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6-3. 大津、市原の交通事故に関連して

(2019年5月8日~。14日夜の段階では移動しただけ)

(6月3日午後、お散歩ルートのワークとお散歩マップを作る。6月4日、警告用ジャケット)

警告用ジャケット、ベストの例

 信号があってもなくても、道を渡る時、先生たちは焦ります。子どもの靴は脱げるし、道の真ん中で突然すわりこむ子どもはいるし、逆戻りしたがる子どもはいるし…。でも、焦らないでください。焦るのがもっとも危険です。信号が青になったら、車は渡っている人を轢いてよい? いいえ、違います。クラクションを鳴らす運転者もいるでしょうし、怒鳴る運転者もいるでしょう。無視してください。歩行者がいる時に停まる義務があるのは自動車です。先生たちは子どもたちを連れているのです。高齢者が道を渡る時も同じです。焦ってはいけませんし、焦る必要はどこにもありません(2019年6月4日加筆。下の写真の下に続く)。

 こちらのB-1に載せた通り、道を渡る時にプラカードを使う手もありますが、もうひとつがこちらの方法。千葉県我孫子市の柏鳳保育園(『保護者のシグナル、観る、聴く、応える』の最後に園長先生が登場しています)で2013年に作り、使っていたものです。蛍光のジャケットの上にガムテープで「徐行」と貼っただけ。これは道を渡る時用ではなく、歩いている時に後ろから来る自動車に注意喚起するために作られたものです(2019年5月31日)。



 …と、古い写真を掲載させていただくために柏鳳保育園の園長先生とやりとりをしていたら、「夏冬兼用のベストを作りました!」と写真が届きました(下)。道路工事の交通指示の人が着ているベストの背中にソフトカードケースを縫いつけたそうです。中に入れる紙を変えれば、「徐行」でも「止まって」でも自由自在。荷物を背負った上にも着られるそうです。色は、やはり緑は目立たないようですね…。オレンジが一番目立つかしら。でも、「目立つだろうから」と字を赤にするのはお勧めしません。B-1のプラカードの解説に書いた通り、色覚異常の方には赤字が見えにくいから、です。「徐行」は歩いている時、後ろから来る車に注意喚起。「止まって」は道を渡る時、停止している車に背中を向けて子どもを誘導する場合に。自園ではどちらが大事か考えてお作りください。「徐行」の先生と「止まって」の先生の両方がいれば、役割分担できますね。列の最後の人が「徐行」、道を渡る時、真ん中で誘導する先生が「止まって」。たまに反対になったとしても、それはご愛敬ということで。(2019年6月4日)



「お散歩マップ」を作る(下書き→掲示・提出用)

 ずっと関わらせていただいている京都市のあけぼのこども園さん(法人では複数園あり)に先日おじゃましたところ、なんと、「お散歩マップ」がないと判明! 早速、園内ワークで下書きを作ってみました。その方法を紹介します。さらに、この地区(伏見区醍醐地区とその周辺)には地域の安全マップがあるので、そこに園内ワークで作ったお散歩マップを載せてみましたので、それも最後に。

1)大きい紙を用意。今回は、普通のカレンダーを2枚はりあわせた裏側を使用しました(下の一番上の写真)。全員で集まる必要はありません。先生たちがどんどん書き足していけばよいので。

2)まず、お散歩ルートをすべて描けるよう、園の位置を決めます。東西南北にでかけるなら園は一番真ん中に描かないと、ですよね。ここがまず大事。

3)マジックで道を描いていきます。先生たちはほぼ、ソラで描けます。毎日のように歩いている道ですから。信号、横断歩道、標識(←覚えているかな?)、ガードレール、白線などを描きます。

4)目立つ色で、歩くルートを描き入れます(ルートは複数あるでしょうから、色を変えて)。この時、道路のどちら側を歩くのかもわかるように描きます。

5)危ない箇所をマジックで書き込んでいきます。「角が死角」「信号がない」「横断歩道がない」「白線が消えている」「坂で加速する」「逆走車がいる」「角のミラーがない」「一時停止の標識がない」「ガードレールはあるけど、反対側は深い排水溝だからガードレール側は歩けない」「遊歩道のブロックがガタガタ」「遊歩道なのに、自転車に乗って走ってくる人がいる」「トラックが多い」「毛虫が出る」などなど、などなど…。これは自治体や警察がすべきこと。

6)お散歩のルートで、交通ルールに従っていない行動を目立つ色のマジックで書き込んでいきます。5)の排水溝の例もそうですが、あとはたとえば「道を渡る回数を減らすために、白線じゃない側を歩く」「信号のない横断歩道は、次の角まで迂回していけばあるけれども、公園まで直線で行けるから横断歩道のない所を渡る(中央分離帯のない細い道路)」「チャドクガの季節はツバキの並木側は歩けないので、白線のない反対側を歩く(下の項にある例)…。これは園がしていることだけれども、伝えておかないと万が一、事故が起きた時に「なんで交通ルールに従っていなかった?」と言われてしまう危険があるもの。

7)みんなでどんどん書き足した後、これを清書します(下の項に書いた通り、5と6の内容はマスキング・テープを使っても可)。できあがったもののコピーを自治体と警察に渡します。園内に掲示して保護者にも付箋で書き足してもらいましょう。

8)今回、ワークをしたあけぼのこども園がある地域には、地域の安全マップがありました(ハザード・マップの交通安全版)。ぜひ、皆さんの地域でも「安全マップを作って!」と自治体、警察に働きかけてください。あけぼのこども園では、このマップをコピーして地図の部分だけを切り取り、白い紙の上に貼り、そこにワークで作った下書きをもとに4)と5)の内容をマスキング・テープで貼りこみました。写真の地図にはまだ6)の内容が書き入れられていませんが、ご参考まで。全体像と一部(下の写真2枚めと3枚め)です。(2019年6月3日)

 こちらがワークで描いた下書き(あけぼのこども園ではなく、同じ法人さんの別の園です)。ルート上に横断歩道が一切ない「住宅地+小さい畑」の地域ですが、横断歩道がないために車は徐行や一時停止をしないという危険があります。なので、横断歩道が「ほしい」と書き込んであります。この下書きをもとにして、お散歩マップを作っていくそうです。この地域には次の写真のような安全マップがないので、自分たちで作るしかありません。



 こちらが、あけぼのこども園さんが下書き(下書きは混み入っているので載せていません)をもとに、地域の安全マップの上に乗せた「お散歩マップ」の全体像。



 こちらが上の写真の一部です。




自治体や警察署に「お散歩マップ」を提出する

(この段落修正) 各地で、「自治体や地元警察から『散歩コースを提出するように』と言われた」という話を聞きます。「地図を今、書いている」というお声も。白い地図に新たに書き直す必要なんてまったくありません。まして、自治体と警察それぞれから来た調査に別々に答える必要はありません。一番簡単で、効果的な方法をお伝えします。逆に「提出せよ」と言われていなくても提出しましょう。「私たちはこれだけの努力をしていますが、私たちでは安全を確保できないこともたくさんあります。自治体、警察が対応してください」と伝えるべきであり、そう伝えたという証拠を残すべきだからです。できることは「できる」と言って取り組む。できないことは「できない」と言って、できるはずの人たちに手渡す。万が一の時、「なぜ、保育士は子どもを守れなかったんだ」と言われないためにも、この「伝える=責任の一部を手渡す」は必須です。

(この段落は加筆分) 「危険な箇所を書き出せ」「写真を付けろ」と警察、自治体は(場合によってはそれぞれが別々に)言ってきているようです。そう言われたら、1)「そんな時間はありません。私たちが取り組んでいるお散歩の安全はこれです」と下の内容を渡して終わりにするか、2)逆に写真等を提出するなら、「白線が消えている」「一時停止の標識をつけて」「横断歩道をつけて」「ガードレールをつけて」「自転車が入ってこないようにして」「スピード落とせ、の標識をつけて」「車用のミラーをつけて」「信号をつけて」「信号の時間を長くして」「信号を歩車分離にして」など、徹底的に細かい報告を出してください。なぜか。「言ってもどうせ何もしないから」と中途半端に出したら、「あとは園の責任」とされてしまい、提出しなかった箇所で事故が起きたら「園が気づいていなかったのだろう」「園の責任」と言われかねないからです。そして、2のように徹底的に洗い出して自治体や(と)警察に報告するのであれば、その後ことあるごとに「まだ、改善に取り組んでくれないのですか」と尋ねましょう。こういう時に起きがちなのは、自治体や警察は「調査はした」ということで終わりにするという態度ですから。もちろん、下に書いてある通り、1の場合でも、改善要望箇所は文字で徹底的に書き込んでおくべきです。「私たちは危なさをわかっていて、それを自治体や(と)警察に伝えた」という証拠になりますから。

1)今あるお散歩マップを用意する。ないわけがありませんよね。なかったら、それはそれで大反省して、早く作ってください。保護者向けに貼りだしているもので、もちろんかまいません。

2)すでに貼りだしてあるお散歩マップそのものに以下の作業をしてもかまいませんし、ルートが複数あってごちゃごちゃしそうなら、コピーを何枚かとってして以下の作業をします。A3サイズ以上であれば大丈夫だと思います。どこで見てもそれくらいの大きさのものが貼ってありますから。

3)容易するものは、白のマスキング・テープと黒ペン、赤ペン。または白と別の色のマスキング・テープ、黒ペン、赤ペン。

4)お散歩マップ上に「自分たちが常にしている安全行動」を書いていきます。直接書き込むのではなく、白いマスキング・テープに書いて該当箇所に貼ります(そのほうが目立ちますし、変更も容易です)。たとえば、「ここは白線だけの歩道なので職員は車道側を歩き、走り出したりしがちな子どもの手をつなぎます。自分で落ち着いて歩ける子どもは自分たちで手をつなぎます」「ここは大きな交差点なので、青信号を必ず待ちます」など。

5)別の色のマスキング・テープか、同じ白のマスキング・テープに別の色のペンで、「『ここは危険』とわかっているが、自分たちではどうしようもない場所」を書き込みます。たとえば、「ここは信号が短すぎる」「ここは信号がない」「車が飛び出してくる」「ガードレールがない」「歩道の敷石がガタガタ」「歩道なのに木(標識、電柱)が立っている」など、かたっぱしから全部です(「短い信号を渡るのが怖いけれども、そこを渡らないと公園に行けない」というお尋ねをいただきましたので、道を渡る時に使う表示〔プラカード〕をこちらのB-1に掲載しました)。

6)季節や時期によって異なる行動をしている場所も書き込みます(白いマスキング・テープに別の色で)。たとえば、下のチャドクガのような場合です。「チャドクガの毛虫がいる時期は反対側を歩きます」「農業用水路の水路が高い時は、車道側を子どもが歩きます」など。

7)元のお散歩マップに貼りこんだのであれば、そのまま保護者向けに掲示し、「私たちはこのようにしてお散歩をしています。~の箇所は危険だとわかってはいるものの、私たちでは対応できない場所ですが、自治体、警察署には伝えました」と書き添えておきます。コピーをとってそこに貼りこんだのであれば、そのコピーを掲示して同じように書き添えておきます。

8)欄外に、「道路工事や建築工事の場合は、一時的に歩くルートや側を変えます。変えた場合は、日誌に記録しています」と書いておく。チャドクガや用水路の場合は、毎年同じなので、マップに書き込みます。

9)このマップの横に付箋を置いて、「保護者の方が気づいた箇所も貼ってください」としておくと、双方向になってよいと思います。

10)貼りこんだマップをカラーコピーして、自治体、警察署に渡します。または写メを撮って、大きなファイルのまま送ります。なぜ、新たな地図を作らないかというと、「私たちはこのようにして、これまでもずっと保護者にお散歩ルートをお伝えしてきました」という証拠になるからです。

11)「きれいな地図に書き込んで提出しろ」と言われたり、「文章で書いて提出しろ」と言われたりしたら、「そんな時間はありませんし、すでに地図はあります」と断固断ってください。自治体も警察もあちらにとって「きれいで、見栄えのいい」書類がほしいのでしょうけれども、そんなことをしている時間より、保育のほうが大事です。

「つい、うっかり、ぼんやり」の人間を補完するデザイン

 5月15日、今度は千葉県市原市で、コイン・パーキングから出た車が車道を横切り、車道の向こう側にあった公園の砂場にいた園児と保育士に突っ込みました(「ニュース」ページ参照)。お金を払うためにブレーキを踏んだつもりでアクセルを踏んだ…のかどうかはわかりませんが、とにかく「加害者」を責めるのは簡単、車、バイク、自転車を運転するなら、あなたも同じ「加害者」になる可能性があるという事実をまず認めましょう。人間は「つい、うっかり、ぼんやり、めんどくさい」の脳を持った生き物なのですから。プラス、「悪いことは自分(の側)には起きない」と思う「楽観バイアス」(optimistic bias、認知の歪みのひとつ)を持っているのです。大津の交通事故の右折車の運転者を責めるのは簡単ですが、右折しづらい交差点なら、大半の人は「今度こそ曲がろう」と焦るはずです。

 では、どうするか。事故予防の基本はまず、「環境やモノの改善(engineering)」です(交差点なら右直分離信号、歩車分離信号にする)。最近、電車のホームで、線路に対して直角にイスが設置されるようになりました。これは人が転落しにくくするためです。これだけ考えても、解決策がひとつ、考えられます。車が飛び出る先に人がいないようなデザインにすること、です。たとえば、建物の屋上にある駐車場から車がフェンスを突き破って落ちるという事故が時々、起こります。下に人がいれば、巻き添え事故になります。「気をつけて運転しよう」、そう思っていても人間の脳みそです、ダメな時はダメ。ならば、駐車場の車の並びを、「最も多く駐車できるような(通常の)デザイン」ではなく、「(駐車台数は減るものの)万が一、アクセルを踏んでも他の自動車にぶつかって止まるようなデザイン」にすればいいわけです。

 今回の市原市の事故であれば、コイン・パーキングの出口の延長線上に砂場があります。たとえば、木が数本立っている所が出口の延長線上になるようパーキングの出口を設置していたら、状況は違っていたかもしれません。「環境やモノの改善」に「これで完璧!」はもちろんありません。けれども、交通事故の場合、「教育(education)」「法・罰(enforcement)」の効果は特に弱いのです。だから、「環境やモノの改善」をもっと積極的に進めるべきです。それは、歩行者の安全を優先させた道路デザインも同様です(engineering、education、enforcementは、合わせて事故予防の「3つのE」と呼ばれます。これに「経済(economics)を加えて「4つのE」とされることも)。

 もうひとつ。今回、「保育士がかばった」「保育士が突き飛ばすようにして守った」と報道されていますが、これはあくまでも結果が良かったというだけの話です。場合によっては、自分や他人を守ろうとした行動が裏目に出ることもあります。事故の結果は、常に瞬間、瞬間の確率(運)が積み重なった最後にあるものです。保育士はもちろん身を挺して子どもを守ろうとするでしょう。今回は、それが結果として「守ることにつながった(ように見える)」ということです。保育士を英雄にしたてあげるのはやめてください。それは、結果的に「子どもを守ることができなかった(ように見える)」事態になった時に、保育士の心をつぶします。市原市の事故のニュースを見た、大津の園の保育士さんたちが「自分たちは子どもたちを守れなかった」と思うかもしれない、そのような想像力をマスコミも社会全体も持つべきです。

危ない散歩ルート(どんどん増えます)

(5月23日加筆)
 掛札が時々、歩く道です。写真が切れるあたりが交差点で、その向こう側に大きな公園があるため、保育園の子どもたちをよく見ます(実はこの日も。この時、すでにかなり暑いのですが…)。白線もあるし、問題ない…ように見えるのですが、実は道側の垣根はツバキ、この時期はチャドクガが大量発生することがあるのです。子どもがこういった場所でよくするのは、手を木の中に突っ込んでザザザザ~ッ。チャドクガで大変なことになりかねません。

 そうすると、チャドクガのシーズンはこの写真で左側を歩くのが安全なのですが、逆側には白線がありません。そして、左にあるのはコイン・パーキング…。でも、車はあまりとまっていません、ここ。とすると…。私だったら、お散歩マップに「通常は白線のある側を、保育者が外に立って歩きますが、チャドクガが出てきたら、白線のない側を保育者が外に立って歩くようにします」と書きこんで保護者に知らせ、自治体にもそのように伝えておくでしょう。この「伝える(=自分たちだけで課題を抱え込まない)」をしておかずに、チャドクガの時期、白線のない側を歩いていて交通事故に遭ったら、「どうして白線がない側を歩いていた?」という責めを負うことになるからです。もちろん自治体には、「反対側にも白線をひいて」と伝えましょう。自治体はそう簡単には対応しないと思いますが、「園は自治体に伝えたよ」という証拠を残しておくことが重要なのです。同じような状況は、建築工事や道路工事が始まった時などにも起きますから、同様に。

(おまけ)散歩ルートは絶対に変えない!が原則。たとえば、広い車道で右側と左側の歩道が離れている場合に、「今日はこっち側」と急に歩く側を変えたりして、突然、そこで大地震! 園から来た助けの人たちから会えない危険性もあります。ですから、決めたルートは絶対に変えてはいけません。「昨日はしてなかったのに、急に道路工事が始まってる」…、こんな時はその場から園に電話をして「逆側の歩道を歩きます」と連絡を。言うまでもありませんが、その日の気分でルートを変えたり、考えたりするなんてことは、絶対に絶対に絶対にナシです!(5月23日) 



 今日歩いていた町で。たとえば、この排水溝ぎりぎりの所をお散歩では歩くわけです。ここは広い道ですが、白線はありませんでした。なぜ、こんなに排水溝が広く、深く、網が粗いのか。積もった雪を捨てて溶かすためです。網があるから子どもは落ちませんが(体が落ちて頭がひっかかる幅ではある)、同じ排水溝で網のない箇所はあちこちにありました。(5月12日夜)




園/保育士には予防できない事故

●まず、次の2つを考えてみてください。

1)園の深刻事故の報告が義務化されて約5年。園の散歩中に交通事故による死亡が起きていますか? 日本じゅうの保育園で、車道と歩道が物理的に分離されていない環境を、十数人や何十人もの子どもを数人の保育者で引率していて…。交通事故による死亡は起きていますか? 掛札の知る限り、起きていません。なぜか。ヒヤリハットは毎日のように起きますので、保育士さんたちは恐怖をよくよくわかっており、毎日、必死に散歩をしているから、です。そして、交通事故は歩行者側の具体的な注意行動と予防行動(単なる「気をつける」ではない)によって、かなり防ぐことができます(車、バイク、自転車側の注意と行動ももちろん大事ですが、こちらは速度が出ているため、数秒の反応速度の遅れが事故につながります)。

 歩行者として子どもがこうむる交通事故は、たいていが「保護者(おとな)が手をつないでいない」「子どもだけでいる」場合に起こります。道路であれ、駐車場であれ(子どもは小さいため、そもそも運転席から見えづらいことも一因)。園の散歩で道路を歩いている時に、この2つの危険因子はほぼありません。もちろん、子ども同士で手をつないでいる場合もあります。それでも、先生たちは誰と誰をつながせるのが安全か、保育士が絶対に手をつながなければいけないのは誰かがわかっています。子ども同士であっても手をつながせることで、走り出しの抑止力にはなるからです(お散歩ロープでも)。「片方が走り出そうとして、もう片方が転んだ」…、車が横を走っている道路なら、転ぶリスクのほうが走り出しのリスクよりよほどマシです(車や自転車がまったくいない遊歩道等で手をつながせるかどうかは、別の話)。

 はい。では、こうした努力が防ごうとしている交通事故は、大津の事故のようなものですか? まったく違いますよね。ここをごっちゃにしないでください。

2)2019年4月19日、東京都池袋で青信号の横断歩道を自転車で渡っていた母子が、暴走車にぶつかられて亡くなりました。この事故において、母子の責任を少しでも問う報道がありましたか? ありません。大津の事故における園児と保育士の立場は、この時の母子と同じです。ただ、「保育園の散歩」という話が一般的ではなかったために、「なんで、そんな所に園児が?」という話になっただけでしょう。そして、母子ではなく保育園だったから責任云々という話が出かけたわけです。たとえば、池袋の事故が「ファミサポさんに連れられた子ども」だったら、報道はまた違ったかもしれません。

 皆さんも、歩行者として、あるいは自転車、バイク、自動車の運転者として、「うわ、今、危なかった! あと一瞬早かった(遅かったら)…」と感じることは、ひんぱんにあるはずです。その「一瞬」の違いが私たちの生死を分けているのです(下の最初の項に書いた通り、掛札の場合は2度、この「一瞬」がぴたりと合ってしまいましたが、6-1に書いた通り、「事故=重傷や死亡」ではないので、その後の幸運でまだ生き延びています)。

 さて。園の散歩で交通事故死が起きたことは、知る限りありません。だからこそ、今回の事故は皆さんにとってショックだったのだと思います。「私たちの園のお散歩コースのどこで、大津の事故みたいなことが起こるだろう」…、皆さん、そうお考えになっているようです。この問いは誤りです。すでにおわかりの通り、答えは「今回の事故は、通常の交通事故とは違う」、そして、「車と歩行者の間に、ガードレール等のしっかりした物理的な障壁がない所なら、どこでも起こる」です。今回の事故は通常の交通事故の「巻き添え事故」です。そして、この種の巻き添え事故は、確かに交通事故が起きやすい場所ではリスクが高いかもしれませんが、交通事故が起きない場所、交通量の少ない場所なら起きないわけではありません。

 ですので、今回のような事故について「散歩コースのどこが危ないか」を考えるのは意味のある方法ではありません。保護者にも近隣にも自治体にも、「どこかから車が飛び込んできたら、私たちには何もできません」とはっきり言いましょう。「なんとかします」と言ってしまったら、本当に車が飛び込んできた時、「守ると言ったじゃないか」と言われてしまいます。歩行者は車(高速で移動する鉄の塊)よりも圧倒的な弱者なのです。できないことは「できない」と責任をもって言ってください。できないことを「できない」と言うのは無責任ではありません。できないことを「できる」と言うのは無責任です(何度でも言います)。(5月11日昼)

散歩の自粛について

 「散歩を当面自粛する」という話も出ているようです。「車が飛び込んできたら無理だけれども、それ以外の側面で散歩の安全を再検討するために、1週間は散歩に出ません」と言うならわかります。理由があって中止するのですから、これは「中止する勇気」です。でも、理由なく自粛するのは、ありえません(この場合、自粛解除にも「ほとぼりがさめたから」以上の理由はない)。さらに「大津の事故を受けて、当面自粛します」では、あたかも園の側に責任があったと言っているかのようです。「自粛」というのは、自分たちが悪かったからやめる/縮小するという意味なので(余談ですが、「自粛」という言葉の使い方については、こちらの8-3の下)。

 「保護者が心配しているだろうから」…、これで自粛をしても保護者は安心しません。保護者に散歩の現状とリスクを伝え、話しあってください。保育士さんたちは安全にとても気をつけて散歩をしています。でも、車や自転車が走る場所を歩くなら、当然、常に危険と背中合わせです。車が飛び込んでこなくても、子どもは突然走り出したり、立ち止まったり、靴が脱げたりするからです。そのリスクも含めて、保護者に伝え、保護者にも考えさせることが必須です。「コミュニケーションのトピックス」のB-1のひな型にもこのタイプのものがいくつかありますが、「保護者に伝えて、考えさせ、選択させる」は、園だけですべての責任を背負い込まないようにする、必須の行動です。保育は保育園だけでするものではないですよね。(5月11日昼)

政府・自治体は「注意した」だけではなく、責任を果たせ

 5月10日、内閣府と厚生労働省から文書「保育所等での保育における安全管理の徹底について」が保育担当課宛に出ました。同じものは、企業主導型施設にも児童育成協会を通じて出ています。ここでは『保育所保育指針解説』が引用され、「保育所内外において子どもが豊かな体験を得る機会を積極的に設けることが必要である。その際、特に保育所外での活動においては、移動も含め安全に十分配慮すること」と「日常的に利用する散歩の経路や公園等についても、異常や危険性の有無、工事箇所や交通量等を含めて点検し記録を付けるなど、情報を全職員で共有する。」の部分に下線が引かれています。

 つまり、「園外活動は続けよ」「安全には留意せよ」と言っているわけです。同様の文書は都道府県や市町村からも出ているようです。これからも出るでしょう。けれども、後半部分に対しては園が「はい、そうします」と言ってはいけません。今回のような「車が飛び込んでくる事故」は安全点検や記録とは無関係だからです。こうした点検や記録、情報共有は当然しているはずですから、自治体には「大津の事故と自治体が言っている内容は、まったく違う話。自分たちは具体的にこういう取り組みをしているが、今回の大津のような事故で巻き添えにならないような取り組みは、私たちにはできない。自治体として道路の安全整備をするという責任を果たしてください」と伝えましょう。

 もうひとつ、「園外活動は続けよ」のほうですが、「行政は散歩の価値をわかっているんだ」と楽観的に解釈しないほうがよいと思います。政府、自治体にしてみればこの手の文書は、「自分たちは注意を促した。あとはあなたたち(園、保育者)の責任」と責任を手放す、ただそれだけのものです。内閣府のガイドライン作成委員会にいて、内閣府が実は当初、たった1~2週間でガイドライン案を作ろうと考えていた事実にあきれ果て、なおかつ、自分の書いた下書き(「役立つリンク」の最初の項に置いてあります)を完全に骨抜きにされた経験を持つ者から見ると、あのガイドラインも含め、こういう文書というのは政府、自治体の責任逃れのものなのです。本気で予防したいなら、歩道と車道の間に物理的な障壁をつくる、公園整備をする、園に広い園庭やホールの設置を義務づけるといった方法をとるでしょう。(5月11日昼)

保護者、職員に注意喚起を(自動車の運転、駐車場)

 今回の事故は、交通事故に付随した二次的事故(巻き添え事故)です。交通事故について言えば、もちろん減るに越したことはありません。それは園の職員も保護者も含め、自動車等を運転する人には全員、責任があります。運転中のスマホ操作や通話(下参照)だけでなく、駐車場の安全も園の場合は重要です(園の駐車場でお子さんが亡くなる事例は、ここ数年でも複数起きています)。これは保護者に注意喚起し、職員にも徹底するべきことです。散歩の安全について保護者と話しあう、話しあわないまでも会話をするのであれば、保護者がすべき安全についても伝えてください。そのための手紙のひな型は「コミュニケーションのトピックス」のB-1にいくつもありますし、保護者向けに掛札が以前書いた文章もこちらの5-4の第4回と第7回にあります。(5月11日昼)

日本の交通行政は歩行者軽視

 下に書いた点の最後の部分に関連して、ダイヤモンド・オンラインの記事「歩行者の死亡事故ダントツの日本、ドライバー厳罰化で解決できない理由」。そう、要するに歩行者軽視なんです、日本の道路安全行政は。「気をつけろ」と自治体に言われたら、「安全に〇〇公園に行けるようにしてください」と。どんなに厳罰化しても無理です。人間は「つい、うっかり、ぼんやり、めんどくさい」の脳を持ち、「自分がそんな事故に遭う/事故を起こすわけがない」(楽観バイアス)と信じている生き物ですから。(5月9日夜)

歩道と車道が分離されていない場所で起きたら?

 大津の事故は、「保育園や引率していた保育士の判断だけでは防ぐことが難しかった」という報道の方向になっています。「難しかった」ではなく「不可能だった」と書くべきなのですが。記者会見も、園長が泣くように仕向け、かつ園の責任をほのめかす失言や謝罪の言葉を引き出そうと仕向ける質問が相次ぎ、宇於崎裕美さんと取り組ませていただいているクライシス・コミュニケーションの重要性を強く感じました(この件は来週、書きます)。園長が泣き出す度にシャッター音が増えた様子は、皆さんもご覧の通りです(かつて、保育園から離れた場所で園児が死亡した事故で、なぜか取材を受けたその園の保育士さんが「マスコミは私が泣きそうになる質問ばかりした。私が涙ぐむ写真を撮ろうとしていた」と話していたことを思い出しました)。

 さて、今回の事故は、車道と完全に分離されている広い歩道で起こりました。ですから、まともに考えれば「園側の責任ではない」「引率の保育者にできたことは何もない」とすぐに言えます。今、私たちが考えるべき問題は、園の散歩ルートの大部分は、歩道と車道が分離されていない道であるという点です。ガードレールがあればまだマシ(歩道にドンっと電柱や木が立っていたりしますが)。ガードレールなどなく、白線だけという道が園の散歩ルートの大部分です。保育士さんたちは車道側に自分たちが立って歩きますが、農業用用水路(フタなし)と車道にはさまれた歩道(白線のみ)ということもあります。水位の上がっている用水路と車道、あるいは崖と車道、どちらがリスクが高いか…。毎日の悩みです。

 歩道と車道が白線のみで分離されている道路、または白線すらない道路で、車が飛び込んできた。あるいは、子どもが少しはみ出していてぶつかられた。…おそらく、今回と同じ報道(園の責任ではない)にはならないでしょう。保育士の責任を問われかねません。自動車側にドライブ・レコーダーがついていればまだいいのですが。どうするか…。究極の選択としては、ウェアラブル・カメラ(←検索)をお勧めします。歩く側が道路の右側なら一番前の保育者の前面、左側なら一番後ろの保育士の背中側に装着します(常に前後両方装着が一番簡単)。理由があって堂々と装着・録画しているものですから、盗撮等を言われるリスクはありません。ドライブ・レコーダーの歩行者版です。

 今回の事故で「保育士は悪くない」「保育士は偉い」という話になっていくと、次、歩道のない道で車が飛び込んできて同様の事故が起きた場合、「なんで、そんな道を歩かせていたんだ。大津の時は…」と比較される危険性があります。人間は記憶に強く残っている前例を参照して、次のできごとに対する判断をする生き物ですので。ただ、マスコミがなんと言おうと、自園の保護者が理解していればよいのですから、まずは下のように、お散歩マップの説明を保護者にしておくこと。そして、「こういう狭い道ばかりですから、なにかあった時のために、散歩中、録画しようかなと思っているんですよね」と保護者に聞いてみるのも一策でしょう。

 おまけ。お散歩中、「気をつけてね!」と近隣住民の方から声をかけられている先生もいらしゃることと思います。ニッコリして「ありがとうございます」はよいのですが、「はい、気をつけます!」はやめましょう。散歩中、子どもがどれほど危険な行動をするかはよくわかっていますから、先生たちは十分、気をつけています(私はどこでも歩くので、各地でお散歩姿を見ますが、危ない歩かせ方をしている先生はさすがに見たことがありません!)。わざわざ「気をつけます」と言っておいて交通事故に遭ったら「何してたの?」と言われかねません。人間の認知というのは複雑です。「保育士は偉い」「保育士さんありがとう」(←ハッシュタグで広まっている)という風向きは、決して良いことではありません。保育の現実をわかって言っている言葉ではなく、次のハードルを無意味に上げているだけですから。

 自治体も「散歩中は気をつけろ」と言ってくるでしょう。絶対に言い返してください。「この道を通ってしか、〇〇公園には行けません。大津と同じように飛び込んできたら、私たちは子どもを守り切れません」と。予防できる死亡を予防するのは保育者、園の責任ですが、できないことを「できる」と言うのは、無責任ですし、できないことを「しろ」と言うのも無責任です、事故予防に限らず、なんであれ。(5月9日夜)

保護者に伝えることは…

 大津の事故を受けて、「散歩は安全なのですか?」と保護者等に訊かれたら? 散歩中にしている具体的な安全行動(どこでは道のどちら側を歩かせているか、それはなぜか。どこでは手をつなぐかつながないか、それはなぜか。特に危険と認識している箇所はどこか、それはなぜか等)をお散歩マップをもとに具体的に説明してください(訊かれる前にお散歩マップに年齢別の解説を書き込んでおくという方法もアリ)。一方、「子どもは急に走り出す」「横断歩道の途中で座り込む」「転ぶ」「道端で座り込む」などします、とも説明(「親御さんと一緒でも、お子さんはしますよね!」)。

 「大津のような事故が絶対起きないようにして」と言われたら、「私たちは~(上記)のように細心の注意を払っていますが、向こうから車がぶつかってきた場合には、どうしようもないことがあります」とはっきり答えてください。世の中がひっくり返っても「はい、そうします」と言ってはいけません。散歩には徒歩で行かない、園バスで行く、という園も同じです。駐車場自体が交通事故の起こる場所ですから。

 「じゃあ、散歩に行かないで」と言われたら? 園庭が十分にあり、ホールも確保されている園なら、「では、〇〇さんのお子さんは行かせませんが、他の子どもたちと行きたいと言った場合には、私たちでは説明しきれませんので、親御さんからお願いします」とでも。園庭がない(狭い)、ホールもない(狭い)園の場合、「お散歩で〇〇に行かないと、お子さんが思い切り遊ぶ環境が保証できませんから、親御さんがその時間をお子さんと持っていただけますか?」「今の日本の基準では、園庭がなくても、ホールがなくても保育園は認められるのです。この基準自体を変えるべく、自治体に働きかけていただけませんか?」と。

 安全(事故予防)の専門家として言います。予防のまったくしようのない事故は、稀にではありますが起こります。大津の事故は、そこに子どもたちがいあわせなかったら、いまどき、地方紙の数行のニュースにしかならない「交通事故」です(車という便利さを捨てたくないから、現代社会は車同士の事故を「当然のできごと=価値に伴う当然のリスク」とみなします)。そこに子どもたちがいあわせたのは、事故特有の「確率/運」です。命が、確率/運にも左右されていることを認めなかったら、人間は生きていくことができません。事故の中には予防できたはずのもの、予防すべきだったものがいくらでもあります(ほぼすべての事故)。熱中症のようにおとなが的確に判断すれば、ほぼ必ず予防できるものもあります(熱中症はおとなの判断ミスであり、事故以前の問題)。逆に、子どもにとっては学びになる事故すらあります(A-1)でも、今回の事故はまったく違います。そこを分けて考える訓練を、社会全体がし直さなければいけないのです。

 予防のまったくしようのない事故がありえると認め、そこにその瞬間いあわせたことが確率(不運)であったことを認め、その確率(不運)は誰にでも起こりうるのだと認め、でも、私は、私の子どもは、私の家族は、私たちが預かっている子どもたち…は、今日、その確率(不運)をすり抜けて、幸運にも生きることができたのだと考えること。どこかで誰かに起きている事故は、まったくの他人ごとではなく、実は大切なことを毎日、私たちに教えてくれているのです。

 今日、あなたが生きられたことを当たり前だと思わないでください(その不遜さ、傲慢さがあなたやあなたのまわりの人の命を危機にさらすかもしれません)。今日、あなたが、あなたの子どもが、あなたの家族が、あなたたちが預かっている子どもたち…が無事に生きられたことは、事故が確率(不運)であるのと背中合わせの確率(奇跡的な幸運)でもあるのです。そして、だからこそ、今日一日、おとなも子どもも、保育者も保護者も、本当の意味で質の良い日を過ごす必要があるのです。これが掛札の目から見た「子どもの最善の利益」であり、「保育の質」です。(説教くさくなっていますが、今回の事故のように確率と命がかかわりあうものの場合、どうしても哲学的な思考が必要になるので、お許しください。)(5月8日、9日)

「加害者」になるリスクを下げるために

 大津で 散歩の園児の列に衝突した車が突っ込み、お子さんが亡くなる事故が起きました。事故後に突っ込んでくる車を避けることは、ほぼできません。でも、車を運転する方は、まず、自分が加害者になる確率を下げることはできます。自動車やバイク、自転車を運転中は、絶対に電話もスマホもしない!です(今回の事故の原因を言っているわけではありません)。自分の車はハンズ・フリーだから大丈夫? いいえ、研究からはっきりしています。「車の中にいない人と話をしている」、そのこと自体が注意力を奪い、ブレーキを踏む等の反応時間を遅くするのです。ハンドルから手を離すことだけではありません。絶対に電話もスマホもダメ!です。運転中とわかっている人に電話をするのもやめてください。

 そして、交通事故は「事故 unintentional accident=危害の意図のない事象」であり、誰にも加害者になる意図はありません。でも、自動車、バイク、自転車を運転している人たちは、誰でも事故を起こし得、「加害者」と呼ばれてしまう可能性があるのだということをおわかりください。私の側には過失のまったくない状況で2回(自転車、歩行)、車にぶつかられたことがあり、いまや自転車すら乗らない、安全の心理学者・掛札の叫びでした。(5月8日)


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