8-3. 災害想定時の対保護者リスク・コミュニケーション
(2018/11/8初出。2018年と2019年の内容をあわせて2021/5/24に全面改訂)


コミュニケーションと責任の共有(分け合い)

 日常生活であれ仕事であれ、コミュニケーションは短期または長期の目的や目標があってするものですから、目的に合致し、目標に到達するための戦略(=具体的な方法と過程の設定)が必要です。その場の「出たとこ勝負」では不可能。深刻なリスクがある場合、コミュニケーションの失敗が命をも奪いかねません。災害が想定される場合のリスク・コミュニケーションでは、園、園の職員、子ども、保護者を守ることが大きな目的になるわけですが、一方で、園が無用の責任を負うリスクを避けるという点も大きな目的となります。

 2018年まで、災害(想定)時においてはほぼすべての自治体が「(物理的に開けられるなら)絶対開所」と言ってきたようです。けれども、「自治体が『絶対開所』と言っておいて人的被害が出たら、自治体の責任だ」という点が徐々にわかってきたのでしょう、責任から手を離して、「最終的には園が決めて」と言う自治体も増えてきています(各地から、そう聞こえてきます)。自治体は従来、「絶対開所と言っておけばいいだろう」と漫然と考えていただけで、「責任を問われる」となったら手を離します(責任は取れないし、取りたくもないのだから、当然です)。

 では、災害が想定される時には、園が決めて、園が責任をすべて取る? いいえ。災害は地域のできごとですから、保護者の側にも決定権と責任があります。また、熱中症を含む子どもの健康の管理(命の基本!)は、そもそも保護者の責任です(B-1)。園は効果的な(リスク・)コミュニケーションを通じて保護者の決定を求め、責任を共有すべき(分け合うべき)です。「私たちは何があっても保護者の皆さんのために開所します。そして、子どもが園にいる限り、私たちがすべての責任を負います!」とおっしゃりたいのであれば、それはそれでかまいませんが…。


人間は、2歳以降は「イヤイヤ期」

 まず、理解しておくべきコミュニケーションの基礎があります。社会心理学の分野で数十年、研究されてきた「選択」と「意思決定」の基本です。

 人間は他人から「こうしなさい」と言われ、「押しつけられた」「選択権を奪われた」と感じると、たとえその「こうしなさい」が100%正しいとわかっていても、不快に感じ、反発します。「選択できないから」「自分で決められないから」です。反対に、選択肢を与えられると、それなりに考えて決定をくだします。そして、選択肢が多少自分の意に沿わないものであっても、「選ぶことができた」という感覚のもと、自分が選んだ決定にそれなりの責任を持つのです。

 どこかで聞いたような話…。そうです。

★★ 人間は、2歳以降は(も)「いやいや期」! ★★

 「これを履いて」と差し出された靴下は絶対履かないのに、2~3足、靴下を並べられれば自分で選んで履く。おとなも同じです(提示する選択肢が多すぎると、この方法は失敗します←実験研究で検証済)。ただし、この国の主流文化には「よかれ」という思考システムがあるため、選択権を奪われていても不快に思わないよう自分の心を操作する練習をしている人もたくさんいます。とはいえ、園と保護者の関係で言えば、今の時代、「園が、よかれと思って決めてくれていることだから…」と考える人は少なくなっているでしょうし、そう考える人が多少いたとしても、「押しつけられた」と不快に感じて園に向かってくる人は複数いるのです。園としては保護者のことを考えた決定であっても、保護者が従うとは思わないほうが信頼の相互構築のためには得策です。

 選択肢を渡すこと。災害が想定される時であれば、保護者に情報と方針を渡し、保護者が選ぶ。それ以前に、災害が想定される時の選択肢について平時から保護者と相談をし、決めておく(=園と保護者が一緒に考えて、選べるようにしておく)。むろん、実際に災害が目の前に迫り、自治体すら「絶対危険!」「絶対避難!」と言うような場合は、選択どころの騒ぎではありません。


想定される災害を、いつ、どう伝えるか

 「明日は台風が直撃する予報なので、休園(休務)します」と園が言う。これは、コミュニケーション戦略上、良い方法ではありません。保護者の選択権を奪っているからです。

 では、どう言えばよいか。その前に、「いつ伝えるか」です。下に書く通り、災害の想定される日が平日なのか週末なのか週明けなのかによって異なりますが、基本は、想定される日の前々日。前日では遅いと考えてください。前日には次の日の予定が決まっている人が大多数だから、です。

 「どのようにして伝えるか」。一斉メール(できれば園で開封確認できるもの)がもっとも良い方法です。メッセージを読む責任自体を保護者に渡すことができるためです。これ以外の方法だと「掲示を見てください」→「見ていない」、「~とお話ししました」→「そんな話は聞いていない」が起こります。

 「どう伝えるか」。保護者に判断と決断を渡す言い方、すなわち「~をお勧めします」や「~をお考えください」です。自治体が何か言っているなら、それも情報のひとつとして渡します。


基本形:平日の場合

(細かい点は、下の「一斉メールの内容」をお読みください。

▶〔雨と土砂災害。避難に関する情報が出そうな日の(遅くとも)前々日〕

「○月○日以来の雨(豪雨)により、洪水/氾濫/土砂崩れなどの危険が高まっています。自治体から避難に関する情報が出ると予想されますので、明後日(または○日)は登園をお控えになることをお勧めいたします。市(区町村)からは、今の時点で『〇日は原則開所』との指示です。

※「自治体は原則開所と言っている」と伝えたら、登園してきてしまう? それは保護者が「決めて」登園してきたのです。自治体が原則開所と言っている、つまり、「自治体が責任を取る」と示唆しているわけですから、その情報は伝えておくべきです。「私たちはこうすべき状況だと考え、皆さまにお伝えしますが、自治体はこう言っています」と。2つの異なる選択肢のうちどちらを選ぶか、保護者は考えざるを得なくなります。そうすると当然、「仕事に行かなければと考えている自分」「とにかく子どもを預けたいと思っている自分」の意識も含めて考えるでしょう。「休園します」または「自治体が言うから開所します」のどちらかだけを言ったのでは、保護者のこの大事な思考プロセス(=自分で考えて、悩む)は生まれません。

▶〔台風。直撃されそうな日の(遅くとも)前々日〕

「現在、台風が○○地方に向かって進んでおり、○日の朝/昼には暴風域に入る可能性があるとの予報です。○日は登園/お迎えが危険になる可能性がありますので、登園をお控えになることをお勧めいたします。市(区町村)によると、『〇日〇時時点の警報等で判断』とのことです。判断が出たら、一斉メールします。

※自治体が判断をくだすのは、たいてい台風直撃の当日または前日の深夜です。当日の早朝、「今日は休園にします」と自治体が言ったら? ただでさえ「どうなるんだ?」とやきもきしていた保護者は、(判断は正しいと感じても)「仕事へ行くことになっているのに!」といらだちます(怒ります)。そして、その怒りは園に向かいます。だから、自治体の判断を待っていてはいけませんし、自治体の判断はギリギリまで出ないという事実を明示しておきます。

 この項と前項の下線部分は、状況に応じて使い分けてください。両方を記載する場合もあるでしょう。

▶〔大きな地震が起きた日〕

「本日の地震を受けて余震が続いています。気象庁によれば、今後数日間、余震が続く可能性、あるいは本日の地震よりも大きい地震が起こる可能性もありますので、保護者のご判断で登園をお控えになることもお考えください。市(区町村)からは、今の時点で明日は原則開所との指示です。」

※地震の場合は、「お控えになることをお勧めします」が言いにくくなります。大雨や台風よりも予測が立ちにくいためです。なので、「お考えください」。

▶〔積雪が予想される前日(特に、雪に慣れていない地域)〕

「現在、雪が降り続いており、明朝には園の周辺も積雪が予測されます。車のスリップや転倒などの危険も考えられますので、危険と判断した場合には(※)明朝の登園をお控えになることをお勧めいたします。」
「夕方から夜中にかけて雪が降るという予報が出ており、明朝には~(以下同)」

(可能なら、この後に…)「明朝○時の時点で、園周辺の積雪量を一斉メールでお送りいたしますので、判断の参考になさってください。」→園近くの職員が積雪をチェックして保護者に連絡(※)。

※積雪は場所によってかなり違うため、単純な「お勧めいたします」ではなく、「危険と判断した場合には」をつけてあります。
 「〇時の時点でメールをする」と送信予定時間を書き、必ずその時間にメールをする。もしまだ積雪をチェックできていないなら、「これからチェックに向かいますので、〇時〇分頃にメールします」。誰しも、いつ来るかわからない連絡を待つのはいやなものです。来るはずの連絡が来なければ、いらだちます。次の連絡時間を最初から予告しておき、その時間には(情報がまだなくても)必ずメールを送ります。「予告→実行」をしないと、基本的な信頼が失われます。


基本形の解説:なぜ「お勧めします」か

 「登園を控えるようお願いします」「登園を控えるようにしてください」と書く(言う)と、園からの依頼文になります。あたかも園がお願いしているかのように読めて(聞こえて)しまうのです。ていねいな言い方ではありますが、選択の余地はありません。「押しつけられた!」という反発感ゆえに「登園する!」という行動に出る可能性があります。

 一方、「登園を控えるようお勧めします」「登園をお控えになることもお考えください」と書くと、それは対等な呼びかけです。「私たち園はこう考えてこのように勧めますが、判断をするのは保護者のあなたです」という意味になります。もちろん、園に施設長も職員も行くことができない、それくらい危険な状況ならば、そうはっきり伝えましょう。その時は、「お願いします」でもなく、「園の周囲は危険です。近づかないでください」。


このようなメッセージが機能するには

 8-1に書いた通り、休園したからといって職員が一人も出勤しないわけではありません。園の被害を考えて、責任者や、すでに子どもが独立している職員で園の近くに住んでいる人たちを中心に、誰かしらは出勤します。そして、子どもも誰かしらは、なにかしらの理由で登園するでしょう。「お勧めします」と伝えたのですから、登園は保護者の側の選択であり、保護者の側に責任の一端が明確にある行動です。「考えて、登園すると自分が判断した」という意識を保護者も持つべきなのですから、その意識を育てましょう。災害以外であっても、「お願いします」や「~ください」とばかり言い続けていたのでは、この意識は生まれません。

 もちろん、災害時に出勤・出動の必要があると明らかにわかる職種に就くということは、それ自体が責任あるおとなの選択です。保育園やこども園の園長にも、(避難所になっているなら)幼稚園や学校の施設長にも出勤する責任はあるということになります。災害が予想されるのに、施設長や理事長が自宅にいるというのはまずありえません。そのような態度では保護者との信頼関係は作れないのです。

 そして、このようなコミュニケーションが成功するためには、地域のハザード(例:8-1に書いたハザードマップの更新状態や内容)について園から保護者に情報提供を続け、園と保護者がコミュニケーションをし、保護者も園周辺と地域全体の災害リスクを理解するよう取り組んでいくことが不可欠になります。面倒なことかもしれませんが、そうすることで保護者は家庭でも災害対策をでき、園も被害が予測される時に多くの子どもを預かる必要がなくなります。


休日または休日明けに災害被害が予測される場合

 まず、休日は組織内のコミュニケーションが滞ります。保護者が働いている組織内であれ、保育園(および自治体、法人、企業)内であれ、同じです。

 たとえば、2019年の台風の際、前日(日曜日)の午後、自治体サイトに「保育園全園休園」と公表した政令指定都市がありました。「首都圏JRが運休するから」というのが休園理由です。問題点は以下の通りです。

1)日曜日(休日)にいったいどれほどの園、保護者に情報が伝わるか。この自治体が園の管理者に日曜日、直接、連絡を取ったのかどうかはわかりませんが、園に伝わらなければ、まず保護者には伝わらないでしょう。保護者は園のサイトは見るかもしれませんが、自治体のサイトは見ないと考えるべきです。また、保護者は、実際にその情報を見ていても、容易に「情報なんて見ていない」と言えてしまいます。自治体としては「載せたのだから、自分たちの責任は果たした」なのかもしれませんが。

2)月曜日、首都圏の鉄道は「まだら運休」でした。動いている鉄道路線もあり、それ以前に、地域によっては自動車登園/通勤の保護者も多数います。つまり、日曜日に突然、自治体から「休園」と言われても、登園も出勤もできる保護者が多数いたのです(ツイッターにも、この自治体に住む困惑した保護者の書き込みがありました)。「JRが運休するから」は理由にできません。

 2019年のこの事例の時は、「朝8時から運転再開」などという楽観的な予測を出してしまって、実際には昼頃まで電車が動かなかったという、鉄道会社側の問題も起きました。すべての鉄道会社が「原則、始発から一日じゅう運休」としていれば、この混乱は生じなかったでしょう(それでも「電車は動いているらしい!」と知って駅に向かうなら、個人の責任)。いずれにしても自動車通勤/登園の保護者とは無関係な話です。

▶何を、どう伝えるか

 まず、金曜日(祝日の前々日)の送迎(できれば朝)の段階で、「月曜日(休み明け)は~が予想されますから、登園をお控えになることも選択としてお考えください」「遅くとも日曜日の夕方〇時までには一斉メールを出して、情報をお伝えしますので、必ずご覧ください」とメール+掲示しておく。台風の進路は金曜日にはかなり確定しているはずです。確定していなくても、または直撃ルートではなくても、最低限、「月曜日は~の予想はこういうこと。日曜日〇時までに一斉メールを出すから絶対見て!」を言っておいて損はありません。金曜日のできれば朝(=前々日)です。これによって、金曜日の時点で職場に「月曜日(休み明け)は保育園、休みかも」と言える保護者が出てきます。

 そして、自治体が休園と言おうとも、誰かが登園してくるだろうという想定のもと、施設長はじめ、近隣に住んでいて家庭の負担が少ない職員が数人、出勤します(土砂崩れやひどい浸水害が予測される場合は、「休園します」どころではなく、「危険ですから、絶対に近づかないでください」です。特に、園児の家庭が広範囲に分散していて、園周辺の状況を想像できない保護者がいる場合)。

▶一斉メールの内容(「基本形」にも使えます)

1)メールなので、常に、短く簡潔に。一斉メールには「いつもお世話になっています」的な前文は一切不要。読みにくくなるだけ。

2)「気象庁の予報では、台風の進路が~となっており、日曜日夜(月曜日朝、など)に付近を通る可能性があります」と、客観的な予報(情報)を書く。「私たちは~だろうと考えます」ではなく。

3)「道路を含め、交通がマヒする可能性があります」「計画運休が発表されています」「冠水が予想されます」など、地域のリスクを書く。「土砂崩れが予想されている」なら、以下は「危険ですから登園しないでください」。

4)「園では、停電、断水の危険があるほか、道路・鉄道事情で出勤できない職員も複数いると予測しています」「園としては、危険な状況の中、職員全員に出勤を求めることはできません」「通常の保育はできず、安全を第一に、合同保育を行うことになると考えられます」「安全に保育をできる状況ではない危険性もあります」と、園側のリスクを明確に書く。「出勤/登園はできる」と考えた保護者も、ここで「そうか」と思い直す可能性がある。

5)深刻度の予測に応じて、「月曜日は登園をお控えになるようお勧めします」「都合のつく方は、家庭でお過ごしになることをお勧めします」など、日曜日(祝日)の段階で伝える。ここで「お願いします」と書いてしまうと、相手に選択を求めるのではなく、相手に依頼する(押しつける)形に近づいてしまうので、お勧めしません。

6)「停電、断水、冷暖房の故障、園周辺の冠水や倒木等の情報については、明朝の〇時に一斉メールを出しますので、必ずご確認ください」と書く。そして、休み明け早朝に必ず情報を出す。

7)最後、「ご理解、ご協力をお願いいたします」も不要。ていねいに聞こえるようでいて、実際は「理解や協力を押しつけている」ニュアンスがあるため。「お勧めします」「ご確認ください」の後は、「よろしくお願いいたします」で終わり。

8)「登園する際はお気をつけて」や「ご家庭でもお気をつけて」といった文章は入れない。そもそも、一斉メールの内容とは無関係だから。気づかいなのだから入れるべき? いいえ、「登園する際はお気をつけて」は登園すると決めた保護者に対するいやみに聞こえ、「ご家庭でもお気をつけて」は出勤しないと決めた保護者に対するいやみに聞こえる可能性があるから無用。

 以上の作業はすべて一斉メールを通じて行います。今の時代、一斉メールは必須です(台風が来ない地域? 河川も氾濫しない地域? いいえ、地震はどこにでも起きます)。開封(既読)確認のできるシステムがよいでしょう。常日頃から「園からお送りするメールは、必ず開封してお読みください」と伝えます。


その他:事例から

●休み明け、登園してきた子どもの保護者には、「お伝えしているような状況ですので、状況が悪化したらすぐにご連絡します。いつでも必ず連絡がとれるようにしてください」と伝え、その日の緊急連絡先(職場内の伝言先も)を確認する。ここで「預からないから帰宅してください」と言うことは、保護者と子どもにとって危険な場合もありえます。

●保護者の中には、「判断の基準を決めてくれたらいいのに」と言う方もいるようです。2019年、臨時休園を決めた政令指定都市も「午前6時の段階で、警戒レベル3になったり、JR全線が運休したりした場合には、臨時休園」と決めていたようです。でも、当日の朝になって「休園」と保護者に伝えても、ほぼ無理。コミュニケーションのこじれを生むだけです。当日朝の状況をその日の判断基準にするのは最悪です。ですから、「自治体の判断基準は~ですが、急に『休園』と言われても保護者の皆さんは困りますよね。私たちも困ります。ですから、私たちの園では、できる限り早い時点で皆さんにご検討いただくようにしていきます。災害は毎回、違うので、ひとつの基準を決めてしまうことはかえって危険です」と常日頃から伝えましょう。

●もうひとつ、保護者同士で「明日は園、行く? どうする?」といった会話をネット上でしている場合も多いようです。これは「行ってもいいのかな、どうしようかな」という気持ちの表れですから、実は上のように「登園するという判断をするなら、どうぞ」という姿勢で園が向かえば、問題はなくなります。「休園します」と言っておいて、「〇〇さんは結局、登園して、預かってもらえたんだ」という話になったら問題です。だから、とにかく「休園」は言わず、「こういう状況になりますが、登園するという判断をするならそれはあなたの責任ですることですから、どうぞ」と伝えればいいわけです。

●停電等により、休み明けの朝、電話がつながらない場合もあります。金曜日または休日前日の送迎時の段階で、停電や断水、電話不通のリスクを伝えた上で、「電話がつながらない場合があります。また復旧等の対応に追われた状態になると思いますので、当日の電話等の問い合わせはお控えください。〇時以降、こちらから一斉メールで状況をご連絡します」と伝えましょう。そして、一斉メールを出す度に、「次は〇時にメールします」と伝えます。予告をしたら、必ずその時間にメール送信を。

●電話がつながらない状態でも一斉メールは出せるよう、通信キャリア(できれば、ポータブルWi-Fiルーター/ポケットWi-Fiも)は複数確保しておきましょう。一斉メールが出せるパソコンも複数用意しておきます。パソコンやポケットWi-Fi用のバッテリーも。

●電子錠の場合、まず園を開けることができないリスクがあります。電子錠を手動で開ける鍵を個人が持っていると、その人が出勤できなかった場合に開所できません。この場合、パスワードのついたキーボックス(不動産屋さんが使っているものです)を園のどこかに設置しておくという方法があります。パスワードは固定ではなく、ひんぱんに変えましょう。

●別種の災害ですが、いわゆる「ゲリラ豪雨」の場合、あわてて「お迎えを!」と連絡するのはかえって危険なこともあります。限られた地域に一時的な豪雨が起きている時、別の場所にいる保護者はそれをまったく知らない可能性もあります。このような場合は、「現在、園の周辺はゲリラ豪雨で浸水の危険があります」「浸水が起きています」、だから「しばらくお迎えを見合わせてください。子どもたちは建物内の安全な場所にいます」といった一斉メールを出すことも必要です。


最後に

 子どもを一人でも預かっていたら、園はその子どもを守るために全力を尽くすでしょう。できる限り早く開所して子どもたちを預かり、地域全体の復旧を支援しようとするでしょう。けれども、災害直後、あるいは災害が目の前に迫っていて、まだ預かっていない時点、これから預かること自体に大きなリスクがあるとわかっている場合、「自分たちが頑張らなければ」と無理をすることに意味があるのか、考えてください。もちろん、災害対応の仕事をする人が多い地域ではまったく状況は違いますが、それはそもそも自治体も園もわかっているはず、です。

 そのような特別な事情がない地域において、8-1に書いた内容とその結果を示しても、「断固、開所しなさい。開所しなかったら…」と言う自治体もあるかもしれません。園は開所せざるを得ないと判断するのであれば、自治体が出してきた通知等をそのまま保護者に知らせ、「私たちはリスクが高いと考えますが、自治体はこのように言っておりますので開所します」と伝えましょう。園の責任範囲を超えた部分で、自分たちが園を開けざるを得ないと保護者にも伝えるわけです。ここまでの間に、地域のハザードマップや園の判断基準を保護者と一緒に考えてきていれば、保護者は園と自治体のどちらの判断が、安全にとってより良いものかを判断できるでしょうし、その判断に沿って保護者は行動するでしょう。保護者と一緒に考えるプロセスが重要な理由は、ここにもあります。

 また、災害に関連して、施設内や屋外の避難経路等にある危険箇所を自治体の責任範囲であるにもかかわらず、自治体が補修・改善していないケースもあるようです。「明らかに危険な場所が避難の道沿いにあるのだが、園としてどう対応すればいいか」といった場合です。園としてはその危険を避けることができないのであれば、その点も保護者に伝え、「自治体に補修・改善をお願いしています」と言い続けてください。園にできないことを、「自治体はどうせ対応してくれないから」と自治体にも言わず、保護者にも伝えず、自分たちでなんとかしようと思ったら、万が一、それで重大な結果が出た場合、誰の責任になるでしょうか。

 これは、虐待やネグレクト(の疑い)の子どもが園にいる場合と同じです。災害であれ何であれ、園ができること、すべきことと、園にはできないこと、無理をしてまですべきではないこと、自治体や保護者等、他者の責任であることを線引きする、線引きして自治体にも保護者にも伝えておく。この過程に慣れていく必要があります。「なんでも自分たちで頑張る!」とだけ考えたのでは、園も子どもも守れないかもしれません。


おまけ(他者に対して使えない言葉)

 「登園をお控えになることをお勧めします」のところで、「これまで『登園を自粛してください』と言っていましたが、間違いでしょうか?」とご質問いただきました。間違いではないのですが、使うべきではありません。「自粛」は自分側が「自粛します」と使う言葉で、他人に「自粛してください」と言う言葉ではないのです。

 言葉の中には、自分の側で使うのと他人に向かって使うのとでは適切さが変わってしまうものがあります。「自粛」はその一例ですが、自粛以上にはっきりしているのは、たとえば「了承」という言葉です。「了承」は、「ご了承ください」「ご了承のほどよろしくお願いいたします」とこちらから言う時にしか使えない、と覚えておくのが安全です。「了承(いた)しました」と言って(書いて)はいけません(「承知いたしました」等が正解)。「了承」は上から下に向けた言葉、それもかなりの落差のある言葉ですから、日常、「了承(いた)しました」と使うことはありえません、自治体の長が部下に向かって「了承しました」なら、まあ、わかりますが…(上から下、なので、了承「いたしました」はもともと、ない)。「承諾」も「了承」と同じです。「ご承諾ください」と使い、「承諾(いた)します」とは言えません。

 言葉は変わっていくものですから、先々、「了承」も「承諾」も「~しました」と使えるようになる日が来るのかもしれません。でも、少なくとも今の時点では、「了承しました」「承諾いたしました」と書かれたメールを見て唖然とする人が、多少なりともいるのです。