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A-0. 「子どもの最善の利益」を保障する:年度末、年度初めに保護者に伝える基本文書(2018年1月26日)


1月27日に加筆(文書項目2に在園中に発症・診断した疾患)、修正(解説の「自由契約」を「直接契約」に。

 下の文章は、とある所で私(掛札)が民間園の園長先生たちと話をしていて生まれ、その後、「そうだね」「これもあるよ」とあちこちで肉付けしていただいたものです(さらなるご意見等はブログにコメントをしてください)。

 「こういう内容を重要事項説明書に入れておかないと、もう、子どものための保育はできないね」、そこから始まっています。重要事項説明書に入れられなくても、主旨は4月、または入園の段階で保護者全員に伝え、紙面で渡しておくべきです。そして、保護者に伝えたら、自治体にも「子どもたちのため、保護者にこのようにお伝えしました」と報告しておくべきです。「こんなことを園から言われた」と自治体に言う保護者もいるかもしれません。情報は、常に「先に、事実を、冷静に、伝えたものの勝ち」であることを忘れないでください。

 なぜ、これを伝えておかなければ保育はできない、のでしょうか? 保育は「子どもの最善の利益」のためにあるけれども、当事者の子どもたちは自分で「これじゃ、私たち、僕たちが育てないよ」とは言わないし、言えないからです。言葉もなく、投票権もなく、地元の政治家も自治体職員も知らず、税金も払っていないから。でも、その子どもたちの声を無視し続けたら? 子どもたちに将来はありません。今、おとなをしている私たちの将来もありません。

 保育は子どもたちの姿から学び、まだ声にならない声を聞き、それを社会に伝える大切な媒体でもあると思います。保育士は、子どもをみる専門職なのですから。保育は、今、私たちの目の前にいる子どもの立場、この子どもたちの将来の姿の立場に立つべきです。「とにかく預けて働け」とだけ言う国や自治体や企業の立場ではなく。そして、保護者と共に、子どものために仕事をするべきです。保護者と闘うのではなく。そしてもちろん、必要な時は保護者とも闘わないと。子どものためには。

 重要事項説明書でも、あるいは入園前や年度初めの保護者会ででも、使ったら、またはご質問がありましたら、ぜひブログに「使ったよ」「保護者に話したよ」「これはどう伝える?」と書いてください。もちろん、園名も名前も何も要りません。


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お子さまをお預かりする上でもっとも大切な点

 『保育所保育指針』は「基本原則」の中で、「(保育所は子どもの)健全な心身の発達を図ることを目的とする児童福祉施設であり、入所する子どもの最善の利益を考慮し、その福祉を積極的に増進することに最もふさわしい生活の場でなければならない。」と定めています。そして、「家庭との緊密な連携の下に、子どもの状況や発達過程を踏まえ、保育所における環境を通して、養護及び教育を一体的に行うことを特性としている。」とも述べています。

 「子どもの最善の利益」を大切な基本とし、私ども〇〇園が〇〇様の大事なお子様をお預かりする上では、まず、園と保護者様の間に長期にわたる信頼関係を構築していくことが前提となります。つきましては、

1)お子様の成長・発達に関するできごと、私どもが気づいた点は、小さなことであっても明確にお伝えします。保護者の方にとっては、良いことばかりではなく、聞きたくないとお感じになること、認めたくないとお感じになることもあると思いますが、未就学期の気づき、特にご家庭の環境とは異なる(長時間の)集団生活の中の気づきは、お子様の育ちと将来に深く関わることも多々ありますので、あらかじめご承知おきください。

2)お子様をお預かりする上で重要な情報(例:家庭での発熱・嘔吐等の体調不良や家庭での投薬、ご家庭や登園中に起きたケガ等)は、こちらがお尋ねしなくても、必ず毎朝、事実をお伝えください。保護者の皆さまと園の間の信頼関係の基本となり、お子様をお守りする基本となりますので、事実を隠す、事実と異なることを伝える等はなさらないでください。在園中に発症した疾患、診断された疾患についても同じです。

3)保育所は子どもが集団で過ごす場所であり、「子どもの最善の利益」とは、「保育所で過ごす子どもたちの最善の利益」でもあります。お子様は日々、集団の中で生活しているという点を認識していただき、他の子どもたちに望ましくない影響が起こりうることはお控えください。

 以上の3点のいずれかにつきまして、「子ども(たち)の最善の利益」という目標を果たし得ないと考えられる場合、及び/または、園と保護者の間の信頼関係構築に支障をきたす場合、または支障をきたすと予測される場合には、園としても対応を検討させていただきますこと、まずはご理解ください。

●●ここまで●●


1)の内容について

 (「A-2」の解説もお読みください)  これは、子どもの良い面だけでなく、「保護者に言ったら気を悪くするから」「どうせ保護者は聞かないから」と、保育士が言わずに済ませようとする成長・発達の課題も伝えますよ、という主旨で、もっとも大切な部分です。ふだんから「良いこと」は伝えているわけですから、良いことの中に「育ちに伴う小さなひっかかり」に見えるもの(自我、いやいや、かみつきやひっかきにつながること等、保護者はネガティブに解釈するかもしれないけれど、育ちから見れば実際にはそうではないこと)も入れ、さらに、健診時の相談、療育相談につなげたい「大きな気づき」も入れます。

 良いことだけ話していたら、「小さなひっかかり」を急に聞いた時、「え?」と思うのは当然。そして、子どもには誰でも、何歳でも必ず「ひっかかり」があるのですから、良いことと一緒に「ひっかかり」も伝えるのを日常にしておけばいいわけです。この話が出ると、いつも私は言います、「たとえば、1歳半で全員が療育に行くシステムにすれば、『療育に行く』というマイナスのレッテル貼りはなくなるんじゃない? だって、1歳半の子ども、3歳の子どもなんて、みんな変なんだから。『フツーの子ども』なんていないでしょ?」。

 保育園にうかがい始めてすぐ気づいたのは、いわゆる「課題のある子」が保育者に手をかけてもらっている反面、「おとなしい子」はおとなから声もかけられず、自分たちでおとなしく遊んでいる様子。「ここで損をしているのは、おとなしい子だよね」、私はそう思ったわけです。おとなしい子どもは保育者にとって「目先の課題」にならないから放っておかれていて、自分たちでも「放っておかれている」だとは気づいていないけれども、実際、私から見たら「あんなにおとなしく遊んでいるのって、不思議じゃない?」「おとなしいのはおとなにとって良いことなのかもしれないけど、おとなが関わらなかったら育たないよ」です。ですから、こういうおとなしい姿、素直に言うことを聞く姿も「ひっかかり」。

 小さなひっかかりではなく、大きなひっかかりもあります。そして、伝えても保護者が聞かない。「うちの子は大丈夫です」「家ではそんなことはありません」…こういう時は必要に応じて子どもの様子をビデオに撮るなりして伝え、保護者がどんなに否定しようと自治体の保育課、母子保健課、療育等の部署、そして、幼保小連携の類には徹底的に伝えておきます。なぜか。保護者がなんと言おうと、小学校へあがって大変な思いをするのは子ども自身であり、一生、大変な思いをするのも子ども自身だからです。そして、子どものためには、できる限り早く必要な介入を始めることが必要だからです(たいていの場合、小学校からでは遅い)。

 この時、保育士の心の中では、「最後の責任は私たちにはとれない」という適切な諦めも必要です。そうしなければ、保育士側が感情的になってしまい、伝え方に支障が出るからです。保育士という専門職は「共感」が基本となりますが、子どもや保護者に対して感情的(同感や反感)になってしまったのでは専門職として失格です(このあたりは拙著『心の仕組み』)をお読みください)。

 1)の内容は、「保育士の質」そのものです。子どもの様子を見極め、おとなにとって都合がいいか悪いかではなく、その子どもの立場で「ひっかかり」や「良さ」を見られるかどうか。保護者や自治体にうまく伝えられるかどうか以前に、これが「保育士の質」の基本だと私は思います。つまり、1)の内容が明言できないのであれば、「子どもの最善の利益」という観点から見て、保育としてどうなんですか?という話になるわけです。あるいは、「とてもじゃないけど、1)の内容なんて保護者に言えない」のであれば、保育施設としてはどうなのか?ということにもなるわけです。「保育士の質」が下がっているのは、もちろん「とにかく預かれ」と言っている国の責任であり、自治体の責任でもあります。そこを保育施設側が国、自治体に指摘しないでおいて、「自分たちでなんとかしよう」と無理なことに取り組もうとするのもいかがなものか、ですが。

2)の内容について

(園の運営方針としてこの項目は必要ない、という場合は削除してください。)

 これは言うまでもありませんが、実際、保護者が「隠す」「事実と異なることを言う」は多々あります。それでは、他人の子どもを預かることはできません。最悪の場合、「ケガ? 家じゃありません、園でしょう?」「家では元気でした。園のせいです」と、冤罪にすらつながりかねないからです。

 現実的な対策としては、受け入れの時に必ず、「体調はいかがですか?」「おうちではいかがでしたか?」と尋ねることです。目で見える範囲だけでも最低、確認して、ケガなどがあったら「これはどうなさいましたか?」と聞き、「ああ、じゃあ、様子を見ておきますね」と伝えましょう。気づかないでいて、後で「このケガ、園でしょう?」と言われないためでもあります(この大役を果たし、担任等に伝えるという重要な役割を果たす上でも、朝の受け入れは正規職員が「今日の受け入れ担当」を決めて、するべきなのですが、朝晩の担当は非正規でもいいという流れがどんどん強まっています。これは子どもの健康・安全の上でも逆行です)。

 最初のうちは保護者が伝え忘れる、ということもあるでしょうから、「〇〇さん、お願いしますね。今度は伝えてください」とやわらかく伝えるべきだと思いますが、重なる場合にはこの文章を再度示して、「このようにお伝えした通りです。お伝えいただかないと、私どももお子さまをお預かりするのが不安です」とはっきり言うべきです。それは保育士、園を守るためであり、もちろん、子どもの命を守るためでもあります。

 保育者、園がこうした点をはっきり保護者に言えば、自治体などに向けて「言いがかりをつけられた」というような内容の話が行くかもしれません。ですから、はっきり伝え始めたら先んじて必ず自治体の担当課に報告、相談をしておきましょう。「隠す」「事実と異なることを言う」が事実であるならば、その事実を具体的に先に伝えておくことで、こちらの理を通すことができます。自治体が「そんなことは言わずに、多少のケガや体調不良ならなにも言わずに預かっておいて」と言うこともあるでしょう。その時は、屈して預かることにするかもしれません。でも必ず、保護者の発言、子どもの様子、そして、「〇〇課の〇〇さんが『預かって』と電話で言った」「『それくらいのことで角を立てるな』と言った」を記録に残しておいてください。万が一の時のために。

3)の内容について

(園の運営方針としてこの項目は必要ない、という場合は削除してください。) 

 これは予防接種を受けない、登園するべきではない感染状態の時にむりに登園する、アレルギーやアトピーで専門医の受診をしない(出血等が止まらない等)といったことの他、「B-1」に書いてある内容、たとえば駐車場内や送迎時の園庭での危険な行為(保護者同士の長話、子どもを遊ばせて見ていない等)、他の保護者や子どものプライバシーを漏洩する行為、家庭から食べ物を持ち込む行為(園内で自分の子どもに食べさせるだけでなく、お菓子等を配る、バレンタイン・デーに子どもに配らせる等)も含まれます。具体例を3)に書いてもいいのですが、そこに書いた内容に限るわけではないので、文章はこれだけにとどめ、入園説明や年度初めの保護者会で説明する時に、「たとえば」と伝えたほうがよいと思います。

  ちなみに、必要な医療を子どもに受けさせないことの中には医療ネグレクト(日本小児科学会のリンク)とみなされるものもあります。

全体について

 最後の部分の「園としても対応を」というのは、直接契約であるならば契約を拒否する、預からないと明言する。そうではないならば、自治体に報告し、協議していくといった内容を意味します。ただし、絶対に誤解しないでいただきたいのは、この内容は「園にとって都合の悪い保護者」「園にとって面倒な保護者」を排除するためではなく、あくまでも「子どもの最善の利益」を優先させるためだ、という点です。同時に、こうしたことが十全にできるよう、「保育士の質」を上げていく、ということでもあります。

 ですから、一方で、園が同じように「なんでも伝える」ことも重要です。単純な「〇〇ちゃん、これができたんですよ」「これで楽しく遊びました」ではなく、その子の「できないけど頑張ってトライしていること」「できつつあるけど、まだここがうまくできないところ」「できるようになったけど、こんなふうなひっかかりもあること」「できなくて、ここでいらだっているところ」といった内容(良いこと+ひっかかり=保育士が「子どもを伸ばす」ハシゴかけをする一番大事な専門性の部分)を伝えていれば、保護者にとってはケガもかみつきもひっかきもケンカも当然のことになっていきます(「A-2」の解説)。保護者の子育てにも役立つでしょう。

 ケガだけではなく、もちろん、ミスも伝えていきます。たとえば、「子どもを置き去りにしそうになりました」「誤食が起きそうになりました」「給食に虫が混入しましたが、子どもがみつけてくれました」…。「申し訳ありません。二度とこんなことがないようにします」という漠然とした謝罪ではなく、「このような具体的な対策を立てて、できる限り防げるように取り組んでいきます」です。

 特に、「~しそうだったが、大丈夫だった」の時にこそ正直に伝え、具体的な対策を伝えることです(実際、「どう伝えればいいか」というご相談もいただきます)。これは「恥を自分からさらす」ことではありません。「失敗し(そうだっ)たけれども大事に至らず、具体的な解決策を考えられた。取り組んでいく」という前向きな宣言です(つまり、あくまでも伝え方の問題。できごとの内容ではなく)。「二度とこんなことがないように」という漠然とした精神論ではなく、「~のような行動をして、できる限り防げるようにします」という現実的な取り組みです。

 こうしたミスの報告は、保護者全員に掲示等でします。ネット上の情報拡散が速い現代では、尾ひれのついた情報が一瞬にして広がります。ネット上で嘘や噂が広がらないようにする最善の方法は、園(法人、企業)の責任者の名前で、すぐに、正確な情報(事実)を流すことです(「むやみに謝罪する」ではなく)。ですから、今日起きたことは今日の夕方、遅くとも次の日の朝までには掲示をする、保護者全体メールをするといった方法をとることが重要です。ケガでも、重傷になったものや遊具がらみのものなどは、他の保護者にも話が流れるでしょうし、対応について心配する保護者がいるでしょうから、同じように掲示等で伝えておくべきでしょう。

 信頼構築において重要なのは、お互いに事実を明確に伝え(「万人にとって正確な事実」はまずありえないので「正確ではないかもしれない」点も明確に伝える)、その事実に対する感情も冷静に伝える「正直さ」です。この正直さとは気持ちや「つもり」ではなく、行動としてそのようにする、ということです。

 もうひとつ、3)に関連することですが、今、受け入れが増えている医療的ケア児についてです。深刻事故予防の観点からすると、「その児に万が一の事態が起きた時、そこにいあわせた保育者、子ども(幼児)の心のケアをできる体制がない」ことが最大の懸念です。そのお子さんの保護者とその子どもをみている医師は子どもの予後についてある程度の現実的な予測をしているのかもしれませんが、保育者はそうではありません。お子さんが亡くなったりした場合には、医師にとってはそれが予測通りのものであったとしても、保育者は「私(たち)が悪かったのではないか」「なにかできたのではないか」と後悔します。まわりの子どもたちもショックを受ける可能性があります。そのケア体制をいっさい持たずに受け入れを進めることの危険性を考え、自治体にそれを明確に伝えるべきです。

 もちろん、看護師や保育士を加配するだけで、他の子ども全体の保育・教育に影響が出ない形の保育・教育ができるのか、という点も自治体に問うべきです。そして、配置にかかわる財政的・人的問題を考えるのであれば、医療的ケア児はまず公立園が受け入れるべきだと私(掛札)は考えます。


★「子どもの最善の利益」と「保育の質」について私(掛札)が徹底的に考えるひとつの基本となった本は現在翻訳中、4月末には明石書店から出版されます(『3000万語の格差:3000万語の格差:赤ちゃんの脳をつくる、親と保育者の話しかけ』、ダナ・サスキンド著、掛札逸美訳、高山静子解説)。この本そのものの要約はすでに消してしまってありますが、関連事項はこちらの下の方に掲載してあります。タイトル等が確定したら、お伝えします。

★また、保護者に保育を伝え、一緒に子育てをしていくという点では、「親心を育む会」が進めてきた「一日保育士体験」(マニュアルのPDFは、同会上記サイトの左側)がとても役立ちます。一日保育士は母親だけでなく、父親も対象です。



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