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7-2. 食材の早期摂食開始について(2017年3月31日)


「園でも早く食べさせて」は認めない

 2016年末、2017年始とあいついで、「早く食べさせ始めるとアレルギー発症を予防できる」というニュースが出ました。ひとつは卵、もうひとつはピーナッツです。保育園でも、保護者から「発症予防のために早く食べさせて」という要望が出る可能性があります。その時は、「保育園は子どもを集団でお預かりする場所ですから、お子さんだけを特別に扱うことはできません」と、はっきり断ってください。また、「食物アレルギーの専門医から『~の量なら食べさせていい』という指示をもらった」と言われる場合もあるかもしれません。その時は、「保育園は集団給食ですから、まったく食べさせないか、他の子どもと同じ量を食べさせるか、どちらかしかできません」です。いずれも、「お医者さんと相談しながら、ご自宅で進めていってください」と繰り返しましょう。

 下に、アレルギーに関していただいた質問にお答えしたもの(ブログ、2016年12月)、卵の早期摂食開始について書いたもの(ブログ、2016年12月)、ピーナッツの早期摂食開始について書いたもの(最新情報、2017年1月)を掲載しておきます。最後の「補足」もお読みください。


食物アレルギーと保護者の行動

〔質問〕
・保護者が家庭で食べさせたもののチェック表を記入してくれない(食材はまず家庭で食べさせてから、なので、チェックをしてほしい)。
・アレルギーとわかっている(診断書が出ている)のに、保護者が作ってくる弁当にはアレルギー食材が使われている。伝えても変わらない。
・診断書が出ていて、園では除去をしているのに、子どもの話では、明らかに食べてはいけないものを家で食べている。
・離乳食の種類を広げたいが、「アレルギーが心配なので」「まだ食べさせたくない」と保護者が非常に限られた食材しか使わない。

〔掛札の回答:上の質問に回答がそれぞれ対応しているわけではありません。〕
 そのお子さんの健康に責任を持っているのは、基本的に保護者です。いただいた質問のような内容まで指すわけではありませんが、「医療ネグレクト」(日本小児科学会)というものもあることを、まず頭の中に入れておいてください。
 「ご家庭で食べたものを教えてくださいね」「アレルギーを起こすものが入っていましたよ」「〇〇のようなものももう食べられると思います」と何度も声をかけることは大切です。でも、保護者が気にしない、聞かない、あるいは「うるさい」「ほっといて」といった態度を取り始めたら…?

1)そのような事態(聞かない、気にしない)が起きていることを、保育・子育て関係部署に伝えましょう。事態が深刻になってからだと、「なぜ今まで報告しなかった」と言われる可能性があるからです。

2)食材の種類の多寡によって発育に問題があるかどうかは、主観的に考えるべきではありません。成長曲線を記入していき、いずれかの曲線からはずれ始めたら、関係部署、園医等に伝えるなどする。とにかくその子の健康データを蓄積しましょう(掛札は元・健診団体勤務で、成長曲線の勉強も「門前の小僧」でけっこうしましたから…)。

3)保護者が「食べさせないで」と言っているなら、それでよいと考える。
・「園の判断で食べさせました」でもかまわないのかもしれませんが、保護者はどう感じるでしょうか。もしそれで何か健康問題が起きたら? 
・アレルギー発症予防のために、食材を早く食べさせ始めたほうがいいのか、それとも一定期間待ったほうがいいのかは、論文が少し出始めた状態です。まだまだ結論は出ていません。ネット上にはいろいろ書いてありますが、医学上はまったく答えが出ていません(下のピーナッツは米国の専門医団体がガイドラインとして出したものですから、現時点の答えと考えてよい。下の卵は「早いほうがいい」という証拠のひとつにすぎない)。
・欧米ではvegan(ベジタリアンよりも厳しく、卵や動物乳も一切とらない)の保護者が乳児をvegan食で育て、深刻な栄養失調にしたために逮捕、または子どもが保護されている事例が複数報告されています(ミルクの代わりに豆乳、など)。もしもこのような極端な食を求められた場合には、保育・子育て関係部署とすぐに相談してください。もちろん、「宗教(文化)食」はこれとは異なります。

4)保護者が作ってきた弁当にアレルギー食材が入っている時は、その旨、記録をしておく(弁当は写真撮影)。保護者に電話をして確認をとったのであれば、その旨と内容も記録。そして、子どもになんらかの症状が出たら、すぐ保護者に連絡する(湿疹や発赤は写真を撮っておく。迎えに来た時には薄く消えている場合が多いので)。これは、保育園としては最善の努力をしているという事実の記録です。


卵の早期摂食開始について

 2016年12月9日、「乳児期からごく少量の卵を食べ続けることで、その後の卵アレルギーの発症率が下がった」というニュースが出ました。これで「卵を少しずつ食べさせて!」という保護者が増える可能性があります。その時のために…。

・「すでに卵アレルギーを発症している場合はまねをしないでほしい。卵を十分加熱していない場合もアレルギーを起こしやすいため危険があり、必ず専門医に相談してほしい」と、研究グループの大矢幸弘・国立成育医療研究センターアレルギー科医長は言っています(毎日新聞記事)。同センターのページにも、冒頭にそう書いてあります。

・この研究で、乳児が摂取した卵の量はゆで卵に換算して1日1グラム以下であり、保育園でできることではありません。この実験の前に行われた英国の研究は摂取量が今回よりも少し多く、摂取開始直後からアレルギーを発症した子どももいるそうです(毎日新聞記事)。ということは、この研究のようなきわめて管理された環境で、ごく少量の卵でしかできないということです。

・結果は、卵アレルギーの発症率が卵摂取グループで「下がった」だけであり、卵を早く摂取した子どもたちすべてが卵アレルギーを「発症しなかった」わけではありません。

 この研究結果は、結論ではありません。「こうすればこうなる(結論の断定)」ではなく、「こうするとこうなる確率が上がる(下がる)ことが示唆された」だけです。


ピーナッツの早期摂食開始について

 2016年1月、米国で発表されたアレルギー発症予防のためのピーナッツ摂取の改訂指針が報道されましたが、内容はきちんと紹介されていません。元の文書(英語)から必要なところを簡単に要約します。訳出している部分は日本語として読みにくいかもしれませんが、ご了承ください。こちらはガイドライン(指針)なので、ピーナッツ摂食に関する暫定的な結論です。

 ちなみに、ここで言っている「ピーナッツ」とは、ピュレ状のものやパウダー状です。決して豆そのものではありません(窒息の危険あり)。粘度の高いもの(ピーナッツバターのようなもの)でも、はりついて窒息する危険性があります(※)。

 また、あくまでもこの話はこの時期のことであって、この時期以降の場合にどうするかはまったく別ですし、この時期以降、すでにピーナッツのアレルギー症状がみられている場合もまったく別です(と元文書にも書いてありますが、そこまで訳していられません、ごめんなさい)。

1)深刻な湿疹がある、または/および卵アレルギーがある場合

 「ピーナッツ抗原特異的IgEテスト(血液検査)、及び/または、プリック試験(注:皮膚をひっかく)、そして必要であれば経口負荷試験を、専門家のもとで行うことを強く考慮に入れる。これらの数値をもとに、ピーナッツを含むものを摂食するかしないを決定する」(訳文)

 元の文書には、こうしたテストの結果をどのように判断するかという分類基準も示されています。深刻な湿疹や(と)卵アレルギーがある子どもと言っても、上の検査結果はそれぞれに異なり、その結果によって対応を決める必要があるからです(記事では「医師に相談の上」としか書かれていない部分)。日本の関連学会も訳すでしょうし、専門医であれば読むはずです。逆に、この文書に書かれている診断基準を知らない、専門外の医師のもとで下された判断に従うのは危険です。「医者がいいと言ったから」ではなく、検査結果(数値)と診断書の提出を求めてください。

★検査の結果、「摂食してよい」という場合に摂食を開始する時期:生後4~6か月。ただし、「それまでにピーナッツ以外の固形食を食べていて、固形食を食べ慣れていないことによって起こる他の問題(アレルギー症状と見間違えられる可能性がある)がないこと」(訳文)

 「摂食してよい」という場合、家庭で開始・継続することとなっています(このガイドライン自体、集団の場で提供されることを想定して書かれていません)。家庭では不安がある場合には医師等の管理下で摂食を行うこと。

2)軽度~中程度の湿疹がある場合

 生後6か月の頃からピーナッツを含む食事を与える。ただし、それまでにピーナッツ以外の固形食を食べていること(同上)。家庭で摂食し始めるが、場合によっては医師等の管理下で行う。

3)湿疹がなく、他の食物アレルギーもない場合

 固形食の導入と同時にピーナッツも入れる。


補足

 ピーナッツも卵も、すでに発症している子どもに今から食べさせてよいという話ではありません。他の徴候がなければ、それぞれの研究で言っている時期に摂食を開始することで、当該食物に対するアレルギー発症を減らせる確率が高い(「発症を減らせる」「発症をなくせる」ではありません!)だけです。保育施設等における対応は、
★ピーナッツも卵も「他にアレルギーやアトピー性皮膚炎の症状がない」と明らかな乳児について、
★家で何度も食べさせてもらい、症状が出ないことを確認したうえで、
★でも、きょうだいにアレルギーがいるなど不安な場合は、専門医の検査を受け、診断書をもらって、です。
 よく「家で一度食べた上で」とおっしゃいますが、本当にそれが初回摂食であった場合、2度めに保育園で食べたら発症する可能性があります(食べて初めて、抗体ができるので)。ですから、「家で一度食べて大丈夫だったもの」ではなく、「家で何度も食べて大丈夫なもの」です。

 もうひとつ、「家で食べさせて大丈夫なようですから、園でも食べさせてください」と、診断書(指示書)が出ているのに解除を求めてくる場合もあります。対応指示書だけでなく、解除の書類も医師から出してもらうようにしてください。保護者がしぶっても、「お子さんの命を守るためですから」と繰り返しましょう。

 そして、同じ「小児科医」と言っても専門領域はあります。「うーん」と思ったら、食物アレルギーの専門医を受診するよう勧めてください(リンクの「食物、食物アレルギー」に専門医検索サイトを置いてあります)。ただし、「アレルギー」専門の小児科医であっても、皮膚、呼吸器のアレルギーの専門医という可能性も十分あることをお忘れなく。その点では、エピペンを販売しているファイザーの検索のほうがよいかもしれません。


※フランスで2016年12月21日、生後10日の子どもがビタミンDの液体サプリメントを摂取した直後、窒息の様相を示し、2時間後、死亡しました(BBCのニュース、英語)。プラスチックのピペットを使って口に入れ、飲み込ませるタイプのものですが、この製品は(他のビタミンDサプリメントと違って)「あぶら状」であったことが理由ではないかとされています。この製品自体、子どもが液体の塊を一気に飲み込まないよう、ピペットの穴を改善したり、飲ませる時の姿勢を指示したりしてきましたが、飲み込む時の危険性についてはこれまでも言われてきたようです。
 フランスでは欠乏症予防のため、ビタミンDを5歳まで飲ませるそうですが、この製品は日本で公式には売られていません。成分の話ではなく、死亡の理由が重要です。つまり、液体でも「塊」であれば窒息する可能性があるということです。ピーナッツバターのような粘度の高いものでも十分、窒息は起こり得るでしょう。


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