4-1. 誤嚥と誤飲の基準:飲み込めないなら大丈夫?
(2015年8月9日と2017年2月26日の記事をもとに編集・加筆。2021年11月7日)

★まず、息ができないできごと概論、誤嚥や誤飲が起こるメカニズム、対応はこちら (2-2)

【内 容】

誤嚥? 誤飲?

 誤嚥は、「嚥下しそこねた=ごっくんしそこねた」。口にしたものが食道方向へ行かず、喉/気管/気管支/肺のどこかへ行ってしまった状態(2-2の「▶誤嚥窒息は大きく2つ」の中にあるアニメをご覧ください)。誤嚥のうち、ものが詰まって呼吸ができなくなった場合(完全閉塞)や、呼吸しにくくなった場合(不完全閉塞)が「誤嚥窒息」。誤嚥すべてが窒息ではなく、液体や嘔吐物で特に高齢者が「誤嚥性肺炎」を起こすことも。

 誤飲は、体内に摂取してはいけなかったものを摂取したこと。0歳児がハチミツを摂取するのも誤飲なので「食べ物、飲み物ではないもの」と言うと、子どもの場合には誤解を招く。

 たとえば、飲み込んでしまった魚の骨が刺さると、場所によって誤嚥であったり、誤飲であったり。たとえば、実例と骨の咽頭異物のまとめ(子ども。「傷害速報」)、CT像3例(子ども)。


直径32ミリ、45ミリ。2つの基準

 「トイレットペーパーの筒に入る大きさのものは、子どもの口に入ってしまうから誤嚥や誤飲の危険がある」、保育現場の皆さんがよくご存知の情報です。母子手帳にも付いています。でも、実はこれ、古い情報なのです(古いだけであって、間違っているわけではありません)。今は新しい事実が加わり、直径39ミリ(≒トイレットペーパーの筒)という危なさの基準ではなく、直径45ミリと32ミリという、2種類の危なさの基準に分けられています。

  「へえ、45ミリと32ミリ…」、ちょっと待って! 数字をうのみにしないでください。なぜかというと、この数字もこれまでの39ミリも、あくまでも36か月の子どもの口をもとにして、「36か月以下の子どもには適さない玩具」を規定するために決められたものだからです(それもヨーロッパで。後述)。未就学児施設には、36か月よりも大きな子どもたちがいます。もちろん、36か月以降になれば、なんでも口に入れるということは少なくなるでしょう。でも、物を口に入れることが好きな子どもは何歳でもいますし、ふざけて口に入れることもあります。ですから、この数字を杓子定規にうのみにしていると危険です。45ミリよりもっと大きいものでも、3歳以上なら詰まって窒息する危険があるからです。

 まず、なぜ、45ミリと32ミリという2つの危なさに分けられたのでしょうか。簡単に言えば、「飲み込めないような大きさのものでも、喉の上のほうに詰まって窒息する可能性があるから」。そのため大きい方の数字が、今までの39ミリよりも大きくなった(45ミリ)のです。そして、従来の誤嚥・誤飲の基準は32ミリ以下に。

 細かい点はこちらをご覧ください。元の文書から、該当部分の図と文を抜き出して日本語に翻訳しました。元の文書に興味のある方は、こちらをご覧ください(英語)。欧米では玩具等の安全がどれだけ厳しく、具体的な数字で決められているかをおわかりいただけると思います。ただし、この文書はすでにちょっと古いものです。最新の文書はとても高価なので…(該当部分に変更はありません)。


玩具等による窒息事例

 日本でも「飲みこめなくてもはさまってしまう」事例が起きています。典型的なのが、日本小児科学会「傷害速報」の47番めの事例(イチゴのトントンおままごと)です(PDFはこちら)。この事例の場合、玩具の直径は30ミリ強ですが、このお子さんは2歳0か月ですから、これまでの考えでは「飲み込めない=安全」と判断されかねません。けれども、この写真のように上咽頭部(飲み込みはじめの一番上の所)にはさまった状態で息ができなくなり、最終的には亡くなっているのです。飲み込めそうにない大きさでも詰まる、そして大切な点は、球形ではない形、このような形のものであっても窒息を起こしうるということです(写真はまったく同じ玩具)。



 「傷害速報」を見ると、他にも玩具による窒息事例があります。いずれも、もっと典型的な球形のものです。たとえば、3歳9か月のお子さんが直径35ミリのスーパーボールを2個、口に入れて遊んでいるのに気付いたお母さんが「危ないから出しなさい」と叱ったところ、驚いて1つを飲み込んでしまい死亡した事例(詳しくは同ページ下部のPDFをご覧ください)。同じページの下に類似の事例も2つ、リンクが置かれています。こちらもスーパーボールによる誤嚥窒息事例です。


飲み込めないものでも口に入れば…

 たとえば、写真のような「タマゴのトントンおままごと」の半分を1歳児が口に入れた事例は複数あります。最初に聞いた事例は、下写真のように口の奥側に楕円側が向き、口を開けると断面が見える状態だったそうです。保育者が指を口の内側に添わせるように入れて奥の曲面側に指先をあて、かき出すような形で出そうとしましたが、歯が断面部に当たってなかなか出なかったそうです。





 円柱(円筒)形の積み木を乳児が口に入れた事例も、別の所で聞きました。円の部分の大きさが開いた口(唇部分)の大きさと同じだったため、口の中に入っている積み木を指でつまむことはできても、口から出すことができず、口を開かせようとする度に子どもは泣いたと、うかがいました。タマゴのトントンでも同じ。タマゴの大きさは口(開口部)の大きさと同じか、逆にタマゴのほうが大きかったぐらいだそうです。


飲み込めなくても、フタをするだけで…

 「イチゴのトントンおままごと」は、飲み込みはじめの一番上の部分にはさまった状態で窒息しました。論理的に考えれば、喉の上部にはさまる手前、つまり口の一番奥の部分にフタをされた状態でも息はできにくくなり、取ることができなければ、亡くなる可能性はあります。写真の小さいタマゴの玩具(トントンではなく、丸のまま)のようなものが、リスクの高い典型例です。



(3つの玩具の大きさを比較すると…)


 たとえば、この小さいタマゴを子どもが口に入れていることに先生が気づいた。「あれ、タマゴを入れてるよ! 〇〇ちゃん、お口から出して」。タマゴは口の奥にあって、見えている。ゲボッと吐き出してくれればいいのですが、小さい子どもにはまだ、これができない。先生が指を入れて取り出そうとする。ところが、この形ですから非常にすべりやすく、唾液も混ざり、つかめない。指がすべれば、その反動でタマゴは奥の中に押し込まれます。子ども自身も苦しいので、息を吸い込みます(人間は息ができずに苦しいと、息を吸おうとするそうです=中へ引きこまれる)。泣きます(これも中へ引きこむ状態)。このまま、事態が悪化する可能性は十分考えられます。


「見ていれば…」「おもちゃが減ってしまう」…?

 詰まったら窒息するようなおもちゃであっても、「見ているから大丈夫」と言う方はたくさんいます。でも、口に入れるのは一瞬です。詰まるのも一瞬です。目の前で見ていても間に合いません(上の死亡事例も保護者が見ている前で起きました)。そして、詰まったら、何をしても出ない危険性は十分にありえます。「見ていれば大丈夫」「私(たち)は見ていられる」「きっと出る」ではないのです。

 「そんなことを言っていたら、おもちゃがなくなってしまう」…(※)。すべてのおもちゃを捨ててくださいなどとは言っていません。実際に選別してみましょう。トントンおままごとの一部が危ないなら強力接着剤で全体を強く接着してください。そうすれば、捨てるおもちゃはほんの数個です。「おもちゃがなくなってしまうから」「見ていれば大丈夫だから」とおっしゃってそのままにしておき、そのおもちゃや別のおもちゃで子どもが亡くなったら、後悔するのは「大丈夫」「もったいない」「おもちゃがなくなってしまう」と言ったあなたです。

※こうした論理のすり替えについては、『保育通信』2021年5月号の記事


口に入るものすべてが危険?…ではない

 一方、「トイレットペーパーの筒に入るものはすべて危ない!」と言って、なにもかも捨ててしまう方もいらっしゃるようです。それも誤りです。ここで言っているのは、「つるん(素材)」「ころん(形状)」したものの誤嚥リスク、つまり「素材」と「形状」の問題なのです。たとえば、2-2でも紹介した『具材』、この本の中にはトイレットペーパーの筒に入る大きさのものが山ほどあります。では、危険? いいえ。フェルトや毛糸、あるいはキッチンスポンジのようなザラザラしたものを一気に飲み込めますか? おとなでも無理です。そこは理屈で考えましょう。子どもがモノを口に入れることが悪いわけではありません! 子どもにとっては、口にモノを入れるのが成長・発達のお仕事なのですから。

 そうすると、「私の園にも危なそうな玩具があるけど、どうすればいい?」と、ご心配になる方がいらっしゃると思います。

1)スーパーボールや小さな卵型おもちゃのように、明らかに直径45センチよりも小さく、明らかに球形または球形に類する形のものは、誤嚥窒息のリスクが高いので撤去すべき。スーパーボールが「つるん、ころん」の典型です。スーパーボールに近い素材、大きさ、形状のモノ、食べ物は誤嚥窒息のリスクが高いのです。

2)玩具、特におままごとやトントンおままごとの類には、上のイチゴの玩具のような形状のものが多数あります。「どれが安全?」と悩むくらいなら、「これは心配!」と思うものは撤去してください。「うーん、口に入れているのを見たこともあるし、危ないような気がするけど…」、それが安全なのか危険なのか、子どもの口に入れて実験することはできません。万が一の事態が起きてからでは遅いのですから、先生方の「安心」と「心配」を尺度にしてください。「危なそうだけど、きっと大丈夫!」ではなく、「危なそうだから、やめておこう」が基本。

3)目の前にいる、今のこの子どもたちの「口に入って」「はまりやすくて(形状、大きさ)」「とれにくい(形状、大きさ、素材)」物と考えれば、日常の子どもたちの様子から判断できるはずです。もちろん、「口に入る」とは、(乳児の場合は特に)「むりやりにでも口に入る大きさ」ということです。「こんな大きいもの、よく入ったね!」はもちろん、「絵本、こんなにかじっちゃったの? うわ、口の中がいっぱいだ!」や「ティッシュ、どんどん口に入れてる~」もあります。おとなの基準で言う「口に入る」ではありません。そして、「目の前にいる、今のこの子どもたち」という点も大事です。「5歳だから、そんなことはしない」と思っていると…。子どもの行動に一般論は通用しないのですから。


「売っているものは安全」?

 「売っているんだから、安全なはずでしょう?」とおっしゃる方もいます。残念ながら、この45ミリの基準は欧米の基準です(基準を作ったのはEU。最も厳密に施行しているのもEU。ただし、以前にヨーロッパから輸入された玩具は今の基準に適合していません)。日本にはそもそも、同種の安全基準が明確にはありません(STマークは、業界の自主基準)。「売っているものなのだから安全なはず」は通用しないのです。

 そして、日本文化の場合、深刻事故が起きても「保護者/保育者が見ていなかったのが悪い」「手の届く所に置いておいたのが悪い」、最悪の場合、「そんなものを口に入れる子どもが悪い」というトカゲのしっぽ切りで終わりがちです。「その場にいた職員が悪い」と責任を問われるリスクが高く、玩具や遊具のメーカーや販売者は責任を取らないであろう現状では、現場で子どもをみている(=万が一の時に責任を問われる)保育者の「安心」「心配」を判断の基準にするべきです。

 誤嚥しそうなものに限らず危ないと考えられるものは、おもちゃの製造業者や販売業者にも「これは危ないから作らないで」「安全なものを持ってきて」と伝えてください。事故があったら泣き寝入りせず、製造業者や販売業者に被害を訴えましょう。使う子どもとおとな(保育者、保護者)にだけ責任があるのではなく、製造業者、販売業者にも責任があるのだと伝えていかなければ、危険な玩具は減りません。


32ミリは「飲み込めてしまう危険」

 では、32ミリのほうは? こちらは通常の誤飲・誤嚥の危険です。上に挙げたこの文書の3ページにあるように、形、素材などは無関係です。球状や切り口が円のものは特に危険ですが、それ以外の形のものでも口に入って飲み込めたら危険になります。

 ひっかかることなく体内を通過すれば排泄されますが、下のイヤホンパーツや画鋲のように食道にひっかかったり、ボタン電池や磁石のように体内のどこかでとどまってしまったりすれば危険です(4-4参照)。一方、飲み込める大きさ(=喉は通り抜ける)であっても、気管に吸い込まれてしまえば詰まりますから、重症に至る可能性があります。ナッツや節分の豆による死亡例のほか、イクラが子どもの気管に詰まり、低酸素脳症による重症の脳障害につながった事例もあります(4-2参照)。

 「傷害速報」を見ると、たとえば、イヤホンのパーツ(11か月)や画鋲(7か月)の誤飲があります。また、窒息では、水風船(ヨーヨー)による窒息(1歳11か月)、ボールペンのキャップ(3歳1か月)、巨峰(2歳6か月の事例、および1歳6か月の事例。後者は死亡)、ベビーフードの中の砕いた大豆(10か月)。さらに、タバコ型砂糖菓子の事例も同様です。

 ここで見逃しがちなのが、細い/薄いシート状のものです。たとえば、「傷害速報」に出てくる「水風船による窒息事例」。1歳11か月児の気管支に水風船(ヨーヨー)が入ってしまったものです。最終的に見つけることができて取り出し、命にも脳にも別状はありませんでした、これは、「細く、気管に吸い込まれてしまう形」ですから、「つるん、ころん」でもありませんが、フェルトや毛糸とはまったく違います。2019年5月、しぼんでいたサボテンの花を11か月児が気管に詰まらせて死亡した事故も起きていますが、これも同様です。なにが同様? 「薄いシート状のものを飲み込む/吸い込む」危険です。