも保護者の皆さんも困りますよね。ですから、私たちの園では、できる限り早い時点で皆さんにご検討いただくようにしていきます。災害は毎回、違うので、ひとつの基準を決めてしまうことはかえって危険です」と伝えましょう。

●もうひとつ、保護者同士で「明日は園、行く? どうする?」といった会話をネット上でしている場合も多いようです。これは「行ってもいいのかな、どうしようかな」という気持ちの表れですから、実は上のように「登園するという判断をするなら、どうぞ」という姿勢で園が向かえば、問題なくなります。「休園します」と言っておいて、「〇〇さんは結局、登園して、預かってもらえたんだ」という話になったら問題です。だから、とにかく「休園」は言わず、「こういう状況になりますが、登園するという判断をするならそれはあなたの責任ですることですから、どうぞ」と伝えればいいわけです。

(以下3項目は9月17日加筆)
●停電等により、休み明けの朝、電話がつながらない場合もあります。金曜日または休日前日の送迎時の段階で、停電や断水、電話不通のリスクを伝えた上で、「電話がつながらない場合があります。また復旧等の対応に追われた状態になると思いますので、当日の電話等の問い合わせはお控えください。●時以降、こちらから一斉メールで状況をご連絡します」と伝えましょう。そして、一斉メールを出す度に、「次は●時に送信します」と伝えるのです。予告をしたら、必ずその時間にメール送信を。

●電話がつながらない状態でも一斉メールは出せるよう、通信キャリア(できれば、ポータブルWi-Fiルーターも)は複数確保しておきましょう。一斉メールが出せるパソコンも複数用意しておきます。

●電子錠の場合、まず園を開けることができないリスクがあります。電子錠を手動で開ける鍵を個人が持っていると、その人が出勤できなかった場合に開所できません。この場合、パスワードのついたキーボックス(不動産屋さんが使っているものです)を園のどこかに設置しておくという方法があります。パスワードは固定ではなく、変えられるものがお勧めです。


 途中で書きましたが、人間は他人に動かされている間は自分で考えませんし、選択しませんし、動きません。「情報を与えて選択させる」、これは災害時だけでなく、発熱時や体調不良時も同じです。自分で考えられない、選択できない、動けない子どもやおとなを育てているのは、「良かれと思って、行動を押しつける」この文化の特徴でもあります。この文化には「良かれと思って」があるために、自分にとっては迷惑な行動やよけいなお世話をされても、「まあ、良かれと思ってやってくれているんだから」と納得できる部分もあります(=押しつけに耐えられる)。でも、結局これは、自分で考え、自分で選び、ほしいものは「ほしい」と言い、要らないものは要らないと言う態度の形成を阻害します。「良かれと思って」は、子どもに対してもおとなに対しても、あらゆる場面でやめるべきなのです。

おまけ(他者に対して使えない言葉)

 「登園をお控えになることをお勧めします」のところで、「これまで『登園を自粛してください』と言っていましたが、間違いでしょうか?」とご質問いただきました。間違いではないのですが、使うべきではありません。「自粛」は自分側が「自粛します」と使う言葉で、他人に「自粛してください」と言う言葉ではないのです。

 言葉の中には、自分の側で使うのと他人に向かって使うのとでは適切さが変わってしまうものがあります。「自粛」はその一例ですが、自粛以上にはっきりしているのは、たとえば「了承」という言葉です。「了承」は、「ご了承ください」「ご了承のほどよろしくお願いいたします」とこちらから言う時にしか使えない、と覚えておくのが安全です。「了承(いた)しました」と言って(書いて)はいけません(「承知いたしました」等が正解)。「了承」は上から下に向けた言葉、それもかなりの落差のある言葉ですから、日常、「了承(いた)しました」と使うことはありえません、自治体の長が部下に向かって「了承しました」なら、まあ、わかりますが…(上から下、なので、了承「いたしました」はもともと、ない)。「承諾」も「了承」と同じです。「ご承諾ください」と使い、「承諾(いた)します」とは言えません。

 言葉は変わっていくものですから、こちらに書いた「了解」同様、「了承」も「承諾」も「~しました」と使えるようになる日が来るのかもしれません。でも、少なくとも今の時点では、「了承しました」「承諾いたしました」と書かれたメールを見て唖然とする人が、多少なりともいるのです。



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