A-7. ケガの際の受診、通院は誰がする?(同意文書も)(2024/3/2)

 従来、子どものケガは保育の中で起こるできごとであり、園の責任であるとして園職員が受診する慣習でした。また、「園の責任なのだから」という論理で、再診(通院)も担ってきた園が多いようで、そのような園は今も少なくないようです。

 時代は変わりました。

1)あらゆるケガを「未就学児施設の責任」「ケガをさせてしまって申し訳ない」と言っていたら、ケガにつながった活動をどんどんなくす方向、そして、ケガをさせない介入に保護者が腐心する方向に行くだけで、子どもの成長発達を阻みかねない。保育者は委縮し、「ケガをさせないこと」ばかりを考えるため、保育の質を下げる。
2)あらゆるケガを「施設の責任」と言ってしまうことで、保護者の認知を歪め、「補償をしろ」「ケガをさせるな」と、常識以上の対応を要求する保護者を増やす。
3)医療情報は重要な個人情報であり、受診する児の健康情報を施設職員が持って受診して医師に開示し、医師の診断結果を聞き、医師と治療方針等についてやりとりすることは、本来、勧められるものではない。医療機関側が「保護者以外」の同行に難色を示すこともある(子育てに直接かかわっていない場合は、祖父母であっても)。

 特に3)に関しては、園職員の同行で受診した後、「職員は園の都合のいいように医師に伝え、医師の意見も都合よく変えて、自分(保護者)に伝えている」「自分(保護者)が受診しようとしたのに、園が先回りして受診して事実を隠蔽した」などの言いがかりをつけられる事例もあります。もちろん逆に、保護者が同行して受診して、医師の言うことを保護者に都合のいいように(園を悪者扱いするように)歪めることもあります。いずれの場合も園内各所に「見守りカメラ」があれば、「ケガに至ったできごと(事実)」はどちらにとっても揺るがしようがないので問題はありません。とはいえ、事実そのものは揺らがないにしても、医療情報や治療方針について「園が口を出した」と言われる、「自分(保護者)の意に沿わない医療機関に連れていかれた」と言われる等のリスクを避けるため、「受診は基本、保護者」にしておくべきです。

 「保護者に受診させるなんて現実的ではない」? そうかもしれません。ならば、園と職員を守るため、「園職員が同行する」ことについて明確な同意を得ましょう。その都度、下のような同意書をもらう旨、4月に伝えておけば、保護者の中には「(園職員に同行を許すことは)確かにそういうリスクがあるなあ。自分が連れて受診しよう」と思う人もいるでしょうから。一方、園職員が同行することにはっきり同意する保護者なら、それはそれで良いのです。

 以下は手順です。


4月の保護者会等で伝えておく

 園が受診、通院をしている園が大多数でしょうから、「変えます」と言うのは容易ではないかもしれません。変える理由は基本、「医療情報は重要な個人情報であり、園が直接、あなたのお子さんの医療情報を扱うことには懸念があるため、方針を転換します」です。「受診、通院する人手が園にはないから」といった理由ではありません。あなたの園としては、園が受診、通院するほうがいいと考えているとしても、そして、現実には方法が何も変わらないとしても、今の時代はこのように伝えておいたほうがいい、ということです。

 まず、伝える内容のひな型。しおりに入れるなどして、文書でも渡しましょう。

 ---ひな型、ここから---

 保育中に起きたケガで、救急搬送を必要としないと判断したものは、保護者の方に電話ですぐお伝えし、保護者の方が御希望および御承諾の場合は、園の職員が同行して受診します(園が通常利用している医療施設になります)。ですが、保護者の方が受診なさるとのことでしたら、お迎えまでお待ちします。事故時の状況については説明をメモ(必要であれば、現場の写真も)でお渡ししますし、職員が説明のために同行することも可能です。

 初回の受診後、通院が必要な場合につきましても、医療における個人情報のやりとりを伴いますので保護者の方がお連れくださるようお願いいたします。事情により、園職員が通院を担当する場合は、お子さんの個人情報を職員が医師等とやりとりすることについて御同意いただけたものとしてお受けすることになります。

 初診、再診(通院)のいずれもその都度、園職員が同行して受診することについて、下の文書で保護者の方の同意をいただきます。初診時は電話で御説明した後、同意文書をメールでお送りしますので、「同意する」旨をメールで御返信ください。再診(通院)の場合は、事前に同意書に署名をお願いします。ケガの部位や程度は毎回異なりますので、同意もその都度お願いします(包括的な同意はお願いしません)。

 ---ひな型、ここまで---


 次に、同意を得る文書です。(救急搬送時を除く)ケガの初回受診、および初回後の通院の時に使います。4月の説明の時点で「参考」として渡すことで、保護者が考える材料になります。ただし、間違っても、「いつも保護者が受診」「いつも園が受診」という包括的な同意は得ないこと! (後に書いてある通り、ケガの時点では保護者は園にいないため、初診時はケガの説明をしたらこれをメールで送り、保護者が同意するなら、メールですぐに「同意します」という返答を受け取ること。再診時は事前に同意を得ること。

 ---同意文書、ここから---

 〇〇〇〇(保護者)は、本日の△△△△(園児)の受診を□□□□(施設)に一任します。同行する施設職員が医師にする事故発生時(または体調悪化時)の説明内容(電話で保護者が受けた内容)、医師等から施設職員が受けた指示については、受診後に施設職員から受ける報告を聞き、その内容に従います。
 また、保護者は施設に対し、施設職員が当該受診時、医療方針等の決定に関わる場合があること、及び関連する園児の医療・健康情報について医療機関から受領・説明を受けること、これらの情報を園児の保育に利用することを、予め承諾します。
 本日、施設職員が保護者に代わって受診に同行することに関して、不服を申し立てることはしません。

 (紙の場合は、下に署名欄)
 ---同意文書、ここまで---
 (この同意文書を作成するにあたっては、レーヴ法律事務所の柴田洋平弁護士にアドバイスをいただきました。同事務所の皆さんには『ハザード教室』にも御執筆いただいています。)


搬送や急ぎの受診は必要としないと判断するケガが起きたら
(かみつきやひっかき、骨折も含む)

 判断はこちら。「頭を打ったら全部受診?」という件に関しては、3月中に書き足します。
 伝え方はこちら

・保護者に電話をする。メールでケガの部位の写真を送るとよい(園がつい口にする、「ちょっとケガをして」という言葉で保護者がケガを軽く見なし、後でこじれる危険があるため)。

・電話で「園が受診して」と保護者が言ったら、上の同意書をメールで送り、メールで「同意する」という返信をもらう(口頭ではダメ。同意した証拠が残らないから)。

★ケガに至った経緯の事実を明確に書き出す。見守りカメラの画像があるなら、それを見て、事実を書き出す。2-8の書式をお使いください。

・ケガに至った経緯と医師に説明する内容を必ずメモに書き、それを持った園職員が同行し、受診する。

・受診時、メモに書いた内容以外のことを医師に話したのであれば、同行職員はそれをメモしておく。

・医師の診断、指示は必ずメモする(録音は不許可と想定されるため)。メモした内容を復唱し、医師に「過不足はないか」「この内容を保護者に伝えればよいか」と確認する。

・迎えにきた保護者に★の事実のメモを渡し、保護者が希望するなら見守りカメラの画像を示して説明し、医師の診断、指示もメモしたものを渡す。

・保護者が同行して受診するのであれば、迎えにきた保護者に★の事実のメモを渡し、保護者が希望するなら見守りカメラの画像を示して説明する。医師の診断、治療方針は保護者から(口頭ではなく)メモの形で受け取り、証拠として残しておく。その内容に疑問等がある場合は保護者に問い合わせ、らちが明かない場合は当該医療機関に問い合わせ、医療機関から回答がない場合は「回答がなかった」旨、記録しておく。