2-2. 息ができない事象4つの予防と対応。睡眠中/プール中の異常
(2019/1/20から随時加筆。2021/5/20編集) (取消線の部分は、記事を復活させたらリンクを戻します)

 このページは並木由美江先生はじめ、各地の保育園看護師の皆さんのご助言を特にいただきました。ありがとうございます。

息ができない4つのできごと。特に誤嚥窒息
・ハインリッヒの法則とは?  ・「息ができないできごと」には真ん中がない  ・4つの中でもっとも怖いのは誤嚥窒息  ・誤嚥窒息は大きく2つ:喉か気管か  ・食べ物は「なんでも詰まる」が前提  ・誤嚥窒息時の注意
4つの危なさ(ハザード)は「誰も見ていなくても大丈夫」な状態に
・水(プール活動以外)  ・ヒモ、ヒモ状のもの  ・すき間や棒状のもの  ・布など  ・詰まるもの  ・子どもの取り残しはきわめて危険
睡眠中、プール活動中は「息ができない」ではない
・プールはわざわざリスクを上げる活動。「監視」だけが鍵に  ・とにかく救命救急行動を  ・ハザードマップと「息ができないできごと」
おまけ:内閣府の事故統計について


「息ができない」4つのできごと。特に誤嚥窒息

 ここではまず、息ができない事象(できごと)、すなわち「溺れる(溺水)」「首が絞まる/押さえられる(絞扼/こうやく)」「鼻と口が覆われる」「喉または気管に詰まる(誤嚥窒息)」について整理します。そして、特に、誤嚥は2つに大別できる点を説明します。その後、睡眠中の異常とプール活動中の異常は、必ずしも「息ができない」結果として起こるのではない点、さらに、睡眠中の深刻事故とプール活動中の深刻事故の意味は、未就学児施設にとって大きく異なる点を説明します。

▶ハインリッヒの法則とは?

 よく耳にする「ハインリッヒの法則」ですが、これを考案したのは、Herbert William Heinrichさん、米国の保険会社に勤めていた産業安全の先駆者の一人です。1931年、出版した本に彼が経験則として記述したことが「ハインリッヒの法則」と呼ばれるようになりました(「1件の大きな傷害の下には29件の中等度のものがあり、その下には傷害に至らなかった300件がある」という三角形)。

 けれども、その後のさまざまな検討から、この比率にはまったく根拠がなく、ハインリッヒさんが観察した例にすぎないこと、産業界であっても現場の状況によって比率は大きく異なること、また、よほど大量のデータを集めない限り、このような三角形にはならないこと等が明らかになりました(以上、英語のウィキペディアから)。なんらかの概念が日本語になって独り歩きを始めると、原語の議論や反論が翻訳されないまま「真実」になってしまうという典型例でしょう。

▶「息ができないできごと」には真ん中がない

 下図の通り、「息ができない4種類のできごと」(溺水、絞扼、口と鼻が覆われる、誤嚥窒息)には、ハインリッヒの法則で言う真ん中の部分が一切ありません。息のできない状態が解除されて息ができるようになるか(下の台形の部分)、息のできない状態が続いて死亡するか脳に障害が残るか、2極なのです。受診するような事例がほぼないということは、こうしたできごとの危なさが意識にのぼりにくいということでもあります。



 ですから、息ができないできごとのヒヤリハットや気づきは、とても大事です。「詰まったけど、出たから大丈夫」「呼吸が戻ってよかった」で終わらせてはいけません。特に子どもが何かを詰まらせることはよく起きますから、「詰まるけど大丈夫」という認知の歪みは起きがちです。

▶4つの中でもっとも怖いのは誤嚥窒息

 溺水、絞扼、口と鼻が覆われる、誤嚥窒息の中でもっとも怖いのは、どれでしょうか。

 答えは誤嚥窒息です(※)。

 なぜか。他の3つのできごとは、息ができない状態そのものを解除することが容易です。「沈んでる! 引き上げて!」…酸素がある所に出せます。「首がひっかかってる! 取って!」…たいていは取れます。「布団をかぶってるよ!」…取れます。そして、どれも早く見つけて息ができない状態を解除し、心肺蘇生をすれば、息を吹き返すでしょう。でも、「詰まった! 出さなきゃ!」……、何をしようが出ない時は出ません。救急隊が努力しても出ないことはあります。

 「このおもちゃ、1歳児が口に入れたら詰まるかもしれないから、捨てたほうがいいですよ」「大丈夫です、見てますから」。いいえ、子どもが口に入れるのは一瞬です。飲み込むのも一瞬です。詰まるのも一瞬です。そして、詰まったものが出てくる保証はどこにもありません。それは、山中龍宏先生たちの「傷害速報」(日本小児科学会)に出てくる誤嚥窒息事例(たとえば4-1にも引用した「イチゴのトントンおままごとの事例」を見るだけでも明らかです。「見ていれば大丈夫」は、誤嚥窒息に関しては完璧に誤りです(※※)。

※誤嚥のすべてが窒息ではありません。魚の骨が喉や気管、食道に刺さるのも誤嚥です。誤嚥は「嚥下しそこねた」状態なので。他には、紙やシール等の誤嚥・誤飲もあります。ちなみに、誤飲は「本来、体内に摂取すべきではないものを摂取してしまった」ことで、子どもの場合、アルコール飲料やおとなの薬なども含まれます。詳しくは4(誤嚥・誤飲)の各項目を。
※※ 4-1のイチゴのトントンおままごともタマゴもそうですが、私(掛札)が門前の小僧として保育を学んだ立場からとすると、こういったおもちゃはそもそも不要だと思います。こういったものを0歳や1歳の目の前に置いておけば、(なんだかわからないまま)手にとって口に入れるだけです。もう少し大きくなれば、こんなできあいの(そして、本物とは似ても似つかない)おままごとよりも、いろいろなものに見立てられるもののほうがよほど汎用性に富んでいます。チェーリングをつないだもの、5センチぐらいに切ったカラーのホース(太さもいろいろ)、4センチぐらいに切ったキッチンスポンジでも、子どもたちは見立て遊びをしますから。簡単に作れる見立て用素材を集めた『具材』という本もあります(書店では扱っていません。リンク先から直接買うか、こどものとも社さんに注文してください)。

▶誤嚥窒息は大きく2つ:喉か気管か

 誤嚥窒息は、「どこに詰まるか」で2種類に分けられます。
・喉(気道の上部)に詰まる
・気管に詰まる

 「喉(喉頭/こうとう)に詰まる」というのは、4-1のイチゴのトントンおままごとのように、飲み込み始めたすぐの所かその下に詰まった状態です。4-1にリンクが貼ってあるスーパーボールの事例(「傷害速報」のPDFに直接リンク。X線写真あり)も同じです。ミニトマトや白玉もこちらでしょう。イチゴのトントンおままごとの場合(PDFに直接リンク)、はさまっている状態ですが、スーパーボールのような形態のもの(ミニトマトも白玉も)が喉頭部にはまってしまうと、取り出すことが大変むずかしいと「傷害速報」の事例3(PDFに直接リンク。スーパーボールによる死亡)にも書いてあります。

 一方、「気管に詰まる」のは、喉頭蓋(こうとうがい)よりも下の、本来は空気しか通らないはずの気管に詰まることです。気道(口/鼻から肺まで)は、喉頭蓋の所で気管と食道に分かれます。ふだんは空気を取り込むために気管/肺の側の通路が開いているわけですが、唾液や食物を飲み込む時だけ喉頭蓋が気管にフタをして、気管/肺のほうへ水分や食物が行ってしまわないようにするわけです(こちらのアニメをご覧ください。柏歯科医師会の大石善也先生作)。そして、気管側に入りそうな時、入ってしまった時は、むせる(咳嗽/がいそう)反応をします。

 たとえば、2歳前後の子どもの気管の太さはだいたい6ミリ弱だそうです(4-2に紹介した「傷害速報」事例52。PDFに直接リンク)。ということは、かなり小さいものでも詰まるのです。「傷害速報」45の事例(PDFに直接リンク)では、10か月児の気管支に8ミリ×3ミリの大きさの砕いた大豆が詰まったと紹介されています。

 このように、詰まる場所は大きく分けて2つあり、喉には「子どもの口に入る大きさで、表面がスムーズな、球形かそれに類するもの」が、気管には「小さいもの」がそれぞれ詰まりやすいということになります。

▶食べ物は「なんでも詰まる」が前提

 よって、なんでも口に入れる月齢の子どもたちが、喉に詰まるようなもの(食べ物であれ、おもちゃであれ、栽培のミニトマト〔4-2〕であれ)を自由に手にできる環境は、まず危険だということになります。

 食べ物は喉にも詰まる危険性があり、気管にも詰まる危険性がある…。では、何を食べさせればいい? 答えは「なんでも詰まる可能性はあるのだから、喉や気管に詰まりにくい食べさせ方を」ということになります。ミニトマトや白玉、あめ玉のように特に危険なものはありますが、「これなら詰まらなくて安全」という食べ物はありません。

 もう一度、考えてください。食べ物は本来、気管の側には行かないよう人間の体はできているのです。飲み込んだものが気管の側に行くには、理由があります(嚥下反射が弱く、気管の側に入りやすい子どももいますが、それはわかって食事介助をしているはずです)。

 気管の側に食べ物(や水分。唾液や吐物も)が行ってしまう最大の理由は、「急に息を吸い込む状態になる」です。たとえば、笑っている時、泣いている時、驚いた時、からだを動かしている時などに「急に息を吸い込む」が起こります。笑い声をたてている時、泣き声を発している時は息を吐いていますが、合い間に大きく急に息を吸い込みます。この時、口の中に何かがあれば、気管側に入ってしまう可能性が高くなります。驚いた瞬間には息を吸い込みます。からだを動かしていれば(つまずく、転ぶ、とびはねる等)衝撃で息を吸い込みます。

 なんであれ、子どもの口に何かが入っている時には、「急に息を吸い込む状態」を起こさない、これが基本です。また、食べている時、上を向いてものを口に入れたりすれば、当然、気管に入りやすくなります。食事の時の姿勢の大切さです。

 補足しますが、「急に息を吸い込む状態」が起きれば、(気管ではなく)喉にも、ものが詰まる危険性は上がります

 あとは、咀嚼や嚥下(特に未満児)をうながす保育ということになりますが、それは安全の世界ではなく、保育そのものの話なので…。

▶誤嚥窒息時の注意

 何かが詰まったららしく、むせている…。「どうしますか?」とお聞きするとほぼ皆さん、「背中をたたく」とおっしゃいます。いえ、むやみにたたいてはダメです。以下は、日赤幼児安全法指導員でもある並木先生の受け売りですが、「むせているということは、気道・気管に詰まった/はさまった物をからだが出そうとしている」のです。この時に背中をたたくと、上で説明している「驚かせている」と同じ状態になってしまい、よりいっそう詰まってしまいかねません。ですから、(忍耐力が必要ですが)むせている時には「がんばって」「げほ、げほってして」と声をかけながら、冷静に観察してください。「背中をたたいたから出た」は認識の誤りで、「むせれば、それだけでたいていは出る」のです。

 そして、いよいよ声が出なくなったら…、詰まった(閉塞した)状態です。時々、「何かが詰まって泣いている時に」と表現する方がいますが、泣いている、声が出るということは、まだ詰まって(閉塞して)いないということ。「声が出ない、泣けない=閉塞」です。こうなったら「頭を低くして…」、いえ、その前に。

 「●●ちゃん、詰まったみたいです。救急車を呼んでください!」、1-2. 保育の安全シートの「2. 緊急対応時の流れ」と1-1. 園における救急対応動画にある通り、「声が出ない。詰まった」と思ったらまず救急車です。これまでの経験から「出そう」「出るはず」と思って、背中をたたく行動を始めてしまいがちですが、出なかったら、きわめて大事な数分がここで無駄になります。だから、「〇〇先生、●●ちゃん、何か詰まりました、救急車呼んで!」。気道異物除去を始めると同時に、大きな声で叫んで、返事があったことを確認してください。救急車が到着するまでに、詰まったものが出たら? 念のため、搬送しましょう。気管に何かが残っている可能性もありますし、気道異物除去と心肺蘇生によって肋骨や内臓を傷つけている可能性もありますから(「肋骨や内臓を傷つける? 怖い」…いいえ、肋骨も内臓も治ります。でも、息ができないままでいたらなくなります)。

 もうひとつ、時々お尋ねいただきますが、「掃除機で吸い出すのは」? 並木先生に確認しましたが、取れるかどうかわからない以前に舌を吸い込んでしまう可能性がある、口腔を傷つける可能性があるということで、おやめください。


4つの危なさは「誰も見ていなくても大丈夫」な状態に

 もう一度、「息ができないできごと」4つに戻ります。「溺れを起こすもの(水)」「絞扼を起こすもの(ヒモ、棒、すき間など)「鼻と口を覆うもの(布など)」「詰まるもの」は、園におけるきわめて深刻な危なさ(ハザード※)です。なぜなら…、
・いずれも、息ができなくなる、
・ほんの数分で命が失われる可能性がある、
・命を永らえても脳に障害が残る可能性がある。

 子どもが棚にのぼって落ちた! 確かに大ケガをする可能性があります(高所=深刻なハザード)。でも、落ちた子どもはまず泣きます(=保育者が気づく可能性が高い)。そして、結果は無傷、軽症から重傷まで幅広くなります(5-1)。一方、上の4つのハザードは子どもが泣くこともなく(=保育者は気づかない可能性がある)、息のできない状態が続けば死ぬか、脳障害という結果になります。

 こうしたハザードを扱うための原則は、保育者(職員)がしばらく目を離したとしても、子どもがこのハザードで死なないようにしておくです。なぜ? まず、人間は見守り続けることができません。平常時ならそれでも、室内にいる子ども全員を見渡していることができるかもしれません。でも、考えてみてください。1歳児が吐いた。「うわ、処理パックを取りにいってくるね」「他の子が近づかないようにしとく!」、これで保育者2人の手が完全にとられます。残りの1人や2人の職員では、目も手も足りません。今の人員配置ではこれが当然なのです(だから安全上、現在の人員配置基準はまったくの不足です)。

 そして、水、ヒモ、布(睡眠時)、詰まるモノは、数分で子どもの命を奪います。だから、いつ訪れるかわからない緊急時、あるいは、なにかの理由で子どもから目を離さざるを得ない時、あるいは、基準は満たしていても目と手がどうしても足りない時…、こうした時のために、水、ヒモ、布(睡眠時)、詰まるモノは、「数分やそこら目を離していても、子どもが死なないようにしておく」ことが重要です。そうしておけば、安心して保育をすることができます。

▶水(プール活動以外。プール活動の話は下に書きます)

 水は数センチでも子どもの命を奪います。「何センチまでなら安全?」、そんな実験は誰にもできません。ただ、数センチの水で亡くなっている事例がある以上、何センチであってもきわめて危険と考えておくべきです。おとなは水が危険であると知っていますが、子どもは知りませんし、水が大好きです。

 水の扱いは、簡単に分けて2つです。
1) あけられる水、捨てられる水はすべてあける、捨てる
 たとえば雨の後、たらいにたまっている水、タイヤの間に入っている水(蚊がわきます!)、砂場を覆っているシートにたまっている水などなど…、すべてあけて、捨ててしまってください。この数分の手間が、子どもの命を奪う確率を下げます。

2) 子どもが近づけないようにする
 園の敷地内でも、あけることのできない水、捨てられない水があります。雨水ますの水、排水溝の水、災害時用に水をためてあるプール、メダカが入っている桶(園庭)、ビオトープなどがこれに該当します。これは、子どもが近づけないような方策を立てる以外に方法がありません。雨水ますや排水溝なら重いフタ、または工具がないとはずせないフタをしておく、プールは柵をして鍵をかける、メダカの桶の上部には網を張る、ビオトープは…(これは難しい。子どもが近づくことを前提としているので)。

 ここで大事なのは、子どもが「近づかない」ようにしておく、ではなく、「(物理的に)近づけない」ようにしておく、ことです。「近づかないようにする」は「言ってきかせる」や「見守る」ですが、それは無理であることが前提。「今、近づかないように言って、この子たちが聞いても、私たちが見ていない間に自分で近づくかも」と考えて、「近づけない」ようにするのです。たとえば、メダカの桶を上からじっとのぞきこむことはできても、網を張ってあれば、水に顔をつけることはできません。プールの柵のところまで行って中を見ていても、プールの場所には入れない。それで良いわけです。水からの距離の遠近ではありません。たとえ距離は近くても、水に落ちない、水に顔をつけられない、そういう環境条件をつくっておけばいいのです。

▶ヒモ、ヒモ状のもの

 しまい忘れた縄跳びや綱、カバンかけにかけてあるバッグやカバンのヒモ(長いヒモが、フックにかからずに輪状になってだらんと垂れている側)、発表会などの後にそのままぶら下がっているスズランテープ…などがここに該当します。おとなが「これはヒモ」と認識するものだけではありません。タオルもヒモ状になります。カーテンをまとめておくタッセルもヒモ状です。いずれもニア・ミスが起きています。ブラインドの事故でよく知られている通り、首全体にヒモが巻きつく必要はありません。ヒモ、またはヒモ状のもので喉の部分が強く押されるだけで死亡します。

 ヒモの扱いは難しくありません。「これは危ない。子どもが巻きつけるかも」「倒れこんだら、頭が入って首のところを絞めてしまうかも」と思ったら… 。

1)切れるヒモ、要らないヒモは切る、捨てる
2)ブラインドや展示物用でそこになくてはならないヒモは、短くまとめて、子どもの手が届かないところにくくっておく。
3)カバンやバッグの手提げ部分、肩かけ部分の片方がカバンかけから垂れさがっていたら、かばんかけのフックにかける。ナップザック状のものなど、ヒモが長い時は両方のヒモをまとめて短くくくって、かける。

▶すき間や棒状のもの

 ヒモ以外の首がひっかかるできごと(絞扼)については、所真里子さんのメルマガ6-2(リンク未)をお読みください。

▶布など

 ガーゼ、ぬいぐるみ、ふとん、タオルなど、口をふさいだら窒息する可能性があるハザードは、(特に睡眠中)子どもの頭まわり、顔まわりからどかします。あおむけ寝の場合も変わりません。ベビーベッド・バンパーのようなもの(3-4)は、もちろん禁忌です。

 子どもが起きているなら、保育者は時々見て、「あ、ガーゼ、口に入れすぎ…。はい、出して」と言えるはずだからです(安全よりも保育の領域)。布が一気に子どもの喉に詰まることは、まずありえません。けれども、睡眠中はどうしても保育者の目が減りがちなので(「静かに寝ているのだから大丈夫」という気持ちもある)、眠っている子どもを見た時に頭まわりや顔まわりに布や布状のものがあったら、どかしてください。

 もうひとつ、特にベビーベッドを使っている時に危険なのは、ベビーベッドとふとんのサイズが合わないケースです。ベッドのサイズよりもふとんが大きければ、ベビーベッド・バンパーのような状態になるわけですから、ちょっと横を向いただけで口をふさぎます。ベッドのサイズよりふとんが小さいと、すき間に頭を入れて窒息します。このタイプの死亡は、死亡報告が家庭から盛んにおこなわれる米国ではよく起きていますから、日本でも同じように危険です。

 ふとんの長辺がベッドよりも足りない(=丈が短い)のであれば、子どもの頭側のベッド柵にぴたりとふとんを押しつけ、足側のすき間にウレタン・ブロックでもなんでも入れておけば、ふとんはずれないでしょう(すき間にモノを詰めるのは、絶対に足側です。頭側にすき間をつくってそこにタオルなど入れたら、よけいに危険です)。ふとんの短辺がベビーベッドより短い(左右にすき間ができる)場合にどうするか…。これは悩みますが、タオルを巻いてすき間に入れるようなことだけはやめたほうがいいでしょう。知らぬ間にひっぱり出して、顔を横向きにつける可能性があるからです。

 「子どもがひっぱり出せるわけがない」…、子どもには意図がまったくなくても、からだを動かしている間にひっかかって、ひっぱってしまうことは多々あります。米国では、乳児用の見守りセンサーの電気コードがいつの間にかベッド下からひっぱり出され、首に巻きついて死亡した事例もあります(これは絞扼)。ベビーベッドに寝ている乳児でも、「できないだろう」「やらないだろう」は、ナシです。

▶詰まるもの

 上に解説した点(喉に詰まる、気管に詰まる)と、4の各項目をお読みください。

▶子どもの取り残しはきわめて危険

 息ができないハザードに関しては「見ていなくても大丈夫」という環境設定が不可欠になるわけですが、逆に考えれば、こうしたハザードのある場所に子どもを取り残してしまうのはとても危険ということになります(こちらに「取り残し、置き去り予防」の研修会資料があります)。

 取り残しや置き去りの予防は、とにかく取り残さないこと、そして、声出し指差し(2-3)を伴う人数確認しかありません(詳しくは上記の資料)。「いつも人数確認しましょう」ではありません。まず、活動予定を確認する際、「ここで取り残し(置き去り)をしたら大変!」という部分を皆で明確にしてください(危険について考える訓練です)。たとえば、移動の前後、グループが合流したり分かれたりする時、公園で他園や家族連れの子どもがいる時などがこれにあたります。部屋から部屋に移動する時に、子どもを置き去りにすることもあります(部屋の中に絞扼のハザードがあったら?)。

 そして、「~の時は人数確認しようね」と言っていても、ただ漫然と数えていたのでは無意味です。移動し始めた時と移動をし終えた時の人数が合っているという確認も、しっかり声を出して、してください。

※「ハザード」とは、「(人に)危害を及ぼす(潜在的な)力をもったもの」です。「潜在的な」という部分が重要で、見た目が危ないかどうかではありません。たとえば、車は便利ですが、ハザードとしては深刻なものです(車=高速で走る鉄の塊)。子どもにとっては、すべてがハザードですが、同じ「ハサミ」でも、裁ちばさみのように深刻なハサミから子ども用ハサミのようにそれほど深刻ではないハサミまでいろいろです。ハザードを定義して初めて、安全の世界の「リスク」は定義できるのですが、詳しくは拙著『子どもの「命」の守り方』の69ページ以降をお読みください。


睡眠中、プール活動中は「息ができない」ではない

 睡眠中は窒息では? プール活動中は溺水では? そうかもしれません。でも、子どもが亡くなってしまったら、わかりません。睡眠中に亡くなったお子さんを解剖したら、喉や気管になにかが詰まっていることもあります。でも、それが死亡の原因かどうかをはっきりさせることは、必ずしも容易ではありません。詰まる前に何かが起きて、その結果、詰まったのかもしれないからです(睡眠中の安全について詳しくは3-1)。

 プールの場合、「溺死」と言われますが、正確には「水死」と言うべきです。水の中で人間が溺れるには、水の中に沈む(鼻と口を水につける)必要があります。水に沈む理由は無数にあります。心臓や脳に異常が起きた、足がつった、波にさらわれた…。子どもでも、てんかんの発作を起こした、熱性けいれんを起こした、自分で潜って遊んでいた…。一時的に溺れたとしても、息を吹き返せば原因がわかるかもしれません(てんかんも熱性けいれんも、息を吹き返したからわかった事例です)。でも、亡くなってしまったらわかりません。誰かが明らかに突き飛ばしたりしたのでない限り、ビデオを撮っていてもわからないでしょう(※)。

※直接の死因は明らかにならないとしても、間接的な死因(プール活動であれば、なぜ早く見つけることができなかったのか)を明らかにして、次の類似の死亡を防ぐために役立てることが不可欠です。そうしなければ、似たような死亡事故が繰り返されることになります。詳しくは『保育現場の「深刻事故」対応ハンドブック』の46ページ~(山中龍宏先生の項)。
 死亡診断書に書かれたものが死因とされがちですが、こちらの報告書(2008年)にある通り、その記載には問題が多いのも事実です。この点もあり、保育施設等における死亡事例は検証が行われるようになりました。

▶プールはわざわざリスクを上げる活動。「監視」だけが鍵に

 上に挙げた4つの息ができないハザードは、「これが原因で子どもに危害が生じた」と言える話です。ところが、睡眠中とプール活動中は、今書いた通り、明確に「~が原因だった」と言えないことが多々あります。その点では共通しているのですが、もう一歩進むと、睡眠中とプール活動中はまったく異なります。

 睡眠中の場合、保育士さんたちは「子どもが異常な状態に陥るリスクを下げる行動」をすることができます。うつぶせにしない、口の中になにもないようにする、鼻や口に布団がかかっていないようにするなどなどです。それでも、(特にゼロ歳児や、ゼロ歳でなくても新入園児は)異常な状態になる危険性が高いので、睡眠チェックをして、異常があったら早く気づけるようにしています。「リスクを下げる行動+異常に早く気づける行動」の2段階です。

 一方、プール活動は? 水という、酸素がなくて人間の命を容易に奪う場所へ子どもを集団で入れる活動です。わざわざ「リスクを上げる活動」なのです。そうすると、できることはたったひとつ、「異常に早く気づける行動=監視」だけ。

 そして、ここでまた問題が起きます。睡眠チェックは、ふだんから子どもたちと接している保育士がからだに触れて呼吸を聞いて行えば、まず「なにかおかしい」と気づけます。息をしていないのはもちろん、「今日の呼吸はいつもとちょっと違う」「ちょっと熱っぽい」「鼻が詰まっている」「よくわからないけど、なんかおかしい」もわかるのです。ところが、カナダのライフセーバー団体が実験(7-3)したように、プールの場合、監視行動をしていれば異常な状態の子どもに必ず気づけるわけではありません。プール監視は容易ではない行動であり、効果の保証もありません。

 すでに書いた通り、子どもがプールで水死した場合、もともとその子どもがどうやって水の中に沈む(浮く)に至ったかは、まずわかりません。その理由はなんであれ、とにかく「なぜ、監視者は早く見つけることができなかったのか」という話になります。監視は万能ではないにもかかわらず。そして、監視者が責任を問われるのです。以上の点から、園において子どもの命、職員の心と仕事、園の責任のすべてにおいて、現時点でもっともリスクが高い活動はプール活動ではないかと考えられるわけです。それだけのリスクをおかす価値がプール活動にあるのかどうか、判断をするべき時期に来ているでしょう(詳しくは7-1。余談:気候変動で高温と熱波が続くようになれば、プール活動中の熱中症のリスクも上がります。暑さと熱中症については8-1)。

 おまけ:おむつが取れていない子どもを、他児と一緒に水(プール)に入れてはいけないと『感染症対策ガイドライン』の29~30ページに書いてあります。腸管出血性大腸菌の集団感染も起きています。「プール用のおむつだから…」、『ガイドライン』には「プール用のおむつならよい」とは書かれていません。大腸菌感染は小さい子どもの場合、命を奪うこともあるという点、園の責任である点を認識してください。

▶とにかく救命救急行動を

 本論は以上ですが、最後にあと2つ。まず、息をできないできごとであれ、睡眠中の異常であれ、プール活動中の異常であれ、すべて見つけた時点では息をしていません。その点は共通しています。ですから、1-2. 保育の安全シートの「2. 緊急対応時の流れ」と1-1. 園における救急対応動画を用いて、いつでも誰でも心肺蘇生と救急要請をできるようにしておいてください。未就学児施設で働く以上、「私はできません」「私はなにをすればいいですか?」はナシです。その場で役割分担をしているヒマなどありません。いつでも誰でも、です。



▶ハザードマップと「息ができないできごと」

 そして最後の最後にもうひとつ。ハザードマップ(危険の地図)と呼ばれるものを作っている園もたくさんあると思います。「つまずくところ」「転ぶところ」のほか、「落ちるところ」「隠れてしまうところ」「水がたまる場所」などなど。確かに、「落ちるところ」や「隠れてしまうところ」「水がたまる場所」は、子どもの命にかかわる重要な場所です。でも? あとはいわゆる「ケガ」の場所ばかりが載っているはずです。そして、「つまずく」「転ぶ」「ぶつかる」といったできごとは、ほとんど命にかかわりません(詳しくは、2-15-1

 一方、子どもの命にかかわりやすいできごと、あるいは危なさは? 睡眠、誤嚥・誤飲、プール、食物アレルギーなどで、ハザードマップには載りません。さらに、食物アレルギー以外はハザードマップに載せる理由になるようなヒヤリハットすらめったに起きないできごとです(=いつ、誰に、突然、起こるかわからない)。ですから、「ハザードマップを作れば安心」ではないということをわかってください。

 いつ、誰に、突然、起こるかわからないできごとに関しては、「起きるかもしれない」と考えて、とにかく救命救急の練習を。そして、ヒヤリハット以前の日常の気づきが命を守ることにつながるようなできごとについては、1-1(気づき)リンク未を活用してください(例:園内や園庭に落ちているものは、誤嚥・誤飲で命にかかわることもありえます。睡眠中の様子に気づいて共有・報告することも重要です)。


おまけ:内閣府の統計について

 内閣府では、未就学児施設等で起きた事故の統計をとっています。毎年、「死亡は何例」「30日以上の通院または入院が必要だった事例は何例」と出てくるものです。 「そうか、ハインリッヒの法則のように、死亡の下に入院や通院の事例があるんだな」…、違います! この2つの区分けは、実はまったく違う内容のことを並べてしまっているのです。

 死亡は、ほぼすべて睡眠中やプール活動中、誤嚥事例です。誤嚥は上の最初の図の通り、「出るか、出ないか」です。出れば病院にはまず行きません。ですから、死亡事例には数として載っても、通院・入院には載りません。睡眠中もプール活動中もほぼそうでしょう。アナフィラキシーを起こしても、無事ならば入院は長くても数日です。例外は、息ができない結果やアナフィラキシー後の意識不明の重体という場合で、これは「30日以上の入院」になる可能性があります。そもそも、この種の事例は非常に少ないのです。では、「30日以上」に入るのは? ケガです。そして、たいていは命を奪うようなものではありません。

 この内閣府の数値は、あたかもハインリッヒの法則のように感じられますが、実際にはまったく内容の違うものを関連しているかのように並べて発表しているだけだという点を理解してください。内閣府のデータベースには30日以上の通院や入院になったケガが掲載されていますが、それは「骨折になったから、こんなことが起きないようにどうにかしなければ」ではなく、A-1に書いた通り、本来はその園の保育の質として検討されるべきで、「これは園の活動として適切だったから、偶発的なケガ」「これは園の活動として、この日のこの子どもたちには適切ではなかったから、似たようなできごとがまた起きないように保育をつくり直す」「これは死亡にもつながりかねないケガだから、保育の適切・不適切にかかわりなく、心配な時は必ず受診する(5-1)」といった分け方をしていくべきなのです。

 内閣府のデータベースを読んでいて判然としない気持ちになる方が多いのは、結局、その部分を考慮に入れず、ただ「どうすればこのケガ(できごとではなく、ケガそのもの)を防げるか」という点しか考えていない(そこしか考えられない様式になっている)ためです。

 重大な事故の裏には、たいして重大な結果(傷害や損害)にならなかったもの、結果に至らなかったもの(ヒヤリハットになったニア・ミス)、誰も気づかなかったニア・ミスがある(※)、だから、結果に至らなかったできごとであっても、「これはもしかしたらひどい結果になっていたかも」と予想できるのであれば対応をする。そうすれば、重大事故を予防できる可能性がある。これを明らかにした点で、ハインリッヒの法則には意義がありました。けれども、子どもの事故を考える場合、ハインリッヒの法則はほぼ、あてはまりません。「あてはまらない」という特徴を説明するうえでは役に立つので、この項では便宜的にハインリッヒの三角形を使っています。 

※この区別について詳しくは『子どもの「命」の守り方』23ページ~。