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B-4. 発熱時や体調不良時のコミュニケーション

(2019年7月28日、9月29日加筆

●基本:「受診して」「お迎えに来て」「検査をして」は言わない
●子どもの状況をこまめに伝え続ける(ここの※に9月29日加筆)
●「ご心配でしょうから」等を言わない
●「閉じた質問」ではなく、「開かれた質問」を使う
●信頼関係ができたら
●具合の悪い子どもを放ってはおけない
●園内の場合:「病院へ行っていいと言われなかった」と職員が言う


 37.5度で保護者に連絡するのか、38度で連絡するのか? 平熱が高い子は? 低い子は? 熱はないけど体調が…? 新旧の感染症対策ガイドライン(2012年版2018年版)をよくよくにらんでもはっきりしません。ですが、基本に戻れば話は簡単です。「8-3. 災害時のリスク・コミュニケーション」同様、「保護者に情報を渡して、選択を促す」です。「お迎えに来てください」「受診してください」を言うべきではありませんし、言う必要もありません。その代わり、「〇〇さん、どうなさいますか?」と言い、「大切なお子さまの健康のことですから、1時間おきにお電話します(留守電にメッセージを残します)」と言いましょう。

 掛札が『保育者のための心の仕組みを知る本』(ぎょうせい)にも書いた内容ですが、あの本をつくった当時と今では、また状況が変わってきているように思えます。特に、さまざまな理由から保護者と信頼関係を築くことが難しくなっている現状を踏まえ、上のような単純化した(割り切った)コミュニケーションも必要だという点を説明します。

 最後に書く通り、「この保護者さんとは信頼関係がある」となったら、それはそれでまた別の話ではありますが、「親しき中にも礼儀あり」という言葉、そしてなにより、「保護者と保育園職員の関係は、あくまでも仕事としてのつながり」という原則をお忘れなく。その一線を越えたら、信頼関係はなにかの拍子に一気に壊れますから。

基本:「受診して」「お迎えに来て」「検査をして」は言わない

 朝、検温をしたら37.5度近くて少しだるそう。そう伝えると保護者は、「先生、病院へ行ったほうがいいですか?」。または、朝には平熱よりちょっと高い程度だったけれど、具合が悪そうだからと11時30分に測ったら38.2度。保護者に電話をすると、「先生、どうしたらいいでしょう?」。

 「病院へ行ったほうがいいですね」「お迎えに来てください」…、具合の悪いお子さんを見たら、先生たちはそう言いたくなるのが道理です。でも、私(掛札)はそうおっしゃらないことを強くお勧めしています。人間の心の動態、特に認知の歪みや変化を研究する社会心理学の見地からすると、保護者に具体的な行動を推奨することは、誰にとっても利になりません。

 同じ保護者でも、「どうなさいますか?」と返した時に「やっぱり…。(きっぱりと)じゃあ、病院へ行ってきます」「(即座に)そうですか、すぐに迎えに行きます」と自分から積極的に言う場合が当然あります(これまで常に、「受診を」「お迎えを」と園が言ってきた場合、逆に、こういう言葉を聞くことはないかもしれません)。今回、「どうしよう」と言っているということは、その保護者の心の中になんらかの葛藤があるのです。

 たとえば、午前中に職場で会議がある。子どものことはもちろん心配。会議はややこしい話にもなりそうだから、出ないですむなら出ないですませたい。「〇〇さん、病院へ行ってきたほうがいいですよ」、先生がそう言うなら…、「じゃあ、病院へ行ってきます」。葛藤を一時的に解消した形で、この保護者は病院へ行きます。…2時間後。「お医者さんは『保育園へ行っていい』と言ったので」と子どもを連れてきて、保護者は職場へ行きました(この医師の判断の可否は別の問題)。職場へ行ったら、「〇〇さん、どうして会議、出なかったの? あの話が出て大変だったんだから!」…、「え、そうだったの? 会議、出ればよかった…。でも、園で『病院へ行ったほうがいい』と言われたからしかたなかった」…。

 ここで、保護者の心の中の葛藤は、園の責任にすり替えられます。すり替える人が悪い、とは言っていません。人間は、常にこのすり替えをするからです。良い悪いではなく、この保護者がずるいとかそういうことでもなく、人間の心はそういうものなのです。これを読んでいるあなたも必ず、ひんぱんにすり替えをしています。でも、この状況の中ですり替えが起きれば、結果的に、「園で言われたから病院へ行った。そうしたら仕事でこんなことになった」という論理に落ち着いてしまうわけです。

 もちろん、葛藤状態の保護者に園が「大丈夫でしょうから、お預りしますよ」と言って万が一の事態になったら、「園が大丈夫と言った」「私/僕は病院へ連れていこうと思ったのに」となる可能性があります。こちらが園にとって大問題だということは、容易におわかりいただけると思います。

 もうひとつ、「病院で検査をしてきてください」と園側が言うこともあります。インフルエンザ等が疑われる場合です。明確に申し上げておきますが、これは絶対におやめください。検査は医師が判断・指示することです。地域の医療資源(検査キットは医療資源です)にもかかわり、保険にもかかわってきます。「園で、『検査をしてきて』と言われた」と保護者が医師に伝え、自治体レベルのトラブルになった事例もあります。

 「検査をしてきて」と言う必要は、もともとないのです。なぜか。まず、感染症の診断がついた子どもがいれば、園は当然、玄関先などに「今、〇〇感染症の子どもが△人います」と表示するはずです(絶対に隠してはいけません)。表示していれば、たとえば、「今、インフルエンザと診断されたお子さんが別のクラスに2人います。あ、明日、受診なさいますか? では、お医者さんに、インフルエンザの子どもが園に2人いるとお伝えになってください」と言えばすむことです。

子どもの状況をこまめに伝え続ける

 朝はちょっと平熱より高いだけだったけれども体温が上がってきた、という場合。あるいは、園バスから降りて園で測ったら37.8度で具合も悪そう、という場合。あるいは、「〇〇さんは、何を言ってもお迎えには来ないし、電話の向こうで怒鳴るだけ」という場合。

 いずれもとにかく、早い時点で第一報を電話で入れます(※)。「〇〇さん、今、△△ちゃんは体温が37.8度で、具合も悪そうです」、この時、「お迎えには行けません」と言われても、やわらかく穏やかな言い方で「そうなんですね(※※)。私たちには、△△ちゃんの健康のことをお伝えする義務がありますからお伝えしました」。たとえば、第一報を午前中に入れておけば、保護者は昼休みの間に「夕方、早く帰らなければいけないかもしれないから、こっちの仕事を先に片付けよう」と優先順位をつけることができる可能性もあります。第一報は早めに、できるなら午前中に、です。

 そして、その後も同様に1時間おき、1時間半おきに、「△△ちゃんの体温は今…」。体温が一定でも、下がっていても、「とにかく伝えておいたほうがいい」という体調の時は伝え続けます。「伝えた」という事実と、保護者の反応も記録をとっておきます(=伝えた証拠を残す)。保護者が「お迎えには行けないって言ってるじゃないですか」と怒っても、ひるむ必要はありません。「お伝えするのが、私たちの仕事ですから」です。

※どんな目的であれ、保護者に電話をする折、「お忙しいところ、申し訳ございません」とおっしゃる方がいます。この「申し訳ございません」は「邪魔をしてごめんなさい」という意味なのですが、聞き手の側に「お迎えに来いと言われて迷惑をかけられた」「仕事の足をひっぱられた」といった認知を与えてしまう可能性があります。つまり、「園が謝っているのだから、園が自分に悪いことをしているのだ」という認知が生じるのです。

 保護者がどんなに忙しかろうと、大事な子どもの健康状態を伝えるのですし、子どもにかかわる大事な話をするのです。「お忙しいところ、申し訳ございません」と言って、わざわざ自分(園)の立場を下げる必要はありません。電話の切り出しは常に、「〇〇さん、□□保育園の△△です。今、ちょっとよろしいですか?」で十分です。保護者が「今、会議中です」と言ったら、ぱぱぱっと「そうですか。今、〇〇ちゃんの体温が37.8度です。また、1時間後にお電話しますね。失礼いたしました」で終わらせればいいのです。

(この段落が9月28日加筆分)ここでひとつ大事なひと言。体調が悪いお子さん、搬送したお子さんの保護者ではない保護者に電話をしてしまった事例が複数あります。いずれも大事には至らなかったのでよかったのですが…。ですから、「〇〇保育園の〇〇です。△△さんのお電話ですか。ちょっとよろしいですか」の後、少しゆっくり、そして明確な発語で「△△さんのお子さん、□□ちゃんのことなのですが」と言ってください。そして、一瞬、息を吸って間を入れ(あちらが「△△」と「□□」を理解する時間を作り)、子どもの体調を話し始めましょう(以上、事務室の電話に言葉だけ書いておくのもお勧め)。会話の中にもなるべく、「△△さん」「□□ちゃん」という言葉を入れ、相手が気づけるチャンスを増やします。そして、電話を切ったら、今、自分がかけた電話がその保護者の電話であることを再確認(電話番号で)。

 なんでもとにかく謝ってすまそうという悪い癖があるのが、この文化です。でも、謝れば謝っただけ、相手は「こいつが悪いんだ。謝っているんだから」という認知を強くしていってしまいます。挨拶がわり、あるいは「ありがとう」の代わりにも「すみません」を言う方がいますから、これも人間関係にとっては決して得になりません(C-5. 「すみません」ではなく「言ってくれてありがとう」C-6)。

※※ここで「はい」「わかりました」「おいでになれないのですね」といった返答をすると、「迎えに来ない」という返答を園が受け入れたということになります。「そうなんですね」は、受け止めているだけで受け入れてはいません。コミュニケーションにおいては、「切り出し」や「返答」のひと言ひと言が大切だということを理解してください。「真摯に」や「心をこめて」ではありません、コミュニケーションは「ゴールを目指して戦略的にする行動」です。

「ご心配でしょうから」等を言わない

 「病院に行ったほうがいいでしょうか」と言われた時に、「ご心配でしょうから、受診なさったほうがいいですよ」と言う方もいます。「受診なさったほうが」にプラスして、この「ご心配でしょうから」は危険です。なぜかというと、この言葉は相手の罪悪感に働きかける意味だからです。

 建前上であっても、「自分の子どもを心配していない」と言う保護者はまずいないはずです。でも、「今日は病院になんて行っていられない」と葛藤を感じている保護者は、「子どもが心配」という感情よりも大きな「目先のこと」(『心の仕組みを知る本』)を抱えているのです。そこへ「病院へ行かない選択をするなんて、子どもを心配していないってことになりますよ」という意味あいのこもった「ご心配でしょうから」を言えば、保護者の葛藤は大きくなります。

 「そんなことを言われたって!」と怒る保護者はまだわかりやすいからいいのです。「…ですよね…。でも…」と受診(迎え)をしない選択をした保護者の中には、「私は子どもを心配していないのだろうか」という罪悪感が育ってしまいかねません。

 同じニュアンスのある言葉として、お迎えに来た保護者に「ああ、〇〇さん、おかえりなさい。よかった、〇〇ちゃん、とってもつらくて心細そうにしてたんですよ」と言うのもダメです。保育者にとってはそう見えたのでしょうし、親が来たことで子どもがほっとするのも事実でしょう。でも、これを言えば、やはり保護者の心に罪悪感や怒りを生まれさせてしまいます。

 一方、保護者が朝、「昨日は熱があったみたいだけれど、夕方、家に帰ったらすっかり平熱に戻っていたんですよ」と、まるで園がムダな大騒ぎをしたかのように言うこともあります。「おうちに帰れば安心して、熱も下がるんです」と言いたい気持ちはわかります。でも、それを園長や担任が言ったら…ですよね。こういう時はにっこりして、「あ、そうなんですね、よかったです。昨日は〇時頃、38度ありましたものね」。熱が本当に下がったのかどうかはわかりません。とにかく、昨日の事実をさらっと伝えるぐらいにしましょう。本来は、「家庭にいれば、たいていの子どもは安心して、それだけでも体調が良くなる」というストレスと症状の関係を、子育てや保育、発達の専門家が(書籍か何かで)保護者にはっきり伝えてくださるべきなのですが。

「閉じた質問」ではなく、「開かれた質問」を使う

 子どもの脳を育てる(『3000万語の格差』)うえでも、こういったコミュニケーションのうえでも大切なのが、「閉じた質問」ではなく、「開かれた質問」で尋ねることです。

 「閉じた質問」とは、「はい」「いいえ」といった答えができる質問、「開かれた質問」とは、「はい」「いいえ」では答えられない質問です。心の中に葛藤が生じている保護者に閉じた質問をすると、保護者側の選択肢が狭いため、「園に~と言われたから」または「先生に言われるようにする」になってしまいます。園が言った通りにする保護者が「良い保護者」ではないはずです。自分の生活の中で子どものことを自分で考え、自分で選択して決められる保護者を育てることは、園にできる「保護者支援」ではないでしょうか。

 「水疱が破れたら、ばんそうこうを貼りましょうか」(閉じた質問)ではなく、「水疱が破れたら、どうしましょうか?」(開かれた質問)。「熱が上がって、汗をかいているので、経口補水液を飲ませましょうか」ではなく、「熱が上がって、汗をかいているのですが、どうしましょうか」。…なによりまず、「病院を受診してください」「お迎えにきてください」(閉じた質問)ではなく、「どうなさいますか」(開かれた質問)です。

信頼関係ができたら

 これは並木由美江先生(全国保育園保健師看護師連絡会・前会長)がなさってきたことだそうですが、あくまでも保護者との間に信頼関係ができてから、の話です。

 「微熱ですね」「どうしたらいいでしょう?」「今日は月曜日ですし、お忙しいのではないですか? まず一度、職場へ行ってみてはいかがでしょう。11時頃に必ずお電話して状態をお伝えしますから、〇〇さんが決めてください。その時、職場には『保育園に言われたから迎えに行きます』とおっしゃってくださっていいですよ。」

 「微熱ですね」「どうしたらいいでしょう?」「金曜日ですよね…。病院はお休みになってしまいますし、朝から具合が悪かったのですものね。病院が開いている間にお迎えに来たほうがいいかもしれませんよ。」

 こういった信頼関係の基礎には、保護者が自分で判断して選べるという側面が必須です。園が保護者のためを考えてアドバイスをし続けていたのでは、信頼関係など築けませんし、なにより子どもの最善の利益はどこかへ行ってしまいます。あくまでも、子どもの利益の立場からアドバイスする園側と、それを知っていて自分で判断する保護者の存在という、2つの自立した立場が不可欠なのです。

具合の悪い子どもを放ってはおけない

 でも、子どもの具合があまりにも悪いように見える。保護者は迎えに来ない…。最後は、「〇〇さん、△△ちゃんの具合がかなり悪いので、救急車を呼んでいいでしょうか?」。「呼んでいい」と言われたら救急要請、「ならば、すぐに行きます」と言われたら「では、途中で容態が急変した時には××××にご連絡します。必ず、連絡を受けられるようにしておいてください」と伝えましょう(※)。

 今は、「登園許可証」を必要としない自治体もあります。「医師に『登園していい』と言われたから連れてきました」は実にひんぱんに起きます。医師に聞けば、「よくなったら登園していいと言っただけ」とかわされたり、「子どもが元気なら、(感染症は治癒していないが)登園していい。何週間も休むような病気ではない」と言われたり。確かに、命にはかかわらない感染症で、園で子どもたちがうつしあっていても当然なのかもしれませんが、食事がとれない時、体調が明らかに悪い時にも、「医者に『登園していい』と言われたから」と登園してしまうのが現実です。

 こういった医師が地域にいる場合は、園の玄関先などに掲示してある「感染症の状況(人数と疾患)」に、その旨を明示しておくのもひとつの方法でしょう。つまり、「そういう判断をする医師もいるので、うつっても当然と理解しておいてほしい」と伝えておくということです。

※ここに該当する手紙や掲示のひな型は、B-1の「緊急連絡先は連絡がとれる番号を」「体調が悪化する時/した時のために」。毎朝、保護者に子どもの健康状態を伝えるよう促すひな型は、「服薬や事故などについて毎朝、必ず伝えて」。

園内の場合:「病院へ行っていいと言われなかった」と職員が言う

 以上、書いてきたことは、園の職員にもあてはまります。でも、「(他の園に預けている)子どもが38度の熱なんですが、どうしたらいいでしょうか?」と訊かれて、「どうしたい? 仕事の状況はどう?」と自己判断を促した施設長に対して、「〇〇先生たちにも聞きました。大丈夫ということなので、早退させていただきます」が言えず、後で「施設長が『帰っていい』『迎えに行ってあげて』と言ってくれなかった」とぼやく職員もいるそうです。

 自分で状況を判断できない、自分で行動を決定できない、自分で葛藤を解決できないという点では、保護者も職員も似たようなものなのかもしれません。保護者の自己決定を促すなかで、職員の間でも「自分で判断して、自分で決める」環境をつくっていくことが大事なのでしょう。




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