3-2. SIDSについて、米国国立保健研究所の情報
(2016/2/19。特記した箇所を2021/11/22加筆。リンクも更新)

 米国国立衛生研究所(NIH)の「Safe To Sleep」ウェブサイトから、「SIDSの原因として考えられる要因の研究」のページと、「うつぶせ寝とSIDSに関する研究」のページを抄訳しました。

 未就学児施設として最も重要だと考えられる点は、ここです。このページの後半に「あおむけ寝の乳児に比べて、うつぶせ寝の乳児は、
 ・まわりの音に対する反応が弱い。
 ・血圧と心拍の急な低下をきたすことがある。
 ・動きが少なく、覚醒のしきい値が高く(目覚めにくく)、深い眠りが長い」
とあります。これがSIDS発生のリスクになっている状態の現れなのですが、考えてみればこの1つめと3つめこそ、現場の先生が「(うつぶせ寝で)よく眠っている」とおっしゃる、まさにその特徴なのではないかと気づいた次第です。ところがその状態だと、血圧や心拍の急な低下が起きることがある…。これは絶対に頭に入れておくべき点です。

 以下は抄訳です。


SIDSの原因として考えられる要因の研究

 乳児期、子どもの体内にも環境にもさまざまなストレス要因があります。SIDSで亡くなる児は、こうしたストレス要因に対して予測不能な反応をするような条件をひとつ、ないしはそれ以上持って生まれてきているのであろうと考えられています。乳児期の脳神経系の発達と機能について深く理解することが、SIDSの原因をみつけることにつながり、SIDSを起こしやすい子どもをみつけることにつながるというのが、多くの研究者の意見です。

▶3重リスク・モデル
 SIDSを理解するための概念として使われているのが、「3重リスク・モデル」です。図のような3つの条件の重なりが乳児のSIDSにつながっているのではないかという考え方です。



1.脆弱性(vulnerable infant):生まれつきある異常による脆弱性。呼吸や心拍をコントロールする脳の部分の異常、あるいは遺伝子変異といった要因が、この脆弱性にあたります。

2.発達上、重要な時期(critical developmental period):生後6か月の間、子どもは急速に育ちます。ホメオスタティック・コントロール(体温等を一定に保っておくシステム)の変化も、この間に起こります。睡眠覚醒パターンのように目に見える変化もあれば、呼吸、心拍、血圧、体温の変動のように、目に見えないものもあります。いずれにしても、こうした変化や変動が、乳児のからだの働きを一時的、または周期的に不安定にする可能性があります。

3.環境ストレス(outside stressor(s)):うつぶせ寝、暑い環境、タバコの副流煙、上気道感染といった環境ストレスがあっても、大部分の子どもは死ぬことがありません。しかし、脆弱性を有する乳児は、こうした要因を乗り越えることができない可能性があります。環境ストレスが単独で乳児死亡を起こすとは考えられていませんが、こうしたストレスが生来の脆弱性を有する子どもの生存を脅かす可能性があるのです。

 3重リスク・モデルでは、乳児の突然死の背景にはこの3要因すべてが必ずあると考えられています。すなわち、
・その乳児の脆弱性が把握されていない。
・その乳児は、成長上非常に重要な時期にあり、体のシステムが一時的に不安定になりうる。
・その乳児が、1つまたは複数の環境ストレスにさらされ、上記2つの要因ゆえに乗り越えることができない(死亡する)。
 うつぶせ寝をさせない等によって保護者が環境ストレスを取り除けば、それによってSIDSのリスクを下げることができる。

▶生まれつきの脆弱性として考えられているもの
・脳の異常
 SIDSで死亡する子どもの一部には、把握できていない脳の異常があるという点は、たくさんの証拠から示唆されています。典型的な異常は、セロトニンを介する神経系、および、呼吸、心拍、血圧、体温、睡眠からの覚醒を司ると考えられている脳幹の部分でみつかっています。けれども、こうした異常だけでは、SIDSの原因としては不十分であろうと考えられています。酸素不足、二酸化炭素過多、暑すぎる、感染があるといった要因が同時に存在しなければならないとされているのです。
 たとえば、呼吸器感染があったり、うつぶせ寝をしているために自分が吐いた空気を吸い込んだりして、酸素が足りなくなる、二酸化炭素濃度が上がるということは、多くの乳児が経験することです。こうした場合、通常は吸気が不十分なことを脳が感知し、覚醒させます。または、心拍や呼吸パターンを変えることで、吸気が増えるように体が働きます。しかし、脳幹に異常がある子どもでは、こうした防御システムが弱く、SIDSに陥るのかもしれません。うつぶせ寝の乳児のほうがSIDSになりやすい理由は、このように説明できる可能性もあります。

・遺伝子多型
 SIDSを起こす特定の遺伝子異常があるとは考えにくいのですが、さまざまな遺伝子が、SIDSの環境リスク要因(環境ストレス)と複合的に作用することはありえます。たとえば、代謝や免疫に関連する遺伝子多型、あるいは脳幹の働きに影響する遺伝子条件や、脳内の神経化学物質のバランスを崩すような遺伝子条件がこれにあたります。つまり、こうした遺伝子多型があるために、危機的な状況で死亡しやすくなるのかもしれないのです。 (要点:現時点では、「このような遺伝子多型があると、このようにして死亡する」という因果関係がわかっているのではなく、「SIDSで亡くなった乳児を調べると、免疫などに関係する共通の遺伝子多型が見られる」ということのようです。-掛札)
 また、SIDSで亡くなった乳児の多くで、免疫システムが活性状態にあります。こうした子どもたちは、単純な感染にも弱いということを示唆している可能性もあります。ある研究の結果では、SIDSで亡くなった乳児の約半数に、死亡に先んじて軽度の上気道感染が見られました(参照文献によると、ノルウェーで1984~1998年に起きたSIDS例を疫学的に検討した研究。2001年の論文)。

・遺伝子変異
 脂肪酸代謝異常症のように、遺伝子変異による疾患の中にも突然死を起こしうるものもあり、突然死が起きた時にはSIDSとの鑑別診断が必須です。また、家族歴から代謝異常が疑われる場合には、子どもにも遺伝子検査等をすることで、突然死の予防、疾病の悪化の予防につなげることができます。
 また、死亡した乳児の中には、心臓の伝導系に異常をきたす稀な遺伝子変異を持った子どもも見られます。この遺伝子は、致死性不整脈の原因となるものです。


うつぶせ寝とSIDSに関する研究

 SIDSのリスクを下げるために、親や子どものケアをする人がとりうる最も効果的な行動は、子どもをあおむけに寝かしつけることです。
 うつぶせ寝の場合のSIDSのリスクは、あおむけ寝の1.7~12.9倍となります。うつぶせ寝によってSIDSが起こるメカニズムは、完全には明らかになっていません。これまでの研究によると、うつぶせ寝がSIDSのリスクを上げるメカニズムは、次のように複数考えられます。

・うつぶせ寝の場合、自分の呼気(吐いた空気)を再び吸い込む可能性が高くなり、これが二酸化炭素の蓄積と酸素濃度レベルの低下につながる。
・上気道の閉塞が起こる。
・体から熱が放散するのを妨げ、体が熱すぎる状態になる。

 メカニズムはなんであれ、いくつもの国からの報告によると、「あおむけ寝で寝かせよう」という予防キャンペーンの結果、SIDSの発生率は大きく減少しています。うつぶせ寝のほうがあおむけ寝よりもSIDSで亡くなるリスクが高いという関係は、これまでの研究結果から明らかです。一方、香港のようにもともとうつぶせ寝がめったに見られない地域では、SIDSの発生率が歴史的に非常に低いことも、うつぶせ寝とSIDSの関係を強めています。

 あおむけ寝の乳児に比べて、うつぶせ寝の乳児は、
・まわりの音に対する反応が弱い。
・血圧と心拍の急な低下をきたすことがある。
・動きが少なく、覚醒のしきい値が高く(目覚めにくく)、深い眠りが長い。
 こうした特徴が、乳児のSIDSリスクを上げている可能性があります。あおむけ寝に寝かしつけるという簡単な行動によって、SIDSのリスクが大きく下がるのです。

 世界的にうつぶせ寝が減る一方で、横向きによるSIDSリスクが相対的に上昇していることが統計から明らかになっています。横向きはうつぶせ寝と同じ程度リスクがあることがわかっており、横向きにも寝かしつけるべきではありません。

 乳児をあおむけ寝にしても、他の問題のリスクを高めることにはつながりません。たとえば、あおむけにしたからといって、誤嚥や嘔吐が増えることはないのです。(この段落の以下、2021/11/22に翻訳加筆)これは解剖学的な理由によると思われます。あおむけ寝をしている場合、気管は食道の上にありますから、乳児が胃/食道側から何かを吐き戻したとしてもそれが気管に入るためには下から上へと、重力に逆らわなければならなくなります。逆に、乳児がうつぶせ寝の状態だと、胃/食道から上がってきたものは気管の入り口に溜まり、そこで詰まったり気管に吸い込まれたりしやすくなります(このページから)。


 

(上の図は、あおむけの時とうつぶせ寝の時の気道 trachea と食道 esophagus の位置を模式的に示しています。)

 また、あおむけ寝にすることで、他の益もあるかもしれません。2003年の研究によると、あおむけ寝の子どもはうつぶせ寝の子どもに比べて、耳の感染症、鼻づまり、熱が少ないという結果でした。うつぶせ寝とあおむけ寝の乳児では発達速度に違いがあり、あおむけ寝の子どものほうが発達が遅いという研究結果も複数ありますが、そうではないとする研究もあります。

 複数の研究から、あおむけ寝の子どもが覚醒時に腹臥位(おなかを下にした体位)でいる時間の長さと運動能力発達には相関がみられることがわかっています。つまり、子どもが起きている間は、うつぶせにして運動させることが重要である点を保護者に伝える必要がある、ということです。