2-6. ヒヤリハットを集める、活かす:気づいた人は気づいただけで100点満点!
(2015/12/31に書いたものを全面改訂。記録用シートも改訂。2022/1/3、1/18)


ヒヤリハットが出ない、活かせない…
「気づいた人に罰ゲームをさせないで!」

 ヒヤリハット(※)が出てこない。集めても、どう活かしたらいいのかわからない…。よく聞くお尋ねです。あなたの園のヒヤリハット報告書や事故報告書(※※)には、「原因」「反省」「対策」といった欄がありますか?(きっとあります!)。まず、その欄をなくしましょう。それが第一歩。

 「あれ? 1歳児の部屋に、どうして絆創膏が落ちてるんだろ? これ、園で使ってるのじゃないよね…。口に入れたら危ないし、ヒヤリハットに出そうかな…。あ、でも、『対策』とか書くのめんどうだし。いいや、捨てとこう。」
 「今日の4歳児の散歩、自転車が飛び出してきて怖かったな~。あそこの角、みんなに伝えたほうがいいよね…、…でも、『原因』とかわからないしな。園長先生に『あなたが気をつければいいでしょ』って言われるだけだろうし。や~めた。」

 日々気づく「あれ?」や「うわっ!」には、原因はどうでもいいこと、原因がわからないことがたくさんあります(※※※)。そして、気づいた人が反省や対策・対応を考える話ではないことも山ほどあります。おもちゃが割れていたら、原因も反省も対策も要りません。ただ、「(夕方、いつものチェックをしていたら)割れていました。危ないので捨てます」で十分。「気づいてくれてありがとう!」「いつものチェック、大事だね」とみんなで言って終わりのはず。ところが、たったこれだけを書こうと思うと、「原因」「反省」「対策」といった欄がずらりと並んでいる。せっかく「気づいたから記録しておこう」「気づいたから伝えよう」と思った人にとっては、まるで罰ゲーム。書かなくなるのは当然です。

 気づいた人は気づいただけで100点満点! 報告したらもっと100点満点! 100点満点なんだから「ありがとう」で、その人の役目は終了。

 それでも、ヒヤリハット報告書はまだマシかもしれません。事故報告書(※※)になると、「欄を埋めたもの勝ち!」という考え方が本当にあるようです。そうすると、「原因」「反省」「対策」が、その事故とはまるで無関係な話で埋まることも。たとえば、子どもが部屋の中でつまずいたり転んだりした時によく書かれているのが、「部屋全体に目を配る」…、無理です。そもそもそんなことはできないし、たとえ見ていたって間に合わない。あるいは、子どもが何かを口に入れていたら「遊びこめるようにしていく」…、いえ、子どもは口に入れることで世界を学んでいるのですから、飽きてるわけでもなんでもありません。そして、「遊びこんで」いようが居眠りしていようが、口に入れる時は入れます。

 「欄を埋めなければ!」…、思いつくことをすべて書くしかない。そうすると? 大切な点と無関係な点を分けて、大切な点に焦点を当てることがどんどんできなくなり、「書いたんだから、これで大丈夫」「対策したつもり」になるばかり。ヒヤリハットや事故の報告を活かすことが、どんどんできなくなっていく。書いて終わり、欄を埋めて終わり。

気づいた人、報告した人は、それだけで100点満点!
気づいた人に気づいたこと以外を書かせるのは、気づきの足を引っ張る罰ゲーム。
欄を埋めることが優先になると、「予防や対策として大事なこと」と「無関係なこと」「よけいなこと」を分けられなくなり、結果、「対策したつもり」になるだけ。

※「ヒヤリハット」と言うと、ギョッとしたもの、ドッキリしたものというニュアンス。下に書いていきますが、ヒヤリハット以前の「気づき」がとても大事です。「ヒヤリハット」という日本語が持つ問題点については『子どもの命の守り方』(エイデル研究所)の27ページ。
※※園内の事故報告書の話です。自治体に提出する事故(受診)報告書は「始末書」ですから、とにかくなんでも書いて提出してください。園内で議論すべきケガの場合、提出する事故(受診)報告書とは別に園内で情報共有できるシステムを(下の「ケガ」参照)。
※※※自転車や車が飛び出してくる原因や、あるはずのないものが保育室に落ちている原因がわからなくても、対策はできます。ご興味のある方は、こちらのページの一番下に置いてある『げんき』の連載1。



気づきの報告は四角いフセンで十分

 以下、「ヒヤリハット」という言葉は使わず、「気づき」と書きます。ひやりもハッともしない、小さな「なに、これ?」「あれ、おかしいな」「え? これ大丈夫?」(※)にも大事なことはたくさん隠れているからです。

 「報告書の書式はどうすればいい?」と聞かれる度に「7.5センチ角の四角いフセンでどうぞ」とお伝えします。気づいたことだけを書くわけですから、これで十分。必須事項は報告/発生日時とできごとだけ。必要ならできごとの発生時間やひと言コメント。落ちていたものなどはフセンに貼って、見つけた時間と場所を書いて終わり。


(クリックして拡大)

 書いたものを貼るホワイトボード等は決めておき、書いた人がどんどん貼っていきます。毎日、園長など事務室組の先生たちが見て簡単に分類、対応を決め、フセンに書き込みます。対応や処理が終わったものは、ノートに貼って保存。

【ノートに貼る時の注意】
落ちていたものをフセンごと保存しておくには、名刺ホルダーがおすすめ。
フセンは絶対に、重ねて貼らない。紙面がもったいないからと重ねると、「同じものが落ちてたよね?」「前にもあったんじゃない?」という時に探せません。
事務室組の先生が分類して、分類ごとにノートを作るともっと使いやすくなります。分類は下を参考に。

 「ヒヤリハット(気づき)はノートに書いている」という園もあります。フセンのほうが共有も分類も容易です。ノートでは、落ちていたものを貼れませんし、分類もできません。

 以下、インシデントとアクシデントの違いについて触れた後、できごと別に大きく分類して説明します。以前作った報告用紙もそれぞれに付けておきますが、「これを使って」という意味ではなく、「こういうことを書く」という説明のためです(「フセンだと、何を書けばいいかわからない」という意見があったので)。コピーして増やして使っていただいてもかまいません。報告用紙のPDF(8種類をまとめたもの)はこちら

※「あれ?」「ちょっと変?」「なんだろう、これ」といった感覚は、未就学児施設で働く人にとって不可欠です。研修会資料「置き去り/取り残しの予防」2ページの下半分参照。



ヒヤリハットと事故の線引きは「できごと」によって異なる

 いわゆる「ヒヤリハット」と「事故」、あるいは「インシデント」と「アクシデント」の区別が、そもそも誤っている場合が多々あります。単純に「深刻な結果にならなかったからヒヤリハット/インシデント」「結果につながったから事故/アクシデント」と考えていると、「アレルギー食材を誤食したけど、発症しなかった」はヒヤリハット/インシデントになってしまい、「子どもが遊具のすき間に頭を突っ込んでいた」もヒヤリハット/インシデントになってしまいます。

 下に詳しく書きますが、ヒヤリハットと事故、インシデントとアクシデントの線引きは、できごとによって、また、同じできごとであっても内容によって異なります。たとえば、「誤食した(けど症状が出なかった)」は、ヒヤリハットではありません。事故は起きたのです。その時の体調で発症しなかっただけ(「誤食」が事故であって、「発症」は事故の結果にすぎない)。また、遊具の無駄なすき間に子どもが頭を突っ込んでいたら、定義上は確かにヒヤリハット/インシデントかもしれませんが、「深刻な結果」とは紙一重なのですから、「気づいてよかったね!」などと言っている場合ではありません。遊具が割れて、子どもの指がはさまるすき間ができているのとは、同じ「すき間」でもまったく違います。

 重要なのは、「今、目の前にあるもの(落ちているものや壊れているもの、環境)、今、起きたできごとが深刻な結果につながるかどうか」を見きわめられる視点であって、ヒヤリハット/インシデント、事故/アクシデントを単純に分けられるかどうかではありません。

 「事故」とひとまとめにしてしまうことの危険性は、内閣府が集めている未就学児施設の事故統計にも現れています。こちら(2-2の最後の項)をお読みください。



視点や書く内容は「できごと」によって異なる

0.取り残し、置き去り(この項2022/1/18に加筆)
 命を奪うハザード(息ができない危なさ暑熱ハザード、交通事故リスクなど)がある場所に子どもを取り残し/置き去りしたら? 閉じ込めたら? 取り残しや置き去り自体で命が奪われることはまずありませんが、命を奪うハザードがある場所、長時間に及んだ場合はきわめて危険です。「何も起きなかったから」ではなく、「気をつけます」でもなく、「大丈夫だったけど、やっぱりここで『取り残さないチェック』をしましょう」「ここで人数確認をしたほうがいい」という手順の具体的な改善に役立ててください。「取り残さないチェック」等の方法については、研修会資料の「置き去り/取り残しの予防」を参照。

1.かみつきやひっかき
 これはフセンもノートも使えません。フセンやノートでは「その子」のパターンを見ることができないからです。エクセルを使うのが一番です。「コミュニケーション」のA-5をご覧ください。エクセルも置いてあります。かみつき、ひっかき自体についてはA-4に。A-5に書きましたが、かみつきやひっかきは「かみそう、ひっかきそうだったけど止められた事例」がとても役立ちます。

2.ケガにつながるできごと(2種類)
 ケガは大きく2つに分けられます。こちらをまずお読みください。お読みになった前提で簡単に説明します。「安全」の2-1「コミュニケーション」のA-1(特に、最後の『保育ナビ』の項)。

A)からだを動かすのは、子どもの一番のお仕事。転ぶ、つまずく、滑る、ぶつかる、落ちるといったできごと(「結果=ケガした/しなかった」ではありません! あくまでも「できごと」)は当然起きます。そして、こうしたできごとの中には、保育・教育の価値、育ちの価値があることもたくさんあります。「ケガしたからこの活動はダメ」「ケガになりそうだったからケガを予防しなきゃ」ではありませんし、「ケガしなかったから問題ナシ」でもありません。

 保育・教育の価値として認めてよいかどうかは、園全体またはクラスで検討する必要があります。ですから、この種のできごとの場合は、ケガの有無、ケガの軽重にかかわらず、「自分たちの園における保育の価値とリスクの天秤」という視点で検討することが必須(上にリンクを貼った『保育ナビ』)。事実をチラッと書いたフセンをもとに、大事な事例については(職員の記憶が薄れる前に※)クラスや園全体で会議を。しつこいようですが、ケガになったかどうかで考えてはいけません。

 ケガにつながるできごとは価値の一部だとしても、実際に起きたケガの対応を誤ると問題になります(例:受診しなかった。骨折した子どもの体をむやみに動かした等)。こちら(5-1. 「ケガとは?+頭とおなかのケガを軽視するのは危険」)を参照。

B)指や手足をはさむ、体のどこかを刺す、切るといったできごとによるケガは、わざわざ経験する必要もありません。そして、Aのタイプのケガに比べれば、予防も比較的容易です。こちらはヒヤリハット・マップ(後述)のようなものを作って注意喚起を。そして、予防できるのであれば、ケガが起こる前にたとえば、指はさみ防止用のシートを付ける、飛び出している園庭の木の枝を切る、肌を切りそうな遊具の破損部をすぐに修繕する等の対応を。顔面のケガや深刻なケガが起こるとわかっている環境を残しておいて、「注意しましょう」と言う必要はありません。これは次の3)にもつながります。

※あるできごとをその時に見ていた人たちが、直後に「見たこと」を報告しても内容は異なります。できごとの認知に「客観的」はないからです。まして、時間が経てば主観的に認知したできごと(の記憶)はどんどん歪んでいきます。必要な時は『保育現場の「深刻事故」対応ハンドブック』に掲載してある「個人の記憶の記録用紙」を使ってください。

3.落ちていたもの、壊れていたもの、危険な環境(保護者に掲示した事例も)
 これが「気づき」を増やし、分類を考えていく基本です。「なぜ落ちていたのか」「なぜ壊れていたのか」はたいていの場合、どうでもよいこと。「どうしてこんな危ない環境が?」を開園当時にさかのぼって考える必要もない。「危ないと気づいた! 報告した!」→「気づいて、報告してくれてありがとう!」→ 事務所組が対策や対応を考えて、できることからすぐに実施 → 対応・対策の内容を職員に伝える、という流れです。「せっかく気づいて報告したのに、園は対応してくれない」では、職員のやる気は下がるばかり。

(クリックするとシートと解説が出ます。以下同)

・園内、園庭、園の周辺にはいろいろなものが落ちているから、いくらでも報告は出る。
・壊れているものもあちこちにあるから、いくらでも報告は出る。
・原因はいろいろ。原因がわからないものも多数。分類の練習になる。
・対策もいろいろ:すぐに修繕する、保護者に伝える(※)、園のフェンスに貼り出して歩行者に呼びかける、自治体に対応を求める、園内で管理ルールを作る等々。分類、対策・対応の線引きの練習になる。
・たいした問題ではないものから、子どもの命を今日奪ってもおかしくはないものまであり、安易に「大丈夫」と言っていいかどうかを判断する練習になる(例:子どもが隠れる場所。子どもの首や服がひっかかる場所や破損箇所。危険でムダなすき間)。

集めて分類して、保護者にも共有した園の事例はこちら

 この種の気づきは実に多様で、ヒヤリハット/インシデントだ、事故/アクシデントだという線引きに縛られていると危険な場合があります。たとえば、「遊具のここが壊れていて、子どもが頭を入れたりして首や服がひっかかったら危険」「ここに〇〇ちゃんが入ろうとしていました。入って自分で扉を閉めたら、中からは開けられず、危険」といった気づきに対して、「そんなこと、誰もしないから大丈夫」「やってたらやめさせればいい」と言っていたら? こうした気づきはヒヤリハットですらありませんが、とても大事です。ある日突然、数分、数時間で子どもの命を奪うタイプの危なさだから。

 環境やモノに潜む危険については、2-2の「命を奪う4つの危なさ」。所真里子さんの連載「保育現場の超具体的安全戦略」も役立ちます。

※「園で出していないパンのかけらが落ちていた」「お菓子の袋が落ちていた」「絆創膏、ホクナリン・テープが落ちていた」「髪飾り、キーホルダーの飾りが落ちていた」等は、保護者に要請を(こちらのひな型)

4.睡眠中、午睡中
 ここにも、「何も起きていないから」「子どもは大丈夫だったから」と見過ごしてしまうと危険なできごとがたくさんあります。ヒヤリハット以前の気づきが重要です。睡眠の安全はこちらの各項(特に3-4)


5.誤嚥・誤飲(食物以外)
 「ツルン、コロン」のものは、子どもの命を奪いかねません。おとながじっと見ていても、口に入れるのは一瞬、飲み込んで詰まるのも一瞬。ところが、明らかなツルンコロンのものであっても、「口に入れていた」というヒヤリハット報告の後にはほぼ間違いなく、「口に入れないように見守る」という、まったく無意味な対策が書かれています。子どもがものを口に入れるのは当然であり、育つうえで必要な、子どものお仕事なのですから、「口に入れること」すべてをダメと考えるのではなく、「これは口に入れても大丈夫」「これは入れたら危険だから、使わない」の線引きを。見守っている目の前でも窒息は起こります。


 ただし、「トイレット・ペーパーの筒に入るものはすべてダメ!」なんていう杓子定規で思考停止したことを言ってはいけません。こちらの各項目をお読みください。

6.誤嚥(食物)
 これは、調理方法や個々の子どもへの提供方法をより良くしていくために役立つタイプの気づきです。「Aちゃんは〇〇が嫌いなようで、いつも口の中にためてしまっています。ためていたら出させます」なども大事。


7.散歩(人、もの)
 ここで言う「人」は、子どもと職員以外の、園外で出会うすべての人です。「不審者」だけではありません。たとえば、「犬に触っていいよ」「お菓子をあげる」と言う人(←「アレルギーのある子もいますから」と丁重に断る)、遠くから園児の写真を撮っている人(←こちらも写真を撮る+話しかけられても相手にしないで早く立ち去る+警察に通報)、飛び出してくる車や自転車。事故や事件になる前の気づきと共有が大切です。

 そして、散歩の通り道や行った先の公園にある危険。「これは保護者にも伝えたほうがいいな」ということもあるでしょう。「ここが危ない」「この人がまた、ここにいるかもしれない」といった情報共有は大事です。



 さて、次の8と9はヒューマン・エラーです。つまり、人間の「うっかり」「ぼんやり」「間違えた」「忘れた」が原因。基本はこれ!
その時ぼんやりしていた人はぼんやりしていたのだから、自分がぼんやりしていたことに気づいていない。
うっかり忘れた(間違えた)人は、忘れた(間違えた)のだから、忘れた(間違った)ことに気づかない。

 …誰もがうっかりするし、ぼんやりするし、間違えるし、忘れるのです。園長、主任を含め、ミスをしない人はどこにもいません! だから、「犯人探し」をしたり、間違えた/忘れた人に「早く気づけ!」「ぼんやりしているな!」と言ったりしても無理。「ごめんなさい、次から気をつけます!」で終わるだけで、無意味。まず、「他の誰かが気づけるシステム」づくりを(保育はチームでする仕事!)。他の誰かが気づければいいのです。これは本当にお互いさま。もちろん、自分で後から「しまった!」と気づけて、まわりの誰も気づいていないのであれば、「私がミスをしました。~の所で忘れました/間違えました。大事だから報告します!」とフセンで報告を。

8.食物アレルギー
 これは「ヒヤリハット/インシデント」と「事故/アクシデント」がもっともごちゃ混ぜになっているできごとです。子どもが食べた、触れた、吸い込んだ、それはアレルゲンに曝露したのですからすでに「事故」。ヒヤリハットではありません。「発症しなければヒヤリハット」ではないという点が重要です。

 そして、「食べてしまった」または「食べる直前に、あれ?と気づいて止めた」(=従来、よく出てくる「ヒヤリハット」)事例をいくら報告して、どんなに「反省」や「対策」を考えても意味はありません。途中に何度も何度もあるチェック・ポイントをすべて通り抜けてしまったのですから、今さら「どこでどうすれば止められたか」は考えられない。どこでも止められなかったから、口にしたのですし、口にする直前まで来たのです!(※)


 食物アレルギーは、ほぼすべてのチェック・ポイントが人間による確認です(アレルゲンが自分から食物に入り込むことはない)。

発注ミス → 製造ミス → 納品ミス → 納品チェックのミス → 調理中のミス → 調理室から出てくる時の配膳ミス → その後の配膳ミス → 片付け時のミス…

 それぞれの段階のチェックが具体的な行動ルール(※※)になっているか? 効果を発揮しているか? それを知るためには、「最後まで通り抜けてしまった事例」よりも、「途中で止められた事例を報告すること」が不可欠。たとえば、「園のルール通り、調理室で配膳前に~~を声出し指差し確認していたら、間違いに気づきました」、この報告を見れば「園のルールはうまく行っているようだ」と言えます。ルールがないところで「偶然~をしたら気づきました」だったら? 幸運に頼っていてはいけません。その幸運や偶然がなくても、チェックできるように、ルールを具体的に作るべきです(※※※)。「途中で止められた事例」には、このような大切な知恵が隠れています。「全部すり抜けてしまった事例」には、この知恵がありません。

 そして、報告した人は途中で止められた人ですから、「私、止められたよ!」と明るく、自慢いっぱいに言っていい。「ルール通りに確認したから気づいて止められた!」「偶然、止められた! でも、この後にもチェック・ポイントがあるから、偶然止められなかったとしても大丈夫だよね」「偶然、止められた! ラッキーじゃなかったらこのまま食べてたから、ルールを見直そう」…、いずれにしても、途中で止められた人には「気づいてくれてありがとう!」「報告してくれてありがとう!」を。絶対にしてはいけないのは、この人たちに「反省」や「対策」を書かせること。それは、最悪の罰ゲームです。

※この「通り抜ける」は、研修会資料「安全のきほんのき」1ページめ。
※※「気をつける」「確認する」「よく見る」等はあいまいで、人によって行動が違います。「お皿にかかっているラップの名前と、トレーの名前が合っているか、声出し指差し確認する」ぐらいに書いて初めて、具体的な行動ルール。
 ちなみに、マニュアルは「誰がしても同じ行動になるよう書かれているもの」で、身近なものでは電化製品の取扱説明書です。人によって解釈が変わってしまうのであれば、それはマニュアルとは呼べません。一方、ガイドラインは大枠の考え方を示したものです。内閣府の安全ガイドラインも大枠を示し、細かい点は各園でマニュアルを作るよう指示しています。
※※※研修会資料「置き去り/取り残しの予防」3ページめ。

8のおまけ:異物混入
 異物混入は、混入したものによって対策、対応が異なります。こちら(「安全」の6-1)をお読みください。気づきとしては「3.落ちていたもの、壊れていたもの」と同じ。調理器具等の破損に気づいたら、すぐにフセン報告!です。

9.連携ミス、紛失、その他
 これも食物アレルギー同様、うっかり、ぼんやり、忘れた、間違えた、です。間違えた/忘れた人を探し出して責めても始まりません。一人で確認しないようにするルールや方法、他人が気づけるルールやシステムを作ることが最優先。そして、「間違いそうだったけど、気づけた!」「間違えたけど、ここが問題だとわかった!」という報告をどんどん出しましょう。


★確認の基本は声出し指差し(2-3)。そして、一往復半(2-4)。心配ならダブル・チェック。
★保護者に渡す書類や連絡帳などは、保護者と一緒に名前を声出し指差し確認しながら渡す(郵便局も宅配便もしていることです)。
★職員の間でも、できる限りメモを使って伝言(「安全」の2-4のこちら)
★立ち去る時は、必ず後ろを振り返る習慣を(これは電車でも飲食店でも同じ)。
★立ち去る時は、今、自分がなぜここに来たのかを一瞬、考える習慣を(例:話しかけてきた子どもと一緒に部屋に入ろうとしつつ…、「私、何をしにここへ来たんだっけ…、飛び出している木の枝を切りに来たんだ…。あれ? 剪定バサミはどこ? あ、あった!」)。
★USBメモリ、SDカード、CD、DVD、おとなが使う道具などは置く場所を個別にはっきりさせる。たとえば、次の通り。
・USBメモリやSDカードは箱などにごそっと入れておくと、なくなっていても気づきにくい。名刺ホルダー等を用い、メモリにもホルダーにも名前を書いて、決まった場所に常にしまう。△△組の先生がホルダーを開けて、「あれ? 〇〇組のがないけど、いいのかな?」と思ったら、〇〇組にちょっと声をかけてみる。
・CDやDVDはケースを捨てて、CDホルダーファイルにしまう(同上。ケースに入れたままだと、いつの間にかケースだけになっている)。
・たとえば、園のプロジェクターの場合、箱に「しまう時には、本体、パソコンとつなぐコード、電源コードが入っているか確認!」と写真入りで大書しておく。道具は、次に使おうとした人が「ない!」と気づいても、もう遅い場合が多い。しまう時に確認できるよう、箱などには写真もつけて。

10.高い場所からの転落(未遂)
 高所からの転落は、ケガの中でも命を奪うリスクが高いものです。いるべきではない高所に子どもがいる事態が起きたら、転落していなくても報告し、原因と予防を考える必要があります(「知らない間に〇〇ちゃんが登った」は原因ではありません! 子どもの責任にして終わらせないでください。書くべきは「なぜ登ったかはわからない。見ていなかった」です)。高所から転落したけれどもケガはしなかったという時も、ヒヤリハット扱いにしてはいけません。「運よくケガをしなかっただけ」ですから。「ケガしなかったからいい」ではありません。

 命を奪いかねないケガにつながるできごとであり、同時に保育の質にもかかわりますので、園全体またはクラスで検討することが必須になります。




ヒヤリハット・マップの効用と限界

 園内のヒヤリハット・マップ(地図)を作っている園も多いと思います。大事なことではありますが、上に挙げたできごとをもう一度、ご覧ください。いずれもほとんど、マップには掲載できない(しない)ものばかりです。落ちているものは場所を選ばない、誤嚥は食事中や遊んでいる時、睡眠は布団の中、ヒューマン・エラーはどこででも…。マップは大事だけれども、命を奪うできごとはたいていマップ上にはないという点を理解しましょう。

 ヒヤリハット・マップは、つまずく、転ぶ、滑る、はさむ、切るといったできごと(=命にはほぼかかわらず、保育・教育の価値を伴う場合もある)が起こる場所が大多数。重要なのは、「子どもが隠れる場所」「水がある場所」「構造上、対応できない危なさ」ぐらいです。そして、命にかかわるような危なさで、なんらか対応することで解消できるものなら、マップに書く前にさっさと解消しましょう。

 つまずく場所、滑る場所など以外でマップに書くべき点を例示します。
・子どもの首がはさまるすき間だが、必要で、ふさぐことはできない箇所(例:遊具の階段)
・子どもの服や首がひっかかるが、構造上、解消できない箇所
・ビオトープなど、水はあるけれども、子どもが近づくことを前提にしている場所
・子どもがよじ登ることができ、転落する危険性があるが、構造上、解消できない箇所
・子どもが隠れられる場所(隠れられるようにわざわざ設定してある場所も含む)
・子どもにとって危険のある場所だが、手前に扉などはある。つまり、おとなが扉などの鍵かけを絶対に保証しなければならない箇所
・木の枝が飛び出ていることのある場所
・危険な虫がいる可能性のある場所
・雨の後、水がたまる場所
・遊具や施設の死角
・子どもが園の敷地から出ていける箇所で、構造上(すぐには)解消できない

 一方、大事なマップは別にあります。それは「散歩の安全マップ」(5-2)。近隣公園を地図に書き込んだものではありません。散歩経路をすべて書き込み、どこにどんな危険があるか、緊急時はどこで留まるか、道のどちら側を歩くか(※)などを書き込んだものです。保護者向けにも掲示しておくと、保護者に対する注意喚起にもなります。工事などで散歩ルートが一時的に変わることもありますので、職員が日常使う地図はラミネートしておいて、一時的な変更等を書き込めるようにしておくと便利でしょう。

※車道をはさんで両側に歩道がある場合、どちら側を歩くかは重要です(事故や災害、事件が発生した時、すれ違ってしまう危険があるから)。もちろん、道のどちら側を歩くかで、道を渡る回数も変わります。そして、言うまでもありませんが、散歩途中にルートを変えるのは、絶対禁忌です! ルートを変えた先で事故、災害、事件に遭ったら? 「今日はAルートです!」と宣言したら絶対にAルートを。



「気づき」を増やすコミュニケーションのコツ

 「ヒヤリハットを出す人が限られている」「出してと言っても出てこない」…、当たり前です。罰ゲームがついていて、へたをしたら「あなたが悪かったんでしょう?」「あなたが気をつければいいこと」「そんなの、大丈夫」と言われかねないのですから、それでも報告できる立場の人しか出さなくて当然。

 気づきを出す人が増えてほしい、そうお考えでしたら、最初に書いた通り、まず「原因」「反省」「対策」の欄をやめて、フセンに事実だけを書くようにする。そして、「気づいた人は、気づいただけで100点満点!」「気づいて報告しただけで100点満点!」を合言葉に、必ず「気づいてくれてありがとう」「報告してくれてありがとう」を言うことです。ホワイトボードに貼るなどして誰もが見られるようにしておけば、「ああ、こんな細かいことも報告したほうがいいんだ(報告していいんだ)」「報告しても損はしないんだな」という感覚が少しずつ根付いていくでしょう(それでも数か月はかかります)。もちろん、出てきた気づきのうち、具体的に解決できることはすぐ解決することも大事です。指摘したことが解決につながれば、「また気づこう」「また報告しよう」と感じますから。

 気づきを増やすコミュニケーションのポイントは3つ。

1.「A先生は、いつも報告してくれて偉いね」のような、ほめ言葉はやめましょう。「ほめる」は上から下にしか言えない言葉だから。「ほめる」ではなく、「感謝する」。「ありがとう」は上下関係なく言える言葉です。

2.気づかない人、報告しない人を責めない、バカにしない。危なさに気づくには、知識と慣れが必要です。「そうか、こういうことも危ないんだ」と理解して「私も出してみようかな」と思えるようになるには、時間がかかります(誰もがすべての危なさに気づけるなら、安全の専門家なんてそもそも必要ありません)。

3.事務室組やリーダー層は、「こんなこと、大丈夫。いちいち報告しないで!」と根拠なく言わない。「大丈夫」と言うなら、大丈夫と考える根拠を絶対に言うこと。根拠のない「大丈夫」は相手を不安にさせますし、「否定された」という感情しか生みません。

 もちろん、根拠がある「大丈夫」は必要です(極端な心配性の人や、なんでも杓子定規に「ダメ!」と言う人もいますから)。たとえば、「ヒモが危ないなら、縄跳びもダメですよね」と聞かれたら、私は「縄跳びは本数を数えて出して使って、数を数えて片付けますよね。私が言っているのは、残った縄跳びが1本そこらにぶら下がっていたり、ヒモが床に落ちていたりする時のことです」と言います。根拠のない「大丈夫」を口にして、もし大丈夫じゃない結果になったら?…そう考えてください。

 ただし、活動によって起こるケガは重傷になる場合もありますから、そう考えると鉄棒も跳び箱もサーキットも「大丈夫とは言えない…」となってしまいます。ここでこそ、「自園の価値とリスクの天秤」の考え方が重要になります(こちらA-1)。「重傷事故ができる限り起こらないよう、子どもたちの成長発達を見きわめる。活動の方法を十分に検討する。でも、重傷事故のリスクは決してゼロにならない」、ケガの場合はこの視点が不可欠です。



集めなければ何も始まらない

 時々聞かれるのは、「落ちているものとか、集めてどうするんですか?」。答えはまず、「ひとつも集めないでおいて、『役に立つか?』なんて聞かないで!」です。やりたくない、めんどくさい、だから、「なぜ?」を聞くのです。あなた一人に「集めて」とは言っていません。「落ちているものに気づいたらどんどんフセンに貼って、ホワイトボードに貼ってね」「壊れている遊具やおもちゃも、どんどん書いて」、そう言って、始めてください。何か月経ってもほとんど何も出てこないなら、「集めても意味がない」「危ないものはない」ではなく、「気づきが出てこない人間環境に大きな問題がある」です。それ自体が大事な気づきですが、その解決法はまったく別の話。

 落ちているもの、壊れているものを集めるだけでもパターンが出てきます(上の尾山台の事例)。「この白い粒はなんだろう? お菓子? 薬?」…、とにかくフセンに貼っておきます。1か月後、「この白い粒はなんだろう?」と別の先生が別の粒を拾って、フセンに貼る。1か月前に気づいた先生が、「これ、〇日に落ちてたよ! 2歳児の廊下の外(前のフセンを見せる)」「同じだね。私が今日みつけたのも2歳児の廊下だった」「2歳児の保護者かもね。ちょっと貼り紙をしてみようか」…、気づいて、報告して、証拠(現物が無理なら写真)を残しておくから、このようなパターンが出てくるのです。集め続けない限り、わかりません。そして、集める労力はほんの少しだけ。

 食物アレルギーの誤食など、ヒューマン・エラーによるものも、「ここでいつもミスが起こるみたい」とわかれば、環境やルールを改善できるかもしれません(納品業者やメーカーを変えるきっかけにも)。たった1件ではなんの意味もないように見えても、何十件も何百件も集まればパターンが見えてくる。とにかく、集め続けてください。さまざまなできごとについてフセンや報告事例、検討事例がたくさん集まって、活用に困ったらお手伝いします。ご連絡ください。