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1-8. 深刻事故を繰り返さないための基本(2017年9月4日)


「なんで~しなかったの?」だけでは、また起きる

 たとえば、睡眠中のうつぶせ寝死亡事故が起きれば、「どうしてうつぶせ寝にさせていたわけ?」と言う声があちこちで聞かれます。「気を引き締めなければ」という声も。あるいはたとえば、さいたま市で起きたプール死亡事故(2017年の「ニュース」参照)に関して、「『監視を立てる』と決められているのに、なぜ監視をしていなかった?」と、マスコミのみならず園の方たちもおっしゃいます。「(来年のプールの時には)うちの園でも監視をしっかりしよう」ともおっしゃいます。

 安全と健康の心理学を専門にしている者から見ると、保育園事故の多くから毎回繰り返し、常に学ぶべき点は、もっと普遍的です。

同じようなことを自分たち一人ひとりもする可能性が、十分にある。
同じようなことをしそうになった時に、お互いに声をかけて、行動を変えよう。
万が一、子どもが重大な状態になった時の想定訓練をしておこう。


 まず考えてください。あなたは今、「うつぶせ寝させないのが当然」「プールには監視を立てるのが当たり前」と思っていますね。5年前も、今のように強く「当たり前」と思っていましたか? 思っていなかった方のほうが大多数だと思います。あなたの今の「当たり前」はまだまだ軽く、そして破られやすいのです。


人間は常に、「目先のこと」が大事

 人間にとっては常に、目の前のことが優先です。たとえば、「早く寝てくれないと連絡帳が書けない(製作が終わらない)」「他の子が起きてしまうと困るから、泣きやんで」…と、うつぶせ寝トントンをします。「連絡帳を終わらせなければ」「休憩を回さないと」…と、睡眠チェックがおろそかになります。「遅れちゃった、早く給食を出さなきゃ」…とアレルギー食チェックが抜けます。「早く片づけないと、次の活動ができない。園長に怒られる(神奈川県大和市のプール死亡事故)」「もうすぐ保護者がプールを解体に来るから、滑り台を片付けておかなきゃ(さいたま市のプール事故後の園長の会見から)」…と監視をしない、あるいは、監視をやめてしまいます。

 これは、『保育者のための心の仕組みを知る本』にも出てくる「トンネル・ビジョン」の一種でもあります。目先のことが心を占めてしまって、その周辺のことが心から離れてしまう状態です。

 もちろん、たとえば「今、目の前にあること」と「今日の夕方までにしておかなければいけないこと」がある場合には、「夕方までにすることのほうが大事だから、そっちを先にしよう」という考えが働くこともおおいにあります。目の前のことがあっても、夕方までにすることははっきりしていて、しておかなければ大変だということがわかるからです。夕方までにすることは、十分、「目先のこと」です。

 ところが、重大事故は「今日の夕方までにしておかなければいけないこと」のようなものではありません。そもそも人間の大脳前頭葉にこれを司る場所がある「楽観バイアス」のために、「私たちの園で子どもが死ぬなんて、ありえない」と誰もが感じています(保育者も管理者も保護者も)。「子どもの命を守るために」という言葉も漠然としています。そのために、どうしても目先のすることのほうが優先されてしまうのです。


「ほんの数分(数秒)だから」はとても危険

 さらに、「ほんの数分(数秒)だから」「これだけ、ちょっとだけだから」も、人間の脳の悪い癖です。これは保育園に限りません。日常、どこででも起こります。人間の脳は複数のものに注意を向けることができません。「慣れれば、マルチ・タスク(複数の作業)を並行してできる」というのは大きな間違いで、科学的にも否定されています。マルチ・タスクは「並行して作業している」ではなく、「作業から別の作業へいちいち注意と行動を向け変えている」だけです。人間は当然、今している作業に没頭してしまいがち。そして、ひとつの作業から別の作業へ移行するのは、決して容易ではなく、時間もかかるのです(この分野は特に最近、自動車運転中の電話やその他の操作と交通事故、仕事中のメール・チェックと作業生産性の低下に関連して研究が進んでいます)。

(余談ですが、そういう意味では、今の保育士配置基準では、子どものケガやかみつき、ひっかきを容易に防げないのも解せます。目の前の子どもに関わっている保育者は、目の端に入っている子どもがケガをしそうな状況になったからといって、そうそう簡単に動くことはできないからです。「昔は防げました」…? 『こころの仕組み』にも書きましたが、20年前、30年前、保護者は「小さいケガもさせるな」「なんで、うちの子にケガをさせたんですか!」と言いましたか? 当時の子どもたちは今の子どもたちと同じですか? 保育者の質は?)


「命」に関わるところは、行動に社会的責任がある

 保育者が「他人の子どもの命を仕事として預かる専門家」である以上、子どもの命に関わる部分において保育者には「すべきことをする」「してはいけないことをしない」責任があります。そして、すべきことをしておらず、またはしてはいけないことをして、子どもに重大な結果が起きた場合、社会的責任を問われます。心と仕事にも大きな影響が出ます。子どもの命、職員の心と仕事に関する限り、「非正規だから」「無資格だから」は通用しません。保護者や社会から見たら、同じ「保育者」という専門家です。

 今、園で子どもに深刻な事態が起きたら、保育者の心は危機にさらされます。「事故を起こした園」「事故を起こした保育者」を責めるのは簡単です。でも、「事故を起こした保育者」やその園の先生たちは、いずれにしても一生、自分がしたこと、しなかったこと、を背負って生きざるをえないのです。交通事故を起こして相手が死んでしまっても、保育園事故で子どもが死んでしまっても、それが「事故=危害を与える意図がなく起きたできごと」であっても、「起こした人」の傷が癒えることは一生ありません。あなたが「なんで、うつぶせ寝にさせたの?」「なんで、監視しなかったの?」と声も高々に言いつのる必要はないのです。あなたが責めなくても、「起こした人」は一生後悔します。

 そして、あなたも、あなたの園も、明日、「起こした人」の側になる可能性があるのです。なぜなら、それが上に書いたような人間の脳の働きの特徴だから、です。さらに「なぜ、うつぶせ寝にさせたの?」「なぜ、監視しなかったの?」といった言葉を言う時には、「私たちがそんなことをするはずがない」という感情が付随します。楽観バイアス(うちで起きるわけがない)を強化したい人間としては当然湧いてくる意識なのですが、そこで意識的に「いや、うちでもするかもしれない…」とお互いに言い聞かせなければなりません。自分たちがおかすかもしれない過ちを「するはずがない」と否定しまう、これほど危険なことはないからです。


では、どんな行動をする?

 「目先のことを優先させる」「深刻な事態が起きるとは考えてもいない」「ちょっとだけだから、と別のことをしてしまう(そして、容易に元に戻れない)」…、これが人間の脳であり、これをしない脳を持った人はいません。「注意しよう」「気をつけよう」「見守ろう」「気を引き締めて」「緊張感をもって」は、もともと人間の脳にはできないことなのです。

1)「目先」を優先させてはいけない時を明確化

 それほどたくさんはありません。下のいずれも、目先のことを優先させてカッコ内のことをしないでいたら、子どもにとって深刻な事態が起こり得、先生たちの心に大きな影響を及ぼします(園庭に池やビオトープがある場合など、下のリスト以外でも、目先を優先させてはいけないケースはあります)。

睡眠中(うつぶせ寝させない、睡眠チェックをする→安全に関するトピックス「3. 睡眠の安全」参照)
プール活動中(監視者は監視に専念する→同上「4. 水の安全」参照)
取り残しや置き去りの危険がある時(人数確認をする→同上「1-6. 指差し声出し」参照)
食物アレルギー(納品チェック、調理、配膳の時の声出し指差し復唱チェックをする→同上「1-6. 指差し声出し」参照。その他、執筆中)
誤嚥の危険がある時(合同の時間に移行する時などは危険な玩具をしまう→同上「2. 誤嚥・誤飲」参照)
・子どもが登り棒や鉄棒など落下の危険がある位置で遊んでいる時(つける高さならつく、つけない高さなら、最低限、目を離さない)
・園バスを使っている園では、園バスの周辺に子どもがいる時

 もしも、園として「子どもにケガをさせません」と宣言しているなら、保育活動すべてがここに含まれてしまいます。そして、1対1の配置でなければ不可能です。

2)「目先のことじゃなく、大事なことをしよう!」と声をかけあう

 自分ひとりでは、なかなか「目先」「ちょっとだけ」「きっと大丈夫」という脳の働きから抜け出せません。だから、声をかけあってください。はっきり、明るいトーンで、です。安全において、「コミュニケーションに関するトピックス」のCの項目や『心の仕組みを知る本』『子どもの命の守り方』に書いたコミュニケーションが重要なのは、この部分があるからです。お互いに声をかけあう関係がない園で、子どもの命、職員の心と仕事は守れないのです。ここに関する限り、年齢や立場の違いは関係ありません。
 たとえば…、

「Aちゃん、いつもよりうつぶせ寝になりやすいね。〇〇先生、今日はノート、書かなくていいから。Aちゃんについてあげて」(明るく)
「〇〇先生、監視して~! 片付けは後でいいの~!」(明るく)
「人数確認してください。私、子どもたちが歩き回らないように見ているから」(明るく)
「給食、10分遅れてるけど、こっちが大事。除去食チェックしよう」(明るく)
「1歳児が合同で降りてきます! まず、幼児のおもちゃを片づけてください」(明るく…、え、しつこいですか? これぐらい書かないとつい、怖い声で言ってしまうのが人間なので)
「雲梯で3人、遊び始めたから、私、つきますね。〇〇先生が砂場でちょっと大変そうだから、××先生、ジャングルジムのAちゃんをおろして一緒に砂場に行ったほうがいいかも。ジャングルジムに登ってるの、Aちゃん1人だから」(明るく)
(添乗の職員がバスから、乳児を連れている送りの保護者に)「〇〇さん、お子さんとしっかり手をつないでください。バスが動きます!」(明るく。はい、明るく!です)

 深刻事故の予防の取り組みの成果は、「深刻なことが起きないこと」です。つまり、取り組みの成果は見えないことが多いのです。そうするとどうしても、「こんなこと、しなくてもいいんじゃない?」「大丈夫でしょ」という感情が出てきます。でも、睡眠中の呼吸停止に気づいて心肺蘇生、救急搬送して生き返った、人数確認していたら一人いないことに気づいて、公園から出ていこうとしている所でみつけられた、調理ミスや配膳ミスに気づいた、といったできごとは起きていますし、これはすべて取り組みの成果なのです。その時に「行動していて良かったね!」と言えるでしょう。

3)「すべきこと」に専念できる環境・条件をつくる

 「水の安全」や「睡眠の安全」に書いている通り、監視者に腕章をつけたりベストを着せたりすること、「今日の睡眠チェック係」を置いて、今日の係は睡眠チェックに専念する(連絡帳書き等をしない)ことなどがこれにあたります。また、「コミュニケーションに関するトピックス」のB-1の中にある「睡眠中の安全確保をするために」を保護者に配って睡眠の安全を優先させる旨を伝える、「水遊び、プール活動について」を配って「監視体制がとれない日はプール活動をしない」と事前に伝えておくことも大切です。

 もうひとつは、プール活動のようにそもそも危険な環境に子どもを集団で入れる活動をする時には、その前後に他の予定を入れないことです。焦る理由があれば、人間はどんどん「目先」に頭をとられていくからです。また、プール活動のような活動の場合、絶対、無計画には行わないという点も重要です。

4)深刻事態が起きた時のため、想定練習をしておく

 これは、「1-2. 深刻事故対応を具体的につくるための考え方」の内容です。感染症が流行り出し、子どもたちの体調、特に呼吸状態が悪くなり始める秋口、さらに、預け入れが始まる前の3月には、必ず(特に乳児の)睡眠中に子どもの異変に気づいたという想定で、発見から搬送、他の子どもを他の部屋に移し(発見があった部屋はそのままにしておくこと)、保育を継続する訓練をしてください。

 公立の場合、3月の訓練は難しくなりますので、「睡眠の安全」に置いてあるこの文書をもとに保育士の異動発令を早くするよう自治体に働きかけてください。実際に今年度から早くした自治体もありますし、もともと発令は3月半ばやもっと前という自治体もあります。「子どもの命を守る仕事ですから、もっとも危険な4月の頭に初めて顔を合わせるのではダメ」と明言を。

 そして、6~7月のプール活動前には、(特に幼児で)溺水が起きたという想定の訓練をしましょう。心肺蘇生の開始、プールがある場所から救急要請、事務所へ連絡、搬送、子どもたちの移動といった手順を実際にしてみてください。

※この想定訓練については、「0.緊急事態時の訓練用ビデオなど」をご覧ください。



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