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D. クライシス・マネジメント/コミュニケーション

(2019年5月~)

●大津の交通事故にみるクライシス・コミュニケーションの価値
●プール水死事故後にみるクライシス・マネジメントの失敗
●入園後のやりとりの事例(2019年2月11日)
●クライシス・コミュニケーションの講座、研修

大津の交通事故にみるクライシス・コミュニケーションの価値

 大津の交通事故で「なぜ、事故当日に保育園が謝罪記者会見をしたのか」、そのような疑問が事故後、出ました。クライシス・コミュニケーション(危機管理コミュニケーション、場合によっては「不祥事対応」とも言われる)を専門とする宇於崎裕美さん(エンカツ社社長)によると、「当日に記者会見をして、非常によかった」です。

 マスコミは、事故や犯罪にかかわった人たちに取材をするのが仕事です。このような事故であれば、当然、保育園にも殺到します。その時に「お答えできません」と言ってもマスコミの人たちは引き下がらないでしょう。お迎えに来た保護者に「こんなことがあったのですが」「園は大丈夫だったのですか?」「危ないと思ったことは?」等、聞くことになります。これは園にとっても保護者にとってもマイナスです。ですから、「記者会見をすぐに開く」は正解だったということになります。

 「なぜ、謝罪記者会見をする必要があるのか」…、記者会見の様子をもう一度ご覧ください。理事長と副理事長は一度も謝罪していません。お悔やみの言葉は何度も口にしています。園長は時々、「すみません」と言っていますが、これは涙ではっきり説明ができないことを謝っています。これは「説明記者会見」であって、「謝罪記者会見」ではありません。園側に非はなく、謝罪をする必要はないからです。

 もちろん、この事故ほど明確に「園側に非がない」と言い切れる事故は稀です。たいていは、「非があったかもしれないが、まだわからない」または「非があった」という事故や事件です。その時は…? 「わからないこと」は「調査中です」「警察の捜査を待っています」と言いつつ…。さあ、ここからが大変です。ご興味のある方は、下の「講座、研修」の項をお読みください。(2019年5月14日)

プール水死事故後にみるクライシス・マネジメントの失敗

 2019年5月16日、京都市で2014年に起きたプール死亡事故の地裁判決(損害賠償)が出ました(「ニュース」参照)。内閣府のガイドラインができる前に起きた事故ですから、百歩ゆずって「監視と指導を一人ずつ置く」「監視は監視に専念する」の部分は当時、ほぼどこの園でもしていなかったと言えるかもしれません(明文化されたルールがなかった時のことを責めるのは、ある意味、理不尽です)。

 一方、この事故はクライシス・コミュニケーション/マネジメント上、最悪の例でもあります。事故発生後、園長は「体調不良」を理由に入院したらしく、いっさい出てきませんでした。園の記者会見もしていません。この法人は、保護者側との「こじれ」を作る最悪の対応をした人たちです。社会的には逃げ回って済んだのかもしれません、でも、保育者は? 「園長はなぜ隠れたのか(私たちは、この園をやめない限り逃げられないのに)」という不信感を抱きます。法人に対する不信感にもつながります。また、2011年に神奈川県大和市の幼稚園で起きたプール死亡事故では、園長が裁判中ずっと「自分は責任を果たした。罪はない」と言い続け、無罪になりました。監視をしているはずだった新任教諭は有罪(詳しくは4-4)。

 さて、保育士や看護師の皆さん、上の2つの園で「働きたい」「働き続けたい」と思いますか? クライシス・コミュニケーション/マネジメントというのは、対外的な「見栄え」の問題以上に組織内部に向けたものでもあるのです。4-4に昨年書き、熱中症が問題になるまでの1か月、お話ししましたが、施設長や理事長の皆さん、自園のプールで死亡事故が起きた時に上に書いた園長たちのような対応をあなたがすると思うなら、今年から絶対にプール活動はやめて、水遊び、泥遊びのみにしてください(それでもリスクはゼロになりませんが)。あなたは園長、理事長のお偉い立場で逃げ切れるかもしれない。でも、あなたの下で働いていた保育士、「怖いなあ」と思いながら監視をしていた保育士や職員は、それで一生をつぶすのです。そしてなにより、4-4に書きましたが、「私が責任をもって監視をします」と言える職員以外には、監視をさせてはいけないのです。

 …そして、以下は極論ではありません。法人や企業本部が職員に理不尽な責任を押しつけてきて、直訴しても自治体に報告しても変わらないなら、職員全員(含・園長)でとっとと辞めてください。そのような園は結局のところ、子どもにとっても悪い園です。保護者の皆さん、マスコミの皆さん、「職員が全員(多数)辞めた」なんて珍しいことではなく、日本じゅうあちこちで起きています(もみ消されているだけ)。そして、「職員が全員で(たくさん)辞めた」は保育士の問題ではなく、その法人、企業、園に問題があるということです。おまけ:公立の場合も問題のある自治体、園、職員はいくらでもあります(います)。でも、公立は「異動」で問題も不満もごまかします。これが良い方策でないことは明らかで、場合によってはその自治体の公立園全体を「腐らせ」るでしょう。(2019年5月17日)

入園後のやりとりの事例

 この項は、A-3の最後に暫定的に置いてあったものです(2019年2月11日)。

 A-2の最後に、理事長、園長、主任の先生方の「声のトーン」、コミュニケーションの方法について書きました。A-2、A-3は入園までの話ですが、実際、入園後、保護者とのやりとりの中でいろいろなことが起き、皆さんと対応を考えてきました。これらはすべて、クライシス・マネジメント、クライシス・コミュニケーションです。

●精神的・肉体的脅威を感じた時

 園側の人が精神的・肉体的な脅威を感じるのであれば、冷静に「〇〇さんにそのようなおっしゃり方をされると、私どもは脅威を感じます。私たちでは扱いかねますので、警察を呼びますね」「それは脅しです。私たちでは対応しきれませんので、警察を呼びます」と言いましょう。

 「脅威を感じる」とは、身体的に詰め寄られる場合、「土下座をして謝れ」といった屈辱的な行為を強要される場合だけではなく、怒鳴られる、執拗に責められる、不可能なことを約束しろと要求されるといった場合も含まれます。園側の人が脅威を感じ、強いストレスを感じるのであれば、「警察を呼びます」と言ってかまいません。もちろん、本当に警察に電話をしてよいのですし、警察も来ます。警察が保護者を諭す場合もあります。

 もうひとつ、脅威を感じる状態になった段階で自治体にまず報告しましょう。自治体は「穏便に」と言うだけだと思います。それでかまいません。「情報は先に言った者勝ち」です。後日、「警察を呼びます」と保護者に伝えたら、保護者から自治体に連絡が行く可能性大ですから、先んじてこちらの事実説明をしておくべきなのです。そうしなければ、保護者から伝わったことが事実になってしまいますから。

●園の範囲を超える要求をされた時

 園にできる範囲を超える要求をされた場合は、はっきり冷静に、「それは私どもが扱える範囲を超えていますので、弁護士に相談します」と答えましょう。たとえば、スポーツ振興センターの補償枠を超える要求をされた場合がこれにあたり、「この顔のケガが原因でおとなになってから…」と言われるようなケースです。

 恐怖のあまり、「なんでもします」「念書を書きます」などと言っては、絶対にいけません。

●「二度と起こすな」「次は許さない」

 かみつき、ひっかき(A-4)、適切な保育(A-1)のもとで起きたケガについて、「二度と起こすな」「次に起きたら許さない」「また起きたら訴える」というような場合が多々あります。こういった場合は、「子どもが集団で過ごす以上(活発にからだを動かして育つ以上)、『二度と起こさない』『絶対起こさない』とは申し上げられません」と、はっきり冷静に伝えます。

 それでも「絶対に」「二度と」を要求してくるのであれば、「そういうことですと、集団保育はお勧めできないのですが…」と、これもまたはっきり冷静に伝えます。この場で「集団保育に合わない」のは子どもではなく、保護者です。「私たちの園では預かれません」と言うと、他の園なら扱えるという話になってしまいますから、「集団保育そのものが(あなたには)合わないのではないか」と言うべきです。

●地域の弁護士とのつながりを

 お聞きしていると、弁護士とのつながりのない法人も少なくないようです。園を守り、職員の心と仕事を守るためには、理不尽な、あるいは範囲を越える要求をする保護者等に対し、園が毅然とした態度で対面していく必要があります。日頃から、園長会等で地域の弁護士を読んで勉強会を開くなどして、つながりをつくっておくことをお勧めします。この件に関連してこんな記事(教育新聞、2019年2月20日)もありましたのでご参考まで。

クライシス・コミュニケーションの講座、研修

 1)本サイトを以前からご覧の方はご存知の通り、宇於崎さんと掛札は「法人・園管理者向けのクライシス・コミュニケーション・トレーニング(模擬記者会見トレーニング)」をこれまで数回、実施してきました。今、そのページは閉めていますが、ご希望があれば開催します。これは法人の理事長/園長、企業の社長向けとなりますので、複数法人・企業のグループまたは自治体の保育/幼稚園団体の主催でお願いしています(法人や企業の傘下にある園の園長だけでは参加いただけません)。ご興味のあるグループ、団体の方は、kenshu@daycaresafety.org にお問い合わせください。基本、1日研修となります。

 2)「保育園、幼稚園など未就学児施設長向け:保護者対応文書作成オンライン・ワークショップ」の立ち上げを5月11日、プレス・リリースしました(リンクはこちら)。「記者会見なんて…」とお思いの方が多いのか、1)の需要があまりなかったこともあり、やはり日々のお知らせや手紙のほうが大事だろうということで開始するものです。プレス・リリースにある通り、1期あたり7人の参加者で進めるオンライン・ワークショップです。文章は「文章がうまくなる本」を読んだり、他人の文章の添削を読んだりしても改善されません。文章にはその人のクセがあり、それに気づくことが第一歩だからです。プレス・リリースを読んでご興味をお持ちの方は、tensaku@daycaresafety.org へ(第1期はすでに進行しています。第2期につきましては、氏名と保育園名を明記のうえお申し込みください。メールアドレスだけでお申し込みいただき、こちらからメール返信できない方がすでにいらっしゃいます)。

 3)掛札が深刻事故予防の担当で忙しく、日常の保護者対応コミュニケーション等の研修会をできないこともあり、宇於崎さんがコミュニケーションの研修会については相談に応じます。保育園のコミュニケーションはまだ「勉強中!」とのことですが、企業や自治体、学校等では事例のコンサルティングもしている方ですから、皆さまのお役に立てると思います。宇於崎さんはすでに、日本保育協会の所長向け安全研修等でもクライシス・コミュニケーションの概論をお話しくださっていますが、今後お受けするのは、保護者コミュニケーション全般です。「ぜひ研修会を」という法人、団体の方は kenshu@daycaresafety.org にご連絡をください。(5月14日)



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