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8-3. 災害予測時の保護者コミュニケーション(2018年11月8日)


 8-1で、災害が予測される場合には、子どもと職員の命を守るため、保育園、こども園も休務(休園)すべきと書きました。今夏の災害を受け、これまでの「絶対開所」から「最終的には園の判断で」に変わった自治体も増えているようです。ただ、実際、自治体の中にはいまだ「『休園』という言葉を使うな」と強く指示する所もあるそうです。自治体が子どもと職員(場合によっては保護者も)の命の責任をとってくれるわけではない以上、そのように言われる筋合いは本来ないのですが、保護者の職種、地域の産業や業種の特徴によっては、「休務(休園)」と言いにくい部分はあるでしょう。

災害被害が予測される場合の掲示(言い方)

 ならば、このようにおっしゃってみてはいかがでしょうか?(掲示や一斉メールでも同じです。一斉メールが一番効果的かもしれません。「話す」「貼る」は「聞いていない」「読んでいない」が起きます。)

 例文ですから、それぞれの状況に合わせて変えてください。8-1にも書いた大事な点ですが、すべて前日のできるだけ早い時間に、あるいは、予測が可能であれば前々日に出すこと、です。

〔雨と土砂災害。避難に関する情報が出そうな日の前日〕
「○月○日以来の雨(豪雨)により、洪水/氾濫/土砂崩れなどの危険が高まっています。自治体から避難に関する情報が出ると予測されますので、明日(または明後日、○日)は登園をお控えになることをお勧めいたします。」

〔台風。直撃されそうな日の前日か前々日〕
「現在、台風が○○地方に向かって進んでおり、○日の朝/昼には暴風域に入る可能性があるとの予報です。○日は登園/お迎えが危険になる可能性がありますので、明日(または明後日)は登園をお控えになることをお勧めいたします。」

〔大きな地震が起きた日〕
「本日の地震を受けて余震が続いています。明日も余震が続く可能性、あるいは本日の地震よりも大きい地震が起こる可能性もありますので、明日は登園をお控えになることをお勧めいたします。」

〔積雪が予想される前日(特に、雪に慣れていない地域)〕
「現在、雪が降り続いており、明朝には園の周辺も積雪が予測されます。車のスリップや転倒などの危険も考えられますので、危険と判断した場合には明朝の登園をお控えになることをお勧めいたします。」
「夕方から夜中にかけて雪が降るという予報が出ており、明朝には~(以下同)」
(可能なら、この後に…)「明朝○時の時点で、園周辺の積雪量を一斉メールでお送りいたしますので、判断の参考になさってください。」

なぜ「お勧めします」か

 「登園を控えるようお願いします」「登園を控えるようにしてください」と書く(言う)と、園からの依頼文になります。あたかも園がお願いしているかのように読めて(聞こえて)しまうのです。

 一方、「登園を控えるようお勧めします」と書くと、それは対等な呼びかけです。「私たち園はこう考えてこのように勧めますが、判断をするのは保護者のあなたです」という意味になります。たいていのコミュニケーション、そして多くのリスク・コミュニケーションに共通することですが、人間は押しつけられることそのものを嫌がります。情報を渡して「あなたが自分で決めて」「あなたが選んで」と言い、選択権を相手に渡すことが信頼関係を築く基本なのです。

 「お願いします」や「~しなさい」は相手に選択権を与えず、それ以前に相手から考える機会と考える力を奪っている言い方です。(同じように、自治体の「休務(園)まかりならぬ」も、園の判断する力と、判断するための責任感を奪っている言い方であり、「自治体が開所しろと言うから」「自治体が休園していいと言わないから」という判断/責任放棄を育てる言い方です。)

このような掲示(メール)が機能するには

 8-1に書いた通り、休園したからといって職員が一人も出勤しないわけではありません。園の被害を考えて、責任者や、すでに子どもが独立している職員で園の近くに住んでいる人たちを中心に、誰かしらは出勤します。そして、子どもも誰かしらは、なにかしらの理由で登園するでしょう。「お勧めします」と伝えたのですから、登園は保護者の側の選択であり、保護者の側に責任の一端が明確にある行動です。「考えて、登園すると自分が判断した」という意識を保護者も持つべきです。「お願いします」や「~ください」では、この意識は生まれません。

 もちろん、災害時に出勤・出動の必要があると明らかにわかる職種に就くということは、それ自体が責任あるおとなの選択です。保育園やこども園の園長にも、(避難所になっているなら)幼稚園や学校の施設長にも出勤する責任はあるということになります。災害が予想されるのに、施設長や理事長が自宅にいるというのはまずありえないでしょう。そのような態度では保護者との信頼関係は作れません。

 そして、このようなコミュニケーションが成功裡に終わるためには、8-1の後半に示した通り、地域のハザードについて保護者に情報提供を続け、園と保護者がコミュニケーションをし、保護者も園周辺と地域全体の災害リスクを理解するよう取り組んでいくことが不可欠になります。面倒なことかもしれませんが、そうすることで保護者は家庭でも災害対策をでき、園も被害が予測される時に多くの子どもを預かる必要がなくなります。

 こういった対策をとっても、たいていの場合はたいした被害になりません。園も保護者も「大丈夫だったのに」と感じることでしょう。でも、もう一度、8-1の「判断を難しくするバイアス」読み返してください。人間は天候に関して、「用心したけど大丈夫だった時」の後悔ばかり記憶に残す生き物なのです。そして、用心して予防行動をとった時は被害が起きませんから、やはり「大丈夫だった」という記憶だけが残ります。でも? こうした記憶にばかり引っ張られて「きっと大丈夫だから開所しよう」「きっと大丈夫だから子どもを連れて行こう。仕事に行こう」と考えて被害にあったら? 園も職員も保護者も後悔どころでは済みません。




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